リアクション
◇ ◇ ◇ 殺気を感じた。 小鳥遊美羽は、がばっと立ち上がる。 「……どこ!?」 周囲を見渡すが、姿は見えない。フラッ、と一瞬頭が揺れた。 「……?」 アデリーヌ・シャントルイユは、ふと、耳が歌を捕らえた気がした。 何だか、頭がぼうっとしてくる。それが眠気と気付かぬままに、目を閉じる。 「二人とも、起きて!」 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が、さゆみとアデリーヌの頬を張った。 二人は、はっと我に返る。 眠らされていた、と自覚するより先に、何処からか、強力な電撃の魔法が放たれた。 範囲魔法だ。 はっ、と巨人がハルカを見た。 体が、魔法攻撃からハルカを庇おうと動きかけるが、コハク・ソーロッドの女王騎士の盾によるバリアで、何とか凌ぐのを見て安堵する。 「だぁら! こんなことやってる場合じゃねーって言ってんだろー!」 アキラ・セイルーンが怒鳴った。 しかし巨人は聞き入れない。 「ハルカの死よりも先に、俺を殺すこともできないか」 「――いいだろう。お前に、もう二度と余所見などさせない!」 刀真が、巨人の挑発に正面から応えて言い放った。 敵は姿を現さない。 イルミンスールでは、財布を入手するという目的があった。だから彼等は接近戦を挑んできたが、今回はわざわざ姿を現す必要も無いということだろう。 「もー、許さない! ハルカをお願いっ!」 我慢しきれず、美羽が駆け出す。 セレンフィリティと、パートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)もそれに続いた。 魔法が届く範囲内にはいるのだから、少なくとも、この遺跡の何処かにはいるのだ。 さゆみはハルカの護衛に留まる。 アデリーヌが、精神を集中した。 トリップ・ザ・ワールドを展開して、その中に、ハルカと、ハルカを治療するエリシア達を入れる。 その外から、コハクが女王騎士の盾を手に攻撃に備え、トリップ・ザ・ワールドのフィールド内で、エリシアや月夜は、ハルカの治療に集中した。 ハルカを襲撃すると見せかけて、巨人アルゴスを狙う。 遺跡の陰から密かに様子を伺い、状況を把握して、十六凪が立てた作戦はそれだった。 契約者達は、ハルカを守る部隊とアルゴスと戦う部隊に分かれるから、合流させないよう、真深とカラスには、実際にハルカを狙わせる。 その方が、本命が動きやすいからだ。 更には、直接巨人を狙うよりは、巨人の攻撃を長引かせ、この地の何処かにいる筈の、黒龍騎士に介入させる方がいい、と、十六凪は思った。 それでシャンバラとエリュシオンの関係が悪化すれば、都合がいいというものだ。 「ハデス先生のご指示により、アルゴスさんの邪魔はさせませんっ!」 イコンシステムのパワードスーツ、機晶神ゴッドオリュンピアを装備したペルセポネが、可変型兵装の「撃針」をボード状に変形させ、アルゴスを止めようとしている者達に突撃した。 「邪魔はそっちだ」 ルカルカ達の戦いには手を出さず、連携もしなかったダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、最初から、対巨人への妨害を阻止する為に待機していた。 アブソリュート・ゼロによる氷壁を展開し、ペルセポネの進撃を阻止する。 「まあ、近づくのは容易ではないでしょうね。 ペルセポネ、遠距離攻撃で行ってください」 離れたところから密かに、戦況を把握しつつ、十六夜が指示する。 ペルセポネは、対人用に調整されたレーザーマシンガンを連射した。 ダリルは念動球で応戦する。 水原ゆかりらもダリルの援護に加わったが、ルカルカや刀真達は、目標を巨人から離さなかった。 行動予測で、真深達の襲撃のパターンを考えながら、セレンフィリティとセレアナは、二手に分かれる。 カラスと真深が、一緒に行動しているとは限らないからだ。 セレアナは、機晶バードに迷彩塗装を施して上空に待機させておく。 遺跡の陰に潜み、更に隠れ身を使い、ハルカ達へ真空波を放った黒衣の少女を発見した。 「見つけたわ!」 セレンフィリティは、ゴッドスピードでカラスに迫る。 セレンフィリティに気付いたカラスは、素早く上空へ逃れた。 そして代わりに、何処に潜んでいたのか、1メートル程もある改造済戦闘用イコプラが、次々とセレンフィリティに雪崩れ掛かる。 「なっ!?」 驚いたものの、所詮は意表をつくだけのものでしかない。 セレンフィリティは、イコプラを手っ取り早く片付けたが、カラスの姿を見失った。 「精霊……だったような気がするけど……」 姿を確認できたのは少しの間だけだったが、その容姿を思い出しながら、セレンフィリティはそう思った。 話によれば、彼女は、テレパシーやサイコメトリを使っていたそうだが。 「精霊が、トランスヒューマン系のスキル?」 何だかそぐわないような気もしたが、珍しくもないのだろう。 気を取り直して捜索を続けたが、カラスは、身を隠す方を優先することにしたようで、攻撃も途絶え、見つけることができなかった。 逆に、潜んでいた真深が、急に飛び出して来たタイミングが何だったのか、美羽には解らなかったが、とにかく彼女を逃がす気はなかった。 ハルカを狙う相手に対して、手加減もできない。 光条兵器なら、味方を巻き添えにすることもないので、美羽は周囲を確認することもせず、ブライトマシンガンを遠慮なく撃ちまくる。 迷彩塗装を施している真深は、遺跡の陰に紛れながら逃げ、美羽はマシンガンを放り投げた。 「逃がさない!」 バーストダッュで、一気に距離を詰める。 途中、遺跡にぶつかってどこか壊したような気がするが気にしない。 接近戦を得意としない真深は、飛び込む美羽に慌てて発砲した。 美羽は止まらない。致命傷にはならない、そう判断して、そのまま突っ込む。 「喰らえッ! 鉄壁飛連脚!」 だん、と一旦踏み込んで勢いを強め、跳躍からの蹴り。 容赦なく急所に叩き込まれた蹴りに、骨の砕ける音がした。 「う! っく……」 真深は、意識を失って倒れる。 セレアナが駆けつけた。 「お手柄ね!」 駆け寄ったセレアナは、真深を後ろでに拘束する。 真深は痛みに顔を歪めるが、目は覚まさない。 「とにかく、皆のところに運びましよう」 と、身長のあるセレアナが真深を背負った。 ハルカの回復は、何とか間に合った。 殆ど二つに分断されていたハルカの体は、エリシア達の、懸命の治癒魔法で、水晶が全て剥がれ落ちる前に、何とか繋がった。 「心音が弱いですわ……」 脈を診て、エリシアが苦々しく呟く。 どんなに回復をかけても、意識も、脈も戻らない。 恐らくは、門に命を吸われているからで、それが戻ってこないと、完全な回復は無いのだろう。 エリシアは、祈るような思いで、死の門を見る。 あれを開けるかどうかには、何の興味もない。破壊されても構わない。 ただ、どんな形でもいい、早くハルカの魂が解放されますようにと。 |
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