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リアクション
「アルマイン・シュネー、クイーン・バタフライとの通信状況、良好です。二機とも最初の予定通り、それぞれ前衛と後衛につきましたわ」
ソーサルナイトに涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)とクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)と搭乗するエイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)が、今回の戦闘において小隊として共に行動するアルマイン・シュネー、クイーン・バタフライ両機との通信を密にする。魔道レーダーなるパーツによりレーダーの性能が向上し、二機のソーサルナイトとの位置関係もリアルタイムで表示されていた。
「敵の組織だった行動に、私達も備えをしておく必要はあると思う。
今回の戦闘では、私と十六夜泡さん、赤城花音さんと共に『アルマイン隊』を結成する。校長にはこのこと、どうかご理解頂きたい」
出撃前、十六夜 泡(いざよい・うたかた)と赤城 花音(あかぎ・かのん)と校長室を訪れた涼介は、小隊結成の旨とその意義をエリザベートに話し、結成の許可を申請していた。
「メリットは、それぞれ単機で戦うよりも、短所を補い合い、長所を伸ばした戦いが可能になるわね。
ただ、マギウスタイプの方が速度に難があるだけ、もし両方を組み合わせて小隊編成した場合、ブレイバーの機動力が損なわれる可能性はある。これはまあ、ブレイバーだけの小隊編成を作る余裕があれば、解消できそうね。
後は、複数機が同時に行動する分、補給のタイミングも一緒になるから、戦力維持が大変になるというのもあるかしら。これは、アルマインの絶対数が増えれば解消できそうだけど……そこんとこ、どうなの?」
「そうですね……詳しい数は公表できませんが、数自体は揃っていると思います。
ただ、ここから一気に数を増やすのは難しいですわね。イコンに関しては、何かと反発が大きいのもありますから」
エリザベートの代わりにルーレンが答える。天御柱はイコン中心の学校と言ってよく、イコン運用に特化していてもそれほど問題はないのだが、他の学校では導入が後だったこともあり、どうしてもイコンの使用には是非が生じている。
「ま、頷けるわね。状況は理解したわ。
あ、そうそう。一応便宜上『アルマイン隊』って事にしてあるけど、いい名前があったら提案してくれてもいいわよ?」
「そんな事言われても、よく分からないですよぅ。リーダー機の名前にしておけばいいんじゃないですかぁ?」
たとえば、涼介が小隊のリーダーなら、『ソーサルナイト隊』という具合である。別に教導団のようにしなくてもいいのだから、その時々でリーダーも小隊名も変わる方式は、まあ、イルミンスールらしいといえばそうなるだろうか。
「マジックカノンの調整、バッチリだよ!
……ソーサルナイト、私も頑張るから、おにいちゃんにその力、貸してあげてね」
涼介が近接武器を担当するとのことで、マジックカノンの調整に携わることになったクレアが調整を終え、報告する。
(ソーサルナイトよ、お前にサロゲートエイコーンとしての力があるなら、私の魔力と思いのすべてを与えよう)
先の戦いで、アルマインが驚異的な力を発揮したという報告は、ヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)を通じて涼介の耳にも届いていた。但しそれは、乗り手の憎悪や憎しみ、絶望といった感情を糧に発動するものであるとも聞かされていた。
(……私は、決して闇の力に飲まれたりはしない。使ったりもしない)
そうしてたとえ戦いに勝利したとしても、あの人は決して喜ばないだろう。今はアリアと共に自分達の帰りを待ってくれているはずの“妻”は、心優しい人だから。
「……行こう。ソーサルナイトとクイーン・バタフライで射撃の後、各機所定の役割に従い行動せよ」
「はい、ただ今お伝えいたしますわ」
涼介が攻撃開始を通達し、それは各機に伝達されていく――。
「花音、攻撃開始の通達が来ました!
僕たちと涼介さんの機体とで牽制射撃の後、各機それぞれの役割に従って行動とのことです」
ソーサルナイトからの通信を受け取ったリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)が、花音に内容を告げる。花音は元気よくそれに答えて、準備が整う僅かの間、思慮に耽る。
(ボクはまだ、超ババ様に一番大切な事を話してなかったね。
……ボクがイルミンスールに在学している理由。“等身大の自分で音楽活動を展開できる”って考えたからだよ。超ババ様はイデオロギー的なプロパガンダとは無縁だと思ったんだ。
そして実際、今までを振り返って……判断は正しかったって、ハッキリと言える!
ボクは……今も超ババ様が正気だと信じるよ!)
リュートが、準備完了の旨を伝えてくる。
(まだ超ババ様がイルミンスールを信じられないなら……ボクは止めるために戦う!
そして伝えるんだ、感謝の気持ちを! ありがとうございますという、言葉を!)
刻まれるカウントに合わせ、花音が想いを乗せて、マジックカノンを発射する。ソーサルナイトがその後に続き、二発の魔弾はクリフォトを守っていた巨大魔族の一体を直撃する。
後方から放たれた魔弾が、巨大魔族の一体を直撃するのを確認して、泡はターゲットをその一体に定め、機体を発進させる。
(校長にも約束したしね……散々言っておいてあっけなく乗っ取られているアーデルハイトは、絶対に連れ戻して説教してやらなくちゃ。
まずはここでの戦闘に勝って、本体に殴り込めるようにするわよ!)
魔法武具 天地(まじっくあーてぃふぁくと・へぶんずへる)を装着した泡は、普段よりも魔力の充実ぶりを感じていた。魔力の総量こそ同じだが、やはり別々に乗るよりは、実際に魔力を使用するのが泡なこともあって、装着されていた方が運用しやすくなっているようであった。
(シュネーの戦力を長時間、安定して維持させるためには、安定した魔力の供給が必要。
……その役目、わたしが担ってみせましょう。シュネー、あなたはその力で、泡さんの力になってあげて下さい)
レライア・クリスタリア(れらいあ・くりすたりあ)の魔力が、シュネーからふわり、と舞い散る雪となって現れる。しかしその雪は、敵の接近を感知した魔族が放つ魔弾によって、暑さで溶ける前にかき消されていく。魔族にしてみても、盾となっている巨大魔族が倒されるようなことになれば、次に倒されるのは自分自身だと分かっているからこその対応であった。
「まずは大きなのからいくわ! マジックチャージャー発動!」
「チャージャー発動! 泡、制御は私が引き受けます、泡はブレードの調整を!」
爆発的な加速力を得た機体を、リィム フェスタス(りぃむ・ふぇすたす)も加わって懸命に制御する。一つバランスが狂えば、異常な負荷のかかった機体はバラバラになってしまうだろう。敵のど真ん中でそのような事態になれば、後は言うまでもない。
「倒れてしまいなさい!」
魔族の弾幕を掻い潜り、アルマイン・シュネーが巨大魔族へブレードの一閃を見舞う。人間で言う首筋に強烈な衝撃を加えられた巨大魔族が、うめき声をあげることなく膝をつき、その姿勢のまま動かなくなった。
「リンネ、ボクたち二人だけだとやっぱり、この機体の全力は出せないんだな。
この機体は要求する魔力量が、アルマインに比べて桁外れに多いんだな。四人乗りに出来てるのも、多分その為なんだな」
出撃する前、モップス・ベアー(もっぷす・べあー)からの報告を受けたリンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)は、自らの機体『魔王』を見上げてどこか悔しげな表情を浮かべる。フィリップとルーレンが内政に回り、搭乗することが難しい今、何とか二人だけでの運用を模索してきたものの、絶対的な魔力量不足は一朝一夕に何とかなるものではなかった。
「見つけた! リンネさん!」
「……博季くん?」
その時、向こうから博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)が駆け寄ってくる。何で、とはリンネも流石に聞かない。
博季はこの前、リンネと結婚した。それまでも何かとリンネのことを気遣っていた博季が、このような時にリンネの傍にいない方がおかしい。
「どうしたんですか? ……やっぱりこの『魔王』は、四人乗らないと十全に力を発揮しないんですか?」
それは博季の憶測ではあったが、結果としては真実であった。モップスから説明を受けた博季が、ありがとう、と答えてリンネに向き直る。
「リンネさん。……僕と幽綺子さんが乗ります。大丈夫、これでも操縦については自信があります」
「えっ、でも――」
言いかけたリンネの、手を取って博季が言葉を重ねる。
「リンネさん、言ってたじゃないですか。『やる前から諦めてちゃ絶対に助けられない』って。
それに、『魔王』はまだまだ情報不足だ。もしかしたらザナドゥの影響を受けて、暴走する可能性だってある。そうなった時に、僕がリンネさんの傍にいれば、守ることが出来るから。
……僕は、あなたの夫なんです。夫が愛する妻を守るのは、当然のことでしょう?」
「う、うん……」
直球でそんなことを言われて、リンネが頬を染めて頷く。
「さあ、行きましょう」
「……うん!」
けれど次の瞬間には、いつもの元気なリンネに戻って、博季と手を取って『魔王』へと向かっていく――。
(ふふ。博季ったら、言うようになったわね。昔だったら言った後で自分が真っ赤になってたでしょうに)
博季を左に見ながら、西宮 幽綺子(にしみや・ゆきこ)が心に思う。守るべき者を持つと男は変わるというが、博季もその例に漏れなかったようである。
「リンネちゃん、操縦は任せるわ。そうそう、お義兄様とマリアベルちゃんに指示を出すのは、私がやるわ」
「ありがとうございます! モップス、どう?」
「……凄いんだな。見たこともない数値が出てるんだな。これならいけそうなんだな」
リンネに問われ、魔力量を示す計器などをチェックしたモップスが、フィリップやルーレンと乗っていた時よりも高い数値を出している現実に驚愕する。これならは問題なく、魔族との戦いに出撃出来そうであった。
「博季くん……私、戦うよ。みんな、戦う戦わないでモメてて、本当に戦うことが正しいのかどうか分からないけど……。
でも、何もしないで後悔するくらいなら、私はやっぱり何かした方がいい。そして今私に出来ることは、この『魔王』で戦うことだと思うから」
「ええ、リンネさんがそう思うのでしたら、それを一生懸命やって下さい。
僕は一生懸命、応援しますから」
「うん、ありがとう、博季くん。
……よーし! リンネちゃん、出撃だよー!!」
両手の水晶に触れ、リンネが魔力を放出すると、『魔王』がそれに呼応して動き出し、大空へ飛び上がる。それまではせいぜいジャンプする程度しか出来なかったのが、アルマインと同じように飛ぶ(機動性までは流石に、巨体であることも相まって、マギウスよりやや劣る程度であったが)ことが出来ていた。
「リンネ、クリフォトが見えてきたんだな! その周囲に沢山の魔族と、それと既に戦っている複数のイコンも!」
モップスが警告を発し、そしてリンネも禍々しい雰囲気の巨木と、その周りに集まる大量の魔族の群れを確認する――。
「……そうか、出撃したか。……うん、うん、分かった。
そちらの方はどうかな? ……そうか、今の所大きな動きはなし、か。まあ、動きがない方がいいのは確かなんだけどね」
イコン基地としての体裁を整えつつある『飛空艇発着場』にて、確実な補給を行えるようにすること、また、ザナドゥ側についた契約者が問題を起こさないように警備をすること、これらを実行するために向かった伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)とマリル・システルース(まりる・しすてるーす)から、基地は順調に機能を整えていること、今の所襲撃者の存在は確認されていないこと、そしてリンネたちの乗る『魔王』が出撃したという報告を受けた高月 芳樹(たかつき・よしき)は、これからの方針を思案する。
(準備に手間取っていたみたいだけど、出撃出来たということは、準備が整ったと見ていいのかな?
ただ、アーデルハイト様が秘匿していたアルマインの機能のことも含めて、謎が多いからな。まずはリンネさんに連絡を取って、様子を確認してから、連携をとって事に当たるべきかな)
頭の中で手早く方針をまとめた芳樹が、メインパイロットを務めるアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)にその旨を伝える。
「了解しました。……あれだけの数、確かに『魔王』が主戦力となってくれると心強くもありますが……」
とはいえ、『魔王』はある意味イルミンスールのイコン部隊における旗印でもあるし、前述した通り(それは、アルマインも含めてであるが)の問題もある。アルマインも『魔王』も、アーデルハイトによって十分な研究が為されている以上、何らかの方法で“逆手に取られる”可能性がないわけではない。偶然ではあれアルマインの隠された機能を暴いた恵は、アルマインに代わるイコンの用意を進言してもいた。
(代わりのものを直ぐに、とはいかないだろうから……僕たちはもうしばらくの間、この謎に満ちた機体に頼らないといけないわけだ。
そのことは覚悟しておかないといけないかもしれないね)
ある種の覚悟を固めた芳樹の、視線を向けたレーダーに一機の新たな反応が確認される。
「リンネさん、こちら高月機。出撃が遅れたようですが、何か問題がありましたか?」
『あっ、芳樹くん? ううん、ちょっと人数不足で動けなかったんだけど、解決したよ!
今はもう大丈夫! この子も凄いパワーだし、頑張って魔族をやっつけちゃおう!』
リンネの通信に続き、モップスのフォローを兼ねた通信によれば、『魔王』は起動そのものに大量の魔力を必要とするらしく、リンネとモップスだけではその量を十分賄えなかったのを、新たに二人イルミンスールの生徒を加えることで解決したのだという。
「なるほど、ご説明どうもありがとうございます。
ではこちらは、リンネさんに合わせる形で行きます」
説明を受け、ひとまずの納得を得た芳樹は、アメリアに方針を伝え、自身はマジックカノンの調整に入る。
『それじゃ、一発目からとっておきの、いっくよー!
ファイア・イクス・アロー!!』
リンネの生み出した技、高速で飛翔する電撃を纏った炎の矢が『魔王』から放たれるのと同時、芳樹は照準を巨大魔族に合わせて魔力を放出する。
炎の矢、次いで魔弾が巨大魔族を直撃し、身体の一部を失った魔族は膝から崩れ落ちて物言わぬ骸と化した。
「……敵魔族の反応が一つ消えたな。よしよし、リンネも調子を取り戻したか。
さて、あとはこっちの方だが――」
『魔王』、そして別の機体から放たれた攻撃が、クリフォトを守る魔族の一体を撃ち抜いたのを確認して、コード・エクイテス(こーど・えくいてす)が満足げに頷いた直後、物凄い挙動に危うく舌を噛みそうになる。
「のわーっ!? ええぃ博季め、どのような調整を施しておる!?
これではわらわが操作出来ぬではないかーっ!」
必死に操縦桿を握るマリアベル・ネクロノミコン(まりあべる・ねくろのみこん)、だが元々博季用にカスタマイズされていた機体を、十分な調整の時間もなくマリアベルが自在に操れるわけもなく、機体はあっちへこっちへ高速で飛び、全く安定しない。
「お、落ち着けマリアベル、そんな荒っぽい操作では上手く行くはずないだろう」
「ムキーッ!! わらわはおぬしのその態度が気に入らんのじゃーっ!」
「いや、これは元からなんだが――」
反論する間を与えず、激しい挙動がコードを襲う。
(……これは、落ちないようにするので手一杯だな。ま、リンネが頑張ってくれるなら、それでよしとするか)
思考を切り替え、まずは自分とマリアベルが敵に撃墜されないように努力するコードであった。