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インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

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【6】 Re:Re:NOAH【5】


 再び舞台はブリッジに戻る。
 クルセイダーと魔法少女たちの戦闘が尚も続行する中、喧噪を一瞬だけ破ったのは、壁に風穴を空けてしまうほどの機晶爆弾の爆発だった。
 沸き上がる煙の中から、三つの影が躍り出る。
「海京の平和を守る為、人々の明日を踏みにじる悪の野望を止める為。魔法少女マジカルメイド☆あさにゃん、久々に見参です!」
 風紀委員の榊 朝斗(さかき・あさと)はメイド服に猫耳の魔法少女スタイルで現れた。
 朝斗の猫耳メイドは、実はよく知られている。公共の電波に乗ったこともあるし、海京では都市伝説として語られている。まぁだからこそ、なりたくない格好でもあるのだが。
「歌と想いを力に変え、碧き拳が明日を掴む。魔法少女ストライカーアイビス!」
 アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)も、あさにゃんと同じく、翠色の猫耳と尻尾がトレードマークの猫系魔法少女に変身する。
「にゃー!」
 最後に、普段からマスコットのようなもので、変身しても姿が変わらなかったちび あさにゃん(ちび・あさにゃん)だ。
 若干の照れが見え隠れしたものの、三人はポーズを決める。
「グランツ教にクルセイダー!」
 あさにゃんはビシィと指先を突き付ける。
「お前たちが事件を起こした所為で……見ろ、この姿を! 最近、忘れてたのに、またしても猫耳メイドになる羽目になったよ! これ、凄く恥ずかしいんだぞ!」
 怒りと恥ずかしさで顔を赤くして言う。
 アイビスはホイール・オブ・フェイトと、ちびあさのゴッドスピードで速度と魔力を高めると、機晶ブースターと機晶姫用フライトユニットの高加速で飛び出した。
「あなた達に、この碧き拳が見切れますか?」
 咆哮によってレゾナント・アームズの力を目覚めさせ、クルセイダーにロケット砲のような拳を叩き込む。瞬間的な爆発的速度と、その速度を乗せた拳は稲妻のようだった。仲間がとんでもない速さで壁に叩きつけられたのにも反応出来ていない敵に、今度は掌底を放ち、花火を打ち上げるように天井に叩き付ける。
「なんだ、この速さは……!」
 ようやく反応したクルセイダーは長剣を振るう。しかし、剣は虚しく空を斬る。ブースターの急加速で回避したアイビスは勢い余って、壁に衝突しそうになりながらも、体勢を制御して壁を蹴り、反動を味方にした反撃の拳で、敵を倒す。
 それから、三層から銃撃してくる敵を、ハーモニックレインで吹き飛ばした。
「朝……いえ、あさにゃん! 三層の制圧を急いで!」
「任せて!」
 あさにゃんは、ターフェアイト☆スピアを多節棍に変え、果敢にクルセイダーに挑む。
「はあああっ!」
 卓越した棍捌きで、左から一撃、真下から一撃、振り下ろす一撃でとどめ。澱みなく流れる清流の如き、美しい連撃に、クルセイダーは為す術なく崩れ落ちる。
 続く敵の短剣を左右に躱し、三歩分距離を空けると、棍を鞭のようにしならせ薙ぎ払った。棍を槍形態に戻しながら引き戻し、返す一撃で、背後の敵の面を割る。
 それからチャージブレイクで力を溜め、モンキーアヴァターラ・レガースで壁を駆け上った。天井近くで跳躍し、真下のクルセイダーを龍飛翔突で吹き飛ばす。
 そして風車のように槍を回転させ、奥に立つ男に尖端突き付けた。
「大人しく投降するんだ、メルキオール」
「申し訳ありマセンガ、ワタシには全うしなければならない使命がゴザイマスので」
「殺人とテロがあなたの大事な使命なのか?」
「物騒な言葉を使うのはお止めクダサイ。あらゆる神話が語るとおり、新たなる世界は破壊のあとに訪れるものデス。楽園は犠牲なくして生まれることはないのデス」
「あなた達の信じる平和な世界は、きっと僕には居心地が悪いんだろうね……!」

「……少なくとも、この海京にお前達の語る平和は必要ないぜ!」
 そこに、エヴァと煉が現れた。
「ルール違反は徹底指導! 風紀少女マジカルエヴァ!」
「………………」
「……おい、何してんだ。登場するときの登場台詞忘れるなよ」
 エヴァは煉の脇腹に肘を入れる。
「……アレ、言わなきゃダメ?」
「ダメに決まってんだろ。ビビってんじゃねぇぞ、レン」
「……か、海京の平和を守る風紀少女ま、マジカルレン参上!」
 耳まで真っ赤になって、ポーズを決める。レンはちょっと死にたい気分になった。
「レン?」
 あさにゃんは眉を寄せる。それからレンをジロジロ見た。あさにゃんとレンは同じ風紀委員。レンにとっては今、一番会いたくなかった人物である。
「言っておくが、朝斗。ここにいるのはマジカルレンだ。それ以上でも以下でもない。ましてや桐ヶ谷なんて人物ではないからな。わかったな」
「……あ、うん(まだ何も言ってないのに……)」
 それから二人はメルキオールに戦いを挑んだ。まだメルキオールの底が見えていない以上、不用意に攻め込むことはせず、まずは様子見に務める。
 とは言え、防戦に回れば捌ききれるほど、メルキオールの使う教会剣術”剣の黄金律”は生易しいものではなかった。一回に六度斬撃を繰り出す奥義は、単純ながら脅威である。むしろ防戦に回れば回るほど、自らの退路を断つ行為になってしまう。
「神よ、我が剣に勝利をもたらしクダサイ」
 一撃、二撃、三撃目まで弾いたところで、四撃目がレンの肩を貫く。
「…………っ!」
 五撃目、六撃目はエヴァが叩き落とし、事なきを得る。
「コイツは防御に回ってたら勝てる相手じゃねぇな……!」
 彼女はレックスレイジを発動させ、ミラージュを放った。
「どいつが本物だかわかるか?」
 幻影を隠れ蓑に、彼女はポイントシフトで一気に距離を詰める。
 ところがその時、メルキオールの瞳が不気味に光った。
「神はワタシに真実を見通す力をくださいマシタ。ワタシに幻は通用しマセン」
「……や、やべぇ……」
「エヴァっち!」
 レンはアクセルギアを30倍で起動し、ポイントシフトで距離を詰めた。
 エヴァの首根っこを掴んで後ろに放り、無銘の刀を構えつつ、今正に剣の黄金律を繰り出すメルキオールと対面する。
「タイミングは俺が不利……。だが、どちらが速いか試してみる価値はある」
 雲耀之太刀による稲妻の如き速さの剣戟に、アンボーン・テクニックの魔力による身体強化。振り下ろす剣に、グラビティコントロールによる重力加速を加え、グレイシャルハザードの斬撃を繰り出す。
「絶対零度の一撃、零之……ゼロ・ブレード!」
「剣の黄金律!」
 閃光の刃による六連斬がレンを切り刻む。血飛沫を上げて転がる。しかし、喰らいっぱなしでは終わらなかった。手応えはあった。
 メルキオールの胸に、袈裟斬りに走った一筋の線から、次の瞬間、凄まじい勢いで鮮血がほとばしった。
「……み、見たか」
 血だまりからズタズタになった身体を起こし、レンは言う。
「……う、うぐ、ぐぐぐ、か、神よ。ワタシにどうか光をお与えクダサイ……!」
 その時、レンは服の切れ目から覗く、彼の身体に、魔法陣が描かれているのを見た。
 突如、メルキオールは光に包まれる。
「……な、なんだと!」
 致命傷だった彼の傷が、瞬く間に塞がっていく……。

「まさか、あの光は”救済の聖域”……? あの男、自分の身体に直接術を……!」
 ブリッジの三層からこぼれる白光を、二層から玉藻は見ていた。
 玉藻は目の前のクルセイダーに向き直り、牽制に死の風を放つ。敵は風に苦悶したものの、すぐにアシュケロンのひと振りで風を断ち、反撃に転じた。
「……ふむ。なるほど」
 ヒロイックアサルトで金毛九尾を発現させ、今度は、我は射す光の閃刃を放った。光に打たれた敵は悶絶して倒れたが、すぐにまた立ち上がった。
「どちらも効果がないわけではないが、効果的とも言えんな」
 鉄扇で、撃ち込まれる斬撃を舞踊のように捌き、敵の力量を推し量る。
 それからイヴィルアイでクルセイダーを凝視した。
 闇黒も光輝属性もそうだが、クルセイダーには全体的に弱点らしい弱点は見えなかった。全ての属性にある程度の抵抗力は持っているようだ。とは言え、ある程度なので、これまでの戦闘でも見られたように、ある程度以上の属性攻撃には耐えられない。
「……先へ行け、刀真。クルセイダーは我が引き受ける」
「玉藻……」
 頷き、刀真と月夜、そして美羽とコハクは三層に上がった。
 血の海に沈むレンと、あすにゃんとエヴァ、その奥に光を纏うメルキオールが佇む。
「今日は千客万来デスネ。歓迎いたしマス、皆サマ」
「メルキオール、その悪意ごと斬り捨てる……!」
 刀真が剣を構え、美羽とコハクもそれに続く。
 先手をとったのはメルキオールだった。剣の黄金律が三人に襲い掛かる。
 だが、ここで三人は連携をとった。一撃目、二撃目を刀真が捌き、三撃目と四撃目を美羽がいなす、五撃目、六撃目をコハクが潰す。そして連撃を放った直後の隙に、後方に控える月夜がラスターハンドガンで仲間の身体越しに、メルキオールを狙撃する。
「…………っ!」
 肩を撃ち抜かれ、メルキオールはよろめく。
「なるほど。皆サンで、手を取り合う。トテモ素晴らしいお考えデス……」
 デスガ、と断りを入れて、メルキオールはアシュケロンを戦斧に変化させた。
 それから、戦斧を放り投げる。すると、戦斧は衛星のようにメルキオールの周囲を公転し始めた。そして、メルキオールはまた6本のアシュケロンを構える。
「教会剣術『幸福の黄金鳥』」
 幸福の黄金鳥と剣の黄金律の同時攻撃、つまり計12の斬撃が飛んでくることになる。
「……いざ!」
 刀真は呼吸を整え、走り出した。
 視野を広く持ち、全体を見通すように、目線を置く。そして、相手の視線と呼吸、肩やつま先の動き、重心移動と構えから敵の動きを読む。相手の攻撃より一呼吸早く踏み込み、間合いとタイミングを潰し、躱しながら、こちらの間合いを詰める。
「はあああああああああああああっ!!!」
 一撃、二撃、三撃、剣の黄金律から放たれる攻撃は、メルキオールの一挙手一投足から読める。しかし、幸福の黄金鳥のほうは読めない。飛来した斧が肩を斬り裂き、脇腹を裂き、背中に突き刺さる。
 それでも突撃を止めない刀真に、メルキオールが聖剣を振り上げた、その時。
「お前は、この御方の姿を斬ろうと言うのか!」
 食堂で手に入れた”超国家神のポスター”を突き付けた。
「な、何と言うことを! 超国家神サマを縦にする気デスカ!」
「盾だけじゃなくて武器にもしちゃうもんねっ!」
「な……っ!」
 美羽は丸めたポスターを武器にして、ちびっ子チャンバラの如く斬り掛かった。
「お、おやめクダサイ!」
「そらそらそら!」
 メルキオールは反撃出来ず、やられるがまま、丸めたポスターで殴られる。
「や、ヤメテ!」
「へっへーやめないよーだ!」
「隙だらけだな……顕現せよ、黒の剣!」
 刀真は光条兵器を発現させ、神代三剣で、メルキオールの両手首を斬り裂いた。
「…………っ!」
「さぁもうおしまいにしよう」
 コハクは黄金の闘気を漲らせる。犬の身体とは思えぬ波動の下、構えるのは流派”万勇拳”が必勝の構え。大気を震わせ、燃える魂をひとつの形に収斂させていく。
「万勇の拳は変幻自在! 荒ぶる心を武器と成す! 万勇拳奥義『自在』!!」
 放たれた闘気の超巨大槍が三層を抉りながら、メルキオールを吹き飛ばす。
 投げ出された彼は下の、ブリッジ二層に、激しく叩き付けられた。

 だが、血反吐を吐き、骨が砕けながらも……彼はまだ諦めることが出来なかった。
「ま、まだデス……。こうなったら、爆弾を……」
 身体を引きずりながら、コンソールパネルを叩く。
 すると、ブリッジ上部にある大型モニターに『LOST』と真っ赤な文字で現れた。
「ど、どういう事デス……」
 そして次の瞬間、空が晴れた。シャドウレイヤーに覆われた世界が消えて行く。
「……何と言うことなのデショウ。何故、我々は報われないのデショウ……」
 しかし、彼は微笑んだ。
「でも、まだ諦めマセン。諦めたら夢は叶いマセンから。最後まで頑張らないと」
 満面の笑みでパネル叩くと、モニターに自動操縦の文字が現れた。