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リアクション
「ただいます〜」
天音にお姫様抱っこされたヴァーナーが、執事・メイド喫茶に到着した。
「お帰りなさいませ、お嬢様。萌え萌えにゃん☆」
軽く握った拳をくるんと曲げて、にっこり微笑み出迎えたのはアレナと、ミクルと、ヘルだった。
「わ〜。かわいいですっ」
ヴァーナーは早速大喜び。
下ろしてもらって、メイドたち一人と一人に、ただいまのハグをする。
「お帰りなさいですにゃ、お嬢様、にゃんにゃん☆」
ミクルがぎゅっとヴァーナーを抱きしめ返す。
「いやーミクルちゃん、流石だねぇ」
女の子のアレナは当然として、ヘルはミクルの可愛らしさに感心をしていた。
「お帰りなさいませ、お荷物お預かりいたします」
「お帰り、お嬢様。ここからは俺……わ・た・しがお部屋にお連れしますわ」
それから、尋人と……ミクル同様、ヤケを通り越して乗り気になった、猫耳メイドと化したゼスタが迎えに出て。
尋人が荷物を。
ゼスタがヴァーナーを抱き上げて、窓際の席へと案内する。
「特等席だぜ。頑張ったご褒美だ。皆がお祝いしたいんだってさ。元気になって良かったな……ありがとな」
そんなことを言いながら、ゼスタはヴァーナーの頭を撫でて、頬にキスをした。
「ありがとですー。もうぜんぜんへいきです」
勿論ヴァーナーもぎゅっと抱き着いて頬にキスをして返す。
「ふふ、かわいいです」
頬紅に紫のアイシャドウ。眉は細く整えられ……妖艶な大人のメイド風に女装したゼスタ(残念ながら美人とはいえない)を嬉しそうにヴァーナーは見つめた。
「こ、こちらのお席にすわってください」
緊張しながら、椅子を引いたのはバンパイア執事の格好のマユ・ティルエス(まゆ・てぃるえす)だ。
「ありがとですー」
ヴァーナーは、ゼスタに椅子に座らせてもらった。
メイド達だけではなく、マリーや、ローリー、リンや大地達も、集まり、彼女の快気を祝う。
それから、マユに『内緒でいろんなお祝いなんです』と誘われて、訪れたライナの姿もあった。
「おめでとう。ヴァーナー。ホント、無事でよかった」
辛い思いをさせてごめんなと言った相手――優子も猫耳メイドさんだった。
「ありがとです。入院も、アレナさんと一緒でたのしかったです」
ヴァーナーはそう笑顔で言って、アレナに目を向ける。
アレナはちょっと戸惑いながらも、こくんと首を縦に振った。
「っと、こんな格好ですまない。陰謀にはまってしまって」
「すみません。でも優子さん、とってもかわ……」
可愛いと言いかけた大地を、優子がギッと睨みつける。
「……ええっと、お綺麗ですよ、とても」
そう言いなおすと、優子はほんのり赤くなって「ありがとう」と言う。
「だが……ですが、次回からはお願いです。パートナーをしっかり、か、管理してください」
さすがにピンクの衣装は拒否したらしく、優子は白と黒のシンプルなメイド服を纏っていた。
猫耳もちっちゃな黒だ。
彼女は可愛いと言われるのはどうもダメらしいが、綺麗と言われるのは嬉しいらしい。
普段は見せない表情――恥じらいを見せながら、優子は他のメイドたちと共に壁際へと立った。
「それじゃ、パーティはじめよっ。ヴァーナーおねえちゃんのお祝いと、あとねあとね」
「はい、3月生まれの人のおいわいです」
サリス・ペラレア(さりす・ぺられあ)と、ヴァーナーが笑顔でそう言った。
3月生まれのお友達のパーティーも一緒に行えたらいいなと思って、ヴァーナーが百合園の知り合いに声をかけたのだ。
数人の百合園生と、サリスとマユの幼馴染でもある、ライナと、それから白百合団の副団長のティリアが3月生まれということで、顔を出していた。
「え?」
誕生日のお祝いをしてくれるとは聞いていなかったライナはちょっと驚いていた。
「ライナちゃん、おめでとうです!」
サリスはプレゼントとして持ってきた、蜂蜜たっぷりで喉にやさしい、妖精スイーツをライナにはいっと差し出した。
「あ、ありがとぉ」
ライナは少し恥ずかしげで、とっても嬉しそうな笑顔でプレゼントを受け取った。
「おじょうさま、どうぞ」
キリッとした表情で、執事姿のマユがお菓子を運んでくる。
身長が低くて、テーブルにお菓子を並べるのは大変だけれど、落とさないように、零さないように注意して、キリッとした顔も崩さないよう頑張って、慎重に置いていく。
「のみものは、猫メイドの人がもってきます」
お菓子を置いた後で、綺麗なコースターを並べていく。こちらは、クリストファーの手作りコースターだ。
「マユちゃん、きょうはなんかちょっとちがうね? おとなみたい」
ライナがそう言うと。
「そ、そうですか? 執事ですから!」
マユは胸を張って、ネクタイを直す。
「いっしょにおかしたべよっ」
「食べましょ♪」
ライナとサリスの言葉に、マユはちょっと迷うけれど。
「仕事ちゅうですから……」
そう答えた直後。
「執事の勤務時間は修了ー。これからは可愛いメイド達のお仕事タイム、な」
そんな声が上の方から響いて、マユの小さな体はひょいっと持ち上げられ、ライナの隣の席へと座らされた。
それから声の主――ゼスタは、ワゴンの上のオレンジジュースを、マユが置いたコースターの上に置いていく。
「スイーツとジュースは給料代わりだ。お疲れさん」
頭を撫でようとした手を止めて、ゼスタはマユの肩をぽんと叩くと、ワゴンを押して隣のテーブルへと移動する。
「執事のお仕事は、終わりみたいです」
「それじゃ、いっしょにたべよ!」
「食べましょ、食べましょー」
マユ、ライナ、サリスは嬉しそうな笑顔を浮かべて、一緒にスイーツを食べ始めた。
可愛らしい子供達の姿に、周囲にも笑顔の花が咲いていく。
「3月生まれの娘にケーキのサービスだわよ☆ ヴァーナーお嬢様のリクエストで〜す」
続いて、裏声で言いながら、ゼスタは運んできた大きなケーキをテーブルに置く。
「カットしますね、にゃん☆」
美咲がナイフでケーキを人数分に分ける。
「3月生まれにケーキのサービスですって! 美味しそうです〜、にゃんにゃんっ」
「お前は仕事中だ」
「アイタタッ! レンさん……」
猫耳メイドとなり手伝っていたノアも3月生まれだったが。
「ダメですかにゃん?」
可愛らしくレンに聞いてみる。
ノアの笑みや接客はお客様には大好評だったけれど。
「……」
彼は無反応だった。
「ううっ、わかってます、わかってますよぉ。手伝うって自分で決めたんですから……にゃん」
ノアはアレナは無理でも、ケーキはお持ち帰りさせてもらおうと思いながら、お手伝いを続けていく。
「回復、おめでとう。無理はするな」
厨房から出てきた呼雪が特製デザートプレートをヴァーナーの前に置いた。
「うわ……あ」
ヴァーナーは目を大きく開けて驚く。
ピンク色のデコレーションに。
エメから預かったマカロン。
ブルーズが用意したジュレ。
それから呼雪自身が作った、苺のミニザッハトルテ――苺とホワイトチョコレートを使い、スポンジもコーティングもピンク色のとっても可愛らしいお菓子。
それらを組み合わせた、ヴァーナーの為だけの、特別なデザートプレートだった。
「ありがとですーっ」
ヴァーナーは感動して、呼雪にぎゅっと抱き着く。
呼雪はヴァーナーの頭を優しく撫でてあげた。
「はーいどうぞ」
「えっ?」
すとん。と。
メイドをしていたアレナは、ヘルによってヴァーナーの隣に座らされていた。
「アレナちゃんも大変だったからね。祝われるほうだよ?」
にっこり微笑みかけるヘル。
呼雪はアレナの前にも、デザートプレートを置く。
ヴァーナーの為に用意したものとは少し違う。
可愛らしさもあり、大人っぽい雰囲気もあるデザートプレートだった。
「あ、りがとうございます」
アレナは戸惑いと、嬉しさで緊張しながら呼雪とヘルにお礼を言う。
伝えるべきことは伝えてある呼雪は、ただ優しく首を縦に振って、後ろへと下がる。
2人を見守るために。
「こんばんはー。じゃなくて、ただいま?」
「ヴァーナー、信念の為に身体を張るのは良いけど……余り無茶をしないように」
続いて、風見瑠奈が刀真と共に、到着を果たして、ヴァーナーに花束を手渡す。
「これは、樹月刀真さんと、ティリアと私から。退院おめでとう、お帰りなさい。ヴァーナーさんに合いそうなお花、入れてみたわ」
桃色のチューリップ。スイートピーに、マーガレットといった、可愛らしい花の花束だった。
「ありがとですー」
ヴァーナーは花束を抱えて、甘いお花の匂いに、ふわりとした笑みを浮かべた。