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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第2回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第2回/全3回)

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    ★    ★    ★
 
「すまんでござるな。それがしのことは見なかったことに……」
 軽く形だけ拝んでシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)に挨拶すると、服部 保長(はっとり・やすなが)はさっさとその場から離れていった。
 シュツルム・フリーゲHの陰に転がされたシルフィスティ・ロスヴァイセは、御丁寧に手ぬぐいで猿轡を噛まされていた。
「ぶふー、ぶらんぼばぶー」
 せっかく助けてと頼んだのにこの仕打ちだ。キレたシルフィスティ・ロスヴァイセは、パイロキネシスで自分を簀巻きにしていた布団を焼き切った。さすがに、ちょっと身体がこんがりとしたが、そこは超人的肉体でなんとか耐えきる。
「覚えてなさいよ」
 もろもろへの怒りをなんとか抑えつつ、シルフィスティ・ロスヴァイセはイーグリットのコックピットへむかった。
「よかった、無事だったのね、よしよし。うちの子も、今ごろは……。ううん、今はこの子よ」
 いつの間にか紛れ込んでいた獣人の子供を拾いあげると、シルフィスティ・ロスヴァイセは、リカイン・フェルマータが拘束用に用意していたらしいねんねこを使って背中にその子を背負った。
 そのとき、コックピットの外で爆発音が響いた。
「いったい、何が起きているの?」
 シルフィスティ・ロスヴァイセは、獣人の赤ちゃんを背負ったまま外へと飛び出していった。
 
    ★    ★    ★
 
「それにしても、たくさんありますねー」
 ガーゴイルに乗った紫月 睡蓮(しづき・すいれん)が、壁に埋め込まれたイコンの頭部付近をぐるりと飛び回りながら言った。
 人形にくぼんだアルコーブ状の場所に、そのイコンは埋め込まれるようにして設置されていた。形状は、甲冑を着た騎士という感じだ。現在あるイコンの中では、センチネルが一番近い形だと言えるだろう。だとすれば、地球の技術が一切入っていない、最初からパラミタにあった古代のイコンだろうということだ。だが、センチネルのようにシンプルな意匠ではない。黒い甲冑はリーフェルハルニッシュ(マクシミリアン様式)のように細かい溝が刻まれた物で、さらに全体に不思議な文様がエッチングされていた。カンプフシュルツ(草摺)は大きめで、腰には佩剣し、両手でピルムムルスを掲げ持っていた。フェイス部分は完全にシャレル(カブト)に被われていて、センサーにあたる目の部分に三本のスリットが入っているだけであった。
「壮観ではあるが、儀式張った古めかしいイコンだな。ゾディアックのガードイコンとして作られて物ではないのか?」
 間近でイコンを見ながら松平岩造が言った。
「いや、そういった記録はないようじゃがのう。もしそうであれば、ゾディアックが発見されたときに、そばに何体か一緒に発見されていたはずであろう」
 古代のイコンと聞いて簡単に調べてきていた武者鎧『鉄の龍神』が言った。ゾディアックと結びつけるには、関連性がまったく見受けられない。むしろ、この遺跡その物か、今回の目的である未知のイコンのガーディアンと見るのが正解であろう。
「しかし、動かないのではただの置物でござるな。もっとも、周囲に脅威となる物を感知していないから起動していないのかもしれぬでござるがな」
 周囲を偵察させていたペットのカナリアを肩に載せて武蔵坊弁慶が言った。
「さすがに勝手に動いたりはしないだろう。どれ、俺が一つ乗り込んで動かしてやるぜ」
 くぼみから引き出して調べられないかといくつかのイコンを比べてみていたドラニオ・フェイロンが、面倒だとばかりにイコンの機体に足をかけて登り始めた。過度な装飾がちょうどいい足場になる。
 そのとき、突然壁が発光した。
 いや、壁に光が走ったと言った方が正確だろう。通路の奧から、細い光のラインがいくつもやってきて、幾何学的な模様を描いてから、壁のイコンに吸い込まれるようにして消えていった。だが、すぐに何かをフィードバックするかのように、今度は逆方向に同じような輝きが走っては消えていく。まるで何かのやりとりをしているかのように。
「おおう、これは、何かが何して何とやら。まだ何らかのシステムが生きているに違いない。ぜひ起動させて、わが秘密結社オリュンポスの先兵として使役してやろう」
 なんだかぴかっと光ったことに興奮しながら、ドクター・ハデス(どくたー・はです)がどこかにコンソールはないかと壁を手当たり次第に調べ始めた。
「美麗な甲冑騎士とは、まさに我がオリュンポスにこそふさわしい。このイコンデザイナーは、ロマンというものを分かっているではないか。きっと、将来我が手に落ちることを予想してデザインしたに違いない。きっとそうなのだ。これだけの数のイコンがただで手に入れば、我が結社の世界征服も容易かろう。ええい、操作パネルはないのか、役にたたん。ヘスティア、いいから引っ張り出せ。コクピットハッチをこじ開けて、この俺直々に乗り込んでくれる」
「かしこまりました、ご主人様……じゃなかったハデス博士。こじ開ければいいんですよね。よいしょっと」
 馬鹿正直にイコンを引っぱった後、とうてい無理だとすぐに悟ったヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)が、BWSの照準をイコンの胸のところに合わせた。
「ミサイルポッドのセーフティー解除。目標、イコンのコックピットハッチ! ヘスティア、いきまーす!」
「ちょっと、待ちなさい、こんな所でミサイルなんて……」
 エクス・シュペルティアが叫んだが遅かった。イコンの胸部でミサイルが爆発し、爆風が閉鎖空間である格納庫にいた者たちを床に叩きつけた。
「きゃあっ!」
 空中を飛んでいた紫月睡蓮もたまったものではない、あっという間に床に叩きつけられたが、乗っていたガーゴイルがクッションとなったのか、かろうじて無事だった。だが、少々痛すぎるクッションではあったようだが。
「いたたたた……」
「大丈夫?」
 お尻をさすりながらガーゴイルからずり落ちるようにして降りた紫月睡蓮に、シフ・リンクスクロウが駆け寄った。
「大丈夫です。ああ、あなたシフさんです。初めまして、紫月睡蓮です。いつも兄がお世話になっています」
「ははあ……、御丁寧にどうも」
 突然挨拶をされて、シフ・リンクスクロウもつられて紫月睡蓮にぺこりと頭を下げた。
「まったく、場所を考えて武器を使え!」
 殺す気かと、ラグナ・レギンレイヴがドクター・ハデスに詰め寄った。
「この程度で死ぬような者は、パラミタにはおるまい。だいたい、あっちでも戦っておるではないか」
 格納庫の隅の方で、志方綾乃が止めようとするのも聞かずに炎と雷と冷気で威嚇し合っているペットたちの方を指してドクター・ハデスが言う。その周囲では、壁が色とりどりの幾何学模様を表して明滅していた。
「さあ、さっそく我がリーフェルハルニッシュに乗り込むぞ」
 あっさりとラグナ・レギンレイヴをスルーしたドクター・ハデスが、勝手に名づけたイコンの方を見あげたときであった。
「ちょうどいい憂さ晴らしが、フィスも混ぜなさいよ!」
 ねんねこを背負ったシルフィスティ・ロスヴァイセが、やってくるなり壁のイコンをテクノパシーで動かそうとした。
 それが効いたのかどうかは分からないが、壁に固定されていたイコンがゆっくりと倒れ始めたのだ。おそらくは、ミサイルの衝撃のせいかと思われるが。
「危ない、みんな離れろ」
 松平岩造が叫び、近間にいた者たちが蜘蛛の子を散らすように避難した。
 ゆっくりと倒れたイコンが、大音響と共にうつぶせに倒れ込む。
「よし、また動け!」
 シルフィスティ・ロスヴァイセが念じたが、今度はうんともすんとも言わない。もともと、ジェネレーターが起動していたわけではないので、そこから始めない限り動くはずもない。多分、単にジョイントロックが外れただけだったのだろう。
「もう、みんな何をやっているんだもん」
 作業用のパワーアームを移動させてきたココナ・ココナッツが、イコンを上向きにひっくり返した。床に激突した衝撃で、全部の装甲が結構歪んでいる。さすがに、イコンクラスの巨大な物は、倒れただけでもかなりの衝撃が機体にかかる。稼働中であれば、バランサーやバリヤが働くのだろうが、まったく動力炉を止めた状態では、衝撃がもろに機体に加わったらしい。
 壁に埋まっていたときは分からなかったが、背部にはマント状のパーツもついていたようだ。
「よし、俺が乗り込むぜ!」
「貴様、この俺をさしおいて……」
 ドクター・ハデスを押しのけて、ドラニオ・フェイロンがイコンの上に飛び乗った。
「そのへんに、開閉ボタンのパネルが隠されているだろう。よく探せ」
 さすがにドラゴニュートと力業で争うことを避けたドクター・ハデスが、ドラニオ・フェイロンに言った。
 だが、結局そのような物は見つからず、仕方なくパワーアームで胸部装甲を無理矢理壊して、松平岩造たちが四人で力任せにハッチと思われる部分を引き剥がした。
「どうなってるんだ?」
 意気揚々と乗り込もうとしたドラニオ・フェイロンが、困惑した表情を浮かべた。
 そのイコンには、コックピットがなかったのである。
「ハリボテか? まさか、本当に飾りだったとはな」
 残念そうに、松平岩造が言った。乗り込めないのでは、使いようがない。
「ははははは、ハリボテ結構。中はこのドクター・ハデスが改造してくれよう」
 一人、めげないドクター・ハデスであった。
「これが本当にハリボテ?」
 シルフィスティ・ロスヴァイセが、イコンに触ってサイコメトリをしてみた。
 戦いの記憶が甦る。多数のイコンが戦っている中で、巨大な何かがゆっくりと墜落していったようだ。だが、いろいろと壊したせいか、イメージがはっきりとはしなかった。