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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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第二曲 〜失われた大地〜


「偵察を希望する、と?」
 リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)は、天御柱学院のパイロット科長に申し出た。彼女に会う前に、蒼空学園の山葉校長にも申告している。
「はい。おそらく、敵はいつでもこちらを迎え撃てるように準備をしているはずです。事前に確認しておいた方が有益かと」
 無論、危険は承知の上だ。
「……無理はするなよ」


第一楽章「承前」


 太平洋上空。
「見えてきた。あれが敵の本陣か」
 緋山 政敏(ひやま・まさとし)は、陽炎に乗り、古代都市の近くまでやってきた。
 上空、高度一万メートルほどになるだろうか、巨大な楕円形の影が見える。
「確か、去年の海京決戦のとき――」
 彼はその場にいたわけではない。だが、話には聞いていた。
『敵の監視役と思しき機体を発見。画像を送る』
 その機体の姿を、海京にいるリーンの元に送る。それを、海京決戦時の例の機体と比較してもらう。
『形状がほとんど一致してるわ。同型機と見て間違いなさそうね』
 厄介なのが出てきたものだ、と政敏は顔を歪める。あれに捕捉されたら、偵察どころじゃない。
(気付かれないうちに、例の座標を確認しないとな)
 偵察は、あくまで建前だ。本当の目的は、『暴君』と共に消えた天学のパイロットの安否を確認することである。

『どんな結果でも、曖昧にはしたくありませんので』

 出撃する前に、有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)から『暴君』の撃墜した位置を教えてもらった。
 彼女のパートナーである綺雲 菜織(あやくも・なおり)が、『暴君』のパイロットをどうにか助けようと必死になっていた姿は、目に焼きついている。
 表面上は今までと変わらないものの、ショックを受けたことだろう。『暴君』のパイロットばかりか、味方も目の前で消えてしまったのだから。
 それでも、彼女は覚悟を決め、最後の決戦に臨もうとしている。生死を知ったところで彼女の気持ちが変わるとは思えないが、踏ん切りがつくことにはなるだろう。
 撃墜された場所は、浮上した都市の沿岸部の海域となっていた。そこを中心として、偵察範囲を円状に絞る。
「カチュア、そっちは?」
「瓦礫は見えるものの、暴君やガネットの残骸らしきものは見当たりませんね」
 地上を捜査しているカチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)が報告する。
「それにしても……ほとんど廃墟同然とはいえ、こんな都市が遥か昔に存在していたなんて」
 おそらく、浮上しているのはかつて太平洋上に存在したという大陸のごく一部なのだろう。地上部分は多くの人工物で埋め尽くされ、沿岸部は不自然に断絶されている。
 都市の様子は、カチュアが海京へと送信している。
「あれは……少し高度を下げてください」
 彼女が、何かを発見したらしい。機体の高度を下げる。
「映像、拡大します」
 それは、千切れたワイヤーらしきものだった。確か「暴君」の爆発に巻き込まれた機体には、射出型ワイヤーが搭載されていたはずだ。
「これが流れ着いているってことは、もしかしたら……」
 近くにまだ残骸があるかもしれない。慎重に機体を飛ばし、捜査を続ける。
『二人とも、ちょっと分かったことがあるわ』
 リーンからの通信が入った。
 都市の様子を元に、分析を進めていたようだ。
『瓦礫をよく見て。イコンのカメラからじゃ結構見難いかもしれないけど……血の跡があるわ』
 長い間海底に沈んでいたことを考えると、はっきりと「血痕」だと分かるということは、最近付着したものとなる。
 その近くには、不自然に瓦礫が除けられている場所があった。そこで一度止血をしたのだろう。
「まだ近くにいるはずです」
 しかし、
「不味いな、気付かれた!」
 上空からミサイルが飛来する。それと同時に、不恰好ではあるがイコンのような人型の姿が目に飛び込んできた。
「もう少しだってのに……!」
 一旦海上まで離脱しようとする。これは、誘導すると同時に沿岸部に「生存者」がいた場合、巻き込まないためでもある。
 敵影は二。だが、上から支援攻撃が来る。
 眼前の敵は、腕が刃となっているのが確認出来るが、他の武装は見当たらない。だが、天学のイコンとは違い、内蔵武装を持っていないとは限らない。
 海上に誘い込んだところで、機体を一気に加速させる。そこから20ミリレーザーバルカンを撃つ。
 敵の機体がそれをかわす。が、その回避速度が尋常ではなかった。
 片方は距離を維持したまま、もう一機は距離を詰めようとしてくる。機動力では【陽炎】に分があるため、振り切るだけなら容易かと思われた。
 しかし、もう一機の胸部が開き、そこからビームが放たれてくる。その軌道も予測しなければならない。
(まるでこちらの動きを感知して、自動的に対応してるみたいだ。普通、見てから反応していたのでは到底間に合わないが……)
 さっきの回避速度といい、どうにもおかしい。天学のレイヴンを乗りこなしている人間ならば、出来なくはない芸当かもしれないが、普通の契約者とイコンでは無理だ。
 そのため、敵の正体を足しかけるために、賭けをする。
「離脱ルートの算出は完了しました」
 あとは実行するだけだ。
 ブースターを起動。敵を振り切るために、高速で機体を切り返し続ける。そうしている間に、敵の数が増えていく。
 二機が応援に駆けつけ、四対一。それらの連携攻撃をかわし続けるのは、厳しいものがあった。
 速度を維持したまま無理な回避を続けた結果、機体の限界が来てしまう。減速する瞬間、ブースターを再点火。機種を無理矢理上昇させる。
 そのまま高度を上げ、機体を旋回させることで戦場から離脱した。敵機は減速しかけた瞬間、高度が下がると踏んでいたらしい。実際、自然落下から最低限の挙動で攻撃をかわしつつ態勢を立て直し、ブースターを再点火して上昇した方が機体への負担は少なくて済む。
 そのため、敵には予測がつかなかったらしい。
「どうやら、人が乗っているものではなさそうですね」
「多分、AIだな」
 そしてある程度の距離を取ると、追跡してこなくなった。
 そこまでの状況から、イコンサイズの無人兵器。政敏はそう結論付けた。そのまま古代都市周辺の海域から離れようとする。
「……なんですか、あれは!?」
 最後に沿岸部に目をやったとき、カチュアが地上に「異形」の姿を確認した。それをコックピットのモニターに表示する。
「人? いや、まさかな……」
 二本の足で立っているようには見える。しかし、それが「人間」の姿だとは思えなかった。
 しかし、確かめに戻るにはリスクが大きい。悔しいが、今は偵察で得た情報を持ち帰るほかなかった。