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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第1回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第1回/全2回)
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 ……そして、慌ただしく本会議の開催が決まり、そして期間の最初の日。
 会期は3日間であるが、欧州魔法議会議員全員が顔を揃える会議は、最終日のみ。それまでは各会派毎に集まり、意見のすり合わせを行うのが通例となっていた。行動も比較的自由であり、最終日が厳かな雰囲気に包まれるのとは対象的に、普段であれば緩やかな雰囲気となるはずであったのだが……今回は初日から、波乱含みの一日となっていた。


「私のところにこのようなものが送られてきた。ここに映されているものは事実なのか、それを知りたい」
 集まったミスティルテイン騎士団所属の議員の内、まだ任期が若い者の一人が壇上に立ち、送られて来たという映像や写真をスライドに映す。地面に落ちたイルミンスールや、禍々しい姿のクリフォト、先の戦いで舞台となったウィール遺跡の写真などが次々と映されていく。これらは、エーアステライトから『ミスティルテイン騎士団派の内、切り崩しを行いやすそうな議員』の情報を受けたアウナス・ソルディオン(あうなす・そるでぃおん)によって提供されたものであった。
「私も、このような怪文書を受け取った。『ミスティルテイン騎士団開祖、アーデルハイト・ワルプルギス謀反』『ザナドゥの尖兵としてシャンバラを攻撃中』『ザナドゥへ寝返る契約者続出』と書かれていた。これについては如何であろうか
 別の議員が手を挙げ、報告する。その怪文書は田沼 興継(たぬま・おきつぐ)が、欧州魔法議会の議員宛に送りつけたものであった。
「……遺憾ながら、概ね事実である。しかし、アーデルハイト様はイルミンスールを謀反されたのではない。ザナドゥの世界樹、クリフォトの影響下にあり、一連の行動は自身の意思とは離れたものであることが確証付けられようとしている」
 立ち上がったノルベルトが答える。遺憾、という一言に様々な意味を含ませて、アーデルハイトがイルミンスールを裏切った、という部分については反論を唱える。
「我々は今こそ、試されている時なのだ。我々の結束に綻びを入れようとする工作の数々に屈せず、現体制を維持し続けることに注力することが、我々の為すべき事と心得よ。決して事態は悪いことばかりではない、この混乱の最中にあっても、成果を着々と挙げている」
 ノルベルトに催促され、フレデリカが事前にまとめた報告書の内容に加え、事前に取得したアルマインの実戦データを取り上げ、今はパラミタ製であるこれを元に、地球、EMU製のイコン開発を行える可能性を提案する。
(アルマインそのものは無理だとしても、技術を応用した機動兵器、またはそれに類するものは開発できる)
 そう強く思いながら、フレデリカはザナドゥとの戦役についても触れる。先の戦いが『魔神アムドゥスキアス』と『魔神ナベリウス』と呼ばれる、魔族の中でも高位の魔族による二軍同時侵攻であったにも関わらず、イルミンスールは矜持を保ったこと、魔族相手でもイルミンスールは十分渡り合えることを報告する。
「なるほど。報告を聞く限りでは、君たち契約者が尽力してくれていることは理解できた。
 ……だが、私は一つの懸念を覚える。それはエリザベートのことだ。彼女は果たして、イルミンスールの校長で在り続けることが相応しいのだろうか? 聞けば、世界樹同士の接続、世界樹を研究する機関の設立については、エリザベートは何ら関与していないそうではないか。
 状況が逼迫する中、より強いリーダーシップを持った人物を推薦するべきではないのか?」
 別の議員の発言に、しばし沈黙が流れる。彼の発言は興継のパートナー、エカテリーナ・クズウ(えかてりーな・くずう)の意図によるものであったが、これはかなりの効果を与えたようである。イルミンスールでは現在、“覚悟を決めた”エリザベートの下、事態が進んでいるが、この時のノルベルトを始めとする者たちはその事態を知らない。『より強いリーダーシップを持った人物を』という言葉自体は、否定出来ないものでもあった。
「そうは言うが、では一体誰を推薦するというのだね」
 そして、この言葉にも沈黙が流れる。5000年の歴史を持つミスティルテイン騎士団でさえ、エリザベートとアーデルハイト以外に、強烈なリーダーシップを持った人物は存在していないのが現実であった。
「我々は最後まで、エリザベート様とアーデルハイト様を信じ、支える。それが我々の責務でもあるのだ」
 ノルベルトがそう言って場を締めくくるものの、不穏な空気が抜けない会合であった――。


「前回報告した際も反応の多さを感じていましたが、今回、これほど多くの皆様にお集まり頂けるとは、正直言って驚いています。
 何分不慣れな故、拙い説明になるかもしれませんが、皆様どうぞよろしくお願いいたします」

 会場の一角で、『ファーム関連の技術の地球への転用に関する講習会』を開催した大地は、集まった多くの中小魔術結社の代表を前に、眼鏡をかけ誠実な振る舞いを見せつつ、瞳の奥で鋭く人物観察を行っていた。既にフレデリカ経由で、議員が何の魔術結社所属であるか(複数あればその結社全て)、また結社情報といったものは受け取っており、顔ぶれもそれなりに覚えていた。
 ミスティルテイン騎士団とホーリーアスティン騎士団の“二強”を除く議員数は13。そして驚くべきことに、その13名全てが、この場に集まっていたのである。つまり、二強以外の残るほぼ全ての魔術結社は、おそらく支持基盤の大半を農業従事者が占めており、彼らの生活向上がそのまま自身の結社の支持拡大へと繋がる仕組みとなっているようであった。EMUとなる前のEUが工業中心だったのも影響にあったが、ともかく、多くの魔術結社にとって農業は重要な要素であることがこれではっきりとしていた。
(これは……とても活動のしがいがありますね。しかし実際、どのようにして支持を取り付けるのがいいでしょう)
 メディアに詰め込んだ、ファームで現在試験中の新品種の紹介や、前回の報告で説明しきれなかった農耕技術・農業機械・食品加工技術等の資料をスライドで紹介しながら、大地はいかにしてミスティルテイン騎士団への支持、もしくはホーリーアスティン騎士団からの寝返りを打たせるかを思案していた。
 13名は基本的には、ミスティルテイン騎士団とホーリーアスティン騎士団のどちらにも属さない。魔術結社の意向を受けて、支持をその都度変える。結社の数が膨大なため、懐柔するのも一筋縄ではいかない。話をするのであれば議員に直接、の方が効率的だが、議員を立てている結社が“二強”のどちらにも支持を持っていた場合、バランスを崩すことに繋がりかねない。

「俺は、ファームで培った技術を独占するつもりはなく、土地の適性を鑑みた上で、皆様の管轄する土地の一部を試験上として提供してもらったり、皆様の土地に適した品種開発をファームで行う、そういうこともしていきたいと考えています。
 それは、今までEMUを代表してイルミンスールという拠点からパラミタ開発を行ってきたミスティルテインの目指す所とも一致するでしょうし、俺もその理念には従おうと思うからです」

 というわけで、大地は『自分がこうしているのは、ミスティルテインがそうしているからだよ』と発言することで、もしもホーリーアスティン騎士団支持に回れば、理念を異にする自分から技術提供を受けられないのではないかと思わせ、はっきりと支持に回らなくても、とりあえず明確なホーリーアスティン騎士団支持はやめておこう、そう思わせる方針で講習会を進めていくことにした。
(……大地が今の発言をすることで、少しでも態度に出る者がいるかもしれない)
 プロジェクタを操作しつつ、千雨が涼しい顔のまま人間観察を行う。もちろん、もし万が一大地が襲撃者に狙われるような事態になっても、即座に間に入れるように準備してもいる。これは大地本人のお願いというよりは、千雨自身の意思と、後は今、イナテミスファームで作業をしているプラとアシェットのお願いであった。


 2日目は、初日に比べればまだ温厚な雰囲気であった。裏を返せば、水面下の戦いが活発に行われていることを示してもいたのだが。
 この手の小競り合いは、24時間365日、必ずどこかで行われているものだからである。

「わしはアルマイン研究をしとってな。自分で言うのもなんじゃが、なかなかのもんと思うておる。
 ……んふ、たいそう意外であると目が言っておるぞ。人は見かけによらぬものじゃよ。おぬしとて、これを見ればわしを見る目が変わるじゃろうて」
 サン・ジェルマン(さん・じぇるまん)が手配した、魔術結社の代表を務める人物との会合の場で、ローザ・オ・ンブラ(ろーざ・おんぶら)を傍らに控えさせたファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)が不敵な笑みを浮かべながら、事前にまとめたアルマインの研究資料を見せつける。ファタの外見に訝しげだった彼も、資料が本物であり、かつ重要度の高いものであることが分かると、表情を変えて食い入るように見つめる。
「わしは現行のイルミンスールの体制の下、研究を行っておる。じゃが体制が変われば、研究にも支障が出る。
 ……ここまで話せば、わしがおぬしとこのような場を設けたこと、薄々気付きもしよう?」
「……何が言いたい」
「年端も行かぬ少女に全てをさらけ出させるとは、おぬしもアレよのう。
 ……率直に言おう、おぬしに是非、ミスティルテインを支持してもらいたい。無論ただで、とは言わん。見返りとして、今見せたアルマインのデータ、及び研究結果を“優先的に”提供してやろうと考えておる。おぬしの所だけに、優先的に、な」
 優先的に、の部分に力を入れて話すファタの前で、代表を務める男性はしばしの間、思案する。おそらく彼の頭の中では、天秤が左右に揺らめいていることだろう。
「……分かった。支持すると約束しよう。その代わり……」
「んふ、みなまで言わずともよい。……では、交渉成立じゃな」

「主、次の会合場所へご案内致しマス」
 会合を終えれば、すぐにサン・ジェルマンが手配した次の人物との会合が控えている。如何なる手段を用いているかは不明だが、仕事が確実であればそれに越したことはない。道すがら、ファタが気を紛らわすようにうぅん、と伸びをした。
「やれやれ……EMUの情勢も、面倒なことになっておるのう。
 楽をするためとはいえ、楽しくないことはどうも気が進まぬ。……じゃがここで手を抜けば、もっと面倒なことになりそうじゃしのう」
 ここでミスティルテイン騎士団が過半数を失う、あるいは校長が入れ替わるような事態になれば、それは確実に“楽しくない”。何もしなければ楽しくない生活が待っているなら、今は楽しくなくとも、やらざるを得ない。
「おやおや、流石のマスターも少しばかり苦労されているご様子。この苦境をどう乗り越えていくか、非常に興味深い。
 嗚呼、神よ。我々に七難八苦を与え給え」
 こんな時でもいつもの調子のローザに、ファタはしかしまだ微笑む余裕があった。こんなことを言いながら、ローザは交渉相手によっては自ら交渉の場に立つし、普段はサポートに徹しているサン・ジェルマンもやはり重要な時には自ら場に立つ。
(なんだかんだでお人好しじゃのう。……わしも大概、人のことは言えぬか)
 そんなことを心に思いながら、ファタ一行は次の会合場所へと向かっていく――。