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リアクション
中央制御コンピューター「E.D.E.N.」。
ホールのような場所の中央にある巨大な機械がそれだろう。だが、その前には二つの人影があった。
「やっぱり無防備ではない……ってわけね」
ローゼンクロイツが防衛を任せているくらいだ。おそらく只者ではないのだろう。
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)はレーザーマインゴーシュと魔神剣ゲヘナを構え、対峙した。
「もし、この場にジール・ホワイトスノーがいらっしゃったらお聞きください。『総帥』がお通ししろと仰っておりましたわ。ただし……」
銀髪の女性が告げる。
「それ以外の方にはここで消えて頂きます。元F.R.A.G.第二特務補佐、トリッシュ、参りますわ!」
パイロキネシスを放ってきた。その炎の後ろから包帯で顔を隠している方が、ブラインドナイブスを繰り出してくる。
無論、その程度の攻撃が予測出来ないルカルカではない。ミラージュで自分の姿を投影し、死角から迫ろうとしていた相手の背後に回り込んだ。
そこへ、もう一人の敵がバーストダッシュで飛び込み、ルカルカに向かって轟雷閃を繰り出してくる。
ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がレーザーナギナタを突き出し、その雷をかき消す。
「あちらのボスは博士との対面をご所望のようだ」
「でも、護衛として来ている以上、一人で行かせるわけにはいかないよね」
後衛で博士の傍にいる夏侯 淵(かこう・えん)に目配せをする。
「博士、ここはルカ達に任せ先へ」
ルカルカとダリルを黄金の銃で援護射撃をしながら、淵が博士と共にホールの奥に向かって進んでいこうとする。
「……ノヴァの望み通り、ここは私だけで行かせて欲しい」
「しかし、博士……!」
国軍としても、一個人としても、博士を危険な目に遭わせるわけにはいかない。ルカルカはそう考えていた。
「時間がない。それに、ヤツとの決着は私がつけなければならない」
そこには有無を言わさせぬほどの、強い眼光があった。
「仕方ねぇ。ルカ、早いとこ倒して、博士と合流するってことにしようぜ」
カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が鬼払いの弓の魔力を解放し、トリッシュと包帯顔を狙った。
「俺達四人でやりゃ、すぐ終わる」
地球の軍隊を基準にすれば、一人一人が一個師団以上の力を持った四人だ。連携し、本気で掛かれば勝機は十分にある。
先刻のローゼンクロイツとアスタローシェを前にしたときに感じたただならぬプレッシャーに比べれば、目の前の二人は霞んで見える。だが、決して油断は出来ない。強者に中には、そういった気配を完全に殺し、本来よりも弱く見せ掛けている者もいるからだ。
博士に死なれては困る。ルカルカにとっては苦渋の決断だったが、ここは彼女の意思を尊重し、二人の敵を優先する。
一人最深部へと歩を進める博士を見送り、戦いに集中する。
ダリルが持ってきた勇士の薬、そしてカルキノスの荒ぶる力によって、四人全員が本気を出せる状態になった。
その間に、E.D.E.N.には高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)が近付いていた。
「させませんわ!」
銀髪の方――トリッシュがそちらの防衛を優先しようとするが、
「ルカ達から逃げられるとでも?」
と、彼女を阻んだ。
今のうちにE.D.E.N.を解析してくれれば、と思ったものの悠司が迷うことなく機晶爆弾のセッティングを始めた。
「待て、破壊するのはそのシステムを調べてからの方がいい」
ダリルが制止しようとする。
それが遥か昔の超テクノロジーによって造られているものなら、せめてその中に秘められた技術やデータだけでも抜き出しておきたい。彼の考えはそんなところだろう。
「あー、爆弾設置する前に何とかできるんなら好きにしてくれ。ただ、待たねーぜ? こんなんで誰か死んだら寝覚めわりーし」
こうしている間にも、外のイコン部隊は苦戦を強いられているかもしれない。そう考えると、技術を持ち帰る……なんて悠長なことを考えている余裕はない。
「だったら、それまでに終わらせるだけよ!」
何の躊躇いもなくルカルカの懐に飛び込もうとする包帯顔を斬り払う。それでも止まることなく、鮮血が零れてなおわずかに窺える口元に笑みを浮かべていた。
そんな包帯顔の敵に、淵が魔弾の射手を放ち、その四肢を撃ち抜く。
「……まるでゾンビじゃねぇか」
ルカルカ達の方が圧倒的に強い。だが、相手はむしろその絶望的なまでの力の差の中で戦うのを楽しんでいるかのようだ。
ふらふらと起き上がった敵に、カルキノスがサイドワインダーで止めを刺した。
「急所は外した……はずだ」
拘束して連れ帰るためにも、生身の敵は殺さない方針だ。この戦いの裏にあるものを知るためにも。おそらく、ここにいるということは末端の人間ではあるまい。
すぐにもう一人の方を四人で囲い込む。
「ルカ、本物は右から三番目だ」
ミラージュで撹乱してくることをダリルが行動予測で読み、ルカルカに伝えてきた。
「ならば、こっちも」
同じくミラージュで対抗する。
それを見て戸惑いの様子を示したトリッシュに疾風突きを繰り出す。
「ち、使わせてもらうぜ、ローゼンクロイツ――シールド・アイジス!」
相手がカードをかざしたかと思えば、見えない壁によってルカルカの突きが止められてしまう。
しかも、それだけではない。
「剣が……」
魔神剣ゲヘナの刀身が硬化したかと思えば、砕け散った。
「どうやら実体を持った武器があれに触れると、破壊されるようだ。物理攻撃は通らないと見た方がいい」
ガードしたトリッシュが、パイロキネシスを放って飛び退いた。
一旦距離を取ってくれたのはむしろ好都合だ。
「なら、魔法なら大丈夫だな」
我は射す光の閃刃。
カルキノスが光の刃を敵に向かって放った。
さらに、淵が黄金の銃で大魔弾『コキュートス』をシールドに向かって撃ち込む。それらがシールドに衝突した直後、ダリルがレーザーナギナタをシールドに向かって突き出した。
バシッと何かが弾ける音が聞こえた。シールドが破られたのである。
そしてルカルカは、ダリルの背後から飛び出し、レーザーマインゴーシュでトリッシュを斬り裂いた。
そのまま倒れ伏し、彼女が起き上がることはなかった。
「E.D.E.N.は!?」
すぐにルカルカ達はE.D.E.N.へ向けて駆け出した。
「悪ぃ、時間だ」
しかし、それとほとんど同時に仕掛けられた機晶爆弾が炸裂した。