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リアクション
『天秤宮』から出現した敵の姿が『マガメ族』に似ていた事は、彼らに敗北させられた『うさみん族』にとっては当然、衝撃をもたらした。敗北がほぼ決定的となった当時は、自分達の存在が明らかになるのを防ぐ道具が機能していたからまだ良かったものの、今はその道具も機能しなくなっており、自分達の存在が明るみに出れば率先して狙われてしまうかもしれない。
「う、うさみんさん、落ち着いてください!」
「わぁ、ちょ、ちょっと、暴れないでってば!」
そんなわけで、『うさみん星』のそこかしこでバタバタと走り回るうさみん達を、川村 詩亜(かわむら・しあ)と川村 玲亜(かわむら・れあ)は何とか落ち着かせようとしていた。興奮するあまり独りで『深峰の迷宮』へ迷い込んでしまっては大変である。二人はまず迷宮の入口へ向かい、うさみん族が飛び込まぬよう、ここから万が一マガメ族が侵入せぬよう細工を施した上で、うさみん族をなるべく一箇所に集めようとしていた。
「ところでお姉ちゃん、『マガメ族』ってなに?」
「私も話に聞いただけだけど、うさみんさんの天敵だったそうよ。もう少しで負けそうになって、『うさみん星』に隠れて何とか生き延びたって」
「天敵ってつまり、マガメさんはうさみんさんを食べちゃうってこと?」
「そう思っておいて、間違いではないと思うわ」
玲亜にあまり刺激的な事を――両者は血みどろの争いの末、うさみん族はマガメ族に滅ぼされる寸前まで追い詰められ、『うさみん星』に潜んで今日まで辛うじて生き残ってきた――教えるのもどうかと思ったので、詩亜はそういうことにしておいた。
「ほらほら、みんな居るんだから大丈夫でしょー? 落ち着きなさいって」
そんな彼女たちの下へ、テューイがやって来てうさみん達をなだめる。流石、リンセンに次ぐ地位につく者、彼女の声と姿を目の当たりにしてうさみん達はスッ、と平穏を取り戻していった。
「二人とも、リンセンの所へ向かって頂戴。これからどうするかを話し合うって」
「はい、分かりました。玲亜、行きましょう」
「はーい」
その場をテューイに任せ、二人はリンセンの下へ向かう――。
「今出現が確認されたものですが、確かに姿は『マガメ族』に似ていますが、『マガメ族』そのものではないように思います。
……もちろん、そうであってほしい、という願望を含んではいますが」
集まった者たち、及川 翠(おいかわ・みどり)とミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)、スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)、ティナ・ファインタック(てぃな・ふぁいんたっく)、詩亜と玲亜を前に、リンセンが正直な思いを口にする。
「私も、イコンでちょっと偵察してきただけだけど、なんて言ったらいいかな……そう、機械っぽい感じがしたのよね。
マガメ族は鉄族みたいに機械っぽいんじゃないわよね?」
ミリアの問いに、リンセンがはい、と答えた。
「じゃああれは、マガメ族っぽい何か。そうね、『Cマガメ族』とでもしておきましょ。
……で、その『Cマガメ族』が私たちを敵として攻めてきた。私たちは詳しい話は分からないけど、この『Cマガメ族』と戦って勝ったら、天秤世界での『勝者』にうさみん族もなれるんじゃないかしら」
「えーっと、マガメ族はうさみん族との戦いに勝って、天秤世界を出て行ったんだよね。
ということは、今度うさみん族が戦いに勝てば、天秤世界を出ることが出来る……ってこと?」
ティナの言葉に、ミリアが確証は無いけどね、と限定的に頷く。
「アーデルハイト様が言うには、そのままうさみんさん達をパラミタに連れて行ったら、うさみん族じゃなくなるかもしれない。
でも天秤世界の勝者という資格を得たら、うさみん族としてそのままパラミタに行けるんじゃないかしら」
「そうですねぇ〜。どうなるかは分かりませんけどぉ、やってみる価値はあると思いますよぉ〜」
スノゥがミリアの意見を肯定し、頷いたミリアがリンセンに向き直る。
「だから……お願い、リンセンさん。私たちと一緒に、戦ってほしいの。
一度滅ぼされかけた相手を前に、怖いのは十分分かってる。だけど、リンセンさんが一緒ならきっと、私たちはマガメ族に勝つことが出来る。うさみん族も勝者になることが出来る。
……お願いします!」
頭を下げたミリアに続き、スノゥとティナも同様に頭を下げ、リンセンの言葉を待つ。
「…………分かりました。皆さんの世界に行きたいのは私たちの確かな思い。
その為に乗り越えなければならない壁があるのなら……飛び越えましょう、皆さんと一緒に」
リンセンの決意の言葉を耳にして、ミリアとスノゥ、ティナが顔を見合わせ喜びを分かち合う。
「そうと決まったら、早速出撃なの! 今度は置いてきぼりは嫌なの!!」
それまで黙っていた――というより、話がよく分からなくて口を挟めなかった――翠が飛び上がり、やる気を見せる。
「そうね。この前の出撃は機体の性能がイマイチ発揮されなかったのは、翠が乗ってなかったからかもね。
いい? 勝手にスイッチ押しちゃダメだからね? 約束よ」
「分かったの!」
翠が頷き、そして出撃のための準備が進められる――。
「はーいみんな、気をつけて運んでねー。すっごく重いよー、倒すと潰されちゃうよー」
テューイの指揮の下、うさみん族が運んでいたのは特徴的な形をした『弾』だった。
「この弾は、うさみんさんが作ったの?」
「そーそー。外に出られない生活ずっとしてたから、出来る事が殆ど無くて。道具も限られてたし、これだけは材料たくさんあったから、もうずっとやってたなー」
運搬の手伝いをする詩亜と玲亜は、掌に乗るサイズのものから身の丈ほどありそうな弾を見る。この弾はうさみん族が人間族と戦っていた時に、彼らとの戦いを有利にするために開発されたものであった。天秤世界に来た当初もこの弾で戦いを有利に進められる、そう思っていたうさみん族は『マガメ族』の長、『マクーパ』の使う術に完敗を喫した。
「今度の敵は、マガメ族にそっくりだけどマガメ族じゃない……多分。だからこの弾も効果があるはず……多分」
段々とテューイの声のボリュームが下がっていく。これでまったく効果が無いとなってしまうと、ただのお荷物になってしまう。
「大丈夫! ミリア達がうまく使ってくれるって!
『シルフィード?』の整備もバッチリだし、私達勝てるよ……きっと」
ティナがテューイを励ますつもりで、口にする。
「皆さんの無事を信じて、帰りを待ちましょう。
……あまり考えたくは無いけれど、もしここにマガメ族が攻め込んできた時に対処出来るようにしておきたいわね」
「マガメさん、すっごく大きいんでしょ? そんなのがここに来ちゃったら、うさみんさんみーんな食べられちゃう!
私も頑張るから、テューイさんも一緒に頑張ろっ!」
詩亜と玲亜も言葉をかけ、それを聞いたテューイの顔に、いつもの元気な笑顔が戻ってきた。
「……そうね! みんなで、勝っちゃいましょ!」
勝利を約束して、そして運び入れた弾は『シルフィード?』へ積み込まれていく。
「そういえばぁ〜、カグヤさんってどこに行ったんでしょうねぇ〜?」
スノゥの言葉に、リンセンがどういうことでしょう、と言いたげな顔を浮かべた。
「確か、勝者が天秤世界から出られるんですよねぇ〜。
勝者じゃないならぁ〜、この世界に居ることになりますよねぇ〜……?」
「そう、なるのでしょうか? 私たちはカグヤがマクーパに攫われて、そのまま連れ去られたものと思っていましたから」
確かにスノゥの言う通り、天秤世界の勝者が富を得、天秤世界を出ることが出来るとされている。うさみん族は勝者ではないため、例えマガメ族と一緒に居たとしても天秤世界を出ることが出来ないのでは、という疑問からの言葉だった。
「もしかして、マクーパって敵さん倒したら出てきたりするんでしょうかぁ〜?」
「そうなら、私たちは嬉しいと思いますけど……ですが、マクーパは強大な力の持ち主でした。
今のマクーパがそれより弱いとは思えません。皆さんを危険な目に遭わせてしまうことにはなりませんか……?」
リンセンの問いかけに、スノゥがミリアを見、ミリアは翠を見、翠はにぱっ、と笑って返し、ミリアが答える。
「私たちだけじゃもちろん勝てない、でもみんなで一緒に頑張れば、必ず勝てる。
危険なのは百も承知。契約者はこれまで何度も危険に瀕して、でも頑張って乗り越えて来れたんだから。
だから、頑張れば大丈夫。『シルフィード?』も整備バッチリ、うさみんさんが託してくれた弾もあるから」
「一緒に頑張ろう、なの!」
翠とミリアがそれぞれ、リンセンの手を取る。二人に元気付けられたリンセンの表情に笑顔が戻るのを、スノゥが微笑みを浮かべて見守る。
「お待たせ! 搭載完了したわ!
『シルフィード?』、いつでも出撃出来るわ!」
弾の積み込み作業を終えたティナと詩亜、玲亜が報告にやって来た。これで、全ての準備は整った。
「それじゃあ……出撃っ! なの!」
翠とミリア、スノゥ、それにリンセン――配置はミリアがメイン席、スノゥがサブ席、翠とリンセンはオペレーター席――が搭乗する『シルフィード?』は『うさみん星』を発つと、『龍の耳』へ向かった。防衛線が築かれているそこにうさみん星から託された弾を運び入れるためである。
「話は承った、君たちの支援に感謝する。
各前線に輸送し、有効に使わせてもらおう」
『龍の耳』の所長であり、防衛線の総司令官でもあるホルムズの下、運び入れた弾は戦場へと移されていった。もちろん『シルフィード?』にも装填され、各種射撃武器の威力向上に寄与していた。
「まずは、戦況を見守りましょう。
マクーパが狙える段階になったら、全速力で突っ込んでおっきいのをお見舞いしてあげましょ!」
ミリアの方針に従い、『シルフィード?』は後方で出撃の時を待つ――。
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