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リアクション
5.タシガン<3>
主戦場は、研究所の入り口からその内部に移動していた。
「突入部隊、これより内部に入ります。私はこれより、館内放送設備の状況確認に向かいます」
ウィリアム・セシル(うぃりあむ・せしる)が本部のヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)に通信機を使い連絡をする。
「了解したよ。内部の様子も、引き続き報告を頼むね」
「かしこまりました」
ウィリアムは冷静に返答すると、注意深く突入部隊とともに黒い靄の渦巻く研究所へと足を踏み入れた。
「この先には、いかせないよっ!」
彼らの背中を守るために、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が元気いっぱいに声をあげ、モンスターたちの前に立ちふさがった。
未だ黒い靄は残っているが、レキの【イナンナの加護】と、【破邪滅殺の札】の力もあり、闘うには支障はない。が、なによりもそれ以上に、彼女の正義感が燃え上がっていた。
うめき声をあげ、幽鬼が黒い靄とともに近づく。
そして、彼らの後ろからじりじりとにじり寄る悪鬼羅刹の類い。
それは獣の姿でもあり、またトカゲや蛙のようでもあり、どちらにせよこの世界に属するものではありえないモノたちだった。
「目障りじゃの……ほれ、【悪霊退散!!】」
ミア・マハ(みあ・まは)が細い腕がフロンティアスタッフを高くかかげ、呪文を素早く唱える。彼女の詠唱に呼び出された光の風が、瞬きながらみるまに幽鬼を飲み込んで吹き抜けていった。
「ざっとこんなもんじゃ」
ふん、と鼻を高くするミアに、「さすがアル〜」とチムチム・リー(ちむちむ・りー)はぽふぽふと肉球の両手で拍手した。だが、すぐさま幻槍モノケロスを再び構え、モンスターたちに向き直る。
どれも、ミアたちを倒し、研究所の内部へとなだれ込もうとしているかのようだ。愚直な歩みは、光を前にしても止まることがない。さながら、明々と燃える火へと飛び込む虫のように。
その一匹一匹に狙いを定め、チムチムの槍が鋭い一撃を放つ。ユニコーンの角ともいわれる白い槍先は、微かな光を宿し、焼け付くような深い穴をモンスターの漆黒の身体に穿った。
「チムチム、肩借りるよっ」
レキはそう声をかけてから飛び上がると、一息にチムチムのふわふわの肩に右足をかけ、そのまま上空へと飛び上がる。レキのとびぬけた運動神経だからこそできることだ。
彼女は宙へと身を躍らせたまま、【サイドワインダー】で2本の矢を、それも連続して蠢く地上の魑魅魍魎に浴びせかけた。
鋭い
――グワァァァ……
呪詛めいた声があがり、落下する彼女を漆黒の塊が襲う。
「えいっ!」
それを器用に一回転してよけたものの、レキの着地の体勢が崩れた。
「やばっ!」
ばふん!!! と。
彼女を両手でチムチムが受け止めて、レキは危ういところで難を逃れる。
「ありがと、チムチム!」
「チムチム、役に立つアル!」
にっこり笑って、チムチムはレキをそっと地面に降ろした。
「無茶するからじゃ」
「えへへ、ごめん!」
あきれ顔のミアに軽く謝ると、レキは現状を見渡した。
かなり減ってはきているものの、未だぞろぞろと、モンスターたちは這い出してくる。
一匹一匹の戦力は低いものの、切りが無い現状に、体力はじわじわと削られていた。
「一端回復しておいたほうがよさそうじゃな」
ミアは目を閉じると、【命のうねり】でレキとチムチムの体力を回復する。
四肢の重たさが消え、再びむくむくと全身に力が漲ってくるようだ。
「これで、まだ持つじゃろ」
「だね! ……研究員の人たちが全員無事に出てくるまで、とにかくここから一歩も引かないよっ」
レキの力強い言葉に、チムチムとミアは頷いて再びその手に武器を構えた。
研究所の入り口のゲートは、すでに無残に破壊されていた。目につく窓も至る所にヒビが入り、まるで廃墟のようだ。
研究所内は、よりいっそう黒い靄が吹き溜まっている。妖しげなものが徘徊する気配も、至る所に蔓延っていた。
「急がないと、危険だねぇ」
清泉 北都(いずみ・ほくと)が口元を押さえながら呟く。
「少々、お待ちください。効果があるかどうかはわかりませんが……」
クナイ・アヤシ(くない・あやし)が一歩前に出ると、意識を集中し、【風術】で強く風を巻き起こす。
呼び出された爽やかな風は黒い靄を一時的にせよ薄め、視界を晴らすことができた。
「では、まいりましょう」
それでも、靄のすべてが晴れたわけではない。【イナンナの加護】などを使い、それぞれに自らの耐性をあげて、彼らは研究所へと足を踏み入れた。
研究所の地図は、すでに全員頭に入っている。いざというときの連絡役として、ウィリアムは当初の予定通りに研究所の通信設備の無事を確認しに行き、テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)とユウ・アルタヴィスタ(ゆう・あるたう゛ぃすた)は研究員の捜索隊に同行することになった。
「通信機は……ぎりぎり使えるってくらいかしら」
手元の銃型HC弐式に目をやり、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が言う。かなり不安定ながら、通信は可能といったところだろうか。
それよりもなによりも、セレアスが主に確認しているのは、サーモグラフィ機能での熱源反応のチェックだった。
「どう?」
「少しだけど……反応があるわ」
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が、セレアナのHCが示す場所を確認する。
「二階ね」
研究所の二階東端に、熱源反応は集中している。
「もう少し近づかないと、確証は得られないけどね」
セレアナが慎重に言い添えた。サーモグラフィ機能は、あくまで熱源反応を示すものだ。それが人間であるか、モンスターか、あるいは罠として仕掛けられた何かかまではわからない。
「ただ、人数があわないねぇ」
北都も反応を確認し、眉根を寄せて呟いた。熱源としての反応は3つ。残されている所員は、7名のはずだった。
「さらに別の場所にいるか、あるいは……」
ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)は、そこで言葉を切った。
……あるいは、すでに体温が無い場合。それはすなわち……。
「考えてたって仕方ねぇだろ。俺は探すぜ!」
白銀 昶(しろがね・あきら)は勢いよく言い切る。
「そうだな。なによりも、急ごう!」
リア・レオニス(りあ・れおにす)も強く同意し、
「それでは、幸い通信機も使えるようですし、手分けして参りましょう」
クナイの提案に、一同は頷いた。
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