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リアクション
八
「わっ、わわぁ!」
触手が迫り、天禰 薫(あまね・かおる)は悲鳴をあげた。
「ぴきゅう!」
天禰 ピカ(あまね・ぴか)が咄嗟にヒト型に姿を変えて、薫の襟首を掴み、跳ぶ。その姿は小さいながらも薫にそっくりで、自分で自分を掴んでいるようだった。
二人は触手の攻撃を回避し、瓦屋根の上に降り立った。
「助かったぁ、ピカ、ありがとうなのだ〜」
「ぴきゅう」
「でも……これから、どうしよう」
「取りあえずあの触手どもを斬り捨てて、住民と町を守ろうか?」
声がして、振り返る。熊楠 孝明(くまぐす・よしあき)が立っていた。
「孝明さん……うん、そうだねっ」
薫は頷き、「カムイ・クー」を構えた。矢を番え、弦を引き絞り、狙いを定める。
「ピカ、俺達は前に出ようか」
「ぴきゅうっ」
孝明は得物を取り出し、ピカは身構えると、二人は屋根から屋根へ飛び移っていく。
孝明のさざれ石の短刀は、切ったところから触手を石化していく。石になった触手はどうすることも出来ず、のた打ち回っている。ピカはひたすらに蹴飛ばし、薫に触手が近づかないようにしている。
薫はその合間を縫うように、矢を放った。
ずき、と。胸に痛みが走る。
「………また、なのだ」
痛みを抱く胸に、手を添える。
みんな奪われていく。
助けられないなんて、嫌だ。
どうして、化け物はみんなを食べちゃおうとするのだ?
考えていくほど、どうしてか、胸の痛みが強くなる。
「……っ……!」
「ぴきゅう?」
「薫! どうしたんだ……?」
隣の屋根から、ピカと孝明が心配そうに見ている。
ずきずきと痛む胸を押さえ、薫はぐっと唇を噛んだ。
「……大丈夫……! 大丈夫だよっ、ほら、早くみんなを助けようっ」
薫は言い、弓を構え直す。ピカは頷き、触手への攻撃を再開した。
「………」
「孝明さん?」
「いや…何でもないよ。さあ、頑張ろうか」
「うん」
孝明は、じいっと薫を見た後、ニコリと微笑み、自分も攻撃を再開する。
薫は弓を引き、矢を番え、触手に向かって放った。
「あなた達は何をしたいの? 目的は、何なのだ……?」
薫は、触手や、化け物がいる方向に向かって、ぽつりと呟いた。。
触手を斬り捨てながら、孝明は考えた。
――ああ、あの子は、薫は、何かを隠しているな。
何かある筈なのに、無理して笑って、隠そうとして……。
――困ったな。あの子が不安定になると、うまく利用出来なくなる。
孝明は、薫を「利用価値」と言う風に見ていた。目的を達成する為に、薫を利用しようとしていたのだ。当然、その薫が不安定になれば、自分の目的も遠くなっていく……。
「それはちょっと、勘弁して欲しいかな?」
ふふ、と。孝明は苦笑した。彼の背後に、触手が迫る。
「ぴきゅう!」
ピカが鳴く。
瞬間、孝明は振り返らないまま、【陰府の毒杯】を放つ。
背後で触手が口を開いたまま、動かなくなった。鳴き声ともつかぬ音を響かせ、倒れる。全身に回る毒になす術もない触手に、孝明は言い放った。
「君達は邪魔だ。散れ。俺の前から消えろ」
「ぴっ――きゅうぅっ!!」
ピカは自分が落下していく勢いもつけて、触手に踵落としをお見舞いする。グシャッと音を立てて、触手は潰れてしまった。
「いつもながら見事な踵だな、ピカ」
「ぴきゅう!」
ピカはこくこくと頷き、次の触手を蹴飛ばす。孝明は苦笑して、奈落の鉄鎖を放ち、触手を戒めていく。
「薫!」
「うん!」
薫は、弓を構えていた。ぎりり、と引き絞られていた矢を放つ。
数本番えられていた矢は、ドカカカッ! と触手に突き刺さった。
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