リアクション
● ● ● 率直に言うならば―― 唯斗が感じた可能性というのはその通りだったと言える。 彼らが機晶兵たちの目をかいくぐって通路を進んでいたまさにそのとき、移動要塞の壁をぶち抜いて、一人の神官が現れたのだった。 〈侵入者ハッケン! 侵入者ハッケン! タダチニキュウコウセヨ!〉 警報装置が大音量で危機を告げ、機晶兵たちが続々と現場に急行する。 それを正面から見すえながらその神官は―― 「ふんっ……!」 ヒュッ――ズバアアアアァァァッ! ズドオオオオォォォン! ひと振りの大剣を手に、一気に機晶兵たちをなぎ払ったのだった。 「うひゃーっ、すごぉい!」 その様子を後ろから見ながら、はしゃぐ人影が一つあった。 飛空艇の不時着した浮遊島で、神官のいた神殿に入り浸っていた桐生 円(きりゅう・まどか)である。 彼女は突如として移動要塞に向かった神官の後に金魚の糞のようにひっつき、ついにはここまでついてきてしまったのだった。 その興味はすべて、神官へと向けられている。 「ねえねえ! ベルを助けにいくんでしょー?」 「………………」 「ってことは、昔からの因縁の相手とか? そいつって嫌なやつ?」 「………………」 「ああっ、もしかして神官さんもクォーリアの騎士ってやつ? ベルネッサたちが見つけた遺物から、そんな名前が出てきたんだって!」 ズバァッ! ドッ! ズゴオオオオォォン! 機晶兵たちが次々と破壊されていく中で、円の質問は実にのんびりとしたものだ。 が、やがて、ほとんどの機晶兵を倒しつくし、床に転がるのがそのスクラップだけになったところで、神官が口を開いた。 「……クォーリアはもういない。どこにもな」 「うん。なんか……ホログラムの人? ベルネッサのお父さんも、そう言ってたんだって。自分が最後の生き残りだって」 「奴がそう言ったなら、それが真実だ。あたしはただ、逃げ出しただけの騎士だからな」 「あたし?」 神官が思わず口走った言葉に、円が引っかかる。 余計なことを言ってしまった。そのような表情を、フードの奥に隠れた顔にかすかに浮かべ、神官はまたスタスタと歩きはじめた。 「わわっ、待ってよぉ〜!」 円は慌ててその後を追っていく。 少しだけ神官との距離が近づいたような、そんな気がしていた。 ● ● ● チュドオオオオオオオオオオォォォォォォン! 移動要塞の一部で大爆発が起こったのは、神官が突入して間もない頃だった。 「わーっ! やりすぎたー!」 「だから言っただろ! 取りつけすぎじゃないのかって!」 爆発が起こった場所から、逃げるように通路を走る二人の人物がいた。 遠野 歌菜(とおの・かな)、そして月崎 羽純(つきざき・はすみ)の二人である。 恐らくは二人とも、美羽たちとは別ルートで要塞に侵入したチーム。 の、はずなのだが、なぜか歌菜は魔法少女アイドル風の衣装を身に纏っていた。羽純は比較的普通だが、歌菜のほうは、潜入とはとても思えない衣装である。理解がおよばない。 だが彼女がその衣装を身につけているのには、それなりの理由があってのことだった。 「うううぅぅ……だってだって! あんなに人が集まるなんて思わなかったんだもん! やるからには派手にって言ったのは羽純くんのほうじゃない!」 「そりゃそう言ったけれども……あんなに大騒ぎになるなんて誰が思うか!」 そう。実はこの二人は別ルートから要塞に潜入し、敵を引きつける役を買って出たのだった。 もちろん、そのためにはある程度は派手に演出をしないといけないし、どうせなら敵も一掃しておきたいところである。そこで歌菜が講じた策が、歌が敵を引きつける! という、なんとも間抜けというか奇抜というか……みたいな方法だった。 結果だけ言えば、それは成功したと言える。 簡易的なアイドル用のステージを用意して、そこにスポットライトを当てて歌う歌菜を、機晶兵たちは目ざとく見つけた。これが人間なら、こんな明らかに異質な誘い方、違和感を覚えるか、疑問を感じるところだが、そこは機晶兵。条件反射的に、次々と歌菜のほうへと向かってきたのである。 そこに、隠れていた羽純が剣の雨を投下! ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ! 相手が引き下がったところで、ついに設置していた機晶爆弾が爆発したのだった。 ただし――思いもよらない爆破量で。 「ひいいぃぃんっ! こんな騒動になるなんて思ってなかったんだよぉ!」 歌菜は泣きながら自身の潔白を叫ぶ。いまさら遅かった。 「まあ、結果的にはこれで良かったんだろうが……少しやりすぎか?」 羽純が後ろを振り返ると、そこにはもうもうとあがる煙から現れた複数の機晶兵たちが追いかけてくる姿があった。 心なしか、怒っているようにも見える。もちろん、機晶兵なのでそんなことはないと信じたいが。 「とにかく逃げるが勝ちだ! 一体でも多く引きつけるぞ!」 「り、了解!」 二人の壮大な脱走劇が始まろうとしていた。 |
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