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リアクション
第1章 その男、天上天下天地無双につき・その5
「そこのボスザル! 今度はあたしたちが相手よ!」
ビシィと指を突きつけるのは、神楽 授受(かぐら・じゅじゅ)である。
怪訝な表情で彼女をジロジロと見ると、ハヌマーンはやれやれとばかりに肩をすくめた。
「誰かと思えば……、なんだメスガキじゃねぇか。ここは男の決闘場だ、メスとガキはお呼びじゃねぇ」
「ば……、馬鹿にしてぇ!」
プリプリと激怒した授受は爆炎波を繰り出す。
怒ってはいても戦闘に関してはちゃんと冷静のようだ、距離を取っての防御重視の立ち回りである。
「クソガキには躾が必要だな……」
ハヌマーンが攻撃に移るのと同時に、見計らったようにバナナの皮が落ちてきた。
「ななっ!?」
ウッカリ踏みつけてスッ転んだ。
投げたのは授受のパートナー、エマ・ルビィ(えま・るびぃ)である。
「本当にこんな作戦が上手くいくのかしら……、もぐもぐ……」
バナナの皮でハヌマーンの体勢を崩すと言う新喜劇もビックリの大作戦。
だが、意外と上手くいっている。転んで立ち上がったところにまたバナナの皮、慌ててそれを避けたところにまたバナナの皮、踏んづけてもなお踏ん張ろうとするとこにバナナの皮。ナラカに新たに生まれた地獄、バナナ地獄である。
まあ、ちょっと皮を投げ過ぎて、エマの口には余った大量のバナナが溢れているが。
「あふあふ……っ!」
しかし、大量のバナナが口に突っ込まれるって、エロイので良いですね。
そんな筆者の煩悩はさておき、こんなしょーもない戦法でも、ハヌマーンは結構なピンチであった。
まともな構えを取れないところに、授受が一気に間合いを詰めてきたのだ。
「えへへ……、チャーンスっ!」
翼の剣に轟雷閃を纏い、突きの構えを取る。
この一撃でハヌマーンを串刺しにして、地面に縫い止めようと言う算段である。
だが、その前にようやく追いついたスーパーモンキー達が飛び出してきた。
「ちょっと待つウキよ、ハヌマーン様! バナナを独り占めになんてズルいウキ!」
「そうウキ! 俺たちゃ死ぬ時も一緒、バナナを食べる時も一緒って言ったじゃないウキかぁ!」
さるさるスーツの呪力、もとい科学的に言うとプラシーボ効果によって、死人戦士が飛び出してくる。
授受の剣は一匹の着ぐるみに突き刺さり、そいつはギャアと悲鳴を上げた。
「ちょ、ちょっと邪魔よ! お猿さんどいて、そいつ殺せない!」
「グッジョブだ、ブラザーども!」
ハヌマーンは授受の顔に皮を投げつけ、怯んだところにデコピン一発。
「きゃあ!」
授受は泥の中を転がって超絶痛がっている。
その様子に、前回に引き続き傍観中のルーク・クレイン(るーく・くれいん)はとうとう我慢の限界に達した。
パートナーの命令で傍観に徹していたが、必死な仲間をただ見ているだけなんて、やっぱり出来なかった。
「シリウス……、行かせて欲しい」
傍らに立つ、シリウス・サザーラント(しりうす・さざーらんと)に言った。
「行かせてほしい、か……」
戦闘から視線を外さず、シリウスは不敵に微笑む。
「ふふ、俺に手伝って欲しいとは言わないんだ。やっぱりキミは面白いね、ルーク」
「お願いだ、シリウス」
「……いいよ、逝ってらっしゃい。キミがボロボロになるのを見るのも楽しそうだ」
許可が出たのは意外だったが、ルークはシリウスに感謝し、ハヌマーンに向かって行った。
雷電属性が効果的なのはわかっているが、残念ながらルークにその攻撃をする術がない。だから最大の武器である速さで挑む。素早い動きで相手を撹乱し、隙を見い出して一撃必殺の太刀で仕留める……、それしかない。
「僕が相手だ、ハヌマーン!」
「ほう……、またなんか弱そうなのが来たな」
「うるさいっ!」
スピードで翻弄しようと加速する……だが、身体が思うように動かない。
それもそのはず、ルークはデスプルーフリングを持っていないため、あらゆる身体能力が半減しているのだ。
「な、なんだ……?」
「ははぁ……、てめぇ、ナラカの穢れ対策をしてこなかったな?」
はっと気付いた時にはハヌマーンは目の前に迫っていた。
咄嗟に雅刀を振り抜くが剣速は遅く、反撃の手刀であえなく叩き折られてしまった。
そして、ハヌマーンの壊人拳がその胸を激しく打つ。
「がっ!」
穢れで衰弱した身に受ける必殺の一撃はあまりにも重い。
当然のことながら肋骨はバラバラに破砕し、折れた骨が肺に達している、まごうことなき重傷である。
だがそれでも、ルークはまだ立ち上がろうとする。
「ま、まだ……!」
「ああん、まだやろうってのか?」
ハヌマーンが再び構えを取ろうとすると、その前にシリウスが立ちはだかった。
「はい、そこまでだよ。パパかママにおしえてもらわなかったのかい、人の玩具を壊しちゃダメだってさ」
「なんだてめぇは?」
「俺はこの玩具の持ち主さ」
「し……、シリウス……?」
混濁する意識に飲み込まれ、ルークはドサッとその場に崩れ落ちた。
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