蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

空を渡るは目覚めし艦 ~大界征くは幻の艦(第3回/全3回)

リアクション公開中!

空を渡るは目覚めし艦 ~大界征くは幻の艦(第3回/全3回)

リアクション

 

星々の声

 
 
「そう、分かったわ。こっちで、なんとかしてみましょう」
 逸早くゴアドー島の状況を精神感応で夢宮未来から聞いた高天原鈿女が、アトラスの傷跡の宇宙港職員たちの許へ駆けつけてきた。
 ちょうど、アイランド・イーリのリネン・エルフトから、同じ情報がここへもたらされたところだ。
「ニルヴァーナとの通信と言われても、こちらもアンテナが破壊されて、どうにも方法が……」
 困り果てたように、宇宙港の職員が言う。
「これじゃあ、ニルヴァーナの状況が、まったく分からないわね。これは、敵にまんまと情報封鎖されたと考えるべきかしら……」
 高天原鈿女が考え込む。
 だいたいにして、スキッドブラッドがニルヴァーナへ逃げるために、マスドライバーを奪取しに来たと言うことが、いくつもの矛盾を持っていたと、今なら言えるだろう。
 スキッドブラッドクラスの飛空艇を月へと打ちあげるためには、確かにマスドライバーは有効だろうが、月に辿り着いたからと言って、大きさ的に始めの回廊を通り抜けることはできないのだから。よしんば、月基地を占領して、ニルヴァーナ創世学園へ入り込むにしても、出口がはっきりとしているのだから、防衛網をしかれてしまうのは目に見えている。
 作戦としては、あからさまに穴だらけである。
 結果として、ゴアドー島のゲートを通り抜けるための陽動であったわけだが、それにしては大げさすぎる。むしろ、何もしないでゲートを通り抜けた方が、目立たなかったはずだ。
 だいたいに、ニルヴァーナへ逃げる必要性が薄い。あくまでも、ソルビトール・シャンフロウという者にとって、それによって利益を得られるとは到底考えられない。
 いずれにしろ、敵の目的、あるいはそのための手段が一つであるとするのは愚考であった。ソルビトール・シャンフロウという個人が目立ってはいるが、敵が組織であるとすれば複数の作戦が同時進行しているという可能性の方が大きい。
 とりあえず、目的の一つが、ニルヴァーナとパラミタの分断であることは間違いがないだろう。現在、ゴアドー島で起こっているゲートの異常が、それを物語っている。
 もし、ニルヴァーナとパラミタが一時的にも分断されてしまえば、ニルヴァーナで予定されている作戦に、パラミタから充分な戦力を送ることができなくなる。そうなれば、インテグラルに対する対応が後手に回ってしまうだろう。最悪、アトラスを救う手立てが分かったとしても、それがパラミタに伝わらないという可能性がある。
 いずれにしても、帝国の反逆者の考えるようなことではない。おそらく、ソルビトール・シャンフロウはスケープゴートに使われたにすぎない道化なのだろう。
 だとすれば、ニルヴァーナでいったい何が起きているのか、早急にそれを把握する必要があった。
「だから、マスドライバーを使えないだろうか」
 ニルヴァーナとの通信を回復させる手段を宇宙港の職員が相談しているところへ、源 鉄心(みなもと・てっしん)が熱心にマスドライバーの使用許可を求めてきた。
「俺がマルコキアスで宇宙に出て、なんとかアルカンシェルに連絡をつけてみる。そうすれば、月基地と連絡をとって帰ってくることもできるだろうし、アルカンシェルを呼び戻して、防衛にあたってもらうこともできるかもしれない」
 確かに、源鉄心の言う通り、防衛戦力としてのアルカンシェルは絶大であった。だが、マスドライバーは壊れたままで、まだ復旧のめどが立ってはいない。どうあがいても、数日で直るような損傷ではなかった。それに、まだ打ちあげ実験すら行われていない代物なのだ。
「マスドライバーよりも、今は通信施設を修復させる方が現実的でしょう。通信さえできれば、アルカンシェルに戻ってきてもらうこともできるし、その方が、こちらから飛んでいくよりもずっと早いわよ」
 高天原鈿女が、そう源鉄心に言った。
 
    ★    ★    ★
 
「こ、この請求書は……」
 アトラスの傷跡の宇宙港に着くなり手渡された紙を見て、ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)が、わなわなと全身を震わせた。
「修理代が、こんな額に……」
 格闘式飛空艇 アガートラームの修理代の請求金額を見て、さすがにメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)も深く溜め息をついた。
「これは、レンに文句の一つも言いたくなりますね」
「それよ! さっそく、ニルヴァーナにいるレンさんを呼び出してもらいましょ」
 いいはけ口が見つかったと思ったノア・セイブレムであったが、何やら通信のことでみんながもめている。どうやら先の攻撃で月基地との通信アンテナが破損してしまい、連絡がとれない状態らしい。あまつさえ、ゴアドー島の方も、何やら通信障害が起こっているようだ。
「仕方がないですね。アンテナ修理に力を貸しましょう。これで、少しは借金を負けてもらえると嬉しいのですが」
 臨時バイトを申し出て、メティス・ボルトが宇宙港の職員と相談を始めた。
「最大の問題は、パラボラアンテナの部品の調達ね。イコンや飛空艇の通信設備じゃ、小型すぎて精度が低すぎるわ。もともと月基地は指向性の高い電波で、ここアトラスの傷跡の宇宙港にむかって電波を発信しているし、むこうの受信アンテナもこちらの方向へ固定されているだろうから、高精度の大型アンテナを即行で作らないとねえ……」
 いずれにしても、アンテナの部品と、制御機器、そしてプログラムだと、高天原鈿女が軽く頭をかかえた。
「月との送受信に使用するとなると、数十メートルのパラボラアンテナが理想だけれど、部品があるのかしら?」
「いっそ、アガートラームを分解して部品取りに使う?」
 高天原鈿女の言葉に、ノア・セイブレムがメティス・ボルトに訊ねた。
「ええと、多分役にはたたないでしょうね。ちゃんとした反射板があればいいのですけれど。あるいは、それに応用できる物が……」
 送受信部や、その他の回路はここに集まった修理用の部材でなんとかなりそうである。ただ、衛星通信用のパラボラは特殊なために、簡単に交換用部品があると言うわけではなかった。海京で製作してもらい、天沼矛でパラミタに搬送した後にここへ輸送するにしても、どんなに急いでも数日はかかるだろう。
「衛星放送か? 中華鍋を使えば受信できるのではないのか?」
 現在、恐竜騎士団によって部材を管理しているジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)が言った。敵機動要塞を捜索に出ていたのだが、成果を出せずに引き上げてきたばかりだ。
「優先事項であれば、恐竜騎士団の協力ということで、自由に部材を使うことを許可しようではないか」
 あからさまに恩を売る形で、ジャジラッド・ボゴルが了承した。
 このまま、アトラスの傷跡の宇宙港の修理を恐竜騎士団が行ったという既成事実を作り、実質施設を管理支配しようという腹づもりのようだ。
「ふふふふふ、この施設を支配してしまえば、宇宙港を好きに使えるというもの。マスドライバーとやらも改造し、一大テーマパークにしてしまえば、我らが恐竜騎士団の最大の資金源になるというものよ」
 悪巧みと言うよりは、なんだか夢のある計画を練るジャジラッド・ボゴルだった。
「とりあえず、私はレガートさんと一緒に、マスドライバーの警備にあたりますね。また、変な敵が襲ってこないとも限りませんから」
 そう言うと、ティー・ティー(てぃー・てぃー)レガートに乗って周辺の警備に出発していった。
 恐竜要塞グリムロックの周囲に集められた部材を、高天原鈿女、メティス・ボルト、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)らが物色して、なんとか使えそうな物をかき集めていく。
「コントロール用のハードウエアは、なんとか揃いそうですね」
 集められた部品をさっそく組み立てながらメティス・ボルトが言った。
「このタイプのハードでしたら、制御プログラムを組むのは苦労ないですわ。すーぱーこんぴゅーたーと呼ばれたわたくしに、不可能はそんなにはない気がしないでもないのですわ!」
 なんだか、自身があるのかないのかよく分からないことを言いながら、イコナ・ユア・クックブックがプログラムの制作にかかっていった。施設の破壊でデータが失われてしまったために、宇宙港の職員に口頭でできる限りの情報をもらいながら、月基地の方向と送受信の周波数を設定していく。
「なんにつけても、問題は反射板よねえ」
 いくら周囲を探しても、代用になる物を見つけられずに高天原鈿女が頭をかかえた。
「ふふふふ、みんながこれだけ復旧に精を出してくれれば、この場所が恐竜騎士団にとって都合のいい遊び場になるのは時間の問題ですわね。娯楽に飢えているパラ実生のこと、誘蛾灯に群がる虫のごとく集まってくるはずですわ。それをすべて取り込んでしまえば、恐竜騎士団を一大勢力に盛り上げられるのは必至ですもの」
 自身もアンテナの部品を探しつつ、サルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)が壮大な妄想を楽しんでいた。
「そうですわね、やはり、マスドライバーはジェットコースターにするのがいいでしょうね。超音速でアトラスの傷跡を一周できるアトラクション……、ロケットを月に打ちあげるより何倍も客が呼べますとも。さて、他に何か、面白いアトラクションは……」
 キョロキョロと、客寄せに使えそうな物を探していると、ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)ヨン・ナイフィード(よん・ないふぃーど)が、絶対無敵要塞『かぐや』を修理している姿が目に入ってきた。
「オーライ、オーライ。第八番外装皮はもう少し右じゃな。もうちょっと……そう……ストーップじゃ!」
 ルシェイメア・フローズンに言われて、クレーンで吊ったタケノコ要塞の外部装甲板を移動させていたヨン・ナイフィードが、クレーンを止めて位置を確認した。
「じゃあ、下ろします」
「ゆっくりじゃぞ。なにせ、まだまだ、タケノコの皮をたくさんつけねばならないからな」
 まったく、なんでこんな構造なのかと、ちょっと疲れながらも、もくもくとルシェイメア・フローズンが作業を進めていった。
「タケノコですわね。あれも何かのアトラクションに……。いや、あれって使えるのでは?」
「ふむ、悪くはないであるな」
 何かを思いついたらしいサルガタナス・ドルドフェリオンに、同行していたゲシュタール・ドワルスキー(げしゅたーる・どわるすきー)がうなずいた。さっそく、ジャジラッド・ボゴルに連絡をする。