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リアクション
影の群れを突破し、閃崎 静麻(せんざき・しずま)は中枢部に辿り着いた。
(この手の建物だと、何かがあるとすれば最深部だろうな)
だが、そちらにはホワイトスノー博士達が向かっている。しかし、敵が万が一の備えをしていないとも限らない。
例えば、自分達が敗れた場合、即この都市が沈むような仕掛けが施されているといったような――。
そもそも、この都市がなぜ海底から浮上したのかが謎だ。しかも、敵は挑発的な言葉を伝えてもきた。罠がある。そう考えるのは、決して不自然なことではない。少なくとも、静麻はそうだった。
「……まだ影が残っていたか」
先ほど目に映ったような、巨大なものではない。隠形の術により気配を絶ったまま、影の目を掻い潜り、歩を進めた。
「残念ですが、こちらには何もありませんよ」
声のした方を振り返ると、黒いスーツに身を包み、眼鏡を掛けた女性の姿があった。
「失礼。私は元F.R.A.G.第二特務、アスタローシェと申します」
何者だ、と問うまでもない。
「少なくとも、貴方が想定しているような備えはございません。ある時点までの結果は、既に確定しているのですから」
その言葉を、真に受けていいものか。
「敵の言うことを真に受けるとでも?」
「ならば、お行きなさい」
女性が静麻とすれ違った。何をするでもなく。
(……どっちだ?)
静麻は思考を巡らせた。すんなり行かせるということは、本当に何もないか、あるいは彼の命を脅かせるものが潜んでいるか、そのどちらかの可能性が高い。侵入者である自分に対し、一切敵意を向けることがないのも不自然だ。振り返ると、無防備に背中を向けて、静麻から遠ざかっていくのが見えた。
そういえばさっき、とアスタローシェと名乗った彼女の言葉を思い出す。
――元F.R.A.G.第二特務。
事前にF.R.A.G.から今回の戦いに向かう者に開示された情報によれば、特務は全員化物染みた強さを持っているとのことだった。
自分の考えが当たっているという保障はどこにもない。しかし、すぐ近くにいる女性をこのまま放置するのは危険だ。
ならば、確実な不安要素を先に消すに限る。今なら不意打ちを掛けることも出来る状況だ。
(あまり褒められたことじゃないが、味方が苦戦することになるよりはマシだ)
幸い、他の地上部隊メンバーはいない。
隠形の術で姿を隠し、怯懦のカーマインのグリップを握る。トリガーに指を掛け、ブラインドナイブスの要領で背中を向けているアスタローシェに照準を合わせ、それを引いた。
「な……」
だが、放たれた雷電を纏った弾丸は、自分の身体に風穴を開けていた。
視界が霞んでいく。急所こそ外しているみたいだが、激しい痛みと出血で、意識も次第に遠くなっていった。
辛うじて最後に見えたのは、女性の手に光る金属――刃のようなものだった。
(銃弾を弾いた……というのか? 正確に、俺に向かって……)
化物染みた、というより本当の化物だ。
それを他の仲間に伝えようと無線に手を伸ばすも、その前に彼の意識は途絶えてしまった。