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リアクション
【?3―2・感覚】
今回ローザマリアは、アイリスとティータイムを楽しんでいた。
アイリスは今までのループとは異なり、瀬蓮とは別行動をとっていて、
「それで、静香になにがあったか知らないの?」
「僕は今日、校長に会っていないからな。でもなぜか会った記憶があるような、ひっかかる気持ちはあるんだけど」
どうやら彼女も薄々ループに勘付きはじめているらしかった。
「そうなんだ。あーそういえばさ。エリュシオンの技術に、ループを仕掛けたりループから抜け出す物とかってないのかな? うん、ほんとにただの興味だけど」
それでも不用意に教えたら不審がられそうだとして、ローザマリアは冗談半分の口調で尋ねてみると。アイリスはわずかに眉を動かし、考える仕草をしたかと思うと、
「ループ? あー、昨日そんなこともあったな。でも時間に干渉するアイテムって、実はそう珍しくないんだぜ」
「え、そうなの?」
「ああ。ただ……そのほとんどが体内時計を速くしたり、限られた空間の時間をわずかに遅くするとか、できて補助魔法と同列ぐらいだ。時間を巻き戻すなんてレベルになると、帝国の宝物庫をふたつみっつ暴いても出てくるかどうか」
「へぇ。やっぱりエリュシオンでも希少な部類に入るのね」
「んー、ただ『希少』ということは『希少でもどこかにはある』とも言えるけどな」
「なるほどね。参考になったわ、ありがとう」
謝辞を述べて去っていくローザマリア。
それを見送りながら、アイリスは顎のあたりに手をやり。
「ループか。もしかして、今日もまたその現象が起きてるのか?」
ようやくアイリスが、今日のループ記憶を取り戻した頃。
「アイリスってば、いったいぜんたいどこ行っちゃったのかな」
瀬蓮は美羽やベアトリーチェと共に、再び静香の見舞いに来ていた。
もっとも彼女達に何度も来ているという自覚はなかったが。
さらに今は北郷 鬱姫(きたごう・うつき)と、パートナーのパルフェリア・シオット(ぱるふぇりあ・しおっと)とタルト・タタン(たると・たたん)もこの場を訪れている。
鬱姫たちは三人でなにやらひそひそと、
「瀬蓮さんはループに気付いている様子はないですね」
「放課後に何が起きたのかはわからないけど、絶対に巻き込まないようにしないとね!」
「それについては同感じゃがな。パルフェはとりあえず、余計なことをせぬようにな」
周囲に気を張ってるふたりから、パルフェリアはなにやら役立たずっぽい扱いをされて不満げに頬をふくらませるが、それならただ瀬蓮との話を楽しもうと思い、そして、
「それにしても、瀬蓮って――」
「ちょっと待てい。今、なにを聞こうとしておるんじゃ?」
タルトは不穏な空気を感じて彼女の口を塞ぎにかかる。
「なによもう。今のはべつにただ日常会話を楽しもうとしただけだってば」
「ほんとうかのう? ちょっと言ってみせい」
「うん。『瀬蓮って小さくて可愛いね』って言おうとしたんだよ。ね? 日常会話でしょう?」
「ああ、確かに……。ただ、あからさまに胸部を見ながらでなければ、じゃがのう?」
すっかり見透かされて殴りかかってきそうな勢いのタルトに、渋々パルフェリアは今度は静香へ視線を移動させて、じいぃぃいと、やはり胸元のふくらみを凝視し、そして、
「これはなかなか良い胸! 是非一度揉ませて……」
言い終わる前にタルトに殴り飛ばされていた。
「あはは……ごめんなさいね。騒がしくして」
鬱姫は、恥らう静香とキョトンとしている瀬蓮に軽く頭を下げつつ。
「それにしても、こうしているだけだとやっぱり暇ですよね」
「あ、そうだ! 瀬蓮、いいものもってきてるんだー」
瀬蓮はそう言うとカバンをごそごそと探り、
「じゃんじゃじゃーん♪ わたあめせいぞうき〜!」
四次元とは関係ない普通のポケットから、ミキサーに似た形の明らかな子供のおもちゃを取り出した。口調はちょっと青い猫ロボのモノマネをしていた。
「これはおさとうを入れるだけで、かんたんにわたあめが作れるんだよー。つかれたときは、あまいものをたべれば元気いっぱいに……あれ? みんなどうかしたの?」
見れば、瀬蓮以外の全員が、顔を背けて真っ赤になっていた。
その理由は単純明快。
みんな瀬蓮に萌えていた。まさに草木が芽ぐむようにかわいかった。
「み、みんな……私萌え死にしそう……」「い、いろいろと反則です」
「こ、効果音とか実際に声に出して言われることに、ここまで破壊力があるとは予想外ね」
「と、とにかくやろうか」
なにはともあれ皆で楽しくわたあめを作って食べ、ほかにフルーツをむいてやっぱり食べ、時にたわいもない話で笑ったりして。
そうして楽しい時間はあっという間に過ぎ、日もすぐに落ちていった。
例の如く、瀬蓮が美羽とともにお休みモードになったころ。
「失礼しまーす」
保健室に七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が入ってきた。
「静香さん、どうかしたの? なんだか様子が変だって、あちこちで噂になっちゃってるけど」
「えぇ? そ、そんなに話題になってるんだ」
「やっぱりなにかあったんだね。あたし、なんとなくわかってきたんだけど。今この学院で何かが起きてるんだよね? 見覚えのある景色に、放課後の騒ぎとか……どういうことなの? できればちゃんと話して欲しいんだけど」
興味からでなく、自分を心配しての問いかけに静香は黙っていることはできず。
女の身体のことや、ループのこと、覆面人物のことなど、わかっている範囲で話していった。
歩と、そばにいる鬱姫たちは事情をあらかた聞き終え、驚いたものの。
特になにを非難することもなく、話を次へと進めていく。
「それで結局のところ、ループを抜け出すには、どうすればいいかはわからないの?」
「うん。何が原因でループが発生するかわからないと、どうにもね。僕の身体か、放課後に起きた事件のどちらかが気になるのは確かだけど」
「わかったわ。とりあえずそろそろ、その事件の時間だし。一緒に確かめてみよ♪」
空気をなごませる歩。
それと対照的に鬱姫は事件に備え、周りに悟られない程度に緊張感を高めていた。
しかしよくよく観察すれば、静香もまだ緊張の面持ちで外を見つめている。
「気を付けてくださいね」
鬱姫がそういうと、静香はわずかに苦笑いを浮かべた。
それがどういう意味合いなのか理解するより先に、
どこかから怒声と、剣と剣が重なり合う音がここまで届いてきた。
ベアトリーチェやパルフェリア、タルト達も一気に緊張の糸を張っていく。
そのまましばらく剣の音だけが鳴り響き、
「キャアアアアアッ!」
かすかに前回ループでも聞こえた悲鳴が聞こえてくる。
静香は、このあと外に出ればどういうことになるか知っている。
しかし見てみぬふりはできない。かと言って、立ち向かうこともできるかどうか。
「くそっ、僕はやっぱり」
「ちょっと待つのだよ!」
それでも立ち上がりかけた静香の足を、ベッドの下から伸びた手が掴んだ。
全員が驚愕した。
手の主は、毒島大佐だった。
この回大佐は、密かに静香のベッドの下に潜り込んで気配を消し、待ち構えていて。
静香が女になっていたり、瀬蓮がわたあめ作り出したりで、混ざりたい気もかなりしたのだが出て行ったら気まずいなと悩んで、結局ここまで待機しつづけていたのだ。
しかし今。ようやくベッドから這い出てきて、
「今の校長には荷が重い。我が相手をするのだよ」
「え? だ、だけど」
「なぁに。一回やりあったし、今度はうまくやるさ」
大佐はそう言うと、光条兵器の蛇腹剣を取り出して、超感覚で出した尻尾に持たせて照明の代わりにする。
周囲をディテクトエビルで調べた。するとすぐ外から、明らかな敵意が近づいていた。
右手にラスターハンドガン。左手にワンド・オブ・セレスティアーナを構えながら、じりじりとドアに向かってにじり寄っていく大佐。
傍でなりゆきを見守る歩や鬱姫たちも、静香から離れないようにして注意を怠らない。
ガラガラガラ……
中の人間は誰も触っていないのに、音をたてて保健室のドアが開かれた。
直後――覆面をした謎の人物が、グレートソードを手に飛び込んできた。
「うわっ!?」
大佐は反射的にサイコキネシスをかけたが、それは床を軽く凹ませただけで。
覆面のほうは、天井すれすれまで跳躍しており。そのまま静香のほうへ落下してくる。
それに歩と鬱姫が揃って高級はたきでそいつの足を叩いてバランスを崩させ、いつのまにか目を覚ましていた美羽がミニスカートをはためかせながら、バーストダッシュを付加させた跳び蹴りで腹を蹴っ飛ばした。
それでも相手は軽くうめいただけで、旗色の悪さを感じてすぐにドアへと飛び退いていく。
逃がすまいとした大佐がサンダーブラストとアルティマ・トゥーレを廊下に向けてぶちかましたが、煙が晴れてもそこには無惨に崩壊した廊下だけしかなく。覆面の人物は逃げてしまったようだった。
しかも落胆する静香を更に沈ませる勢いで、ループがはじまっていった。
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