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冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/全3回)

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冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/全3回)

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第1章 その男、天上天下天地無双につき・その5



「そこのボスザル! 今度はあたしたちが相手よ!」
 ビシィと指を突きつけるのは、神楽 授受(かぐら・じゅじゅ)である。
 怪訝な表情で彼女をジロジロと見ると、ハヌマーンはやれやれとばかりに肩をすくめた。
「誰かと思えば……、なんだメスガキじゃねぇか。ここは男の決闘場だ、メスとガキはお呼びじゃねぇ」
「ば……、馬鹿にしてぇ!」
 プリプリと激怒した授受は爆炎波を繰り出す。
 怒ってはいても戦闘に関してはちゃんと冷静のようだ、距離を取っての防御重視の立ち回りである。
「クソガキには躾が必要だな……」
 ハヌマーンが攻撃に移るのと同時に、見計らったようにバナナの皮が落ちてきた。
「ななっ!?」
 ウッカリ踏みつけてスッ転んだ。
 投げたのは授受のパートナー、エマ・ルビィ(えま・るびぃ)である。
「本当にこんな作戦が上手くいくのかしら……、もぐもぐ……」
 バナナの皮でハヌマーンの体勢を崩すと言う新喜劇もビックリの大作戦。
 だが、意外と上手くいっている。転んで立ち上がったところにまたバナナの皮、慌ててそれを避けたところにまたバナナの皮、踏んづけてもなお踏ん張ろうとするとこにバナナの皮。ナラカに新たに生まれた地獄、バナナ地獄である。
 まあ、ちょっと皮を投げ過ぎて、エマの口には余った大量のバナナが溢れているが。
「あふあふ……っ!」
 しかし、大量のバナナが口に突っ込まれるって、エロイので良いですね。
 そんな筆者の煩悩はさておき、こんなしょーもない戦法でも、ハヌマーンは結構なピンチであった。
 まともな構えを取れないところに、授受が一気に間合いを詰めてきたのだ。
「えへへ……、チャーンスっ!」
 翼の剣に轟雷閃を纏い、突きの構えを取る。
 この一撃でハヌマーンを串刺しにして、地面に縫い止めようと言う算段である。
 だが、その前にようやく追いついたスーパーモンキー達が飛び出してきた。
「ちょっと待つウキよ、ハヌマーン様! バナナを独り占めになんてズルいウキ!」
「そうウキ! 俺たちゃ死ぬ時も一緒、バナナを食べる時も一緒って言ったじゃないウキかぁ!」
 さるさるスーツの呪力、もとい科学的に言うとプラシーボ効果によって、死人戦士が飛び出してくる。
 授受の剣は一匹の着ぐるみに突き刺さり、そいつはギャアと悲鳴を上げた。
「ちょ、ちょっと邪魔よ! お猿さんどいて、そいつ殺せない!」
「グッジョブだ、ブラザーども!」
 ハヌマーンは授受の顔に皮を投げつけ、怯んだところにデコピン一発。
「きゃあ!」
 授受は泥の中を転がって超絶痛がっている。
 その様子に、前回に引き続き傍観中のルーク・クレイン(るーく・くれいん)はとうとう我慢の限界に達した。
 パートナーの命令で傍観に徹していたが、必死な仲間をただ見ているだけなんて、やっぱり出来なかった。
「シリウス……、行かせて欲しい」
 傍らに立つ、シリウス・サザーラント(しりうす・さざーらんと)に言った。
「行かせてほしい、か……」
 戦闘から視線を外さず、シリウスは不敵に微笑む。
「ふふ、俺に手伝って欲しいとは言わないんだ。やっぱりキミは面白いね、ルーク」
「お願いだ、シリウス」
「……いいよ、逝ってらっしゃい。キミがボロボロになるのを見るのも楽しそうだ」
 許可が出たのは意外だったが、ルークはシリウスに感謝し、ハヌマーンに向かって行った。
 雷電属性が効果的なのはわかっているが、残念ながらルークにその攻撃をする術がない。だから最大の武器である速さで挑む。素早い動きで相手を撹乱し、隙を見い出して一撃必殺の太刀で仕留める……、それしかない。
「僕が相手だ、ハヌマーン!」
「ほう……、またなんか弱そうなのが来たな」
「うるさいっ!」
 スピードで翻弄しようと加速する……だが、身体が思うように動かない。
 それもそのはず、ルークはデスプルーフリングを持っていないため、あらゆる身体能力が半減しているのだ。
「な、なんだ……?」
「ははぁ……、てめぇ、ナラカの穢れ対策をしてこなかったな?」
 はっと気付いた時にはハヌマーンは目の前に迫っていた。
 咄嗟に雅刀を振り抜くが剣速は遅く、反撃の手刀であえなく叩き折られてしまった。
 そして、ハヌマーンの壊人拳がその胸を激しく打つ。
「がっ!」
 穢れで衰弱した身に受ける必殺の一撃はあまりにも重い。
 当然のことながら肋骨はバラバラに破砕し、折れた骨が肺に達している、まごうことなき重傷である。
 だがそれでも、ルークはまだ立ち上がろうとする。
「ま、まだ……!」
「ああん、まだやろうってのか?」
 ハヌマーンが再び構えを取ろうとすると、その前にシリウスが立ちはだかった。
「はい、そこまでだよ。パパかママにおしえてもらわなかったのかい、人の玩具を壊しちゃダメだってさ」
「なんだてめぇは?」
「俺はこの玩具の持ち主さ」
「し……、シリウス……?」
 混濁する意識に飲み込まれ、ルークはドサッとその場に崩れ落ちた。