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古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』

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古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』

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 契約者・龍族・鉄族の勢力と『天秤宮』勢力との争いは、どちらかと言えば契約者達の守勢の時間が長くなっていた。
 『天秤宮』からはまるでデュプリケーターの如く次々と敵が湧き出し、絶えず攻勢を続けていた。

『ふー、戦闘開始からずっと休み無しだぜ。
 整備の方は今はまだ処理出来てるな。“灼陽”ん時よりは機体の損傷レベルが低い。けど、いつまでもこのままってわけにもいかないぜ』
 整備班を指揮し、着艦したイコンの整備や修理を担当してきた柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)からの報告を聞き、アルマ・ライラック(あるま・らいらっく)が現在の戦況を映し出すモニターに目を走らせる。
(……戦況は拮抗、いえ、徐々に押されている。桂輔の懸念通り、どこかで打開策を講じなければ――)
 そう思いはするものの、現在の戦況からでは成功率の低い策しか立案できない。かといって時を待った所で、元々低い確率がさらに低くなるばかり。
 変わらぬ表情の裏で、思考の渦に沈みかけていたアルマを救ったのは、緊急の通信だった。

『これから、『天秤宮』とイルミンスールを繋げ、力をイルミンスールへ移動させます』

 そんな切り出しで始まった通信と同時に、イルミンスールから発信された作戦の概要がモニター上に展開される。契約者が通ってきた『深緑の回廊』と契約者の拠点から伸びるミーナの作り出した『根』とを繋げ、『天秤宮』が持つ天秤世界を管理するための力を移送する流れが示されており、その際起きうる事態も示されていた。
(……力を移送されることで、天秤宮の攻勢は多少なりとも弱まる。そして敵の一部は力の移送を阻止するため、回廊と根の接合点へ向かう。
 そのタイミングでこちらが攻勢に転じれば、天秤宮に直接イコン部隊や契約者を送り込む事が出来る。……都合のいい筋書き、だけど――)
 短絡的な思考と認識しつつも、迷っている暇はない。そう結論付け、アルマは桂輔を呼んで方針を伝える。
「ウィスタリアはこれより天秤宮へ発信、敵の防御の薄い箇所を攻め、イコン部隊と契約者を天秤宮に直接送り込みます」
『いいねぇ、殴り込みってヤツだな! んじゃ、着艦してるイコンの修理、済ませちまうか!』
 威勢よく言って通信を切った桂輔へ、アルマは自分の無茶を了承し、付き合ってくれる事への感謝を口にする。
「ありがとう、桂輔。……ウィスタリア、発進」
 アルマの両手がコンソールを叩き、ウィスタリアがゆっくりと動き始める。少しの後、モニターの向こうで『深緑の回廊』と契約者の拠点から伸びる『根』が繋がり、前方の敵の配置に変化が生じた。少なからぬ敵の群れが回廊と根の接合点へ向かい、『天秤宮』からの戦力補充が一時的にストップした関係で、重厚であった敵の陣形に綻びが生じた。
「有効射程に到達、荷電粒子砲発射準備開始。エネルギーライン全段直結、チャージ開始」
 僅かな綻びを広げるべく、アルマが攻撃準備を進める。格納庫では桂輔が見送る中、着艦していたイコンが次々と発進し、直掩機の役割を果たしていた。
「フィールドシェル安定、エネルギーバレル生成。チェンバー内、正常加圧中。エネルギーチャージ発射可能レベルへ到達……」
 試算の結果、二発の斉射で前方の防御を80パーセント撃ち抜く事が出来、戦力集結までに180秒かかる結果が得られる。約3分、インスタントが完成するこの時間は長いか短いか、アルマに評させるならば“十分”。
「荷電粒子砲、発射します!」
 まず一発目の荷電粒子砲が見舞われ、続けて二発目が撃ち込まれる。前方の一定空間にぽっかりと穴が開き、『天秤宮』への道が一時的に開かれた。
「ウィスタリア、全速前進。天秤宮到達まで70秒。搭乗の皆さんは40秒以内に艦を発ってください」
『聞いたな? んじゃ、行ってこい! 決着付けたらちゃんと迎えに来てやるぜ!』
 桂輔の激励が響く中、『ウィスタリア』はバリアを展開しつつ敵陣を突き抜け、損傷わずかで『天秤宮』目前まで到達する。イコン部隊、および契約者が全て艦内から発ったのを確認して、『ウィスタリア』は敵が戦力を回復し、包囲をしてくる前に全速で突破、敵の追撃を振り切って安全圏まで離脱する。
「損傷度、25パーセント。戦闘続行可能」
『お疲れさま、アルマ。まぁまだ終わっちゃねぇけど。
 後は砲撃支援ってとこだな。もう少し、頑張っていこうぜ!』
「……ええ、そうですね」
 桂輔の言葉に頷くアルマ、その表情はこれまでのものに比べ、随分と温かなものだった。


「龍族が天秤宮に取り付くまで、可能な限り敵戦力を引き付けるであります!」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)の指揮の下、伊勢は『天秤宮』付近の敵を出来るだけ多く引き付ける囮の役割を果たす。対して『マガメ族』のコピーとも言うべき『Cマガメ族』は『伊勢』の意図に乗る形で戦力の大半を振り分けてきた。
「左舷、弾幕が薄いのであります!」
 指示を飛ばす吹雪の身体が、上下に揺れる。『Cマガメ族』の爆弾輸送機、『ボムキャリアー』が『伊勢』に爆撃を見舞ったのだ。
「バリア出力、40パーセントに低下! ……今の一撃は効いたわね。あの亀達の情報があればもう少し戦いやすくなるんだけど――」
 『伊勢』の操艦を担当するコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が、モニターの向こうで縦横無尽に飛び回る『Cマガメ族』を険しい表情で見つめる。今のところ彼らが知り得た情報は、目の前の敵は自分達を殲滅せんと襲い掛かってきており、その敵は頭上に浮かぶ『天秤宮』から生み出されていて、ここに辿り着いて止めないことには戦いは終わらないだろう、その程度であった。目の前の敵が何なのか、彼らに有効な戦術は何であるか、全く分かっていない。
『吹雪、コルセア、先程着艦した龍族が『うさみん星』からの情報と物資を持って来たと報告している。
 我の方で物資を確かめたが、使いようによっては有用な武器になりそうだ。龍族をそちらへ案内する、後は頼む』
 そこに、鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)からの通信が入る。格納庫で整備と補給を担当していた彼の誘導で着艦した龍族は、『うさみん星』から出撃してきたという契約者のイコンと接触、今戦っている亀の甲羅を持った敵の情報と、彼らに対して有効な道具を預かってきたのだと言った。
「了解したであります。ちなみにどのような武器でありますか?」
『見たところ、中に大量の弾のようなものが詰められた砲弾だな。これで見えるだろうか』
 二十二号が道具の一つを掲げて吹雪に見せる。その特徴的な形に吹雪が思い当たるものを得た所で、案内されてきた龍族が吹雪とコルセアに挨拶をする。
「私は『執行部隊』第三戦隊所属、パルスです。
 ケレヌス様の指示に従いこちらへ向かう途中、『うさみん星』から出撃したあなた方の機体と接触し、情報と道具を預かってきました」
「葛城吹雪であります。パルス殿、早速情報について教えていただきたい」
 吹雪の求めに従い、パルスが目の前の敵について説明する。彼らはかつて『うさみん族』と戦って勝利した『マガメ族』に非常に特徴が似ているとのことであった。
「似ているから『Cマガメ族』……なるほどね。
 トコトコに、フライヤー、彼らを輸送するキャリアーと爆弾輸送機のボムキャリアー、そして族の長、『マクーパ』……聞く限りだと、手強そうね。
 ねえ、彼らに有効な戦術とか、ないの?」
「彼らは身体能力に優れ、武器の扱いにも長けていると言っていました。自分達は色々な道具を開発したものの、うまく使いこなすことが出来なかったとも」
「その道具の一つが、あれでありますか。まるで『三式弾』のようでありますな」
「それって確か、対空砲弾だったっけ。『伊勢』に発射できる機構、あったかしら?」
「甲板上の砲塔は飾りではないのであります。アレならば三式弾を撃つことが出来るはず。
 マガメ族のまがい物を、焼き尽くしてやるであります!」

 準備が進められ、甲板上に設置されていた砲塔に弾が込められる。パルスには『伊勢』が対空砲火を一通り行った後、残ったマガメ族を撃破してくれるように伝えておいた。
『一番から三番まで、装填完了。発射準備整った』
「了解であります。……さあ、七面鳥撃ちを再現してみせるであります」
 発射の時を待つ吹雪の、モニターの向こうにマガメ族の編隊が出現した。前方に戦闘機の如くフライヤーが控え、後方にトコトコや爆弾を満載したキャリアーが配置されていた。
「目標、前方の敵編隊! ファイヤー!!
 その編隊へ斉射するべく、吹雪が指示を発する。砲塔が照準を付けられ、そして込められた弾が発射されると、なんと弾は誘導されるような軌道を描きながら飛び、敵編隊とすれ違うかと思われた所で炸裂、大量の焼夷弾を宙にばらまく。この威力はなかなかのもので、フライヤーの多くが羽を撃ち抜かれるか、武装を破壊されて戦闘力を失う結果となった。
「効果十分と認めるであります。続けて第二射、準備急ぐであります!」
 吹雪の指示で、次発装填準備が急ピッチで進められていく。その間に出撃していた龍族と鉄族、およびイコン部隊は補給や休息を得て、次の出撃の時を待っていた――。

 『伊勢』が託された弾を撃ち尽くし、数を減らした敵戦力を追撃するべくイコン部隊に出撃指示が下る。
「ここからはワタシ達の出番だね。じゃあ、突っ込むよ!」
 笠置 生駒(かさぎ・いこま)の搭乗するジェファルコン特務仕様も遅れることなく『伊勢』から発進、周囲味方機と状況の確認を行う。
『さっきに比べりゃあ、亀どもの姿も少なくなっとるの。ワタシもちょっとは楽出来る?』
「飲むのは後だよ、シーニー」
『んな分かっとるわ! 生駒、ワタシを飲んだくれと勘違いしとらん!?』
「そんなことないよ。期待してる」
『ホンマやろか……ま、ええけどな! おっと、3時の方向、敵影ありや!』
 シーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)の報告通り、『ジェファルコン特務仕様』の右方向から複数の機影が迫っていた。相手はフライヤーが4、先に受け取った情報から敵は近距離〜中距離戦に長けたスペックであると把握している。
(ジェファルコンはどちらかと言えば砲戦仕様だからね……一機か二機、ドッグファイトをしてくれる機体が居てくれると楽なんだけど)
 そう思いつつも、この戦況ではどこも手一杯かな、そう判断しかけた生駒の下へ通信が入る。
『こちら、『疾風族』第5戦隊所属“強風”。これより敵戦力に攻撃をかける、“Knight Ace”、援護を頼む』
 通信が切れ、レーダーには“強風”と名乗った鉄族の機体他3機が、Cマガメ族の編隊へ向かっていくのが映し出されていた。
『生駒、ちゃっかり鉄族に覚えられてんじゃん』
「……そうみたいだね。さて、頼られたとあっては、応えない訳にはいかないね。周囲の観測は任せたよ、シーニー」
『あいよ!』
 会話を終え、生駒は操縦桿を確かな感触でもって操作する。『ジェファルコン特務仕様』もそれに応える機動を見せ、2機の鉄族に追われるフライヤーを射撃する位置についた。
(……そこ!)
 必中を期待した射撃は、見事フライヤーを爆散させる。見た目は生物っぽいのに爆発するんだな、ということは機械体なのかな、そんな感想をとりあえず脇に置き、生駒は次の目標を視界に収めた。1機の鉄族が2機のフライヤーに追われ、至近弾を浴びて煙を吐いているのが見えた。
(落とさせはしない!)
 兵装をレールガンからビームサーベルに切り替え、ブースターを噴かして『ジェファルコン特務仕様』が突っ込む。トドメの射撃を浴びせようとしていたフライヤーは対応出来ず、持っていたビーム銃を破壊されてダメージを受け、援護に入った他の鉄族の機体に撃墜された。
『助かった、礼を言う。流石は“Knight Ace”だな」
「……大したものではないですよ」
『生駒、照れてる』
「うるさい」
 一時、笑い混じりのやり取りがなされた後、『ジェファルコン特務仕様』と鉄族は次の目標へ向けて飛び立っていった。