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リアクション
第3章 機晶石の魂 4
ベルネッサと契約者たちが激戦を繰り広げている間――
神官とともに、十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)やルカルカ・ルー(るかるか・るー)たちがクドゥルへと戦いを挑んでいた。
しかし、彼女たちとクドゥルだけの攻防戦ではない。
そこには、複数の飛行機晶兵たちの姿もあった。
ワアアアアァァァッ!
機晶兵と機晶兵がぶつかり合い、武器を交差し、激しい駆動音と破壊音を鳴らす。
そう。クドゥルもまた、部下の飛行機晶兵たちを司令室に呼び出していたのだ。
神官が連れてきた機晶兵、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が連れてきた機晶兵、そしてルカたちの連れてきた機晶兵と空賊たち。
混戦の様が、そこにありありと広がっていた。
そして――
「つおおおおぉぉぉぉっ!」
ズガァッ! ガイィンッ! ガシイィッ!
クドゥルに向けて、宵一は猛然と剣を振るう。
その戦いぶりや、若いながらも歴戦の重みを感じさせた。
彼は若きバウンティハンターだが、これでも、彼なりにいくつかの修羅場はくぐってきたつもりだ。
が、それでも――クドゥルを相手に戦いを有利に進めるのは難しかった。
ガシィッ! ズガァンッ!
「くそっ……当たらない!」
「所詮はしがない賞金稼ぎごとき――私に敵うとでも本気で思ったか!」
その瞬間である。
ゴオオオオオォォォ!
クドゥルが振るった右手に従って、黒き風が宵一に向かって吹きつけた。
風は刃となり、刃は宵一を狙う。
ザシュウウゥゥ!
その刃を間一髪のところで避けながら――
宵一はしかし、まるで最初から狙いはそこにあったというようにニヤッと笑った。
「かかったな! 今だぜ、リィム!」
「はいでふっ!」
「なにっ……!?」
そう、まさに……宵一の狙いは黒き風だったのである。
クドゥルの操る黒き風が全て宵一へと集中的に向かったところで、横合いから、神狩りの剣を握ったリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)が飛びだしてきた。
彼(?)の力はいまや普段のそれを凌駕している。
宵一から与えられた潜在能力解放が、リィムの力を数倍にもパワーアップさせていたのだった。
「くっ……」
とっさにクドゥルは避けようとする。
しかし――
「させないもん☆」
「!?」
ズガアアァァァン!
頭上に空間が空き、そこから落下してきたのは巨大な機晶戦車だった。
発動者は――コアトー・アリティーヌ(こあとー・ありてぃーぬ)だ。
亜空のフラワシを使って、コアトーは機晶戦車を亜空間から引き出したのであった。
それによって、クドゥルは一瞬動きを制止させられる。
それがマズかった。
「僕だって、勇気はあるんでふううぅぅっ!」
ザシュウウウウゥゥ!
「ぐおおぉっ!」
リイムが振り抜いた神狩りの剣が、クドゥルの身体を引き裂いた。
致命傷を負ったクドゥルは、なんとか体勢を立て直そうと距離を取る。
そこに――
ヒュゴオオオオオオォォォォォ!
鮮烈な風の嵐が、クドゥルの身を叩きつけた。
「なにっ!?」
「風はそちらの専売特許ではありませんよ!」
風を纏っていたのは、富永 佐那(とみなが・さな)だった。
衣服の上から装着したグラウスアヴァターラ・ベストの力によって、佐那の周りを風が舞う。
「こしゃくな……!」
クドゥルが放った黒き風が、佐那の放つ風とぶつかり合った。
ゴウオオオオオオオォォォォ!
すると、その二つの風がせめぎ合っている間に――
「此方からも参ります!」
側面から、エレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)が二本の短槍を持って飛び込んできた。
「ちっ……新手かっ!」
とっさに、クドゥルはもう片方の手で剣を握り、エレナの攻撃を受け止める。
ガキィッ!
だが、その瞬間――
「本命は、此方ではありませんわ!」
「……!?」
クドゥルが見あげた風の真上に、いつの間にか佐那の姿があった。
強力な特殊力場небесныйを発動させ、その力によって頭上高く舞い上がったのだ。
パラキートアヴァターラ・グラブを使い、ボール大に凝縮された風の塊が目の前にセットされる。
佐那はオーバーヘッドで、その風の塊を蹴り飛ばした!
ーウィアヴァターラ・シューズを履いているからこそ成せる技である。
しかも、よく見れば……その風の塊は電撃を纏っているではないか!?
シューズの風の塊との間にコインを挟むことで、高圧電流を発生させてプラズマを起こす。
雷顆閃と呼ばれる、佐那が編み出した電撃の技であった。
ズガアアアアァァァン!
「ぐおおおおぉぉぉ!」
言わば『風雷(プラズマ)シュート』と化した風の塊をまともに受けて、クドゥルはふき飛んだ。
地面を抉り、もうもうと立ちのぼった煙にまみれる。
「くそっ……契約者どもめ……」
それでも、立ちあがるのはさすがというべきか。
そこに――
ガキイイイィィィン!
二刀流の構えで聖槍ジャガーナート振るうルカが飛びこんできた。
「くっ……! こしゃくな……!」
「クドゥル! あなたに残されている力はもうわずかしかないわよ!」
クドゥルの剣とぶつかり合いながら、ルカが叫んだ。
彼女の言う通り、数の利、そして契約者たちと神官の組み合わさった力によって、クドゥルの勢力は徐々に削がれつつあった。
「そろそろ、観念する時が近づいてきたんじゃないのか?」
ズバアァァァァァ!
先端から電撃を放つスポーン触手を伸ばしたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が、その先端によって貫いた機晶兵を容赦なく放り投げた。
ガシュウッ……――
「ダリル……それ……」
身体にスポーンを装着しているダリルに、一瞬であるがルカが驚く。
「近接用の兵装だ。俺の光条兵器は近接戦に向かないからな」
ダリルは淡々とした声でそう答えた。
彼は兵器である自分に誇りを持っているのだ。そのためならば、自らの改造すら厭わない。
「…………」
地面に転がった機晶兵と冷厳な瞳で見据えてくるダリルとを、クドゥルは見比べた。
その顔に浮かぶのは焦りか、悲壮か。
だが決して――諦めではないことを、ダリルたちは感じ取っていた。
「クドゥル!」
ルカが戦意をその構えから解いて、彼に叫んだ。
「こんな戦いに何の意味があるって言うの! 無転砲が撃たれれば、今度は浮遊大陸が崩壊するだけじゃ済まない! 浮遊島全てがなくなり、地上にまでその被害が及ぶのよ!」
「しかし! それによって、浮遊大陸は新たな一歩を迎えることが出来る!」
痛みを感じながらも、平静を保とうとしていたクドゥルが、激昂した。
「貴公らにはわかるまい! アダム様の偉大さが! 機晶石に頼り、守られるだけの世界に何の意味がある! アダム様はそんな狭い世界から我々を解放しようとされているのだ! 騎士もおらぬ! 機晶石もない! 新たな秩序の世界へと!」
「新たな秩序が必要だなんて……誰が決めたっていうのよ!」
ルカは怒りを露わにして、叫んでいた。
「そんなのは、勝手だわ! みんな、自分たちの暮らしや秩序を少しずつ積み上げてきた! その結果が、あるんじゃない!」
「それが所詮は粗末なものだというのだ! 浮遊大陸は……いや、世界は、アダム様のもとに統一されなければならない! 大いなる力によって、導かれなければならないのだ!」
「そんなもの…………――――誰も望んじゃいない!」
ルカは槍を振りかぶり、飛びだしていった。
クドゥルが構えを取る。振り抜かれた右手によって、黒き風が飛ぶ。
――かに、見えたが!?
「させん! はああああぁぁぁ!」
ズドオオオオォォォ!
ゴッドスピードの加速を乗せたダリルが、一瞬のうちにクドゥルの懐に潜りこんでいた。
「どぅああああぁぁぁっ!」
そのままクドゥルを弾き飛ばす。
直後――
「!?」
「このおおおおぉぉ!」
ズガアアァンッ!
頭上に迫っていたルカの一撃が、クドゥルをふき飛ばした。
ドゴオオォォォ!
「ぐふぅっ……」
壁にめり込んだクドゥルは、そのまま地面へと倒れ込む。
すかさずルカたちはクドゥルに追い打ちをかけようとした。
だが、そのときである。
ばぁっさっ! ばぁっさっ!
「ブラックドラゴンッ!?」
主人の危機を見かねたブラックドラゴンが、クドゥルのもとへと翼をはためかせてきたのである。
ブラックドラゴンは気絶したクドゥルを背中に乗せて、飛び立とうとしていた。
とっさのことに、つい動けなくなるルカたち。
「させんけぇっ!」
そこに飛び出したのは、清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)だった。
「青白磁様! ドラゴンの弱点は、背中の鱗ですわ!」
青白磁の背中へと、セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)が呼びかけた。
仲間のHCを通じて、飼育施設から情報を聞き出したザミエルとレギオンが教えてくれていたのである。
「わかったけぇっ!」
すでに飛び立ち始めたドラゴンを見据えて、青白磁が叫ぶ。
その対象と目的は予想だにしないものだった。
「詩穂! わしの足場になってくれぇ!」
「いいっ!? 詩穂がぁっ!?」
ちょうど青白磁のコース上にいた詩穂は、驚きながらもとっさに身構えた。
その肩に、青白磁の足がかかる。
ぐっ……――バアアアァァンッ!
詩穂の身体を足場にして、青白磁はドラゴンの上にまで跳躍した。
そのまま――
ズドオオオォォォ!
拳が、ドラゴンの鱗へと叩きつけられる!
ぎゃおおおおぉぉぉぉ!!
ドラゴンの、激しい悲鳴が轟いた。
しかしながら、致命傷には至らなかったらしい。
軽いふらつきを起こしたものの、ドラゴンは決死の飛行で移動要塞を脱出した。
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