蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

リアクション公開中!

インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

リアクション


【4】CRUSADER【6】


 鵜飼 衛(うかい・まもる)はラボの屋上から、シャドウレイヤーに覆われた区画を見下ろす。
 一帯を包む空間の異界化はまんべんなく、どこに強い反応があると言うわけでもない。この空間はまるで水の中にいるようだ、と衛は思った。身体がひたるほどの水中では思うよう動けず、消耗する体力も地上のそれとは比較にならない。
「どうじゃ、妖蛆。何かの魔術か?」
「魔術的な痕跡は発見できませんでした。少なくともわたくし共で知っている知識ではありませんね」
 ルドウィク・プリン著 『妖蛆の秘密』(るどうぃくぷりんちょ・ようしゅのひみつ)は首を振った。
「ふむ、今までにない魔術体系ということか? それとも魔術ではないのか?」
「技術的に疑似的に作りだしたモノか、魔術とは体系が違うものかもしれませんね。今の段階では解明は困難かと」
「なるほどのう。お主でわからんようでは、わしではわからんな」
「……ただ、この空間を生んだ発生源はこの空間の”外”にあると思います。あまりにも空間の澱みが均質ですから」
「遠隔操作でどこにでもこの空間を作れると言うのか? それは由々しき事態だぞ?」
 話し込む二人に、メイスン・ドットハック(めいすん・どっとはっく)は尋ねる。
「のぅ衛。単なる調査なら、自分までここに来る必要ないんじゃないかの?」
「ん?」
「調査をするだけなら、自分はお好み焼き屋台『はっくちゃん』で営業に精を出したかったんじゃが?」
「なに、調査がてら敵に襲われる可能性もないとはいえん。そもそもわしとしてはその方が好都合じゃが……その時戦闘できないのでは話にならんからな。
 何でもアイリ殿の話じゃと魔法少女でないと力を発揮できんそうじゃ。わしは幸いにも今は魔法少女クラスじゃが、お主にもぜひなってもらおうと思ってな」
「な、何! 自分にあんな姿になれというのか? い、嫌じゃ! そんなのは似合わんけー……」
「ちなみにわしに関して面白いということで女装には抵抗はない。むしろこの外見じゃし似合うな、カッカッカッ!」
 その時、階下を走るクルセイダーを見付けた。
「……噂をすればなんとやらじゃ、迎え撃つぞ……変身と!」
 くるくると回転し、衛は魔法少女に変身した。ウィザードローブをベースにしたフリルのミニスカ衣装。男子が着るには相当キツい衣装だが、童顔の彼はよく似合っている。ミニスカから覗く素足もツルツルだ。
「では、わたくしも」
 妖蛆は仮契約書で、魔道書らしく本型マスコットに変身。衛の手の中に収まった。
 敵は階段を上がって、こちらに向かってきた。
「さあメイスン、迷っておる暇はないぞ! さっさとその仮契約書で変身せんかい!」
「く、く、くっそー! やってやんよ!」
 覚悟を決め、メイスンは変身した。
「アイリの仮契約書で変身! ま、魔法少女マジカル☆メイスン参上! 悪は真っ二つにしてやるぞ☆」
 フリフリのコスチュームに大剣姿の魔法少女になった。
「ギャハハハハハッ! は、腹が痛い……マジカルって!」
「う、ウフフ……衛様、わ、笑ってはなりませんわ……フフッ。め、メイスン様は可愛らしいでは……ウフフフフッ!」
「お前ら……!」
 メイスンは怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤に染めた。
「こうなったのも、お前らのせいじゃ。全員まとめてぶった切ってやる!」
 メイスンは大剣を振り回し、クルセイダーを薙ぎ払う。
「さて、わしらもやるか……!」
 妖蛆を開き魔力を捻出、こちらに迫る敵に魔法光線を浴びせかける。屋上を超え、灰色の空を一条の光が貫いた。

「ここがクルセイダーの目的か……イコン関連のラボラトリー、何を狙っている……!」
 ラボに突入した樹月 刀真(きづき・とうま)は、左右の研究棟の間にある中庭に敵の姿を見付けた。
(疑っていたが、アイリ・ファンブロウの話は真実だったな。シャドウレイヤー、そしてこの身体にかかる異様な負荷。俺も覚悟を決めなければ、ここで戦う事は出来ないと言う事か……。いや、迷う事など何もない……!)
 刀真は仮契約書を取り出した。
「行くぞ、月夜! 玉藻! 油断するな!」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)玉藻 前(たまもの・まえ)も彼に続き、変身する。
 月夜は白を基調とした清楚な魔法少女ドレスに身を包んだ。三日月をモチーフにしたアクセサリと、ニーソックスから覗く絶対領域が眩しい。
 そして玉藻は赤を基調とした情熱的な魔法少女ドレスに。玉藻的要素が反映され、ドレスの中には和柄がちりばめられている。
 同系統のドレスになった二人だが、なにより絶対的に差がついているのはやはり胸の部分だった。
「うぐ……! 玉ちゃん……!」
 第一ボタンまできちんと留めている月夜に対し、玉藻は胸を押し込めきれず第三ボタンまで全開だ。
「負けた……」
「何を落ち込んでいる。月夜もとてもよく似合う。魔法少女姿も実に愛おしいぞ」
「ありがとう。……ん、ちょっと待って。私と玉ちゃんがコレなら刀真は……? 刀真はどうなっちゃってるの?」
「刀真……」
 刀真は黒を基調としたシックな魔法少女ドレス姿で立っていた。死神と言う彼の異名にちなみ、髑髏のアクセサリがところどころに付いているが、そんな事がどうでもよくなるほど、ミニのスカートとニーソックスが実に痛々しい。そして、何故だか彼だけネコ耳カチューシャが付いていた。深層心理にある何かが掘り起こされたのかもしれない。
 しかし、その眼差しは自分がとんでもない格好をしているのに気付いていないかのように真剣そのものだ。
(……どうしよう、突っ込んだほうがいいのかな、玉ちゃん)
(せめてもの情けだ、月夜。やめておけ)
「この格好も必要経費だと思えば無問題!」
「……あ、聞こえてた」
 黒と白の囚人服を思わせる縞パンをちらつかせながら、刀真は白の剣を抜き払った。
「月夜、戦闘データの記録を頼む。後々、このデータが連中との戦いで必要になるはずだ」
「わかったわ」
 月夜は剣の結界で身を守ると、デジタルビデオカメラを構えた。ホークアイで視力を強化、ダークビジョンで暗所に対応する。
 刀真に迫るクルセイダーは前に3人、後ろに4人、更に奥にもう十数人いるが……奥はとりあえず勘定に入れない。
 大刀、短剣、戦斧、長剣、大槌、長槍、様々な武器を持ち彼らの息遣い、体捌きは様々。だが刀真は百戦錬磨の経験から、それぞれの微妙な差異を、視線や体勢、肩やつま先の向き、気配などから読み取り先の行動に対応する。
 まず大刀を振りかぶった敵に、右手のワイヤークローを叩き込む。出始めで技を潰され、よろめく敵をクローで引っかけ、横にいる短剣使いと斧使いを巻き込むように薙ぎ払う。前列を排除し、がら空きになった前方に刀真は素早く駆け出す。まだ間合いには遠いと構えをとっていなかった後列の敵を一撃で斬り捨て、返す刀でもう一人を斬り伏せる。
「!?」
 背後から迫った長槍を前転で回避。受け身を取りながら態勢を起こし、槍の刺客である懐に潜る。
神代三剣……!!
 瞬時に三連撃を浴びせられた敵は、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
「よし、いいぞ刀真……!」
 刀真が敵陣を掻き回す中、玉藻はイヴィルアイ隙を窺う。こちらに背を向けた敵にペトリファイを放った。
「!?」
 術に晒された敵はすぐに振り返り、玉藻に武器を向けた。
「神に祝福されし我等に貴様の邪悪な術は通用しない」
 敵の武器が長剣から、鎖に変化する。玉藻に向かって鎖を放った。玉藻が回避姿勢に入るよりも速い。
「……しまっ」
「アウストラリアス・ディフレクター!!」
 アウストラリアスの光の壁が敵の攻撃を阻んだ。その機を逃さず、玉藻は大魔弾コキュートスを撃ち込む。
「開け、地獄の門!」
「うおおおおおおっ!!」
 着弾と共に炸裂し、澱んだ闇の障気と凍てつくような冷気を撒き散らした。
 そしてエンドレス・ナイトメアを駄目押しに繰り出す。解放される闇の力は障気を吸って、みるみる大きくなった。
「九尾の呪詛にのたうちまわれ!」
 しかしクルセイダーは僅かに怯んだものの、手にした武器で闇を斬り裂き、攻撃の構えを再び取った。
「……効かないだと?」
「彼らは確かに特殊な何かで護られているようです。闇の力や状態異常への耐性は私たちのそれを遥かに上回ります」
 アウストラリアスは壁を作りながら言った。月夜はハッとして彼女を見た。
「もしかして、クルセイダーがシャドウレイヤーの中で平気なのもその不思議な加護の所為なんじゃ?」
「それは……考えた事もありませんでした。でも、その可能性は十分にありますね」
 研究棟からクルセイダーが蜘蛛の子を散らすように飛び出してきた。その後から、衛たちが出てくる。
 正門からもクルセイダーを突破したポラリス。それから合流した魔法少女たちが柵を乗り越えて雪崩れ込んで来た。
「これまでですね、クルセイダー! さぁ何故、この時代に現れたのか、教えてもらいましょうか!」
 アウストラリアスは指を突き付けた。
「……ふん。我等がその問いに答えぬことはお前が一番よく知っているはずだ」
 大分、人数の減ったクルセイダー達、そこに研究棟を調べていた別のクルセイダー達が戻ってきた。
「……見つかったか?」
「あれに関するデータは幾つかあったが、断片的なものだ。あれの詳細や建造場所は相変わらず隠匿されている」
「ここには? これほどの敷地ならば、あれを隠すには十分だと思ったが?」
「ちまちま捜すのは面倒だ。プラントの時と同じように”施設ごと引っくり返す”方が早い」
 クルセイダーはこちらに顔を向けた。
「……我々を目撃したお前達にも消えてもらおう。我等が敵に安らぎを。安らかなる眠りを」
 三人のクルセイダーが前に出た。三人は突然身を震わせると、身体が倍の大きさに膨れ上がった。
「な……!?」
 骨の軋む嫌な音を立てて、骨格が、筋肉がみるみる間に発達し、彼らの身体は瞬く間に巨大化していった。