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地球とパラミタの境界で(前編)

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地球とパラミタの境界で(前編)

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・1月13日(木) 12:15〜


「執行部の立候補者、確定しましたね」
 昼休みに長谷川 真琴(はせがわ・まこと)は、生徒会室で立候補届けの確認を行っていた。
「今年は会長選と副会長選が面白くなりそうだよ」
 パイロット科代表七聖 賢吾が、立候補者の一覧を眺めながら呟いた。
「そういえば、風紀委員の方はどんな感じ?」
「そこそこには集まってきている。テストとはいえ、ぶっ続けでやるには厳しい程度にはな」
 と、ルージュ・ベルモントが答えた。
「試験官が弱ってちゃ、正確な実力は測りにくくなっちゃうからね」
「まあな。それより、そっちはどうだ両代表?」
「パイロット科の来年度の代表は、辻永君達で確定かな。実力で言えばもっと上もいるけど、原則として代表は最高学年が務めることになってるからね」
「整備科の方は、まだ難しいですね。代表になると、整備科の活動に専念しなければなりませんから。今の二年生は、パイロット科と兼学している人が多いですしね。超能力科はどうですか?」
「あやめとも相談中だが、風紀委員のテスト結果次第だな。委員長と代表は兼任出来ないから、そこでも調整が必要になりそうだ」
 整備科、超能力科の代表候補選出には、もう少し時間が掛かりそうだ。

* * *


「山葉先輩が生徒会長に立候補ってマジッスか!?」
 狭霧 和眞(さぎり・かずま)は生徒会選挙立候補者の掲示を見て、思わず声を上げた。
(これは是非とも冷やか……ゲフンゲフン、応援に行かないと!)
 立候補者が出揃った今日からが本番だ。やはり選挙活動にしても、始めが肝心である。
「兄さん、どちらへ?」
「山葉先輩のところッスよ」
 ルーチェ・オブライエン(るーちぇ・おぶらいえん)と共に、高等部のフロアへと向かった。応援するにしても、聡がどんな活動をしようと考えているのか知っておく必要がある。
「ちわッス、山葉先輩!」
「おう! どうした?」
 聡に会うと、生徒会選挙のことについて改めて確認した。立ち話というのも何なのでということで、学食で昼食を取りながら話すことになった。
「山葉先輩はどうして生徒会長に立候補しようと思ったんですか?」
 ルーチェが聡に尋ねた。
 やや不安そうな顔をしているのは、普段の聡の素行から心配な部分があるからだろう。
「あ、ちゃんと真面目に答えて下さいね。『そういうの自分のキャラじゃない』とか言って誤魔化してると、支持されるのは難しくなりますよ」
 聡のことだ、本心では真面目に考えていても格好つけて茶化したりする可能性もある。ルーチェが念を押したのも、そのためだろう。
「そう言われちゃ仕方ねーな」
 聡が立候補した理由と、学院をどういう方向に導きたいかについて答えた。
「同じ学院の仲間を大切にしていく……先輩らしい理由ッスね」
「生徒の自主性を最大限尊重する、というのは意見が分かれるところですね。生徒を不用意に縛り付けないというのは歓迎されそうですが、放任主義になってしまう可能性もありますし」
「ただ、山葉先輩の場合、教官達を納得させるのが難しいッスね。今回の選挙は教職員も投票するわけッスから。そこをいかに説得出来るかってのは鍵になると思うッス」
 その上で、和眞は選挙活動に対する自分の意見を述べた。
「投票する側の人間として意見を言わせてもらうと、やっぱりインパクトが大事だと思うッス。『俺はこの人に投票する!』って、しっかりとした考えを持ってる人を動かすのは難しいと思いますけど、誰に投票するか迷ってる人や、何となく『あの人でいいか』って感じで投票相手を決めている人に対して、『この人に任せてみたい』って思わせるように訴えかけることは出来ると思うッスよ」
「先輩に対して失礼かもしれませんが、まだちょっと具体性に欠けるという気がします。イコンの今後の扱いや、生徒一人一人に対しての方針はありましたが、『生徒会役員、あるいは学院として何をするか』をはっきりとさせた方がいいでしょう」
「例えば、『月一回、生徒会主導で合コン』とか山葉先輩らしくて面白いんじゃないッスかー?」
「ちょっと兄さん!」
 ルーチェからたしなめるような視線が送られてきた。
「今のは山葉先輩らしい言い方をしただけで……いやでもマジな話、意見交換の場とか定期的に設けたらいいんじゃないッスかね? 皆が皆、複数の学科を掛け持ちしてるわけじゃないし」
「代表者会議だけでは限界がありますからね。それに生徒の生の声を聞く場を設けるというのは、先輩の学院の仲間を大切にするという考えにも合ってますし」
 パイロット科と整備科の連携は取れているが、超能力科は独自の体制を敷いていたこともあり、まだ切り離されているような印象が残っている。三科間での交流というのも、密にしていった方がいいだろう。
「あと山葉先輩パイロット科ですし、それを活かしたアピールはどうですかね? コームラントに『清き一票を!』とか書いたデカい垂れ幕を持たせて、頭部に乗って演説とか。
……教官からお許しが出れば、の話ですけど」
「パフォーマンスとしてはアリだな。とはいえ、やるなら投票前の最終演説の時にしたいところだぜ」
 最終演説は、学院の全関係者が聞くことになる。やり方次第では、そこでそれまでの支持率が覆る可能性も高いのだ。
「それと、定期的に演説をするにしても、自分が思っていることは余すことなく伝えるべきだと思いますよ。演説用の耳障りのいい言葉も多少は必要ですけど、そればかりじゃ胡散臭く思われてしまいますから」
 とはいえ、聡の性格上奇麗ごとを並べるのは苦手だろう。いい意味では、裏表がないとも言えるが。
 昼休み終了の予鈴が鳴った。
「それじゃ、先輩。また後で」
 放課後、聡を手伝いに行くと約束し、分かれた。
(それにしても皆、ちゃんと身の振り方考えてるんだな……オレはまだ漠然と『皆を守りたい』とか『平和を守りたい』とか、それぐらいしか考えてなかったッスよ……)
 和眞は四月から高等部に進学する。これまでと違い、自分の学びたいことに合わせて単位を取得する、専門課程になるのだ。
(目標、決めようかな)