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静香サーキュレーション(第2回/全3回)

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静香サーキュレーション(第2回/全3回)

リアクション



【?4―3・嫌疑】

「亜美が怪しい?」
 校長室でラズィーヤは、思わず橘 舞(たちばな・まい)ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)に聞き返していた。
 ついさっき舞達がやってきて、
「美味しいケーキが手に入ったんですよ」
 という一言で、即効ラズィーヤは中へ招き入れた。
「みてください。アールグレイシフォン、アールグレイの香りのシフォンスポンジに季節のフルーツをトッピングした一品です」
 解説に目を輝かせるラズィーヤに、舞はきちんと静香の分は残す形で切り分ける。その最中、
「それにしても昨日は大変だったんですよね、まさかラズィーヤさんが……ああ、こんな話、本人の前でする話じゃないですよね」
 気を悪くさせてしまったかと危惧する舞だが、ラズィーヤはケーキを見つめるのに夢中で聞いておらず、皿にのせて配られるなりいそいそと食べ始めた。なんとも自己中心的であった。
 それを受けてブリジットはぴくぴくと口元をひきつらせながら、さっさと情報収拾をはじめることにする。
「それで! 私たちはループの原因を、西川亜美が怪しいと睨んでるのよ。そこでラズィーヤはどう思ってるか知りたいんだけど」
「亜美が怪しい?」
 こうしてはじめのセリフに戻るわけだが。
 ブリジットは『私たち』と言ったが、実際舞としては前回顔をあわせたとき、そう悪い人には見えなかったという印象があった。
(結局、西川さんがラズィーヤさんのことを呼び捨てたのが気に入らないだけなんじゃないかな。ブリジットはツンデレさんだから)
 という思惑を抱いて、わがパートナーを見つめると。
(なによその生温い視線は。大体想像つくけど、べつにこのドリルが誰とどうなろうとどうでもいいんだから。あと、私ツンデレじゃないから)
 しっかり以心伝心していた。パートナー同士のなせる業だった。
 ずっとケーキを味わっていたラズィーヤは、今の質問に一度フォークを置いて口を開かせる。いつのまにか意外と真剣な顔になっていた。
「実は、わたくしも薄々怪しいと思っていましたの」
 返ってきたのは舞にとって意外で、ブリジットにとって納得の一言だった。
「昨日のループが解決した後、わたくしも独自に調べてみたのですわ。彼女とわたくしは、そう浅い仲でもありませんし」
「あ、そうそう。西川の実家がヴァイシャリー家と交流あるとか言ってた」
「ええ。もっとも、彼女はわたくしをあまり好いてはいないようですわ。わたくしとしては、静香と最近仲良しなのでちょっとだけ嫉妬する程度なんですけど」
 舞が再び生温い目を向けたが、ブリジットはあえて無視した。
「話が逸れましたわね。聞いた話ですけど、彼女は何日か前から様子がおかしかったそうですわ。家の人とあまり口をきかないとか、逆に学院ではヘンに愛想がよくなったとか」
 言いながら、ラズィーヤとしてもあまり亜美のことを悪く言いたくはないのか。トントンと指で机を叩きながら、わずかに表情を歪めていた。
 それでも舞たちとしては、もう少し詳しい話を聞こうとした。
「失礼しますっ!」
 と、そこへレキとミアが飛び込んできたかと思うと、性転換装置がどうのこうのという要領を得ない話を延々くりかえしはじめ。結局それ以上はなにも聞くことはできなかった。

 太陽がようやく完全に沈み、電灯の光が校舎を包み始めた頃。
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は、西川亜美を尾行していた。
「何かあたしの勘がビンビンきてんだよねぇ〜?」
 ミルディアは放課後の喧騒が気がかりで、亜美が怪しいという話を聞き探っているのだが。今のところ亜美はただ校舎をうろうろしているだけのようだった。
「それにしてもさっきから何してるのかな……? 亜美さんも、なにか探ってるとか?」
 はじめのうちは素人技の尾行で気付かれないかと危惧していたのだが、亜美はなにか別のことに神経を尖らせているらしく。こちらを向く気配すらなかった。
「……白か黒かはさておいても、秘密を持ってるのは確かみたいね」
 そうして、亜美が中庭へとでたとき。
「いい加減、ワタシをつけ回すのはやめたらどう!?」
 いきなり亜美の怒声が響いた。
(え? うそ、気付かれてた? でも、なんで)
 慌てて壁に背をくっつけ、息を殺すミルディア。
 心音が周りに聞こえてしまいそうなほど高鳴ってくるのがわかる。
 こうなったら観念して、事情を説明して出て行こうとも思ったが。
「やっと出てきたわね。陰険なのは、ワタシ嫌いなのよ」
 それより先に別の人物が、姿を見せていた。そいつは覆面をし、グレートソードを手に構えていて、それでよく隠れていられたなと感心する風体だった。
(なんだ、あたしじゃなかったのね。出て行かなくてよかった。ああ違った、それよりも。あの覆面は一体誰なの?)
 こっそり覗きみてみれば、会話もないまま剣と剣を突き合せて戦闘を始めていく。
 なにがどうなってるのか、ミルディアにはさっぱりだったが。
 意外に早い段階で雌雄は決した。
「キャアアアアアッ!」
 亜美の身体を、覆面のグレートソードが貫いて。
 鮮血とともに亜美は地面へと倒れ込み。覆面はそのまま校舎の中へと逃げていった。
「もう、一体なにがどうなってるの!? ちょっと、しっかりしなよ!」
 そっちを追おうかとわずかに考えたミルディアだが、今は亜美に駆け寄って介抱することを優先させた。

 覆面の人物は、血に濡れた剣を手に保健室へと向かった。
 辿り着いてドアを開けようとして、なぜか南京錠で施錠されているのに気がついた。
「Hi。貴方も保健室に? それは困ったわね――見ての通り、開かないのよ、此処。ねぇ、貴方? お願いがあるのだけれども、ちょっと職員室まで行って来て貰えないかしら?」
 そこへ姿をみせたのは、ローザマリア。
 彼女は一応殺気看破を使用してはいたが、剣からしたたる血がどう考えても普通でなく。害意がビンビン感じられた。
 だかこそすでに僥倖のフラワシを二体、相手の後ろに回りこませて他に凶器がないのを確認させ。その上でヒプノシスをかけていった。
(あのサイズの剣なら、振るのにそこそこ時間がかかる。注意していれば、攻撃を受けることも逃げられることもないわ)
 じっくり催眠状態にして、何故静香を手に掛けようとしたのかの動機を話させようと考えていた。
 だが、
(……? どういう、こと? 催眠にかかってない?)
 覆面のせいでうまくヒプノシスがかからなかったのか、それとも催眠防止の効果があるものでも所持しているのか。そうしたことを思考したことで、わずかに隙が生まれ。
 まばたきを一度する間に、もうグレートソードが目の前まで迫っていた。
「いけない……!」
 ローザマリアは、避けようと足を右に動かした。
 が、すぐにその足は元の位置へと戻った。
 ループが開始されたのである。