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リアクション
第1章 たかがカボチャ、されどカボチャ
ここは空京、冒険好きの生徒たちが集まる『ミス・スウェンソンのドーナツ屋』。
ハロウィンパーティの準備で大忙しな店の裏手で、悪霊カボチャと生徒たちの対決が始まろうとしていた。
「イタズラ サセナキャ タベチャウゾー ……」
大きな口を開けて生徒たちを威嚇しながら、食品収納庫の中をふよふよと飛び回る悪霊カボチャ数個。対して、
「食べられるのはそっちの方だ!! 大人しくパンプキンパイになりやがれ!!」
店の裏口からわらわらと出て来た生徒たちは、食品収納庫の入口に詰め掛ける。
「オレのキャッキャウフフなパーチーを邪魔するなんて、許せねぇ! フォッカーさんよ、取り付くカボチャがなくなれば良いんだよな?」
国頭 武尊(くにがみ・たける)はそう言うと、フォッカーの答えは待たずに、無事なカボチャを木刀で叩き割ろうとした。
「わああああっ、ちょっと待った! このカボチャは、パンプキンパイの材料にするためのカボチャだ。ここで全部割ったら、パンプキンパイが作れなくなるぞ! 今から手配しても、ハロウィンパーティまでにこれだけの量は揃えられないし……」
フォッカーが叫ぶ。
「フォッカーさん、詳しいよねぇ。もしかして、以前に遭遇してたりする?」
曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)がぼそりと言った。
「実は俺も学生時代に、カボチャを叩き割りまくってミス・スウェンソンに多大なる迷惑をかけたことが……じゃなくてだね! ここでカボチャを全部割られたら、ミス・スウェンソンも俺も困るんだよ!」
フォッカーは過去の失敗を思い出して頭を抱えかけたが、どうにか立ち直って再び叫んだ。
「そんなの、後で洗えばいいじゃねえか」
武尊が不思議そうに言う。
「甘いっ! パンプキンパイより甘い考えだよっ!」
武尊にびしっ!と人差し指を突きつけて、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が言った。
「叩き割ったら断面がデコボコになるでしょ、そこに砂や土がついたらなかなか落ちないんだよ。それに、大きさがまちまちになったら、茹で上がりもまちまちになっちゃう。カボチャを食べるっていうことは、カボチャの命を頂くっていうことなんだから、粗末にしちゃダメだよ! 美味しく頂かなくちゃ」
「むぅ……」
武尊は唸って、しぶしぶ木刀を下ろす。
「と、いうわけで、悪霊が取り付いててもカボチャはカボチャ! さっそく調理にかかりたいと思いまーす!」
ミルディアは、自分の頭の周りでふよふよしていたカボチャを素手でがっしと掴むと、他の生徒たちもフォッカーもぽかーんとしている中、店の裏口に向かってダッシュした。
「あらあら、そのままじゃいくら何でも危ないんじゃありません?」
ミルディアのパートナー、和泉 真奈(いずみ・まな)がミルディアを呼び止めたが、それより早く、
「はーいっ、どいてどいてっ!」
牙(なぜか生えているのだ、これが)をガチガチ言わせて威嚇するカボチャを抱えたミルディアは、店の中に突入してしまった。
「騒がしいけど、何があったのニャ?」
「おてつだいすることあるかニャー」
そこへちょうど、アイリに引率されたミャオル族の少年少女たちがやって来た。裏口が騒がしいので、様子を見に来たようだ。
「違いますの、ちょっと今、悪霊カボチャと戦闘中ですのよ」
月橋 雫(つきはし・しずく)が、アイリたちとミルディアの間に割って入る。
「お店の中には、ミス・スウェンソンやミャオル族のみなさん、それに学生以外のお客様もいらっしゃいます。悪霊カボチャの持ち込みはご遠慮くださいな」
「みんな、危ないから、向こうへ行ってような!」
その間に、久途 侘助(くず・わびすけ)が、手近にいたミャオル族の男の子を抱き上げながら声をかける。
(おおっ、もっふもふだ!)
しかし、抱き上げたついでに、その毛並みを楽しむことも忘れない。
「ええええっ!? じゃ、これ、どうしよう!」
一方、雫に止められたミルディアは、悪霊カボチャを捕まえたまま右往左往し始めた。と、悪霊カボチャがすぽん!とミルディアの手から飛び出し、そのまま彼女のおでこにあんぐりと噛みついた。
「……ふふふふふ……イタズラ……イタズラしてやるぅ……」
とたんに、ミルディアの表情が別人のように凶悪になった。手をわきわきと動かしながら、雫に迫って来る。
「ごめんなさいっ、でも、私、ミャオル族さんたちを守りたいんですのっ!」
雫はホーリーメイスでミルディア、もとい、悪霊カボチャに殴りかかろうとした。だが、それよりほんの一瞬早く、光の玉がミルディアの後頭部にぶつかった。
ギィヤァァァアァァァァ!!
身の毛もよだつような悲鳴がして、カボチャから黒い影のようなものが分離した。後には、目を回して床に倒れたミルディアが残る。
「悪霊は……退散した様ですね。皆さん、大丈夫ですか?」
光の玉……『バニッシュ』を放った真奈が、小走りに近寄って来た。
「大丈夫じゃなぁいぃ……。いきなり人に『バニッシュ』ぶつけるなんて、ひどいよお……」
ミルディアは蚊の鳴くような声で言った。
「仕方がないではありませんか。さ、このカボチャ、ミス・スウェンソンに調理して頂きましょう」
悪霊が離れてころがったカボチャを拾い上げながら、真奈が言う。ミルディアは唸りながら起き上がった。
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