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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~決着~

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~決着~

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(魂の制約を果たす程度には働かないとね。魔族はこっちの言うこと聞いてくれるっぽいし。いずれアルの魂取り戻さなきゃいけないし。
 ……さて、と。イルミンスール製アルマインの実力がどの程度か、軽く測らせてもらいましょうか)
 アルマイン・トーフーボーフーを駆り、天貴 彩羽(あまむち・あやは)がまるで魔族を従えるようにして、迎撃に出る。本人としては『魔族は共存不可』と認識しているものの、自身が魂を取られているため反旗を翻せない。故に、ザナドゥを助けているように見せねばならないし、アルマインの実力を測ることは、イコン技術者としての自分とザナドゥ、双方に益がある。
「アヤとボクのトーフーボーフーは無敵だよ! 覚悟しろよ、イルミンスールの連中め!」
 共に搭乗するアルハズラット著 『アル・アジフ』(あるはずらっとちょ・あるあじふ)はというと、これまたザナドゥのためというよりは『自分がアーデルハイトに復讐する』ためにザナドゥを利用している節があり、ザナドゥが戦争に負ければその機会が失われるが故の決起であった。
(個々の能力、集団運用の際の特性……ああそう、“進化”なんてのもあるそうじゃない。『魔王』という機体も気になるわね。
 トーフーボーフーの強化に使える技術とかありそうだわ)
 全身を、魔鎧形態に変わったベルディエッタ・ゲルナルド(べるでぃえった・げるなるど)で覆う彩羽の瞳が、統制の取れたイコン部隊を捉える――。

「兄さま、前方から所属不明のアルマインが向かってきますわ!」
 ソーサルナイトにて、レーダーに目を光らせていたエイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)が緊張した声色で涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)に報告する。即座に機影をモニターに映し出せば、果たしてアルマインなのかと思わんばかりの風貌が目に入る。
「ウソ!? あれって本当にアルマインなの!?」
 ヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)の言葉は、程度こそ違えど一行の共通認識でもあった。禍々しい凶相は、ザナドゥ製のイコンと言われても全くおかしくなかった。
「でも、レーダーの情報には確かに、アルマインと出ている……。つまりあの中には、私達と同じ契約者が乗っているってことなんだよね……」
 クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)の言葉が、重りのようにのしかかる。魔族相手なら踏ん切りがつけられても、契約者が相手となるとまた話が違っていた。
「……ここまで来てしまったら、やるしかない。この戦いに終止符を打つ、ソーサルナイトと共に私は誓ったのだから」
 それでも、涼介の意思は揺らがなかった。たとえいかなる敵が――立場を同じくする者が――相手であったとしても、自分が退くことによって生じる被害を食い止められるのであれば、立ち向かう覚悟は出来ていた。
「……兄さまがそう仰られるのであれば、わたくしは付き従うまでですわ。
 お任せ下さい兄さま、わたくしが兄さまの目になってみせます」
「それじゃあボクは、涼介兄ぃの声、ってところかな?
 一人じゃ辛くても、みんな連携して戦えば、きっと大丈夫だよね!」
 涼介の意思を汲み取ったエイボン、アリアが、それぞれの役割を果たすべく行動を開始する。
「私はおにいちゃんの腕になるよ。……多分、この戦いはまだ前哨戦。みんなが最終決戦で少しでも多くの力を発揮できるように、私たちが頑張らないと」
 そう宣言して、クレアが遠距離兵装をいつでも使用出来るように準備する。今までは主に牽制用だったが、今回は違った。一撃必殺、の覚悟である。
(誰一人として仲間から犠牲者を出さない。それが私の決意。
 私の名前はクレア・ワイズマン……ソーサルナイトを駆る、誇り高きヴァルキリー族の守護騎士なんだから)
 三人が三人とも、涼介と共にする覚悟を固めたのを見届けて、涼介も改めて、覚悟を決める。
「【アルマイン隊】各機へ、こちらソーサルナイト。前方の所属不明機を含む魔族の集団を、迎撃する。
 ……責任は、私が取る。皆、勝利のために、奮戦を求む!」

 涼介よりの指示を受け、十六夜 泡(いざよい・うたかた)一行が搭乗するイコンアルマイン・シュネーも戦闘を開始する。統制の取れ始めた魔族を相手に、両手に装備した氷の刃で立ち回る。
「何故目の前のアルマインは、私達と戦おうとするのでしょう?」
「詳しい理由は分からないけど、少なくとも何らかの理由があってのことだとは思うわね。戦争がお望みの戦闘狂でないとも言い切れないけれど!」
 煙幕の向こうから飛んでくるカノンの魔弾を回避し、リィム フェスタス(りぃむ・ふぇすたす)の問いに泡が答える。所属不明機――少なくともイルミンスール側に属していない――の動きに、こちらの様子を探るようなものを見て取った泡は、最低限の注意を振り向けつつ魔族の戦力を削ぐことを念頭に置く。
(奪われたから奪い返す。殺されたから殺し返す。……こんな事をやっていたら、お互いを理解し合う事なんて出来る訳ない。それは分かってるけど、魔族の要求を受け入れる事も出来ない。魔族を抑えつけたとしても、根本的な解決には絶対にならない……)
 そうして戦いつつも泡は、魔族との和解の可能性を模索し続けていた。魔族というものが、かつての地上人によって『こうあるべきもの』として創り上げられたものの行き着いた結果であることを泡が知ってのことかどうかは定かではないが、ただ争いをしてそれでおしまい、にはしたくないという思いがあった。
「今の状況は、『氷龍メイルーン』の時と似ている……わたしは、そう感じるのです。
 あの時わたしは、自らの運命に従おうとした。けれども結果として、わたしとメイルーンは運命を変えられた。多分わたしもメイルーンも考えていなかった結果を、人間は引き出すことが出来るんだと思います。
 泡の葛藤を汲み取ってか、レライア・クリスタリア(れらいあ・くりすたりあ)がかつての自分を取り巻く状況を振り返りながら、自らの言葉を口にする。あなたがいて、イルミンスールの皆がいて、切り離せない絆があって、何を恐れることがあるのでしょう、と。あの時より状況はさらに過酷かもしれないけれど、きっと成し遂げることが出来る、わたしはそう信じる、と。
「……そうね。私には彼らを説得する方法が思いつけないけれど、そこで諦めてしまったらお終いだものね。
 何かしらの望みは、まだどこかにあるはず! より良い結果を迎えられるために努力出来る、それが人間というものだわ」
 表情を明るくする泡へ、魔鎧として装着されていた魔法武具 天地(まじっくあーてぃふぁくと・へぶんずへる)が賛同するように、泡へ力を与える。
「エリザベートをアーデルハイトの元へ連れて行く……そのために、目の前の敵を退かせる!」
 泡の決意に、シュネーもまた答えるように吹雪を舞わせ、戦場を翔ける――。

「まあ、同型機であっても、魔族と一緒にってんなら、やることは変わらないわね。隊として指示も出てるわけだし、戦いましょうか」
 須藤 雷華(すとう・らいか)メトゥス・テルティウス(めとぅす・てるてぃうす)が搭乗するトールマックも、所属不明機を含む敵性集団と交戦に入る。敵が接近する前に、豊富な遠距離兵装で散らし、撃ち落としていく。
(にしても……校長が覚悟を決めた、ね。そこんとこよく分かんないけど、校長としての重責とか、アーデルハイト様のこととかで一杯一杯だったんでしょうね)
 もしかしたら、自分の――というよりイルミンスール生の――振る舞いが影響していたのかな、そんなことを思いはするものの、結局の所私は最初から最後まで自分の好きなようにしかしないだろうし、それはこれからも変わらないだろうな、と思い至る。
(ま、ちょっとだけならあの子の為に何かしてあげてもいいかな。感謝はしてるし)
 確か校長は、イルミンスールを動かして敵の本拠地への道を作るとか言っていたことを思い出す。アルマインも魔力で動いているんだし、それを供給することで負担を減らすことが出来たらな、そんな考えをまとめ、メトゥスに意見として伝える。
「世界樹イルミンスールに対して支援、ですか? うーん……相手がアルマインであれば、マジックヒールが使用出来るのでしょうけど……」
「似たようなものだから、結構いけるんじゃない?」
 確かに、エリザベートを搭乗者、世界樹イルミンスールを機体とすれば、機動兵器と言えなくもないだろうか。パンチも打てるし。
「……分かりました。機が訪れれば試してみます」
 任せたわね、と口にして、前方への火力を集中させる雷華。その背中を見つめて、メトゥスが思考に沈む。
(……皆さんが、平和に、幸せに暮らせたら、それでいいなって思うのですけどね。誰もが譲れないもののために、戦いに行くのです)
 そういえば、とメトゥスがふと思う、啓さんは雷華さんの行動に不満こそ言うが、止めたりはしなかったな、と。きっと啓さんは、雷華さんが間違った道に進もうとしたら、全力で止めようとしたはず。つまりこの行動は、一定の価値があるということになるのだろう。
(好きなようにやっているようにしか見えないのに、不思議ですね。……私ももっと好きなようにした方が、いいのでしょうか)
 内に浮かんだ疑問への答えを取り敢えず保留して、メトゥスは目の前の戦闘に集中する。

(同じアルマイン同士が戦うことになるか……もしかしたら雷華も、今の相手のような立場に立っていたのかもしれない。あいつは昔から悪いモノを引き寄せる気があったからな)
 随伴歩兵装備で援護を行っていた北久慈 啓(きたくじ・けい)が、戦況を睥睨しながら思いに耽る。道を少し間違えれば、こうして銃を向けられているのは自分たちかも知れなかった。
(だが、今は少しずつ、周りが見えてきているようだ。……もっとも、ろくでもないことをしでかそうと言うのなら、殴ってでも止めただろうがな)
 雷華の考えは、パートナーとして長い啓にも、完全には理解し難い面がある。だが、それはそれでいいのだろう、とも思う。
(さて……敵がこのまま大人しくしてくれているなら、苦労はないのだが。何せこの場には校長もいる、自棄になった魔族がなりふり構わず突っ込んでくることも考えねばな)
 敵の本拠地で確認された、守護天使と魔道書を連れた者の動向も気にかかる。おそらく生身で向かってくるだろうから、その時には小回りの利く自分の出番かもしれない。
 いかな局面であっても、冷静さを失わぬよう……涼しげな顔で、啓が己の為すべきことを為さんとする。