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tredecim 荒野へ・作戦検討
「久しぶりじゃねえの、ヨハンセン! 天空竜の一件以来やな。元気じゃったか?」
「こんにちは。以前にはお世話になりました」
「いやー、懐かしいな、おい!」
アーヴィン・ウォーレン(あーう゛ぃん・うぉーれん)を伴った光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)やソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)、ソアのパートナーのゆる族、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が、セルウス奪還に協力することになった飛空艇操縦士、ヨハンセンと、その助手、アウインに挨拶する。
「おう、久しぶりだな。こっちは何とかやってるぜ。皆も元気そうだな」
「ども」
ヨハンセンは朗らかに笑い、アウインも軽く頭を下げた。
「協力してくれてありがとうございます。
あの、できたら、この後も引き続き、手を貸していただけないでしょうか」
セルウスを探し、合流した後で、この飛空艇で一気にコンロンまで行ければ。
そう考えたソアは、ヨハンセンに頼んでみた。
「私達、シボラの長老の依頼を受けて、今探している人と合流して、コンロンに行かなくてはならないんです」
「コンロン? そいつはまた、珍しい場所へ行くことになってんだな」
ヨハンセンは少し驚き、今更かと笑う。
これまでにもう二度も、珍しい場所へ行くことに付き合っているからだ。
「ま、何にせよ、それは断るわけにはいかねえな。
可愛い娘っ子の頼みは聞くべし、ってのが空の男の掟だからな!」
笑ったヨハンセンに、黒崎 天音(くろさき・あまね)が、
「これ、役に立つかな?」
と、持っていたコンロンルートの空路図をヨハンセンに渡す。
「ほう。こいつは」
ヨハンセンは面白そうな顔をした。
「タシガン空域での情報に関しては、真偽を確認して、偽情報だったと商船には知らせるよう計らったけど、空賊に対しては連絡のつけようもなくてね。
とりあえず、教導団に警備の強化を計らって貰えるよう報告しておいたから、無闇に狙われるようなことはなくなっているんじゃないかな」
「そいつは有難いな」
「一応、仕事だしね」
礼を言うヨハンセンに、天音は笑む。
「いつまでも仕事がないようじゃ、暇で困る奴も出るだろうしなあ」
「足止めされた上、厄介ごとに巻き込まれている人もいるしね」
「はっは! 違ぇねえ!」
天音の言葉に、ヨハンセンは軽く笑う。
「心配しなくても、親分は厄介ごとが大好きだから、問題ないぜ」
肩を竦めてそう呟いた助手のアウインに、天音のパートナー、ドラゴニュートのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が同情の眼差しを向けた。
「コンロンへのルートについて、ひとつ提案があるのであります」
大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)がそう言った。
「空路は敵側にも警戒されているのではないかと推測します。
自分は、一年半程前、任務でコンロンに赴いたことがありますが、陸路より途中から、サルヴィン川を溯上するルートを使いました。
川を溯上する方が、間違いも少ないのではないかと考えます」
「ふむ、なるほどな」
頷いたヨハンセンに、ドミトリエも
「ン」
と呟いて考える。
「……飛空艇は目立つ」
「なら、俺達は囮になるか?」
そう言ったのは、ツァンダでの武闘大会の後、ヨハンセンに繋ぎをとった成り行きのまま同行しているトオルだった。
「派手に動き回っておいて、セルウスを回収すると見せかけて皆は降りる。
おっさんと俺は空路でコンロンに向かうように見せかけて、追手の目を引き付ける、ってのは?」
「いいのか?」
ドミトリエがトオルを見る。
「おっさんは?」
「問題ねえよ」
ヨハンセンも頷いた。
「決まりだな。じゃあ、それで行こう」
と、いう相談がされたのが、孫権を発見する前のことである。
孫権 仲謀(そんけん・ちゅうぼう)は、横山 ミツエ(よこやま・みつえ)が、追い立てるように配下の者達をセルウスの捜索に向かわせるのと同時に、慌てたようにシャンバラへとって返すキリアナを抑えようと追って、ドミトリエに発見された。
彼の話で事の次第を知ったドミトリエによって、未来予想図を語られた、という訳だ。
とりあえず、ヨハンセンの飛空艇は当初の予定通り、敵の目を引き付ける囮となりつつ、ドミトリエも飛空艇に残って空からの捜索をすることになった。
「俺達は船を降りて各個探した方がええじゃろ。俺はサルヴィン川辺りを探すけえ」
「ボクも行くよ。
見付けたら、HCで連絡を入れるね」
翔一朗や、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、サルヴィン川周辺を探す為に、それぞれ、ジェットドラゴンとホエールアヴァターラ・クラフトに乗り、飛空艇を出る。
一方で、丈二はドミトリエと合流場所を取り決めて、彼に信号弾を渡し、先にその場所で待機していることにした。
別れ際、翔一朗はトオルの持ち物に『禁猟区』をかけた。
「逆のような気もするけどなあ」
飛空艇に残るトオルは苦笑する。
「バタバタしとってロクに話せんかったが、飛空艇の手回しサンキューな」
翔一朗が礼を言うと、おう、とトオルは笑った。
「私達は当面、ドミトリエさん達と、空からセルウスさんを探しますね」
天音やソアらは、ドミトリエと共に船に残る。
「……それにしても」
と、ブルーズがもうひとつの懸念事項について言った。
「……だなあ」
ベアも頷く。
クトニウスのことである。
彼等は孫権から、クトニウスの居場所についても知らされていたのだった。
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と、パートナーのヴァルキリー、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は、孫権とアドレスの交換をして、情報交換を約束した。
「携帯使えるかな?」
コハクが言うと、孫権は頷く。
「こっちには、通信兵がいるからな」
「通信兵?」
「携帯が使えるように、アンテナ背負って歩いてる」
「え……通信兵ってそういうものだっけ」
美羽は一瞬首を傾げたが、深く追及はしない。
敵の装備のお零れで、こちらも便利になるのならしめたものだ。
「セルウス達と無事に国外に脱出できるまで、手伝ってね」
「おう。とっとと連れて行ってくれ」
ふう、と溜め息を吐いた孫権に、美羽は苦笑する。
「頑張ってね、孫権。きっとそのうちいいことあるよ」
「……おう」
孫権は、ふっと肩を竦めた。
「しかし、セルウス君が動けば何かが起こるって感じですね。
この際、どこまで行けるのか見てみたいです」
御凪 真人(みなぎ・まこと)の言葉に、笑いごとじゃない、とドミトリエは嘆息する。
「まあ、少々洒落にならない御仁達にも目を付けられているようですけど」
確かに、と真人も言った。
「それにしても、キリアナさんにミツエの勢力も厄介ですが、ナッシングという方の率いるアンデッド恐竜軍団が気になりますね……。
目的が解りません。何故セルウス君を狙うのでしょう」
相手の目的が解らないのが、一番厄介だと思う。
「阻止する、と言っていたようだけどね」
武闘大会の時の様子を、天音が語った。
「つまりナッシングは、セルウスが何らかのキーワードに引っ掛からなければ放置だったが、コンロンかエリュシオンに向かうと言ったことでそれに引っ掛かり、阻止しようとしている、というわけか」
ナッシングの情報を聞き、ドミトリエがそう呟く。
「……ひょっとして、シボラの長老がまずシャンバラへ向かえと言ったのは、それでか……?」
敵はキリアナだけではなく、コンロンに向かうことによって、新たに狙う者が出て来る。
セルウス達だけで向かわず、シャンバラを経由して手勢を増やし、それに備えるようにと。
「とは言え、この三つ巴の状況は天恵であるとも言えますね。
元々、逃げるだけでもかなり厳しい状況でしたし、この状況を上手く利用すれば有利に運べると思います。
リスクも大きいので注意ですけどね」
真人の言葉にドミトリエは頷いた。
既に多くの仲間達が、「三つ巴を混乱させる」と言って、それぞれ出撃している。
全体の状況を把握して報せてくれる担当を担う者もあり、この飛空艇は、拠点を兼ねていた。
「策としては、やはり孫権さんがキーでしょうね」
ミツエ側に色々進言できるし、うまく誘導すれば、キリアナ陣営との睨み合いにも持って行けるかもしれない。
「理想は、乙王朝とエリュシオンとの間にナッシング軍勢を乱入させてしまうことですね。
しかし、アンデッド恐竜軍団の情報がよく判らないことが怖いところですか……」
真人達の相談を、所在無さげに、パートナーのヴァルキリー、セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)は見守っている。
頭を使うことは向いていない、と自覚するセルファは、此処では真人のボディガード代わりだ。
「荒事になったら私の出番、か。そうならない方がいいんだけどね」
戦うことになるのなら、アンデッド恐竜軍団がいいかな、などと思う。遠慮なく思いきり戦えそうだ。
「ま、セルウスならある程度丈夫だし、心配することもないだろ」
それに、と、南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)は言った。
「ミツエなんてちとばかし野心と皇氣に溢れていても、胸がない! これは致命的!」
更に言うなら、大人の色気も深謀遠慮も足りない。
そんなんでセルウスを落とすなんてムリムリ、と、光一郎は確信する。
「つーわけでセルウスは暫く放っておいても大丈夫。
ま、一応は捜索するが、俺様は今回、ドサマギ作戦で行ってみようと思う!」
「ドサマギ作戦?」
パートナーの鯉型ドラゴニュート、オットー・ハーマン(おっとー・はーまん)と相談していた後ろから、ドミトリエが訊ねた。
「うおっと!」
セルウスは放置、などと言っていたので多少焦ったものの、すぐに気を取り直して胸を張る。
「フッ! 次に会った時には俺様は、権力の頂点!
……よりは多少ものすごく下の方かもしれないところにいるだろうぜ!」
「それはつまり、どの辺だ?」
「具体的に言うと、BL、じゃなかったB級四天王!」
びし、と光一郎は宣言した。
光一郎の作戦はこうである。
その辺をウロウロしている野良B級四天王をシメて手下にすれば、労せずして自分がそいつの手下100を手勢に出来る。
もしくはC級をシメて、その手勢の威を借りて近隣のD、E級四天王を統合して行くという、地道な方法を取ってもいい。
「いや、パラ実じゃ数の数え方が1、2、3、たくさん、だから、4人チンピラシメれば即S級になれるんじゃね?」
「そうしたら、既に荒野はS級四天王で溢れているはずじゃないのか?」
光一郎の閃きに、ドミトリエが突っ込む。
「気にするな! 俺様も一時はパラ実に居た身。パラ実の流儀は把握してるんだぜ!」
根拠の薄い確証と共に、光一郎は飛び出して行く。
そう、パラとばらを間違えた、その始まりが、彼の全てを物語っていると言っても過言ではないだろう。
既に脳内ではS級四天王に上り詰めた光一郎は、その勢力の使い道を考える。
やはり混戦に薔薇的な横槍を入れるか、ガラ空きであろうミツエの本拠地を後ろから叩いて、ミツエの撤退を強いるか。
そんな二人は、いずれ合流地点に、手勢を連れずに二人だけで戻ることとなる。
何があったのかは本人達しか知ることはなく、しかし想像に難くはないが、
「結構、隙がなかった」
とだけ、オットーは語った。
「……短けえ夢だったぜ……」
ふっ、と光一郎は苦笑したとか。
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