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【裂空の弾丸】Recollection of past

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【裂空の弾丸】Recollection of past
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第1章 移動要塞への激戦 1

 ごぉっ、ごっ、ごおおおおおぉぉぉんっ……――!!

 空を、バハムートに乗った御凪 真人(みなぎ・まこと)が駆けていた。
 蒼穹と雲が流れる空である。真人の背中には、氷雪比翼の透き通るような氷の翼があったが、さすがにこの天空においては召喚獣のほうに分がある。轟然と唸りをあげるバハムートの背中で、真人は敵との接触を感知した。
「来ますね……セルファ! 準備は良いですか!」
 呼びかけたのは、隣を飛ぶ少女に向けてであった。
「いつでも良いわよっ!」
 その少女、セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)は意気揚々として答えた。
 六熾翼の六つの翼を背に、ひゅおおおおぉぉと巻き起こる風に流されぬよう細心の注意を払う。
 その眼前――

 ぎゅおおおおおおおぉぉぉ!!

 無数の空中生物たちが、雲の切れ間から姿を現した!
 その数、数え切れないほどである。グリフォンに乗った高速機動部隊、ハーピィ部隊、突撃翼竜部隊。複数の部隊に分かれる空の魔物たちは、一斉に真人たちへと襲いかかってきた。
「いきますよ! まずは――先手必勝!」
 真人が魔杖シアンアンジェロの杖を構えた。
 まず止めるべきは高速機動部隊である。グリフォンに乗った機晶兵たちのスピードは、こちらに負けず劣らずだ。逃してしまうと、後方の仲間たちのもとへと接近してしまうことは明らかだった。
「サンダーブラスト!」

 ドゴオオオオオォォォ!

 凄まじい電撃の嵐が、高速機動部隊へと迅った。
 すかさず、真人は両サイドにいる二体の召喚獣に指示を出す。
「サイダーバード! フェニックス! 敵を攪乱しますよ!」
 二体の召喚獣はその呼びかけに唸りをあげ、敵陣へと突っ込んでいった。
 その勢いに、グリフォンに乗った機晶兵たちが、のきなみ浮き足立った。
「ヌオォッ!? 展開ダ! 展開セヨ!」
 リーダーらしき機晶兵が仲間に命令し、陣形を散開させる。
 そこに――
「逃がさないわよ!」
 セルファが加速を乗せて、黎明槍デイブレイクを振るった。
 太陽の光のごとき輝きを放つ槍が、幾線もの閃光を紡いだとき、グリフォンたちの翼は切り裂かれている。

 ギュオオオオォォ!

 翼を裂かれたグリフォンは悲鳴をあげ、機晶兵たちごと落下していった。
「ヌゥ……ヤルナ!」
 機晶兵どもはすぐに陣形を取りもどそうとした。リーダーが命令を下し、すかさず部隊が動き出す。
 が、その前に真人が再び雷撃を放つ。
「サンダーブラスト!」

 ズガアアアァァンッ!

 高速機動部隊の間にスパークが巻き起こった。
 複数のグリフォンや機晶兵が煙をあげて落下する。しかし、それで終わりではない。真人は杖を腕の中で旋回させると、体勢を整え、次なる魔術を放った。
 その名も――
「ポジトロンバスター!」
 光輝と雷電の魔力を収束させた、真人のオリジナル魔術であった。
 それは言わば巨大なビーム砲と同じである。杖の先に収束した莫大な魔力が、一瞬で敵の真ん中に放射された。

 きゅううぅぅん……――ゴッ! オオオオオオオォォ!

 もろに直撃を食らった敵は、一瞬で消し炭になる。
 かろうじて逃れた連中も、グリフォンの翼を失ったり、身体の一部を破壊されたりし、まともな戦闘はままならなかった。
 まさに敵はいま真人たちの力を目の当たりにしたのである。
 一瞬、部隊がひるむ気配がした。
 が、数には向こうに分がある。
 そのことは、機動部隊もよくわかっている。
「……ヒルムナ! クドゥルサマノタメ、我ラノチカラ、見セツケテヤルノダ!」
 機晶兵の一人が剣を振りかざして先陣を切り、後の部隊が続々と続いた。
 それを見据える真人とセルファは――
「負けられないのはこっちも一緒! 真人、行くわよ!」
「ええ!」
 二人並び、杖と槍を構え、真っ向から立ち向かった。

● ● ●


 空中戦闘開始直後――
「ふん! ガンマニアの実力、存分に思い知らせてやるわ!」
 不敵な笑みとともにそう告げたのは、小型飛空艇ヘリファルテに乗り込む相沢 洋(あいざわ・ひろし)だった。
 彼は飛空艇の船首部分に右脚を乗せ、我こそはここに在りというように高笑いをあげている。
「あーっはははは!! いいぞ、これぞ戦場! これぞ戦い! 素晴らしきかな、戦闘曲だ!」
 もはやどっちが悪者かわからないぐらいのテンションだった。
 が、それはあくまで洋が薬莢と銃火器の焦げ臭い匂いに興奮を覚えるためだからに過ぎない。
 彼はキリッと表情を変えると、振り返りざまにパートナーたちに告げた。
「これより制空戦闘を開始する。作戦目標は友軍の要塞突入支援! 手段は各自自由行動! 攻撃開始!」
「あいあいさ、マスター。……それにしても、空対空攻撃ですか。まあ、いつもどおりですけど。最近小型飛行艇と空挺戦術ばかりハマってませんか? 以上」
 小型飛空艇ヴォルケーノに乗っているエリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)が無表情に淡々と答えた。
 次いで――
「いつもどおりの空爆ですか……。はあ、世界の危機というのにあいもかわらず、戦闘マニア。まあ、いいですけど」
「にしても使えるのかねぇ……この爆雷……。新装備らしいけど」
 乃木坂 みと(のぎさか・みと)相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)が、声を続かせる。
 みとは小型飛空艇オイレ、洋孝が小型飛空艇アルバトロスと、洋たちはそれぞれに一機ずつの小型飛空艇を操縦していた。
「制空権だ! とにかく要塞突入部隊の支援だ! 要塞を護衛する航空戦力を叩きまくれ! 機体なんぞ、くれてやっても構わん!」
 言うと、さっそく洋は襲いかかってくる空中生物たちに対して攻撃に転じた。
 まずは――

 うぉんうぉんうぉんうぉん……――!

 耳障りな音を発する超音波を発生させる。
 サイコキネシスの音波である。精神力の念波を食らったハーピィどもが、そのままひるんでしまった。
 瞬間。

 がしゃんっ

 二対のラスターハンドガンを構えた洋が、いくつもの銃弾を撃ち放った。

 ズドドドドドドドドド!

 次々と撃ち抜かれて堕とされていくハーピィ。
 それを横目で見やりながら、みと、洋孝、エリスがそれに続いた。
「まったく……洋もあいかわらずですわね。それでは、楽しい戦闘の時間ですわ」
 みとの手から放たれるのは複数の魔術であった。
 火、雷、氷、と、いくつもの属性の魔術が空中を飛び交い、翼竜へと襲いかかる。
「大航海時代の爆雷戦術はこうするってな! 食らいやがれ! 機雷、一番投下!」
 洋孝がフューチャー・アーティファクトを撃つと共に、小型空中機雷を投下した。
 アーティファクトと称される未来から転移してきたライフルの銃口からは、巨大なビーム砲が撃ち出される。
 洋孝が乗るアルバトロスを追いかけてくるのに必死になる翼竜は、機雷の直撃を受けて爆炎に飲み込まれた。
「狙い確保――以上」
 エリスの指が、ヴォルケーノの小型ミサイル発射ボタンにかけられる。

 ピピピピ……――

 モニターに映る敵影へと照準が合ったのを見て――発射。

 ズガアアアアァァンッ!

 一斉に飛びだした複数のミサイルは、翼竜にぶつかると爆発。
 一瞬で敵を炎の渦に飲み込んでしまった。
 次いで、エリスは更なる攻撃を企てる。
「ミサイル残弾ゼロ。剣の結界発動。神威の矢、目標確認。狙いは……外さないです。以上」
 ミサイルの爆撃を受けてダメージを負っている翼竜たちに、神威の矢を射放つ。
 敵がどこにいようとも、神の加護を持って命中させる奇跡の矢は――

 ズシャアアアアアッ!

 見事に翼竜を貫いた。
「うむ、それでこそ我が相沢の部隊よ! 私はお前たちがパートナーであることを誇りに思うぞ!」
 洋が銃弾を連射しながら言い放つ。
 その言葉はみとたちパートナーにとって何よりも喜ばしい賞賛だった。
「洋さま……! 嬉しいですわ!」
 みとが紅潮した顔でキラキラと叫ぶ。
 喜びを隠そうとはまったくしなかった。これぞ、乙女心か!?
「へんっ! じっちゃん、僕は二人の血を引いてるんだからあったりまえだろ!」
「じっちゃんと呼ぶな、バカモノが!」
 みとと洋を、じっちゃんばっちゃん、と呼ぶ洋孝でも、洋は一種の愛情表現で怒鳴り散らす。
 それに混ざらないエリスは、淡々とした表情で肩をすくめた。
(これがいわゆるなれ合いってやつですかね……)
 実際には、家族や仲間同士ではこういう掛け合いはそう珍しくはなく、“仲が良い”ということに過ぎないわけだが。
 エリスは剣の花嫁ながら記憶をなくしているせいか、その辺の空気や雰囲気がよくわからず、それが“なれ合い”という風にも捉えてしまうのだった。
 まあ、いずれ彼女にも分かる時が来るだろう。
 洋もそれを知っているから、ことを焦るようなことはしなかった。
「やれやれどんどんやれ! 撃ちまくれー!」
 その後も次々と空中生物たちとの激戦を繰り広げる洋たち。
 やがて、銃弾やミサイルが底を尽きかけてきた頃には、あまりに突貫しすぎたせいか。
 小型飛空艇も破損が酷く、機体が持たなくなってきた。
 こうなれば最後の手段である。洋がニヤリと笑みを浮かべて、パートナーたちに叫んだ。
「ははは! ここまできたらせっかくだ! 連中に、相沢空挺団の嫌がらせの仕方を見せてやろう。機体ブースト展開! 最大加速確認! 地獄の果てまで届けてやるぞ!」
 すると、洋は機体維持などお構いなしに、ブーストを加速させた。
 このままでは敵にぶつかるのも時間の問題か!? しかし、それは承知にの上だった!
「機体放棄ですか? いつもと同じですが、あまり気が進まないですね……」
 先ほどの洋に対する愛情はどこ吹く風か。
 みとはため息をついた。しかし、洋の言う通りにしっかりとブーストを加速させている。
「おっしゃあぁ! こっちもくれてやるぜ!」
「機体投下攻撃開始――以上」
 洋孝とエリスもそれに続く。
 四機の小型飛空艇がブーストをフルスロットルさせて、翼竜部隊の真ん中に突っ込んだ。
 すると――

 ちゅどおおおおおおぉぉんっ!

 大爆発!
 敵にぶつかった小型飛空艇が、一気に爆破を起こして、空中生物たちを巻き添えにした。
 さて、となれば洋たちはどうなったかと言うと――
「ははははっ! どうだ! 我が相沢空挺の威力、思い知ったか!」
 いつの間に用意したのか。
 パラソルチョコを背中に広げて、ゆっくりとふーわふーわ落下していた。
 ちなみにチョコで出来たパラソルを付けているのは、洋とみとの二人。
 あとの二人は、熾天使化で羽を生やし、天女の羽衣を纏ったりして、その代わりとしていた。