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嘆きの邂逅~悲喜の追録~

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嘆きの邂逅~悲喜の追録~

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第6章 撤収

 宮殿深部に向かったメンバーは、ジュリオ・ルリマーレンが眠っていた部屋へとたどり着き、ファビオジュリオマリザと合流を果たしていた。
「一番心配しているのは、今回の再封印の前に、離宮の封印をある程度解く必要があるということ」
 マリザが硬い表情で集まった皆にそう話した。
「ここの封印を施して、封印を完全なものとしてしまった場合、離宮内の命ある者は全て眠りにつくことになる。つまり、我々は離宮に閉じ込められてしまうということだ」
 ジュリオもまた、厳しい顔つきで説明をする。
「だから、タイミングが重要なんだ。封印を解いた後で、剣をさして再封印の準備をして、北の塔へと走り、地上へテレポート。その後に封印術が発動されるようにしないとね」
 ファビオが言った後、再びマリザが口を開いた。
「最後までここに残るのは……私だけでいいわ」
 瞬間、ファビオとジュリオが驚きの目をマリザに向ける。
 2人も、マリザの意思はまだ聞いていなかった。
「マリザ……」
 パートナーの瓜生 コウ(うりゅう・こう)も、少し驚きはしたが、彼女らしい考えだと、すぐに納得する。
「なら勿論、オレもマリザと残る」
「いや、それならば私が残るのが順当だろう」
 ジュリオがそう意見する。
 これはもともと、人柱を担うことになった、自分の役目だと。
「何を言ってるの。だからこそ、あなたは自由になるべきよ。今度は私の番。あ、もちろん、離宮に残るつもりはないから、ギリギリに駆けつけるつもりよ」
「でも、もしもの時は、自分がって、思ってるよね?」
 最後まで残ると言うマリザに、ファビオが軽い笑みを向けて言葉を続けていく。
「もし、また誰かが犠牲になるのなら……きっと俺はまた、世間を騒がせるようなこと、してしまうかもな。だから、俺が残る。俺は一度死んでるし、よみがえるのは今の時代である必要もない」
「ファビオ」
 マリザが怒りを含んだ声を上げる。
「……って言っても、マリザ姉さんも、ジュリオさんも止めるだろうし。だから、最後まで3人皆で残ればいい」
 そう言い、ファビオはジュリオとマリザを交互に見た。
「ったく。まあ、そうね。そうしましょう」
 マリザはいつものように、軽快な口調に戻り、集まった皆を見回した。
「皆は先に、地上までの道を切り開いて。私達3人は空を飛べるから、宮殿から出さえすれば、さほど時間をかけず、北の塔まで行けるわ。剣を刺した直後に、先にここを出てちょうだい」
「わかりました」
 答えたのは、全体の指揮を任されたティリアだ。

 多方面の状況確認を終え、皆が撤収を初めて数分後。
 集合時間20分前に、離宮の再封印作業が開始される。
 コウ、マリザ、ファビオ、ジュリオが見守る中、ティリアとレキが部屋の中心へと歩く。
「部屋の中は大丈夫そうじゃぞ。皆も近づかないようにな」
 ミアはフラッシュで影が浮き出ないかを確認して、自分達以外の存在がないことを念入りに確認していた。
 ティリアに何かあった場合、指揮に影響が出るということもあり、代わりにレキが剣を刺すことになっていた。
「それじゃ、お願いね。危険はないはずだけれど、もしもの時にも、ちゃんと連れて帰るから」
「うん、大丈夫。ティリアさんも下がっててね」
 レキはティリアから剣を受け取って、部屋の中心――離宮のちょうど中心にあたる部分、厚い透明の石が嵌め込められている祭壇のような場所に上った。
「刀身の三分の一位が埋まるように、突き立てて」
「うん!」
 レキは剣の柄を両手で持つと、刀身を下に向けて振り上げて、思い切り、床に突き立てた。
「!?」
 皆の体がぴくりと震える。
 熱風が吹き抜けた時のような、違和感を感じた。
「レキ、大丈夫か?」
「うん、なんともない」
 ミアの問いに、レキは両手を見ながらそう答えた。
 剣を刺した直後に、手の感触がなくなるような変な感覚を受けたが、今はもう何ともなかった。
「急いで戻りましょう。皆が守って下さっています」
 ドアを開けて真紀が皆を促す。
 この地下には一切光条兵器使いは下りてきていない。エメが階段の上で、退路の確保に当たっているのだ。調査に訪れた当時と、同じように。
「ここは私達に任せて行ってくれ。道の確保、頼むぞ」
 ジュリオが皆を促し、飛行手段のない者から、ドアの外へと駆けだした。
「コウ、あなたも行って。私もすぐに行くわ」
「……わかった」
 コウはもう一度その封印の部屋を見回して、脳裏に焼き付けた後、部屋から飛び出した。
「どうか、お気をつけて」
「施錠も、お願いね」
 皆を通した後、真紀とサイモンが騎士達に言った。
「うん、魔法で封じておくよ」
 ファビオの言葉を聞いた後「お願いします」と言葉を残し、真紀達は皆の元へと走る。

 本当なら、光条兵器使いも、すべて埋葬したいと思っていた。
 しかし、時間的な余裕はなかた。離宮内の全ての敵を倒すことも。
「皆さん、こちらです。駆け抜けて下さい」
 エメは、光精の指輪で周囲を照らしながら、リュミエールと共に、階段の上で、警戒に当たっていた。
 殺気看破、超感覚、禁猟区で研ぎ澄ませた彼は、一切の敵を見逃さなかった。
 感情を殺し、無言で兵器を排除し、廊下の片隅に積み上げておいた。
「まだ騎士達が残っているけど、彼らに任せて先に北の塔に向かうわよ」
 ティリアが簡単に、状況を説明する。
 エメは地下の方に目を向けた。
 パートナーとなった彼……ジュリオ・ルリマーレンは戻ってくるだろうか。
 宮殿に残ると言い張りはしないだろうか。
 そんな不安に駆られる。ジュリオが、深く責任を感じていることを、知っていたから。
「大丈夫だと思うよ」
 リュミエールはそう言って、軽く負傷しているエメをヒールで癒した。
「残っていても、足手まといになります。行きましょう」
 最後に駆けあがってきた真紀がエメにそう声をかける。
「仲間が一緒だしね」
 サイモンが軽く笑みを浮かべる。
「そうです。自分達があの辛い戦いを、共に切り抜けることができたように、彼らもかつての仲間が一緒だから問題ないでしょう」
 真紀はそう言うと、サイモンと共に地上に向かい走り出す。
「集合時間が迫ってるぽん。走って向かおう! ……ぽん!」
 前方からは、輪廻の声が響いてくる。
「はい、急ぎましょう」
 そう答えた後、エメは後ろを振り返る。
「待ってますよ」
 地下に向けて小さく言葉を発した後、殿となり皆の後に続いた。

 入口近くから、階段までを伏見 明子(ふしみ・めいこ)とパートナー達は護っていた。
「なんッか勢いがねェな今日のマスターは。オイ六の字。どう見るよ?」
 レヴィ・アガリアレプト(れう゛ぃ・あがりあれぷと)が、明子の後ろ姿を見ながら、小声で鬼一法眼著 六韜(きいちほうげんちょ・りくとう)に問いかけた。
「……んー……実は、マスターの性質についてはちと不思議なとこがありまして」
 六韜も、明子には聞こえないよう、声を落として話していく。
「なんでしょうかね。割とワガママなのに他人の影響を受けやすいのです。情に脆いと申しますか。隣の人が泣いてると自分まで落ち込むようなところがあるのです」
「温泉ッときゃァ「自分のやりたい事をやるため」とか言ってたけどよ……?」
「自分どころか回りまで満足してないとはっぴーになれないとかちょーごーまんなのです。……よく考えて下さいなのですルーキー。あの人の下は結構大変なのですよ?」
 六韜の話を聞いたレヴィは、明子の背中を見ながら、大きなため息をついた。
「……面倒臭ェマスターだな。他人の浮き沈みに一々気ィ取られて自分の為もねェだろうに。派手なしっぺ返し食らわなきゃ良いんだがな」
「心配してるのですか、チンピラさん」
「……なんで俺があんな暴力マスターの心配なんぞ」
 レヴィは苦虫をかみつぶしたような顔をする。
 彼らのマスターである明子には、源九郎義経(九條 静佳(くじょう・しずか))が近づいて、浮かない顔の彼女に、「どうしたの?」と問いかけていた。
「皆の顔を見てるとさ。色々あったんだろうなあ、って思うのよね。私は途中でここからいなくなっちゃったけど。最後まで付き合ってれば、ひょっとしたら何か違う結末になったんじゃないかなぁ」
 周囲には、光条兵器使いの骸が溢れている。
 それは、人の遺体そのもので……こんな場所に長く留まっていたら、心がおかしくなってしまいそうだ。
「……後悔が尽きないのは人の常だけどね。終わった事は終わったことだよ。それにね。上手くいかなかった事があっても、その時々に一生懸命だった人はいるんだ。それを今から悔いる事は、その時に頑張った人達に失礼じゃないかな」
 静佳の言葉に、明子は弱い笑みを浮かべた。
「……今から考えれば、そりゃ後悔はするさ。生前の僕も必死だった。今更それを無しにする気にはならないよ」
 続けられた言葉に、明子は首を縦に振って「うん、ゴメン」と謝罪する。
「去年から比べて、体は丈夫にもなったし強くもなったけど。それで、何かを変えられる日が来るのかな」
 そして、明子はまた、弱くどこか悲しげな笑みを浮かべる。
「……誰の役にも立てないままっていうのは、いやだなあ……」
「どれだけ役に立ったら、自分を認めることができるのかな?」
 そう、静佳が言った途端。
 地下から皆が駆けてくる音が響いてきた。
「こっちよ! 光条兵器使いは、あらかた片付けたわ」
 明子は仲間達に即、声をかけて誘導を始める。