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古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』

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古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』

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「……さて、一つの可能性は提示されたが、実際どうするか」
 重々しく口を開いたケイオース・サイフィード(けいおーす・さいふぃーど)に対し、この場に居る者たちは思う所はありつつも、次の一言が言い出せない。口に出していいのだろうか、という思いが蔓延していた。
「ど、どうするの、カヤノちゃん?」
「あ、あたしに聞かないでよアオイ。そ、そうね……。

 ねえ、ミーナ。あんたはその『根』と『深緑の回廊』が繋げられるって言ってたけど、ホントに出来るの? まずはそこからやってみない?
 実際どうするかはそれから決めたっていいんでしょ? ちょっと繋げただけで怒られるとかだったら困るけど」
「そ、そうだね。うん、じゃあちょっとやってみるよ」
 心底助かったといった表情を浮かべ、ミーナが自分が取り込まれていた所に戻る。
「一本だけなら、大丈夫だよね……?」
「知らないわよ、何かあったらあんたのせいにするからね」
「ミーナさん、不測の事態の時は私達が力を貸します。ミーナさんは目の前の事に集中してください」
 セリシア・ウインドリィ(せりしあ・ういんどりぃ)に続いてセイラン・サイフィード(せいらん・さいふぃーど)サラ・ヴォルテール(さら・う゛ぉるてーる)が頷き、カヤノ・アシュリング(かやの・あしゅりんぐ)も慌てて「た、助けてあげないこともないんだからね!」と付け加える。
「ありがとうございます、頼もしいです。
 …………いけました。特に阻害されるようなことは無いみたいです」
 ミーナの発言に、安堵した雰囲気が漂う。契約者の拠点とイルミンスールが僅かでありながら繋がったことで、いくつかの変化が生まれた。
『皆さん、ご無事ですか!?』
 突然声が届く、それはイルミンスールに居るコロンのものだった。ミーナの異変により寸断されていた通信が、彼の回復により繋がったようであった。
「うん、みんな、無事だよ。もちろん僕も、みんなに助けられた。……心配かけてごめんね、コロン」
『……あうぅ、おにいちゃんのばかぁ……わたし、すっごく心配したんだからね……』
 嗚咽混じりの声に責められ、ミーナがなんとか落ち着かせようと奮闘する。ようやくコロンが落ち着いた所で今度は、契約者から直接こちらへ呼びかける声があった。
『うおーい。聞こえてっかー? なんか通信回復したって言うから、かけてみたー。
 聞こえてたらそっち行く手間省けるから、返事してくれー』
 それは、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)のものだった。


「なんか話を聞く限り、天秤世界とイルミンスール繋げちゃおーって事になってそーなんだけどさ。
 ねーミーナ、俺がいっちゃん最初に尋ねたこと覚えてる?」
 アキラの質問に、少しの間があって、ミーナから回答が返ってくる。
『「今回の目的は、ウチラが天秤世界に介入することにより事件を解決し、イルミンスールの力の減少を防ぎ、寿命を延ばす事だと思うんだけど……逆にウチラが介入することで戦況・状況が悪化・激化、イルミンスールの力の減少を防ぐどころか逆にイルミンスールの使う力が予定よりも増加、寿命を延ばすどころか逆に減らしてしまう……最悪、ヘタすりゃこの事件でイルミンスールが枯れちまう可能性もありうるって認識でいいのか?」』
「すげー、一字一句間違いなく覚えてら」
「アキラ、どうせ自分が言ったことなど忘れてるのであろう? 確かめる術などあるまいて」
「失礼しちゃうわねー、そりゃ完璧には覚えてねーけど、だいたいは覚えてるっつーの。
 ……悪ぃ、話ズレた。んでさ――」
 横槍を入れたルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)を向こうにやって、アキラが言う。
「龍族と鉄族はなんとか停戦状態に持ち込めたみたいだけど、今度は龍族プラス鉄族プラス契約者に匹敵する新たな勢力が出現してんだろ。これはまあ、悪化してるかどうかはわかんないけど、激化はしてると思うんだ。そして忘れちゃいけないのが、イルミンスールは最下位の世界樹ってこと。
 天秤世界の力を送り込む、それがもし出来たとしてもそれどころか、逆に天秤世界にイルミンスールの力が奪われちゃう可能性も十分考えられるんじゃね?」
 その言葉に、ミーナの返事はしばらく返ってこなかった。あーこりゃ相当考え込んじまってるなー、落ち込んでるのかもなー、そんな想像をアキラは働かせる。
「ちなみに聞いとくけど、力を送り込まなかったら今回みてーな事またしなくちゃなんだろ? イルミンスールの寿命減らしてんのはこれだけじゃねーはずだし」
「……そうだね。何回になるか分からないけど、やらなくちゃいけないと思う」
「ふむ。で、天秤世界の力を得ることが出来たらすげー寿命が増えっけど、天秤世界は崩壊するか消滅するか、まあどうにしろ天秤世界が持ってた役割をうちらが引き継ぐって話だ。
 寿命減らないようにすっか、寿命増えっけどその分働けってことだろ? 結局働くんなら、オレらのすることに違いはあんまりねー。だったら、やってみりゃいいじゃん?
 もし逆に吸い取られそうになったら、オメーの根なんだからオメーが中継で見張ってて、すぐに回線を切断とかしちゃえばいいんだしさ。
 ……ほれ、これでどうだ? ちっとはどうすっか、まとまったか?」
『あはは……アキラさんは僕を困らせたいのか助けたいのか、よく分からない人ですね』
「おいおい、困らせるつもりはねーっての。よく考えもしねーでテキトーな事言ってるヤツがいんだよ、この世の中には。
 そうなってほしくはねーわけ。オメーはすんげー力持ってんだからさ、力の使い所間違えっとひっでぇ事になんだからな?」
『ですよね……はい、ごめんなさい』
「調子狂うなチキショー。んじゃ、後は任せたからな?」
 最後は一方的に通信を切って、はぁ、と息を吐く。
「おまえは適当なようでいてお節介じゃのう」
「なんつーかさ、真に受け過ぎなんだよ。テキトーに受け流しときゃいいのにさ」
「全員が全員、おまえの言うように振る舞えるとも限らんぞ。わしが思うにそうなるには相応の年月と経験が必要だからの。
 ……さて、わしはアーデルハイトに確認しておきたいことがあるでの。ちと、借りるぞ」
 ルシェイメアが、アキラが使っていた通信機を用いて、アーデルハイトに連絡を取る。
「話は変わるが、先の戦いで我々のタケノコ要塞が大破してしもうての。当然、修理費は出るんじゃろうな?」
『何を都合のいい話を言っておる。契約者は普通の労働者より数倍も多く稼いでおろう、自腹じゃ自腹』
「……なに? 貴様、イルミンスール存亡に関わる事柄に関わった我々にその仕打ちだと?
 そもそも通常の運用や修理は学校持ちと決まっているだろう。他学校の生徒のだからという断り文句は、昔ならまだしも今は通用せぬぞ。
 なんならアーデルハイト、おまえのヘソクリで賄え。魔王が夫だったんじゃ、結構な額、持っているんじゃろ?」
『ま、その件はノーコメントじゃな。安心せい、持ち出しにはせんよ。おまえたちのお陰で『龍の耳』が軽微な被害で済んだと報告も上がっておる。
 色は付けんが保証はしよう』
「色付けてもいいんじゃぞ? ま、その言葉が得られただけでもよしとするかの。
 ……ふぅ。どうもアーデルハイトと話すと無駄に長くなる。あれは絶対反応を楽しんでおるな」
 通信を切り、ルシェイメアが聞いた通りを説明する。んじゃ後は事件が無事解決して、戻れるようになるのを待つだけだな、とアキラは呟き、セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)の姿が見えない事に気付く。
「セレスは?」
「あぁ、何でも畑を見に行くと言っとったぞ。拠点の浮上の影響から辛うじて免れたらしい」
「ふーん。後で顔出してみっか」

(無事に皆さんが合流出来た時に、食べるものが何も無し、では淋しいですよね。
 ここで戦っている人も居ますし、皆さんのために美味しいものを作りましょう)
 そんな次第で、セレスティアは以前自分が手入れをしていた畑に、ジャイアントピヨとやって来た。幸い、育ちの早いのがちょっと熟し過ぎてしまったくらいで、後はちょうど食べ頃に育っていた。
「ふふ、豊作ですね♪ ピヨちゃん、どんどん収穫しちゃいましょう」
 ピヨ、と答える『ジャイアントピヨ』と、収穫を進めていく。と、セレスティアの目に隣の水田が映った。確か隣の水田ではコメの栽培がされていたはずで、その水田には最後に植えた種籾が立派に成長して稲穂を重く垂らしていた。
「あちら、収穫されないのでしょうか」
 ピヨに尋ねてみても、ピヨは首を傾げるばかり。戦いに赴いているのかもしれないし、何かの事情があって来られないのかもしれない。
「……勝手に入っていけないかもしれませんけど……あの、失礼します」
 誰か居るわけでもない水田に一声かけてセレスティアは立ち入り、水田が荒れていないか確かめた後、最後の分のコメを収穫する。
「美味しくいただきますね」
 皆さんのためにも、そしてこのコメとコメを育てた人のためにも、美味しいご飯を作ろう。
 収穫物を前に、セレスティアはそう思うのだった。