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リアクション
五
コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)、龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)、高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)、ラブ・リトル(らぶ・りとる)の四人は、町中の大蛇を埋めた穴にやってきていた。
穴といっても厚く土がかぶされ、既に固められている。まさか掘り返すわけにもいかないので、経過観測のために細く掘られた小さな穴の周りに彼らは陣取った。
安全性が確認されていないため、この一角は立ち入り禁止となっているが、バリケードを一歩出ると既に家が建っている。
ラブはこの立ち入り禁止区域の上空をくるくると回っていた。
「うげ〜…。怪しい奴ら見かけたら教えてくれって頼まれたけど……誰が怪しいかなんて判らないじゃーん! しかも、もしかしてあたし超危険じゃーん!!」
何と言っても上空は狙われやすい。ラブは気持ち、高度を下げた。鎧を身につけ、盾を持ち、完全防御形態のため重い、という確固たる理由もある。
「いい! ハーティオン! 怪しい連中見つけたらあたし大声出すからね! あたしも体張るから必ず助けなさいよね!……ああ、神様。可愛い可愛いキュートでビューティフルで世界に愛されたラブちゃんのお願いです……。どうかあたしが無事でありますよ〜に……!」
「任せておけ!」
ハーティオンは、上空のラブへ親指を立てて見せた。それからじっと穴に目を落とす。穴には小型カメラが設置してあり、それを通して大蛇の様子が分かるようになっている。
ハーティオンと鈿女は、これまでに得た情報を改めて整理した。
「まず一、ミジャグジは大地に根付く存在である。二、その存在は遥か昔から確認されている」
指を二本立てたところで、ハーティオンはいったん言葉を切った。鈿女が後を続ける。
「三、大地のエネルギーの収束体である「超獣」というものの存在――ミシャグジが同じではないか、ということね」
「そうだ。もしそうなら、超獣を利用して、大地の力を回復させることが出来るかもしれない」
「ギャオオオオオン!」
ドラゴランダーが尻尾を振り回した。土ぼこりが濛々と舞い上がり、鈿女が顔をしかめる。
「分かっている、ドラゴランダー。ミシャグジとの再戦を心待ちにしているのだろう? だがな、一番いいのはミシャグジが復活しないこと、もしくは再封印することだ。私たちは、万一のためにここで見張っているのだ」
動きがあれば穴を掘り返し、大蛇をそのまま倒すつもりだった。だが、鈿女はミシャグジを倒すことの危険性を憂いていた。
「もしミシャグジが超獣ならば、復活させ、大地の力を回復させることの出来る存在を我々と闘わせる……それが敵の狙いかもしれないわ。パラミタの大地復活の鍵の一つである可能性を考えてミシャグジを出来るだけ倒さないようにしてちょうだい」
その可能性はハイナにも伝えてあった。ハイナも同意し、事実が判明するまでは無闇に倒さぬようにと、契約者たちに通達された。
ラブは顔を上げた。彼女より高い位置を小型飛空艇が飛んでいく。見下ろせば、ぞろぞろと長い列がいくつも出来ている。皆、雲海へ避難する人々だった。
御前試合の会場では、ハイナの待機命令に従わず、帰ろうとする者たちが現れた。中には無理矢理出ようと暴力を振るう者もおり、中原 鞆絵(木曾 義仲)に千切っては投げ、千切っては投げされた。「風靡」を手に入れられなかった腹いせか、鞆絵(義仲)は試合中よりも嬉々としていた。
結局、リカイン・フェルマータの【咆哮】でその場は落ち着きを取り戻したものの、何名かが会場を抜け出してしまった。その際に転び、軽傷を負った者もあった。
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、銃型HC弐式を使い、カタルと漁火一派の動きを逐一確認していた。ここは指揮官の腕の見せ所、とセレンは張り切っているようでもある。ただし、漁火の行方は現在、不明であったが。
怪我人の手当てをしていたレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)とミア・マハ(みあ・まは)が、
「周りが動いたから自分も動いたって」
と、聞き込んだことをセレンたちに告げた。
ミアはフン、と鼻を鳴らした。
「集団心理というやつかもしれん」
「会場に入るまでしか記憶がないって人もいるんだよ」
「漁火に操られていたのかもしれんな」
観戦中、ミアはヤハルと賭けをした。しかしそれが漁火であったことに気づかなかった。ミアはそんな己れに腹を立てていた。
「会場に待機させたのが仇になったわね……」
「カタルがどこへ行くか分からなかったんだから、仕方がないわ。それに漁火に操られている人がいたなら、どっちにしろよくない結果になったでしょうよ」
「そうね。ポジティブに考えよう。重傷者がいないのは、幸いだったわね」
ハイナの命令で、雲海への避難が決まった。しかし、葦原島の住民全員が飛空艇に乗れるかは分からない。
「あのっ……私にもお手伝いさせて下さい」
一雫 悲哀(ひとしずく・ひあい)が四人の傍にやってくる。
「何が起きているかよく分かりませんが……この葦原のためなら……お願いです、何かさせて下さい」
故郷を追われるように出てきた悲哀にとって、この葦原はかけがえのない「居場所」だ。ここを守るためなら、持てる以上の力を使いたいと彼女は思っていた。
「助かるわ」
セレアナが手早く状況を説明する。
「――それなら」
悲哀の表情が僅かに明るくなる。幸いにして、町にはパートナーのアイラン・レイセン(あいらん・れいせん)がいた。連絡を取ると、空港の近くにいるという。前回の教訓が生かされ、人々は粛々と行動しているようだ。
「悲哀ちゃんがやる気なら、あたしも頑張るよ! 何すればいい?」
そのまま人々がパニックを起こさないよう、注意してくれとセレアナは頼んだ。一人で出来ることは限られているだろうと心配もしたが、そこはさすが給仕。電話の向うでアイランが【至れり尽くせり】を駆使し、更にむずかる赤ん坊に【子守歌】を聴かせているのが分かった。
「私は小型飛空艇を持っています。怪我をした方がいれば、優先してお連れしますが……」
電話を切って、悲哀が言った。
「それならボクらも持ってるよ」
「しかし、歩けないほどの怪我人はおらんじゃろう。軽傷者を乗せると、不満が出るぞ」
「……なんか思いついた気がする」
レキがぽつりと呟いた。
「葦原中の小型飛空艇を集めれば……」
「全員を乗せるの? ドラゴンがいたって、無理よ。――いえ、でも待って」
セレンは否定し、すぐ思い直した。「少なくとも、時間稼ぎにはなるわ」
セレンは試合場と観客席を遮る柵の上にひらりと乗った。ちなみにこの柵は、選手が衝突してもいいように、安全対策として発泡ラバーを緩衝材として被せてある。
「これから空港へ避難をしてもらいます。女性、子供、老人が優先です。それに怪我人や気分が悪くなった人は申告して下さい。彼女が診ます」
セレンに指され、レキは釣られて手を振った。
「俺たちは後回しかよ!?」
若い、おそらく独身であろう男たちから声が上がる。「船が足りねえんじゃねえのか!?」
「問題ないわ。葦原中の小型飛空艇やドラゴンを掻き集めたから、全員乗れるわ」
セレアナは目を丸くした。よくもまあ、そんな嘘が言えるものだ。
「大体ね、この避難だって念のため、なのよ。この前のことがあるからね。考えてもみてよ。あたしはシャンバラ教導団の人間よ。本当に危険なら、戦闘服をきっちり着て、銃を持って、真っ先に先頭に立つと思わない?」
と言うセレンの恰好は、いつもと変わらぬメタリックブルーのトライアングルビキニのみを着用し、その上にロングコートを羽織るだけの姿だ。煽情的な美しい肢体に、男たちの目が釘付けになる。ごくり、と誰かが唾を飲んだ。
セレンはセレアナも引っ張り上げた。こちらもいつもと同様、黒いロングコートの下にホルターネックタイプのメタリックレオタードだ。
状況が状況だけに、セレアナは作り笑いを浮かべ、問題ないわよという顔をして見せた。
「はいはーい、それじゃあ指示に従ってねー」
セレンは髪をかき上げ、腰に手を当てるとくい、と体を軽く捻った。
「……グラビア撮影じゃないのよ」
セレアナは笑みを浮かべたまま、セレンに囁いた。気がつけば、二人の下には男たちが群がっている。その横を、女たちが白い目を向けて通り抜けていく。
ミアはパラミタペンギンを自分の前に置いた。
「ペンギンだ!」
幼い子らが、とことことついてくる。ミアは彼らの前に立った。
「さあ、行くぞ。ついて参れ!」
おー! とかけ声が上がり、子供たちがミアの後ろに急いでつく。
ミアは、ちらりと振り返った。レキが悲哀と共に観客を並べさせている。文句を言う者に「信じてくれとしか言えません」と頭を下げている。
顔を上げたとき、こちらに気づいたレキと目が合い、ミアは頷いた。
――必ず無事で会おうぞ。
そして、出口へと向かった。
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