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【裂空の弾丸】Recollection of past

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第2章 潜入! ジークロード! 4

 移動要塞ジークロードの内部は、厳戒態勢が引かれていた。
 よって、あらゆる通路には機晶兵の姿があり、警戒に当たっている。
 あれだけの騒動を起こしたのだから、当たり前と言えば当たり前だが、すでに侵入者がいることを敵は承知済みなのである。
 そしてそれらの機晶兵たちから逃れるように――

 こそっと……

 匿名 某(とくな・なにがし)騎沙良 詩穂(きさら・しほ)たちが、誰もいない部屋で身を隠していた。
「ううぅ……みじめだなぁ……」
 狭い部屋の中にぎゅうぎゅうになっている某は、ついつい涙を流す。
「しょうがないでしょ。いまここで見つかったら、なにもかも無駄になっちゃうんだから」
 詩穂がそれに叱責したところで、彼はため息をつくと同時に、なにやら手元でかちゃかちゃと機械を弄り始めた。
「ちょっと某、何してるのよ?」
 その様子を見て、フェイ・カーライズ(ふぇい・かーらいど)が思わず声をかける。
 むぎゅっと、フェイの前でなんとか顔をあげて、某が言った。
「何してるって、決まってるだろ。ちょいと試したいことがあるのさ……」
 某がいじくっているのは、大谷地 康之(おおやち・やすゆき)が持っていたはずのピーピング・ビーであった。
 それをフェニックスアヴァターラ・ブレイドの背にくくりつけ、鳥形態にしたそいつを外に飛ばす。

 ひゅっ――

 窓から飛び立っていったアヴァターラの映像が、某の小型ノートパソコンへと送られてきた。
 どうやら、ピーピング・ビーのカメラ映像が遠隔操作範囲外に行ってもどれだけ持つか、という実験らしい。
 しかし――
「あ……」

 ピー……――キュルキュルキュル……!

 遠隔操作範囲外へ行人、ピーピング・ビーの映像はすっかりノイズだらけになってしまったのだった。
「ダメだな、こりゃ」
 某はため息をついて諦めると、パソコンを閉じた。
「さてと……これからどうするか」
「そんなこと決まってるじゃない。ベルネッサを探すのよ」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)がもぞもぞと這いだしながら言った。
 すでに通路の機晶兵の姿はなくなっている。ようやく狭い部屋から抜けだしたのであった。
 しかし、通路にまで顔を出すわけにはいかない。彼女たちは、しばらくそこで作戦会議をした。
「そうは言っても、闇雲に探したって見つからないわよ?」
 詩穂が当然のことを言う。他の仲間もうなずく。
 実際、ベルネッサの居場所は把握してるわけではないし、しらみつぶしに探すしかないのか?
 が、セレンフィリティはニヤッと笑った。
「それは……こうするのよっ!」
 途端、である。

 ガッ!

「ナ、ナンダ!」
「大人しくしなさい! ド頭ぶち抜かれたいの!?」
 通路を渡ろうとした機晶兵の気配を察知していたのか。
 セレンフィリティが指揮官機晶兵の頭部を掴んで、その身体を部屋の中に引っ張り込んだ。
「…………」
 銃を突きつけているのは、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だった。
 ソーラーフレアと呼ばれる太陽光エネルギーを利用した銃器である。
 その銃口から放たれるレーザーを食らえば、機晶兵など一撃でお陀仏だろう。
 機晶兵もそれをわかっているのか、必要以上の抵抗はしなかった。

● ● ●


 指揮官機晶兵からあくまで“穏やか”に話を聞き出した結果。
 ベルネッサの居る場所は要塞の最も最上部にある司令室だということがわかった。
 要塞には特別な捕虜を入れておく牢屋があり、ベルネッサはジークロードに連れてこられてすぐにそこに入れられたらしいが、その後、司令官――つまり、クドゥルによって、司令室へと連れていかれたという。
「了解。助かったわ」
 指揮官機晶兵からHCを奪い取ったセレンフィリティはようやく手を離した。

 ゴトッ……

「ア、ガガガ……」
 機能ストップ寸前まで傷ついている機晶兵は無情にも床に転がる。
 随分と痛めつけられた跡があるのは、ご愛敬だった。
 そのときである。

 ピピピッ……――

「何の音?」
 突然鳴った音に、セレンフィリティたちは警戒の色を顔に浮かべた。
 が、それは杞憂だったと知る。音は、それぞれのHCから鳴っていたのだった。
「これは……」
 HCの画面をのぞいた某が驚きを表した。
 そこにはエースたち他の契約者が送ってくれた要塞内部の地図が表示されていたのである。
 これならば、ベルネッサが囚われている司令室まで行くのも楽になるだろう。
「よし、それじゃあ行きましょう!」
 セレンフィリティが決起して、彼女たちはさっそくその場から移動を始めたのだった。

● ● ●


 そこは牢屋であった。
 暗く、澱んだ空気が辺りを支配している。
 じめっとした世界。明かりと言えるのは、わずかな壁の松明のみ。
 そこに――黒き髪の男がやってきた。
「こ、これはクドゥル様……!」
 門番の機晶兵が立ちあがった。
 意思と呼べるものをわずかに有しているその門番は、クドゥルの冷たい瞳にすくみ上がったのである。
(クドゥル……?)
 そこで、牢の中に閉じ込められていた少女がようやく顔をあげた。
 そう。ベルネッサである。――彼女はもはや、身動きが取れない状態にあった。
 両手両足を鎖に繋がれ、壁に縛りつけられている。憔悴しきったその顔は、まともな食事も与えられていないことを物語っていた。
 しかも随分と痛めつけられたらしい。身体中が傷だらけで、ズタボロの状態であった。
 そのベルネッサの前に来て、クドゥルが彼女をねめつけた。
「あたしを……どうするつもり……」
 ベルネッサは傷む身体をなんとか動かし、そんな言葉を吐き出した。
 クドゥルが彼女をじっと見つめる。冷たく、刺すような鋭い眼差し。
 やがて、クドゥルがようやく口を開いた。
「あなたにはアダム様のもとに連れ添っていただくつもりだったが……少々、予定が変わった」
「予定?」
「そう。あなたにも手伝っていただこう――無謀な侵入者どもの、排除をな」
「……!?」
 そのときである。

 ズババババババアッ!

「うああぁぁぁぁぁっ……――――!」
 クドゥルの手がベルネッサの胸にかざされたと思ったら、次の瞬間には、彼女の身体から黒い炎のようなオーラが立ちのぼっていた。
 そのオーラに焼き尽くされるよう、ベルネッサが激しく痙攣し、悲鳴をあげる。
 しばらくして、痙攣が収まったとき――
 そこにいたのは、もはやベルネッサと呼べる者ではなくなっていた。
「鎖を外せ」
「えっ……はっ、ははっ!」
 呆然と立ち尽くしていた門番は、慌ててベルネッサのもとに駆け寄って鎖を外した。
 が、ベルネッサは逃げようとはしない。むしろそうすることが当たり前かのように、自身の腕と足首の感触を確かめる。
 その目は暗く、漆黒。
「行くぞ」
「……はい」
 クドゥルの指示に静かなる声で答えて、ベルネッサは彼の後に従って歩きだす。
 その後ろ姿を、唖然とした門番が見つめていた。