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【●】葦原島に巣食うモノ 第三回

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【●】葦原島に巣食うモノ 第三回

リアクション

   一一

 樹月 刀真(きづき・とうま)、それに騎沙良 詩穂(きさら・しほ)清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)の四人が洞窟前に駆け付けたとき、レイカとカガミは、漁火と睨み合っている真っ最中だった。
 ただし漁火は、楽しげに笑っていた。
 自分たちを見て、レイカが明らかにホッとしたのを刀真は見逃さなかった。
「後は任せろ」
 レイカはセルマを抱き、カガミはリンゼイを救い、ヴィランビットのことはミリィが支えて退却した。
「……さて」
「終わりましたか?」
「待ってもらった礼を言うべきかな?」
と、刀真。
「いえいえ。あたしも無駄な殺生は好きじゃないんでね」
 あながち冗談とも思えぬ口調だ。
「その親切に頼って、質問が二つほどある」
「どうぞ。もう、機会もないでしょうからね」
「あんたには仲間がいるのか?」
「ええ」
「どんな連中だ?」
「それは言えません。いえね、別に喋ってもいいんですが、後で面倒なことになりそうですから」
「では、もう一つ。あんたの正体だ。もしかして、ポータラカ人じゃないのか?」
 む、とその時初めて漁火の顔が歪んだ。
「ポータラカ人? あんなわけの分からない連中と一緒にしないでくださいな。不愉快です」
「そうか……似ていると思ったんだがな」
 よほど不愉快だったのだろう、漁火はつんとして刀真から顔を背け、詩穂たちに視線を移した。
「そちらは何か、訊きたいことはありませんか?」
 詩穂たちはかぶりを振った。既に知りたいことは分かっている。
「梟の一族」の始祖イカシのこと、ミシャグジのこと。カタルが取り込んだ生命エネルギーと、先日、鏡に封じたそれとを合わせれば、ミシャグジは完全復活するだろう。そしてその時、ミシャグジはこの場所を離れる。そうなれば――、
「この島は沈む……」
 青白磁は呟いた。
「……させない!! これから先は人として生きるためにも、ミシャグジを封じるためだけに生きてきた定めの梟の一族の因果も、ここで断たせてもらいます!」
 詩穂、青白磁、セルフィーナの三人が同時に漁火へ襲い掛かる。――と、青白磁の背後から、鋭い一撃が突き入れられる。
「くそったれ!!」
 ベルフラマントで姿を隠していた大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)だ。青白磁は敵がいるに違いないと【行動予測】で目を配っていたため、辛うじて避けたが、脇腹をざっくりと裂かれた。
 詩穂は漁火の肩口に「光明剣クラウソナス」を突き入れた。漁火は「おや」という顔をし、刃ごとその手で握り締めた。
「う、動かない……!!」
 漁火の指が切れ、血が噴き出す。
 セルフィーナが殴り掛かり、漁火は手を緩めた。その隙に詩穂は剣を引き抜き、反動で鍬次郎に斬りかかる。鍬次郎は刀を鞘に戻し、腰を落とした。かつて身につけていた新撰組の隊士服を纏っている。
「さぁ……俺の大和守安定の錆になりな!」
 素早く抜き放った刀は、詩穂の腹部を襲う。詩穂は【行動予測】で待ち構えていたが、完全に避けることは出来なかった。服と、腹の皮一枚が裂け、真一文字に血の跡が出来る。
 セルフィーナに殴り掛かられた漁火は、血だらけの右手をぺろりと舐めた。徐々に傷口が消えていく。
「一体、あなたは何者ですの? 生き物なんですの?」
「さあ?」
 漁火はにんまりと笑む。「あたしにも、よく分かりません」
 同じく漁火に斬りかかろうとしていた刀真は、同じく斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)の背後からの攻撃を寸前で避けた。
「避けちゃったの」
 ハツネはつまらなさそうに言った。
「でも、これはどうかな?」
 ハツネはレーザーマインゴーシュと黒銀火憐をそれぞれの手に握っていた。刀真の緊張感が一気に高まる。この武器が相手では、「受け流す」ことは出来ない。
 左手の鞭が、鋭くしなって刀真に襲い掛かる。刀真は【体術回避】で辛うじて躱すが、そこにレーザーマインゴーシュが斬りかかる。「平家の小手」が音を立てて溶ける。咄嗟に左手を捻り、白の剣をハツネに突き入れた。ハツネは鞭でその腕を小手ごと絡めとり、己のすぐ傍に引き寄せる。
「ぐああああ!」
 刀真の左腕から炎が這い上がっていく。
 洞窟の陰に隠れていた漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は、もう我慢できなかった。「描天我弓」の狙いをハツネに定める。
 しかし。
「見つけましたよ」
 下忍を連れた天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)が、【ブラインドナイブス】を仕掛けた。月夜の周囲に【剣の結界】が現れ、光の剣が彼女を守る。
 月夜は素早く、【神威の矢】を放った。下忍が次々に射抜かれる。
「何をするんです!」
「それはこっちのセリフよ!」
 月夜の【ホークアイ】で葛葉はたちまち見つかってしまった。また、【剣の結界】があるため、不用意に近づけない。
 一方の月夜も、葛葉の動きから目を離せず、次の手が打てない。
 刀真は、ままよとばかりに地面を蹴り、自らハツネとの距離を縮めた。アルティマレガースを装着した脛を、少女の鳩尾に叩き込む。
「!?」
 ハツネの口から、悲鳴と胃液が漏れる。腕を締めつけていた鞭の力が緩まり、刀真は再び間合いを取った。
「もうっ、怒ったなの!」
 ハツネは口元を拭い、にたりと笑った。懐から煙幕ファンデーションを出し、叩きつける。
「何だ!?」
 その時、詩穂と青白磁は、鍬次郎と対峙していた。鍬次郎の【抜刀術】に、なかなか攻撃のタイミングを掴めない。
 青白磁がルーンの槍を鍬次郎目掛けて投げつける。鍬次郎がそれを【受太刀】で叩き落としたその瞬間、詩穂が光を放った。
「何――!?」
 鍬次郎は己の異変に気が付いた。【抜刀術】が出来ない。
「封じたか……!」
「お引き取り願おうかの!」
 青白磁が、手元に戻ったルーンの槍を突きつける。その時、煙幕ファンデーションの煙が流れてきた。鍬次郎はにやりとした。
「そうしようか」
 鍬次郎の手が、地面へ振り下ろされる。
「気ぃつけい!」
 視界が霞み、詩穂と青白磁の前から鍬次郎の姿が消えた。
 葛葉は、ハツネが煙幕ファンデーションを撒いたのを知って、ホッと息をついた。睨み合っているのにも飽きたところだ。
 その瞬間、月夜が「描天我弓」の矢を放った。が、葛葉の眼前に火柱が昇り、その姿は炎が消えると同時に見えなくなったのだった。
「一体……?」
【火遁の術】で逃げたのだ、と月夜が悟ったのと、青白磁の怒声が聞こえたのが同時だった。
 そして閃光。
 周囲から、音が消えた。