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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~決着~

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~決着~

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 魔族接近の報告は即座に砦へもたらされ、伊織たちはフォレストブレイズ強化の話を棚上げし、魔族迎撃の策を練る。
「おそらく敵魔族は、砦の位置を知っているだろう。あの禍々しい風貌のイコンが連れてきたのだな」
 情報が書き込まれたボードを前に、馬謖 幼常(ばしょく・ようじょう)が推測を口にする。……実際はイコン――彩羽と『アル・アジフ』が搭乗するトーフーボーフー――はただウィール砦を視察に来ただけであり、魔族の一部が同胞を殺られた報いにと後を追った結果だったが。
「はわわ、こちらから釣る前に釣れちゃったです。ようじょさん、事前に決めた作戦通りでいいですか?」
「敵が一気呵成に攻めてくる以上、誘引の策は成功するだろう。敵の進軍路を特定した後、伏兵、罠を配置し殲滅するのだ。
 敵に出来る限り、情報を持ち帰らせない。これが戦争の常勝だ。……それと、俺はようじょではない、幼常だ、何度言ったら分かる」
 ご立腹の幼常だったが、見かけは十歳前後の幼女、しかもサー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)と似たデザインの服を着せられているとあっては、“ようじょ”と呼ぶ方が相応しいのかもしれない。
「……しかし、眼前に敵を引き出すなど、万が一にもお嬢様を危険に晒すやも知れぬ策を採用しなくてはならないとは。
 そこなようじょよ、今後、このような策ばかりを進言するようであれば、軍師として傍に仕えさせるわけには致しかねますわ」
 そのベディヴィエールからは、『お嬢様を危険に晒す』との理由で叱責を受ける始末で、思わず心の中で「仕える場所間違ったか……?」と呟く幼常であった。ちなみに策自体は、道理に適っている。本隊ではない(と、ケイがもたらした情報から推測できた)敵に対し、伏撃をかけて殲滅は、単騎のイコンが今後魔族側にどれほどの情報提供を行うか判別が出来ないとはいえ、敵に情報を持ち帰らせない点では有効である。
「ま、ようじょの策はいささか地味な気もするが、此方が取れる手立てはそれ位じゃろう。
 我の赤備えもおる事じゃし、敵魔族を引き付けることなど造作も無い。鎧袖一触と参ろうぞ」
「……貴公ら、いつまで俺の字を間違えれば済むのだ。俺はようじょではない、と言っているだろう」
「何を言うておる、お主はどこからどう見てもようじょじゃよ。これほどようじょという名が似合っている者もおらぬ、光栄に思うがよい」
「あ、頭を撫でるでない! ……ぐぬぬ、見ておれよ……」
 サティナ・ウインドリィ(さてぃな・ういんどりぃ)に頭をぽふぽふ、と遊ばれ、幼常が懸命に怒りを堪える。
 ともかく、出現した魔族の軍勢を伏撃するという方針は砦内外に伝えられ、早急に準備が整えられていく――。

『セイラン、聞こえる? こっちはオッケーよ。……珍しいわね、あんたがケイオースの傍を離れるなんて』
 借り受けた通信機から聞こえるカヤノの声に、仲間の精霊と進軍路横手の森に潜んだセイラン・サイフィード(せいらん・さいふぃーど)が答える。
「適材適所、という所ですわ。わたくしが敵の横から矢を射掛け、あなたとサラが敵の退路を塞いで撃退。お兄様は直接の戦闘向きではありませんもの」
 セイランの言う通り、五精霊の中で最も戦闘力があるのはカヤノ(契約しているため)、次いでサラ、セイラン、セリシアと続き、ケイオースは直接の戦闘力で見るならば、最も劣っていた。正確には、ケイオースの能力を活かす状況にない、というだけの話なのだが。
『ま、パパっと終わらせましょ。あんただから大丈夫だとは思うけど、ケガとかしないでよ』
 言って通信を切るカヤノ、セイランがふふ、と微笑んだ所で、精霊の一人が魔族の接近を告げる。
「皆さん、射撃の準備を。わたくしに続いてお撃ちなさい」
 命令は直ぐに伝わり、暫くの後、数十の魔族の軍勢が地を揺らさんばかりに駆け過ぎようとする。
「闇を払う光の矢、お受けなさい!」
 セイランが矢を放ち、仲間がそれに続く。やはり数十の矢が魔族の横合いから射掛けられ、バタバタと魔族が倒れていく――。

 一方サラの元には、仲間の精霊の他、森崎 駿真(もりさき・しゅんま)セイニー・フォーガレット(せいにー・ふぉーがれっと)キィル・ヴォルテール(きぃる・う゛ぉるてーる)の姿があった。
「サラ様、魔族が!」
「ああ、来たな。……いいか、セイランが横合いから矢を射掛ける、それより少し遅れて私たちは、構わず砦に向かおうとする魔族と相対する。混乱しているとはいえ戦意は豊富だ、油断するな!」
「了解、だぜ! へへっ、おまえたちの思う通りにはさせねーからな!」
「キィル、勇敢と無謀は紙一重だよ。深手を負う前に必ず退く、自分一人で何とかしようと考えない。
 周りにはこれほどの仲間がいるんだ、この戦いには必ず勝てる。いいね?」
 後方で治療を請け負う者たちに加わりながら、セイニーが血気盛んなキィルを適度に宥める。
「ああ、分かってるぜ! 駿真、もちろん行けるよな!」
 キィルの問いに、武器や鎧の具合をチェックしていた駿真がよし、と頷き、キィルに振り返る。
「ああ! オレ達がここで戦えば、クリフォトに攻め込んでいるヤツらを援護できるんだよな。
 だったら戦うぜ、それがオレに出来る事だからな!」
 駿真が宣言した直後、接近していた魔族の軍勢へセイラン率いる小隊が光の矢を射掛ける。たちまち軍勢の半数は戦闘不能に陥り、壊乱に陥るものの、ごく一部の魔族はただ本能のままに駆け続け、砦へ一直線に向かおうとする。
「目標、敵魔族! 私に続け!」
 先陣を切り、サラが森を飛び出し、掌に炎の剣を生み出して魔族と切り結ぶ。他の者たちも各々得意な戦い方で魔族と交戦する。
「闇の力、オレが見切ってやる!」
 精霊が持つ知識から魔族の弱点を割り出したキィルが、その弱点である角を手にした剣で切り落とす。魔族の象徴でもある角を叩き落とされ、もがき苦しむ魔族はもはや恐れるに足らず、であった。
「くうっ! 直に受け止めるのはキツイか……なら、これで!」
 魔族の拳をハルバードで受け止め、一旦距離を取った駿真が光術で隙を作る。強烈な光に魔族が身体をふらつかせた所で、キィル同様魔族の弱点を突いた攻撃が炸裂し、魔族はゆっくりと地面に伏せる。
「ああ、問題ない、この傷であればすぐに治せる。少しの間じっとしていてくれ」
 後方では、戦闘で傷を負った仲間に対してセイニーが癒しの力を施す。苦しみの表情が少しずつ緩和されていき、ありがとう、と礼を言って仲間が再び戦線へ復帰する。
「これで、最後……だ!」
 肩から腹にかけて刀傷を受けた魔族が、どさ、と地面に倒れる。炎の剣を仕舞い、ふぅ、と息を吐いたサラが状況の確認に努める。打ち漏らした魔族は皆無、致命傷を負った仲間も皆無、であった。
「終わったようですわね。こちらも被害はありませんでしたわ」
 森から出てきたセイランが、労いの言葉を送りながら状況をサラに伝える。
『何よ、全然魔族が来ないって思ったら、あんたたちで終わらせちゃったの? ちょっと張り切り過ぎじゃない?』
「フッ……そうかもしれないな。長く後方支援に徹していたからかもしれないな」
「過信は驕りを生みますわよ。……もっとも、これだけの準備があれば、そうそう負けることもないでしょうけど」
 セイランが呟き、地面に視線を向ける。そこには無数の落とし穴が掘られ、中には絡み付くと離れない蔦が仕掛けられていた。セイランがそれらを張り巡らせ、ケイオースが闇で覆い、存在を分からなくさせると同時に魔族を引きつけていたのだ。
「私たちには出来ぬ芸当だな」
「流石はお兄様ですわ♪」

 ……こうして、魔族の先鋒(進軍自体は偶然のものであったが)を退けたウィール砦の守備隊は、悠々と引き上げていった。
 おそらくは今後、このようには済まない激戦が控えているだろうことを自覚しながら。

「……で、出来たぞ! これでアーデルハイトの花妖精を、育てることが出来よう」
 研究を続けていたカナタが、花(妖精)を育てるミルクを開発し終える。それは望の伝手と陽太の資産管理によって量産体制が整えられ、一角に整備されていた畑に植えられていた花(妖精)へと与えられていく。

 『フォレストブレイズ』は、瘴気をクリフォトまで押し返すことが出来るのか。
 それとも、脅威を悟った魔族が、このウィール砦に軍勢を差し向けてくるのか。
 それは今後を待つことになる――。