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リアクション
第2章 黄金の羅刹、白銀の羅刹・その2
「地下牢を探す人は早くこちらの路地に!」
ルナティエール・玲姫・セレティ(るなてぃえーるれき・せれてぃ)は声を張り上げる。
地下牢に向かう仲間を守るべくしんがりを務め、迫り来る死人戦士から仲間を守っているところだ。
そこにドスンと大きな音がした。
なんだろうと見れば、屋根から落ちたクベーラが苦虫を潰した顔で背中をさすってる。
「み、見るからに強そうな奴だな……、なんだ、屋根から落ちてきたのか……?」
「いてて……、現世の奴らは汚い手を使いやがる……ん?」
きょろきょろと辺りを見回し、クベーラは置かれている状況を悟った。
目の前には路地に散り散りに逃げる現世の人間、そして、それを死人戦士の一団が追いかけている。
「ええい、何をしている! 反対側から回り込め、奴らを取り逃がすなっ!」
檄を飛ばすクベーラの前に、カイン・エル・セフィロート(かいんえる・せふぃろーと)が立ちはだかった。
「そこまでだ。ここから先は通さない」
「なんだぁ……、貴様は?」
その時、上空をセディ・クロス・ユグドラド(せでぃくろす・ゆぐどらど)の駆る小型飛空艇ヘリファルテが通り抜けた。
飛び交う矢をかわしもしくは剣で薙ぎ払い、弓兵たちの注意を引きつけている。
後部座席に座るのは夕月 綾夜(ゆづき・あや)、氷術で冷気を振りまき地上の死人戦士を迎え討つ。
「あまり身を乗り出すなよ、綾夜。おまえがやられては作戦は上手くいかん」
「心配ご無用。僕はそんなヘマはしないさ」
綾夜は目を細めて真下を見る。
度重なる氷術の使用で大まかにではあるが、地面は凍結し皮膜のような氷に覆われ始めている。
「あとはルナとカインが上手くやってくれればいいけど……」
頭上を通り抜ける飛空艇を一瞥し、ルナは作戦のためその手に魔力を集めた。
クベーラの立っている辺りの地面はいい具合に凍っている。火術をすこし当ててやれば溶けて水になるはず。そうなればしめたもの、水浸しになった地面にサンダーブラストを流せば一網打尽は確実、少数で多数を叩くゲリラ戦法だ。
そのためにはもうひと手間必要である。
「……ここで俺の『煙幕擁護』の出番ってわけだ」
カインは不敵に微笑む。
水浸しになってることを気付かれないよう煙幕で足下を隠すのが彼の仕事である。
だが、この作戦にはあまりにも大きな穴があった。
「……煙幕擁護ってどうやるんだ?」
首を傾げるのも無理もない、それは『煙幕擁護』ではなく『弾幕援護』と言うスキルなのだから。
名前は似てるけど、意味合いも効果も違う。
「何をボーッと突っ立ってるんだ、小僧?」
愛用の武器○○○○○○○○○を取り出し、クベーラはジロリとこちらを睨み付ける。
「……いやその。つか、○○○○○○○○○ってなんだよ。なんで伏せ字なんだよ」
「愚か者め。そんなこともわからんのか。まだキャラクエアイテム報告掲示版で報告されてないだろうが。プレイヤーの皆さんが見つけるまで黙っておくのが、人として最低限のマナーじゃないか。すこしは気を使え、バカモンが!」
「ああ、キャラクエで手に入る武器なのか……、意外と気を使ってるんだな……」
「うむ、気になる人は『ナラカ途中下車の旅』の回数券無しルートに挑んでみるといいぞ!」
宣伝活動が終わったところで、クベーラは襲いかかってきた。
ルナは一向に展開される気配のない煙幕に苛立ち、とうとう煙幕抜きで作戦を発動させた。
「何やってんだ、カイン! すぐにそこから離れろ!」
火術で氷を溶かすと自らも後退し、上空の綾夜にサンダーブラストの指示を出す。
だが、それよりも誰よりも早くクベーラが動いた。
「クベラッハクベラッハ! 思い知るがいい、我が武器に宿りし『電撃』の力を……!」
「……で、電撃!?」
ルナとカインは思わず、クベーラの武器をニ度見。
バチバチと雷光を放つ○○○○○○○○○を振り下ろすと、周囲に青白い稲妻が飛び散った。
「どうだ! 思い知っ……ほぎゃああああああっ!!」
「早く逃げ……きゃああああああ!!!」
「うわわわわわわわわわ!!」
結果、ルナとカイン、クベーラと死人戦士が感電して倒れ、作戦通り完璧に一網打尽となった。
上空を旋回中の二人は動くもののいなくなった地面に深々とため息を吐く。
「なんたる有り様だ……」
◇◇◇
その頃、屋根の上ではもうひとつの戦いが始まっていた。
ヒーローガール飛鳥 桜(あすか・さくら)が、羅刹兄弟のラーヴァナと小競り合いを繰り広げている。
ガーンデーヴァの魔矢をひらりひらりとかわして、桜は供回りの死人戦士を斬り伏せていく。
「正義と自由のヒーロー、ヴァルキュリア・サクラ見参だよっ!」
「ラヴァヴァヴァ……、ちょこまかと動き回りおって……、何故当たらん!」
「ふっふっふ、それはね、僕が本気のHEROモードだからさ!」
「いや、全然意味わかんねーし」
パートナーのアルフ・グラディオス(あるふ・ぐらでぃおす)は吐き捨てるように言った。
相棒が元気に飛び回ってるのを見ると、疲労感がに襲われるのは自分だけなのだろうか……。他の契約者コンビがどうなってるのか心底知りたい。この戦いが終わったら誰かに相談しよう、そんなことを思いつつ、今回も援護に回る。
「俺の炎から逃げれると思うなよ!」
立ちはだかる死人戦士に睨みをきかせ、奈落の鉄鎖でその身を縛る。
そこから、すかさず火術で生んだ炎の渦で敵陣を薙ぎ払う。
「おらよ、ヒーロー馬鹿! とっととその雑魚共を片付けちまえ!」
言うや否や、桜はラーヴァナ目がけてバーストダッシュで突っ込んでいった。
「行くぞ……、飛鳥流剣術奥義、閃桜星花火!!」
下ろした剣を屋根に滑らせながら鼻先に迫ると真正面から斬り上げる。
しかし、踏み込みが浅い。切っ先は空を斬った。
だが、ここからが飛鳥流剣術の真骨頂、即座に斬り上げた刃を返し、破邪の刃でラーヴァナの左目を斬り裂く。
「ぐわあああああ!!」
赤い斑点がポタポタと屋根に模様を描く。
再び間合いを取って、桜はルミナスシミターを突きつける。
「古今東西、この世にヒーローがいる限り、悪が栄えたためしはないのさ。退き下がるなら今のうちだよっ!」
「ふん、瞼を斬ったぐらいで頭に乗るな、スットコ小娘っ!」
鼻息荒くガーンデーヴァを構えると、何本もの矢を番え天に向かって撃ち放つ。曇天模様の空に消えたあと、ややあって、大戦の絨毯爆撃の如く炎の矢が降り注いだ。矢は衝撃波を纏い、屋根を吹き飛ばしながら獲物に迫りくる。
「ラーヴァッヴァッヴァッ! 雨や霰と降る無数の矢は避けられまい! 豚のように死んでいくがいい!」
「や、やべぇ……!」
アルフは桜の襟首を掴んで後ろに向かって全速前進。
けれども降ってくる矢の速度たるや尋常じゃなく、すぐさま追いつかれ二人は衝撃波で吹き飛ばされた。
「桜……っ!」
屋根の縁にゴロゴロと転がっていく彼女に手を伸ばすが届かない。
その時、アルフの横を飛び出した影が腕を伸ばし、落下するギリギリで屋根に彼女を引き戻した。
「おいおい、屋根の上で遊んでちゃ危ないやんか」
目の前の人物に桜は目を丸くする。
駆けつけたのは、桜のパートナーの一人、ロランアルト・カリエド(ろらんあると・かりえど)であった。
「お、親分!?」
「な……、何でおまえがここに……!?」
「やー、おまえら二人じゃ心配でなー、気が付いたら特別便に飛び乗ってたわー」
人懐っこそうな笑みを浮かべ、戸惑う桜とアルフの肩をポンと叩く。
「まぁ、積もる話はあとでゆっくり。とっとと連中を片付けて、ナラカ観光でもして帰ろうや」
この突然の来訪者に、うぬぬぬ……とラーヴァナは唸る。
「ええい! 何人増えようと同じこと! 貴様らの首を取りガルーダ様に褒めてもらうのだーっ!!」
ラーヴァナは再び大量の矢を番え、天に向かってギリギリと引き絞り始めた。
しかし三人揃えば百人力。
後方でアルフが魔力を充填する間に、桜とロランが間合いを詰めて斬り掛かる。
ロランはハルバードの横回転斬りでガーンデーヴァに一撃、絨毯爆撃の発射を妨害する。
その機を見計らっていたアルフは氷術で氷槍を上空から降らせる。
「なにぃ……!?」
氷槍はラーヴァナを串刺しにして屋根に突き刺さり、羅刹の巨体をその場に縛り付ける。
そこに桜がルミナスシミターを振り下ろす。
「やああああああっ!!!」
轟雷閃を纏った光の太刀で逆袈裟切り、返す刀で袈裟切り、ラーヴァナの胸にバツの字を描く。
血飛沫が花びらのように舞う。
ラーヴァナはガクッ膝をつき、ゆっくりと屋根から転がり落ちた。
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