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かぼちゃと踊れ!?

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第2章 はちゃめちゃカボチャ大戦 

 ヴァーナーや綺人が調理場でほのぼのと調理を始めた頃になっても、店の裏ではまだ混乱が続いていた。
 「えーっと……これは大丈夫かなぁ?」
 曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)は、運ぶ前のカボチャをコンコン叩いて、運んでも大丈夫かどうか確かめていた。
 「よし、もう少しだな」
 オープンカフェから戻って来たヤジロ アイリ(やじろ・あいり)が、マジックローブでカボチャを包みながら言う。山のようにあったカボチャも、だいぶ少なくなってきた。悪霊が取り付いたカボチャは、他の生徒たちに牽制されていて、まだミルディア以外の犠牲者は出ていない。しかし、
 「これは、っと……」
 瑠樹がチェックしていたカボチャがいきなり飛び上がったかと思うと、瑠樹の頭の上に鎮座ましました。とたんに、瑠樹の表情が変わる。
 「うわっ、アンブッシュしていましたかー!」
 瑠樹のパートナーのゆる族マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)が叫ぶ。
 「ヤジロはカボチャを!」
 ヤジロのパートナーセス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)は、氷術で瑠樹の足元を凍らせると、ヤジロをかばいながら離脱した。ヤジロとセスを追いかけようとした瑠樹は、氷で足を滑らせて膝をつく。
 「私に攻撃させるなんて……つらいんですからね、りゅーきのバカーっ!」
 叫びながら、マティエはロングスピアを振り回した。
 「ケケケケケケ! 効カヌワァ!」
 瑠樹は奇声を上げながら、持っていたスナイパーライフルでスピアを受ける。二人はそのままチャンバラに突入した。
 「みんなが居る所でそんなものを振り回したら、危ないじゃありませんか」
 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が二人を止めようとしたが、
 「好きで振り回しているわけじゃありませんーっ!」
 マティエは瑠樹の攻撃を受けるので精一杯だ。腹にスピアの柄を叩き込むなりして止めたいところだが、悪霊カボチャは瑠樹の身体能力をそのまま使って攻撃して来るので、どうしてもマティエの方が押されてしまう。
 「しょうがありませんね……しかし、この状態で氷術で足だけ止めても、チャンバラは止まりませんし」
 ザカコはちょっと考えると、バーストダッシュで素早く瑠樹の背後に近寄り、カタールですぱーんと、瑠樹の頭に取り付いていたカボチャの上半分を斬り飛ばした。
 「と、止まった……すまん、マティエ」
 ぜーぜーと荒い息をつき、冷や汗をだらだら流しながら、瑠樹は呟いた。
 「まったくもうっ」
 マティエはぷんすかと怒っている。
 「まだ気を抜くのは早いですよ!」
 ザカコが言った。カボチャを斬られて追い出された悪霊が別のカボチャに取り付いたらしく、ルイ・フリード(るい・ふりーど)の顔面にべったりとくっついていた。しかも、どこからわいたのか、頭のてっぺんにも別のカボチャが乗っかっている。
 「フフフフフ……」
 重低音で含み笑いをしながら、ルイは食品収納庫の中にあった小麦粉の袋に手をかけた。中に手を突っ込み、周囲に居た生徒たちに無差別に小麦粉を投げつけ始める。
 「ぶほっ!」
 水渡 雫(みなと・しずく)は、その小麦粉をまともに顔面に食らってしまった。顔と前髪、そしてパートナーのローランド・セーレーン(ろーらんど・せーれーん)のクロゼットから勝手に拝借して、勝手にあちこち安全ピンを使ってつめた吸血鬼の衣装の胸元から肩にかけてが、小麦粉で真っ白になる。
 「…………………」
 ぶち、と何かが切れたような音を、ローランドが聞いたような気がした次の瞬間、
 「教導団は修学旅行も運動会も、そういう名前なだけの戦闘とか演習だったのにっ、ハロウィンパーティーまでカボチャとバトルとか……ものすごくものすごくものすごく楽しみにして来たのに、あんまりですーーーーー!!」
 雫は食品収納庫の壁に下げてあった箒を引っつかみ、ルイに、もとい、ルイの顔に張り付いているカボチャに殴りかかろうとした。
 (パーティは明日なんだけどなぁ……楽しみにしすぎて、日を間違えたんだろうねえ。それにしてもあの格好、言ってくれれば裾上げくらいしたのに)
 心の中で呟きながら、ローランドは雫がはいているトラウザーズの、引きずっている裾を後ろから踏んづけた。
 「少し落ち着こうよ、水渡 雫」
雫はつんのめって箒を放り出し、頭からルイに突っ込んだ。ところが、悪霊に操られているルイは無常にもひらりとそれをよけたため、雫はルイの後ろにあった小麦粉の袋に、頭から突っ込むことになってしまった。
 「ぶはっ、げふ、げふげふ……」
 咳込みながら、雫は小麦粉から頭を抜き、粉を払った。あたりが舞う小麦粉で白く霞む。さらに、ルイがまた生徒たちに小麦粉を投げつけ始めた。生徒たちがそれに気を取られた隙に、悪霊カボチャが一斉に反撃に転じる。悪霊が憑いていないと思われるカボチャもほとんどなくなっており、生徒たちは悪霊カボチャとの戦いに突入した。
 「こらっ、悪霊さんたち! イタズラしたらお菓子あげないよっ!」
 なぜか持っているぴこぴこハンマーを悪霊カボチャに突きつけて、七瀬 瑠菜(ななせ・るな)が叫んだ。
 「オ菓子ハ……イラナイ、オ前ヲ……クワセロォォォ!」
 悪霊カボチャはあーんぐりと口を開けて、瑠菜の頭のてっぺんにかぶりつこうとする。
 「えーっ、何それーっ! お菓子をあげたらイタズラしない、イタズラしたらお菓子あげない、じゃないの!?」
 瑠菜はぴこぴこハンマーを振り回すが、当たってもさすがにそれではカボチャにダメージは与えられない。それどころか、悪霊カボチャはぴこぴこハンマーにぱくっとかぶりついて引っ張った。
 「きゃあっ!」
 手からハンマーをもぎ取られて、瑠菜は悲鳴を上げた。悪霊カボチャは潰れたハンマーをぺっと吐き出すと、いただきまーすとばかりに、再び瑠菜の頭に噛み付こうとした。
 「瑠菜にそんなことさせませんっ!」
 瑠菜のパートナーの吸血鬼リチェル・フィアレット(りちぇる・ふぃあれっと)が、カボチャの口めがけて火術を放った。カボチャは口から煙を吹いて墜落する。
 「焼きカボチャ、いただきぃ!」
 小林 翔太(こばやし・しょうた)が、墜落したカボチャをナイフとフォークで切り分け、ぱくりと口に入れた。
 「あの、それは、まだちょっと生焼けだと思うんですが……」
 それに、今の今まで悪霊が取り付いていたかぼちゃを食べるというのもどうなのだろう、とリチェルは止めたが、翔太はごりごりとカボチャを噛んでいる。
 「……大丈夫……ですか?」
 その表情がだんだんと微妙になって来たのを見て、おそるおそるリチェルは翔太に訊ねた。
 「確かに生焼けだ……固い……」
 口の中のものを無理やり飲み込んで、翔太は涙目になった。
 「とにかく、この小麦粉攻撃を何とかしないと!」
 一方、大岡 永谷(おおおか・とと)は、水渡 雫(みなと・しずく)が放り出した箒を拾い、小麦粉を掴んでは投げているルイ・フリード(るい・ふりーど)と対峙した。
 「……ごめん!」
 箒で思い切り、向こう脛を引っぱたく。さすがに、ルイは足を抱えてうずくまった。
 「うおりゃあッ!!」
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が、ルイの頭のてっぺんに乗っているカボチャに鉄拳を叩き込んだ。大きなカボチャの中に、拳がめり込む。そのまま拳を引けば、カボチャはルイの頭から外れてついて来た。
 「うーん……このカボチャ、弁償しなくちゃまずいか?」
 グローブのように自分の拳を覆うカボチャをしげしげと眺めて、ラルクは呟いた。その間に、ルイは立ち上がろうとする。
 「それっ、葬らん(ホームラン)!!」
 野球のバットを握った影野 陽太(かげの・ようた)が、ものすごいアッパースイングで、ルイの顔面に貼り付いているカボチャを殴る。カボチャはキャッチャーフライ並みの角度ではね飛ばされて、食品収納庫の天井をぶち破った。バットが直接当たりはしなかったものの、つられてルイも後ろへ吹き飛ばされ、砂糖の袋が積まれているところへ背中から突っ込んだ。
 「やっべー……」
 天井にぽっかり空いた穴を見上げて、陽太は青くなった。
 「ここに穴をコリコリコリっと……」
 そんなてんやわんやの傍らで、御凪 真人(みなぎ・まこと)セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)は、悪霊カボチャを一匹捕まえ、ナイフで穴を開けてランタンを作っていた。
 「セルファ、カボチャが動かないようにしっかり押さえててくださいね。手が滑ると、セルファの手まで傷つけちゃいますから」
 真人はメガネをきらーんと光らせて、楽しそうに暴れるランタンをくりぬきながら言った。
 「うん、わかったよ……」
 うなずくセルファの腰が引けているのは、怪我が怖いと言うより暴れるカボチャに嬉々としてナイフを突き立てている真人が怖いからだろう。
 穴を開けられて、悪霊カボチャはしばらくじたばたしていたが、そのうちに大人しくなった。悪霊が抜けたのだろう。
 「うーん、動くカボチャランタンの方が、それっぽくて面白かったんですけどね」
 残念そうに言う真人を見て、セルファは
 (……やっぱり、真人、ちょっと怖い……)
 と心の中で呟いた。
 その背後で、最後に数個残っていたカボチャのうちの二つがふわふわと浮き上がり、カボチャを運んでいる生徒たちを追いかけるように店の表へ向かおうとした。
 「そっちへは行かせないでぇ!」
 中村 朱音(なかむら・あかね)が、ランスでその悪霊カボチャの片方を串刺しにした。だが、それだけではカボチャの原型を留めているので、悪霊はカボチャから離れない。すぽんとランスから抜けて、再び店の表に向かおうとする。
 「だから、そっちへは行かせないってば!」
 十倉 朱華(とくら・はねず)が剣を抜いて、カボチャの前に立ちはだかる。その後ろに、もう一匹の悪霊カボチャが迫った。
 「朱華、後ろに!」
 朱華のパートナー、守護天使ウィスタリア・メドウ(うぃすたりあ・めどう)が、朱華と悪霊カボチャの間に割って入る。背中あわせにお互いを守りあう二人の周囲をカボチャが飛び回り、襲撃の機会をうかがっている。
 「これで、最後ですっ!」
 「後はよろしくねっ!」
 菅野 葉月(すがの・はづき)と、パートナーのミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が、最後に残っていたカボチャを抱え上げて走り出した。
 「ふふん、これで心おきなく戦えるわね!」
 カロル・ネイ(かろる・ねい)は、ランスを繰り出して、飛び回っていたカボチャを攻撃した。
 「カロルっ、一応食べ物なんだから、あんまり粗末にしないで……」
 パートナーの海宝 千尋(かいほう・ちひろ)が止める間に、カロルはカボチャを蜂の巣にしてしまった。
 「仕留めた!」
 ニヤリと笑うカロルとは対照的に、
 「これじゃ、ポタージュにもならないじゃないの。ミス・スウェンソンに何て言って謝ったら……」
 ぐずぐずになって墜落したカボチャを見て、千尋は頭を抱える。
 一方、
 「もう、手加減する理由はないよね!」
 朱華も、バスタードソードを振るって、容赦なくカボチャを一刀両断する。ウィスタリアも、目の前をふらふらしているカボチャをホーリーメイスの一撃で撃墜した。
 「……片付いた……かな」
 用心深く周囲を見回し、悪霊の気配がないことを確認して、永谷はほっと息をついた。砂糖袋の山に突っ込んで目を回しているルイに手を差し出して、立たせてやる。
 「すまなかったな。足を引っ掛けて動きを止めたかったんだが、君の体格だと難しかったものだから」
 「とりつかれたのは、ワタシの不注意ですから。なかなかいいスイングでしたよ」
 謝る永谷に、ルイは苦笑してかぶりを振った。
 「と、とにかく、この粉と使いものにならなくしちゃったカボチャを片付けましょうっ!」
 カロルが粉々にしたカボチャの破片を拾いながら、千尋が言った。
 「そうですね、そして、ミス・スウェンソンに謝らなくては」
 ルイも、自分が突っ込んで崩れた砂糖袋の山を直し始める。

 そして、食品収納庫の片付けがほぼ終わった頃、
 「おーい、こっちは片付いたか?」
 猫花 源次郎(ねこばな・げんじろう)が、カボチャ入りのおやきを積んだ大皿を持ったアイリを連れて現れた。
 「表も、全部刻み終わったぜ。ま、一服しようや」
 抱えてきたポットからシナモンティーをつぎ分けながら、源次郎は言う。
 「アイリ! 久しぶりだね」
 大皿を差し出したアイリに、朱華が声をかけた。
 「あー、村を助けに来てくれた学生さんニャ! 今回も助けてくれたニャ?」
 「うーん……ちょっと、散らかしちゃったけどね」
 首を傾げるアイリに向かって、朱華は苦笑した。
 なお、食品収納庫を『散らかして』しまった学生たちは、この後パーティの後の皿洗いと、陽太が開けてしまった天井の穴の修理をすることで、自分たちのやらかしたことをつぐなうことになったのだった。