蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

神々の黄昏

リアクション公開中!

神々の黄昏
神々の黄昏 神々の黄昏

リアクション

 □戦わざる者


「わおっ! やってる、やってる!」

 空飛ぶ箒で撮影ポイントを捜していた【停学上等】の宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、戦場にほど近い断崖の上で降り立った。
 ビデオカメラを操作し、ドージェや竜騎士達の姿が丁度良く収まる位置を捜す。
「エリュシオンの龍騎士団 vs ドージェ、ですか?」
 シャッターを切る音。
 同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)は特技【写真】を使い、デジカメを操作していた。
「どちらが勝ちますかしら?」
「神と神との戦いだから、それこそ【神のみぞ知る】ってものですわ、静香さん」
 答えて、イオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)はデジタルビデオカメラを戦場に向けた。
 バランスを崩して、崖から落ちそうになる。
 慌てた祥子らに腕を掴まれ、命拾いをするのであった。
「びっくりしたぁーっ! 
 撮影に夢中になるのもほどほどに、ね」
 
 彼女達は空大の歴史学徒として、戦いの記録を映像に収めるべく、この地を訪れていた。
「停学上等!
 停学程度の罰で歴史の記録者になれるなら、安いものよ!」
 とは空大でタンカ切った祥子の弁。
「それに龍騎士の実力は如何程のものなのか、気になるじゃない?」

「で、何か掴みましたの? 祥子さん?」
「う〜〜〜〜〜〜〜ん……」
 静かな秘め事の問いに、祥子はこれ以上ないくらいに考え込む。
「結論から言うと、軍団の構成くらいかしら?」
 眼下の大群を指さす。
「龍騎士団って、内部は3つの階級に分かれていてね。
 従龍騎士と一般龍騎士と、ケクロプスに代表される七龍騎士ってのがいる訳だけど。
 七龍騎士はケクロプスだけ、ってことくらいかな?」
「ツワモノは1人だけ、ということですの?
 ドージェさんは楽勝ですわね!」
「うん、でも従龍騎士ならともかく、一般龍騎士の強さも侮れなさそうよ。
 映像を分析してみないと、分からないけど……」

 ねぇ! とイオテスが指を動かした。
「見て下さいませ、これですわ!」
 デジタルビデオカメラを2人に渡す。
 鮮明な映像は、龍騎士団の陣営内を細密に映し出した。
「え? この女!!」
「メニエス・レインとミストラル・フォーセット!?」
 祥子達は顔を見合わせる。
 お尋ね者2人を、意外な場所で探しあてて、思案にくれるのだった……。
 
 ■
 
「さてさて、団長さんはどこなのかしら?」

 龍騎士団の陣営にて。
 メニエス・レイン(めにえす・れいん)ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)は、龍騎士団団長・ケクロプスに会うべく、番兵達の前に進み出た。
 お尋ね者の身だ――大胆な主とは対照的に、ミストラルは絶えず周囲を警戒している。
「貴様ら、何者だ!?」
「貴公ら龍騎士団の団長であるケクロプス殿に、お会いする機会を頂きたく」
 番兵の尋問に、メニエスは恭しく上申する。
「メニエス・レインと申す者。
 あたしの名前を伝えて頂ければ、助力させて貰いたく思うわ」
 大きな動作で片手を胸に当て、大仰に一礼する。
 ちらっと上目遣いに番兵達をみやる。
 だが彼等は顔を見合わせ、肩をすくめる。知らないようだ。
 エリュシオンにとって、シャンバラの鏖殺寺院など所詮はこの程度のものか?
 あるいは、単に彼等が「畑違い」で無知なだけなのか?
「申し訳ないが、御婦人殿」
 暫しの後、番兵は頭をかきつつ、申し訳なさそうに首を振った。
「ケクロプス団長殿は多忙でな。誰にも会いはせんよ」
「そう……なら、しかたがないわね」
 番兵達の反応は柔らかかったが、かたくなさが感じられる。
 メニエスは作戦変更の必要を感じた。
「あたし達が信じられないのね……『信頼』関係が必要なのかしら?
 どうしたら、『信頼』されるの?」
 番兵達は再び顔を見合わせる。
 今度は笑いながら言った、わがままな子供をなだめるかの如く。
「そうだな、まずはフマナの寒村にでも行ってみるといい。
『女の子捜索』に手を貸してくれ!
 そうすれば、騎士団の皆があんたらを信頼するし、団長殿の気も向くかもしれんし。
 こちらよりは安全だろうし、その方がいいだろう」
「そう……では、お言葉に甘えて。行くわよ! ミストラル」

 彼女達は陣営を立ち去る。
 うおおっと、平原の手前から雄叫びが流れてきたのは、直後のことだった……。
 
 ■

「待て、皆! 待ってくれ!」
 
 フマナ平原の手前。
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)と共に、両手を広げて訴えていた。
 彼等の前に、学生達の集団。
 全員、停学覚悟で決戦に臨もうとしている者達である。
 だがラルク達は2人きりではなかった。
「そうです! 皆さん、私達の話も聞いて!」
 志方 綾乃(しかた・あやの)袁紹 本初(えんしょう・ほんしょ)も駆け寄って、この無謀な行動を止めようとする。
 彼女らの背後に、イルミンスールの講師――アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)エヴァ・ブラッケ(えう゛ぁ・ぶらっけ)ソロモン著 『レメゲトン』(そろもんちょ・れめげとん)シグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)の姿も見られる。
「俺だって、ドージェを助けてやりたいのさ!
 本当はな!!」
 けどよ、とラルクは拳を構える。
「シャンバラの事を思うんだったらこれ以上戦場に近づくな。
 今、お前らがしてる事はシャンバラに火種を持ち込む事だ。
 ロイヤル・ガードとして、見過ごす訳にはいかねぇンだよ!」
「そうですよ! 龍騎士団の強さは未知数です」
 綾乃は淡々として学生達に語りかけた。
「威圧」の効果により、学生達は一瞬ひるむ。
「コントラクターは『神』ではないのですよ。
『龍騎士団と“交戦”する』、『ドージェを“援護”する』ことが、真に出来るとお思いでしょうか?」
 それに、とリスクを考えて。
「万一、下手なことをすれば、シャンバラにエリュシオンからの外交的圧力がかかりかねません!
アイリスの、エリュシオンにおける発言力低下』という事態も考えられます。
 以上、『リスクの大きさ故に失敗は絶対許されない』のに『成功の算段がまるで見えない』。
 ゆえに、私はこの介入に反対します」
「わらわも同意見じゃ!」
 本初は綾乃の説を補強しようとする。
「ここでおぬしらを止めれば、それはドージェを見捨てることと同義。
 じゃが、どうすることも出来んのじゃ。
 それに、今回の戦いはドージェ自身が決めたこと。
 奴が何を考えてるかは知らぬ。
 じゃが今更奴を止めるというのも、野暮な話じゃ。
 ドージェは命を賭して闇龍からシャンバラを守ってくれた。
 おぬしらは、これ以上ドージェに何を望み、何を頼るというのじゃ?」
 本初は懸命に説得した。
 だが特技を持たぬ彼女の言は、学生達の心に響かなかったらしい。
「んだとうっ!
 ごしゃごしゃとうっせえんだよ、テメェラ!
 やっちまえっ!」
 殺気だった学生達は、7名に向かって行く。
 ホントはこんなこと、やりねぇんだけどよ……。
 迷いつつも、ラルクは綾乃達の前に立つ。
 学生達を力づくでも連れ帰るため、渾身のドラゴンアーツを放った。
「闘神の書」! と、パートナーに合図を送る。
「そういう訳だ。我の主の意向によって、助太刀致す」
 静観していた『闘神の書』は、2つの刀を抜き去った。
「乱撃ソニックブレードで、テメーら何ぞ、玉砕じゃい」
「私も、助太刀致します!」
 横合いから、綾乃が叫ぶ。
「本初は説得を続けて下さい。頼みます」
「了解じゃ、綾乃」
 本初は大声で、学生達に呼びかけける。
 綾乃は【禁じられた言葉】で威力を増幅した【魔道銃】を構える。
 
 同じ頃、アルツールは? というと。
 他校生はラルク達に任せ、教師の立場から。
「イルミンの生徒はおらんかっ!
 いたら出てくるのだ!」
 どなり散らしていた。
 他校生には目もくれずに、イルミン生を捜す。
「出てこなければ本気を出すぞ!」
「『先生達はどうせ本気で攻撃して来ない』……なんて思っているのなら、その考えはすぐに捨てなさい」
 エヴァはアルツールの攻撃を補佐にまわる。
 ソロモン著 『レメゲトン』(SFL0017535)がアシッドミストを振らせ。
 シグルズ・ヴォルスング(SFL0010110)派弱ったイルミンスール生を捜し回る。
 
 だが、学生隊の数は彼等の総合レベルを遥かに上回り、とても太刀打ち出来たものではない。
 成果と言えば、イルミンスール生の如月 玲奈(きさらぎ・れいな)イリス・ラーヴェイン(いりす・らーう゛ぇいん)を、シグルズが捕獲したくらいのもの――。
 
「くそ!
 名だたる龍騎士とやらと、交戦したかったのにぃ!」
「とんだ邪魔が入ったもんだよ!」
 ぶつぶつと文句を言う玲奈に、イリスが追従する。
「先生4人対私達2人じゃ、総合力でかなうはずがないもんね!
 ずるいよ!」
「何を言う!
 私はイルミンの教師として、当然をしたまでのこと」
「私はドラゴンライダー。
 停学処分? そんなの好きにしたらいいさ」
 息巻く玲奈を見下ろしつつ、アルツールはやれやれと頭を振った。
「君らの行動は、国家の存亡を左右しかねん。
 停学とか退学とか、本来ならばそんなレベルで済む話では無いのだ!」
 お恥ずかしいところを見せてしまった、申し訳ない。
 駆けつけた龍騎士団の者達には平身低頭して、彼らは2人を連れてイルミンスールに戻った。

 その他大勢を引き受けたラルク達は、平原に跪いて学生達の背を見送る結果となってしまった。
「袋叩き、とはな……ゴフッ」
 ラルク達は地に伏した。
「志方ないですね!
 もうこうなったら、彼らの無事を祈るしか……」
 綾乃達は既に平原の点となり行く学生達に目を向ける。
 目を閉じて、胸元で静かに手を合わせるのだった。
「生きて……。
 生きて帰ってきて、ドージェと共に……っ!!」