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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第2回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第2回/全3回)

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東ベース

 
 
「それじゃ、イーリは任せたわよ」
「うん、任せてよね」
 フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)とともに遺跡の中へとむかうリネン・エルフト(りねん・えるふと)から大型飛空艇アイランド・イーリを任され、ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)は力強くうなずいた。
「船体は外装の塗装が少し焼けたぐらいだけれど、イーリを動かすには片づけが大変そうね」
 燃え落ちる直前の茨ドームに突っ込んだアイランド・イーリは、船体自体の損傷は少ないものの、周囲の茨の燃えかすの排除に少し手間取っている。そちらは、ワイバーン“デファイアント”ナハトグランツたちが健気にも黙々と排除を続けていた。
 あらかたの燃えかすが排除されるころには、アイランド・イーリがベースのような形となって、周囲に巨大生物たちが集まってきていた。
『ゴアアアア♪』
 龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)兼定が仲睦まじくどつきあいをしている。どこの巨大くわがたかは分からないが、野良というわけではないらしい。
「あまり激しくお相撲取らないでくださいね。周りの人に迷惑になりますよ」
 怪我人の治療をしながら、セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)が龍心機ドラゴランダーたちに軽く注意をした。
『ゴアァァン』
 兼定の顎を甘噛みしていた龍心機ドラゴランダーが、それに気づいてちょっとおとなしくなる。
「あの方たちも、ピヨちゃんみたいだったらよかったんですけどねえ」
 軽傷の避難民たちにもふもふされている癒やしのジャイアントピヨの方を見て、セレスティア・レインが言った。ジャイアントピヨの姿を見ていると、ちょっと休憩して自分ももふもふしたくなってくる。その周りでは、避難してきた養蚕農家のパラミタ蚕がわきゃわきゃしていた。
「それは食べちゃだめですからね」
 なんだかジャイアントピヨのカイコを見る目が危険そうだったので、セレスティア・レインが釘を刺した。
「お菓子の家仮設住宅の設置終わりましたです。追加分はどうなっていますでしょうか?」
 見回りから戻ってきたヨン・ナイフィード(よん・ないふぃーど)がセレスティア・レインに訊ねた。
「風森さんの大型飛空艇がもうイルミンスールに着くころでしょうから、必要な物はじきにそろうと思いますよ」
 安全で広い場所ということで拠点となった遺跡前に集まった避難民は、火傷などの酷い者から風森 望(かぜもり・のぞみ)の大型飛空艇シグルドリーヴァなどに分乗してイルミンスール魔法学校へと搬送されていた。
 現在ここに残っているのは、怪我の軽い者や遺跡の調査のために集まってきた者たちだけである。
 火災跡から遺跡が出現したという情報は、あっという間に人々の間を駆け巡った。謎の古代遺跡という言葉に目がない者たちが、急ぎ集まってきている。消火にあたった者たちも、内部の探検に赴く者や、外部で不測の事態に備えてイコン整備や情報整理を行うなど者など、さすがに手慣れた行動を即時行っている。
「私は残り火がないか、もう一度周囲を見て回ってきますね」
 そう言うと、ヨン・ナイフィードは、整備中のイコンたちの間を縫うようにして通りすぎて、遺跡の周囲を見回りにでかけた。
 
    ★    ★    ★
 
「それじゃ、お留守番お願いね。頑張って、リンちゃんたち探してくるからね」
「分かりました、気をつけて行ってください。コハクさん、美羽をお願いね」
 グラディウスのコックピットハッチを開いて、顔を見せながらベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)たちに言った。
「任せてください。行くよ、ローゼンクライネ」
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が、巨大扇風機を担いだオリヴィエ博士改造ゴーレムのローゼンクライネをうながした。
「他の人たちのイコンも、忙しそうですね」
 遺跡に入っていく小鳥遊美羽たちを見送ってからコックピットを閉じたベアトリーチェ・アイブリンガーが、モニタで周囲の様子を確認しながらつぶやいた。
 
    ★    ★    ★
 
「みんな、よく、知らない遺跡の中になんか入っていけるですぅ」
 {ICN0000201#Night−gaunts}のコックピットの中でちょっとガクブルしながら、魔装書 アル・アジフ(まそうしょ・あるあじふ)がつぶやいた。いったい中にはどんな罠や怪物が隠れていることか。そんな場所に好きこのんで入っていく者たちの気が知れない。
「お留守番は楽しいのです〜。それにしても、あの発禁本、めちゃくちゃな使い方をしていますぅ。Night−gauntsがかわいそうですぅ」
 消火の際、フォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』(ゆんつとちょ・むめいさいししょ)に相当無茶な操縦をされたらしいイコンのプログラム補正をしながら、魔装書アル・アジフはちょっぴり頬をふくらませて言った。
 
    ★    ★    ★
 
「あのクライベイビー、人呼びつけといて、出迎えなしとはケンカ売ってるですか?」
 ブラウヴィント・ブリッツから降りたフィーア・レーヴェンツァーン(ふぃーあ・れーう゛ぇんつぁーん)が、小さな足でバンバンと地団駄を踏んで叫んだ。
「おおーい、置き手紙があったのだよ」
 拠点となっているアイランド・イーリに行っていたザーフィア・ノイヴィント(ざーふぃあ・のいぶぃんと)が、ヘイリー・ウェイクからメモをもらって戻ってきた。それによると、新風 燕馬(にいかぜ・えんま)サツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)はすでに遺跡内に入ったらしい。「イコン整備を頼む」とメモには書いてあった。
「僕は専門外なんだけどなあ」
 ちょっと困ったようにザーフィア・ノイヴィントが言った。新型機のプラヴァータイプ、ブラウヴィント・ブリッツを持ってきたのはいいが、慣らし運転もまだ充分という訳でもない。当然整備は必要なのだが。
「適当にやっておけばいいですぅ。とりあえず、持ってきた救護物資をくばってみなさんのお役に立つですぅ。ツバメちゃんたちのお役に立つのは、その後で構わないですぅ」
 イコンから物資を下ろしながら、フィーア・レーヴェンツァーンがザーフィア・ノイヴィントを急かした。
「ああ。あとで、周囲の警戒をかねて、慣らしをしておくのだよ」
 そう言うと、ザーフィア・ノイヴィントはフィーア・レーヴェンツァーンを手伝い始めた。
 
    ★    ★    ★
 
『おや、服部保長じゃないか』
 まだ森が火につつまれていたとき、ダイリュウオーに乗って消火活動中の武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が見かけたのは、単独行動をしていた服部保長だった。
「やあ、奇遇でござるな」
 スピーカーから聞こえる声から武神牙竜とわかり、平静を装って挨拶するが、こんな所で奇遇も何もない。
閃崎 静麻(せんざき・しずま)はどうしているんだ』
「お仕事でござるよ」
『ふーん、仕事ねえ』
 どんな仕事なのか、武神牙竜が興味を示す。この場所に居て仕事と言うことは、絶対にこの火災と無縁ではないだろう。
「武神殿こそ、こんな所で何をしているのでござるか?」
『見て分かるだろうが、誰かが放火したんだよ。消火だ消火』
 鎌をかけて武神牙竜が服部保長に答えた。
『手伝ってくれるんなら、消火班のデータを渡すぜ』
 そう言うと、答えも待たずに、服部保長の携帯にデータが送信されてくる。
「強引でござるな。まあ、これだけの火災を起こすのであれば、それだけの攻撃力を持った集団でござろうし。人が多ければ多いほど、考えは一つではないでござるな」
 言いつつ、服部保長は、もしかするとこの森林火災その物が隊長の目的か手段の一つではなかったのだろうかと考えた。
「問題は、トップが何を求め、何を考えているかでござるが……。いずれ、あきらかにされるでござろうて。では、ごめん」
 対価は払ったとばかりに、服部保長が姿を消す。
「あっ、ちょっと、もう少し情報を。あるいは膝枕を……。くそ、逃げ足の速い。まあ、それでも、何かを企んでる奴が、人手をかき集めたと言うことは分かったからよしとするか。どうせ一癖も二癖もある奴らだろうから、雇い主の言うことなんか聞きゃあしないだろうしな。正義は俺と共にありだ!」