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ナラカの黒き太陽 第一回 誘いの声

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ナラカの黒き太陽 第一回 誘いの声
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リアクション

10.タシガン<6>


 その後、黒崎 天音(くろさき・あまね)ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)、そしてエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)片倉 蒼(かたくら・そう)リュミエール・ミエル(りゅみえーる・みえる)の五人と、清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)もカルマの元へとたどり着いた。
「よかった、無事だったんだねぇ」
 北都はほっと胸をなで下ろした。
「ご確認をさせていただきますね」
 用意してきた顔写真つきの名簿で、所員の名前を照合すると、ハルディアから聞いた状態などを片倉 蒼(かたくら・そう)が確認する。
「すぐには搬送せず、ここで治療をご希望ということでしたか」
「うん。僕らがフォローをするから、許可を願うよ」
「かしこまりました」
 それらの情報をまとめて籠手型HC弐式・Nで一端セシルに伝え、本部からの返事を待った。
「……はい。全員確認できたということですね。了解いたしました。所員については、ひきつづき警護、といたします」
 ややあってから、本部からの返事を蒼は伝えた。
 だが、その返答が、ルドルフからでないことに、ふと違和感を抱く。
(なにか、あったのでしょうか……)
 とはいえ、確信のないことは口にすべきでもない。そのことについては、蒼は今の時点では胸にとどめておくことにした。
「カルマ君、大丈夫ですか?どこか痛くはないですか。皆来てくれましたよ。もう大丈夫ですからね」
 エメは優しくそう伝え、カルマを見上げる。
 見たところ、損傷はない様子で、エメはほっとした。
 エメと天音は、ゲートでの調査を試みた後、研究所へと来ていた。
 【ピーピング・ビー】をゲートの内側に放ち、ブルーズがHCでその映像を記録する。少しでもなにかの情報が得られないかと思ったためだ。
 映像は、しばらくは濃い黒い靄が続く。そのうち、不意に破裂するような音とともに、映像は途切れてしまった。
 20メートルの範囲を越えたというには、やや早い。まるで、不快に思った『底に住むなにか』が、それを破壊したかのようだった。
「自然発生的なものでは、ない様子だね」
 いくつかのゲートでも、幽鬼たちを避けつつ試してみたが、結果は同じことだった。つまり、偶発ではなく、故意の可能性が高い。
「ただの穴では、なさそうだな」
 ブルーズもそう呟き、映像をまとめて保存しておいた。
 その後、エメの希望もあり、カルマの元へと彼らは来たのである。
「悪魔も幽鬼も、ここにはいなそうだね」
 リュミエール・ミエル(りゅみえーる・みえる)が、周囲を警戒しつつ見やりながら言う。
「タングートの悪魔は、あくまで下で待ってるってことなのかな」
「そうかもしれませんね」
「ちょっと会ってみたかった気もするけど」
 タングートの女悪魔が男嫌いだ、というのはリュミエールも知っている。とはいえ、たかが性別で『相容れない』と言われるのはショックだ。
(まあ僕はラドゥ様一筋だから美女の気を惹く気はないけど、嫌いで一蹴じゃなくて多少の余地はないのかな)
 無理解は嫌悪よりなお悪い。なにも生み出さないとリュミエールは思う。
 とはいえ、幸か不幸か、この場では相まみえることはなさそうだ。
「ところで、例の件……試してみるのか?」
 天音に促され、エメは「そうですね……」と小首を傾げた。
「なんのこと?」
 北都がエメに尋ねる。
「無駄かもしれなんですが……カルマ君が半覚醒なのは、ジェイダス様の命を半分しか受けていないからですよね。それでしたら、その分を、他の人間の命で補えないかなと思ったんです」
 事前にエメにその考えを聞かされていた天音が、隣で頷く。
「エメ様、まさか……」
 クナイと北都に不安げな反応をされ、エメは「いえ、私が犠牲になります、というわけではないんです」と少し慌てて否定した。
「一人だけではなくて、大勢から少しずつ分け与えるのならば、一人の負担も少ないのではと思ったんです。もちろん私も、そういう意味では協力しますが」
「可能性があるなら、僕も協力するよ」
 天音もそう言う。
 しかし、ジェイダスの命の半分に値するほどの力ということは、いったい何人分の血を必要とするのか。それについては、予測もつかないことだ。なにより、それでも目覚めるという確証はない。
「そうですねぇ……」
 北都は暫し考え込み、そっとカルマに近づいてみた。
 触れてみると、ひんやりと冷たく堅い感触がする。こうしてみると、ただの巨大な水晶でしかないが、あくまでそれは眠っているだけなのだ。
(不安がってないと、いいな)
 良い子良い子と、そっと北都はカルマを撫でる。そして、誰も見ていないことを確認すると、軽くキスをした。
(目覚めのキス……の相手にしては物足りないだろうけど)
「早く、レモさんが戻ってくるといいね」
 そう、優しくカルマに語りかけた時だった。
「そこを、どいてくれ」
「カールハインツ君? 無事だったんですね」
 ウィップを手にしたカールハインツが、カルマの元へとやってくる。彼が姿を消していたことは、すでにエメたちは知っていた。
「ああ。なんとか逃げ出してきたぜ。けど、あいつらの目当ては、カルマなんだ。……けど、目覚めさせる方法も聞き出した。俺に任せてくれないか? 危険だから、みんなは一度、ここを出てくれ」
「あいつら、とは?」
「時間がない。後にしてくれ、黒崎」
 カールハインツはそう答え、荒々しくカルマへと近づこうとする。焦っているのはわかる。だが、なにかが、おかしかった。
 なによりも、クナイの【禁猟区】が反応を示している。
「北都!」
 咄嗟にクナイは北都を庇い、カールハインツの前に出る。その瞬間、カールハインツは躊躇いなく、ウィップをクナイへと振り上げた。
 鞭が肉体を打擲する激しい音が、地下空間に響く。だが。
「落ち着くんだ、みんな」
 ――その鞭の先を、カールハインツの背後で掴んでいたのは、ルドルフだった。
 だがその様子は、かつてない迫力に満ちていた。その姿まで、一回り大きく見えるほどに。
「うちの生徒たち同士を争わせようとは、醜いね」
 唾棄するように口にして、ルドルフはカールハインツではなく、中空を睨み付ける。するとそこに、先ほどまでなにもなかった空間に、三体のあの謎の影が現れたのだ。
『あら、しょーじき、残念ですわぁ』
『えー! 美しい男たちの、疑心暗鬼に満ちた戦いとか、耽美よねぇ?』
『うるさいわよあんたたち。……ルドルフ、あんたに気づかれたのは失敗ね』
「ついにここまで来たというのか、……ソウルアベレイター」
 ルドルフはぎりぎりと奥歯を噛みしめる。
 その間に、カールハインツはウィップを自ら捨てると、高く跳躍し、三人の影に寄り添った。その目は暗く沈み、もはや操り人形のようだった。
『実体がない状態で、あんたとやりあう気はないわ、ルドルフ。今日のところはひいてあげる』
『なんか、うるさいオンナもちょろちょろと目障り? な感じですものぉ』
『とりあえず一人は収穫もあったしぃ……まったねー!』
「待て……!」
「やめておけ」
 追撃をしようとするデイビットを、ルドルフが止める。
 おかしなノリではあるが、その力が驚異的なものであると、ルドルフの額に浮かんだ汗が告げていた。
『その方がいいわよぉ……バイビー!★』
 その声と同時に。
 三つの影の力がふくれあがり、中央から岩石の床がめくれ上がるようにして、すさまじい衝撃と爆風とともに、――空間が『破裂』する。
「……!!!」
 生徒たちは、それぞれに身を守ったものの、すぐには立ち上がることすらできなかった。
「……あれ、は……」
 耳鳴りがひどく、目の前がクラクラする。だが、致命傷には至らなかったのは、咄嗟にルドルフがその力で衝撃から彼らを守ったからだった。そして、同時に。
「……………」
 カルマが、うっすらと青く光っていた。ルドルフに呼応するようにして、カルマもまた、彼らを守ったのだ。レモの半身として、彼の、代わりに。
「みんなが無事で、なによりだよ」
 ルドルフはそう安堵する。
 しかし、空間全体の損傷は著しく、まるで爆撃跡のようなすさまじさだった。
 『影』だけでそれほどの力をふるう三人の存在と……連れ去られたカールハインツのことを想い、ルドルフは怒りにその肩を微かに震わせていたのだった。

 それからすぐに、ゲートの一つの氷が破壊され、鳴子で異変を知ったクリスティーたちはすぐに応急処置を施した。
 あの三つの影が、カールハインツを伴って、ナラカへ戻ったのだろう。
 また、タングートへと旅立っていた人々も、無事に帰還は果たされた。共工が、珊瑚城の門の一つを地上へのゲートとしてつなげたからだ。

 ゲートは一時的にせよ、凍結という形で封印は成された。
 あの影が去ってから、ゲートからモンスターが現れることもない。
 しかし、それはあくまで、一時的なものにすぎないということは、誰の目にも明らかだった。

「レモは……そう、選択したんだな」
 レモが共工の元で、記憶の解除を選び、珊瑚城で眠りについたとルドルフは報告を受けた。
 罠かもしれないが、それに賭けることにする、と。
「君は、呆れているかな」
 校長室で、ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)の入れてくれたコーヒーを口にしながら、ルドルフは言う。
「俺が? どうして?」
「上に立つ者は、後ろで全てを見守っているべきだと思っていたんだ。なにがおきても、対処ができるように。だけど今回、僕はどうしても、自分で動かずにいられなかった。……後のことはすっかり、君たちに任せてしまってね」
 すまない、と詫びるルドルフに、ヴィナは微笑んだ。
「そういうときのために、俺たちはいるんだよ。あなたが、自分の判断で動けるようにね」
「……ありがとう」
 東條 梓乃(とうじょう・しの)とのやりとりを、ルドルフは思い出す。
 ルドルフは、ルドルフとして……もう、立たねばならない。そうでなければ、ソウルアベレイターの侵攻から、この地を守ることはできないだろう。
「ヴィナ」
 そのための一つとして、ルドルフは以前より考えていたことをついに口にした。
「僕は、僕のイエニチェリを選ぼうと思う。……今まで、ジェイダス様ならいざしらず、僕がイエニチェリを選ぶなんて、おこがましいとどこかで思っていたんだ」
 ジェイダスとは違い、ルドルフのイエニチェリは、後継者というよりも、ルドルフが背中を預けて戦える相手、という意味に近いものにはなるだろう。
 そして。
「ヴィナ。どうか今まで以上に、僕を支えてくれないかな」
 最初のイエニチェリとして、ルドルフは、長年自分をサポートし続けてくれていたヴィナ・アーダベルトにそれを頼んだのだった。

 そして、同時に。
 教導団の金鋭峰へと、要請は伝えられた。
 黒崎 天音(くろさき・あまね)を、薔薇の学舎へと復学させ、イエニチェリに任命する。
 また同時に、タシガン駐留武官として、新たに叶 白竜(よう・ぱいろん)を推挙するというものだ。
 これから先の事態に備えて、ルドルフが決断したことだった。
 


 パラミタ、ザナドゥ、そしてナラカ。
 三つの世界をまたぐ争いが、いよいよ始まろうとしている。

 その結末は。
 まだ、誰も知らない。






担当マスターより

▼担当マスター

篠原 まこと

▼マスターコメント

●ご参加いただき、ありがとうございました。
リアクションをお待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。

●今回は情報量も多く、NPCも私のシナリオとしてはかつてない多さになってしまったので、後日マスターページにてまとめを作成する予定です。
第二回にひきつづきご参加いただける方は、参考にしていただけますと幸いです。
また、今回の悪魔たちのネーミングですが、あくまでイメージとして参考にしているのみですので、そのあたりのメタ推理はあまり採用されません。ご注意くださいね。

●第二回のシナリオガイドは、6月19日(水)の公開予定です。なにとぞ、よろしくお願いいたします。