リアクション
「機晶姫、突然訪ねて怒っているなら謝罪します。しかし、僕は……僕達は貴女のことを知りたい。良かったら僕と契約してください」
深々と頭を下げる。
攻撃や妨害に巻き込まれ、髪も白衣もボロボロだ。しかしその力強い声は洞窟内に突き抜けるように響いた。
と、機晶姫の瞼が開かれた。その赤い瞳が起木保を見つめ、差し出された彼の手を取った。
起木保はこれまでにない真剣な眼差しで彼女を見つめ返す。
「契約してくれますか?」
洞窟内が静寂に包まれる……。
機晶姫は、こくりと頷いた。
「やりましたね、先生!」
ソア・ウェンボリスが飛び上がって喜ぶ。黒脛巾にゃん丸も嬉しそうだ。
「なんだよ、結局先生か……」
【疑心暗鬼】のメンバーのエル・ウィンド、ヴェッセル・ハーミットフィールド、仙桃、ナーシュ・フォレスター、井ノ中ケロ右衛門は脱力した。
「機晶姫、起きましたね……」
ぼんやりと機晶姫の様子を見守りながら、一式隼が呟いた。
「そうね……」
ルーシー・ホワイトも並んで見守る。
「……あの機晶姫は、お前さんとの関係はないようだな」
遠目から機晶姫を見たエヴァルト・マルトリッツは、残念そうにロートラウト・エッカートに語りかけた。
「そうだね……ボクも何も感じないから、関係ないと思う」
ロートラウト・エッカートが頷くと、エヴァルト・マルトリッツは身を翻した。
「どうかした?」
「それなら別に……俺には関係ないぜ」
首を傾げるエヴァルト・マルトリッツに言って、ロートラウト・エッカートはわずかに動いていたグレムリンを撃った。
「変わった機晶姫だねぇ」
「眠っているときは儚い印象を受けましたが、強そうな眼をしていますね」
清泉北都と朱宮満夜が機晶姫を見遣って呟いた。
と、彼女に近付く影が一つ。
「俺が連れて帰ってやるよ」
レイディス・アルフェインは、機晶姫を持ち上げた。
「自分で歩くことができるから、下ろセ」
「そうか? 調子悪いようなら未沙に診てもらえよ」
そう告げて、ゆっくりと下ろす。
「……養護教諭……ツブす!」
「仕方ないよ、朔ッチ」
手を固く握りしめる鬼崎朔をブラッドクロス・カリンがなだめた。と、スカサハ・オイフェウスが嬉しそうに機晶姫へと近寄った。
「スカサハ・オイフェウスであります! 貴女様のお名前を教えてほしいのであります!!」
「……EX−OR0582ダ」
「呼びにくい名前だな……先生、名前つけてやれよ」
緋桜ケイが起木保の肩を叩いた。起木保は、首を傾げて考える。
「そうだな……じゃあ、白雪(しらゆき)」
ぽん、と手を叩き機晶姫をまっすぐ見つめた。
「眠っていた姿が白雪姫みたいだったからな」
「苗字は、なんにするんだ?」
雪国ベアが問いかけた。起木保はにっと笑う。
「白(しら)」
「え……じゃあ、もしかして」
「白・雪。これが僕のパートナーの名前だ」
得意げに微笑む起木保に、スカサハ・オイフェウスは頷いて機晶姫に向き直った。
「白雪様! スカサハのお友達になってほしいであります!!」
白雪と名付けられた機晶姫は、こくりと頷いた。
「僕も、君と友達になりたいな!」
飛鳥桜がにっこりと機晶姫に笑いかける。彼女はゆっくりと頷いた。
「私はマリオン。貴女を知りたくてここまで来ちゃいました」
マリオン・クーラーズは、白雪の前で頭を下げた。
「どうか私に教えてください、貴女のことを」
「何を教えればいイ?」
「貴女が、どうして封印されていたのか、教えてください」
「……ワタシハ、大戦中、この場所を守るために封印されタ」
「大戦中の『煌めきの洞窟』の守護者だったんですね……。では、大戦以前のこともご存知ですか!?」
マリオン・クーラーズはきらきらと瞳を輝かせた。と、その肩を大野木市井の手が叩いた。
「それより前に、封印の理由を聞こうぜ」
「あたしも知りたい! ここを守るためだけに封印されたのか……あ、どうして服を着ているのかも教えて!」
朝野未沙が進み出た。こくりと頷く白雪。
「ワタシハ、この洞窟を守るためと聞いていル。それ以上のことは知らなイ。服モ……気付いたら着せられていタ」
「そっか……あ、じゃあ封印されたのが大戦のときっていうのは本当?」
「ワタシハ、はっきりと認識しているわけではないガ……恐らク。戦いに重要な役目を持っていたからナ」
「金属は武器になりますからねぇー」
朝野未那がうんうんと頷く。
「それと……」
朝野未沙の尽きることない質問に、白雪は次々と答えていく。
「キミ、ボクと一緒にお茶でもどう?」
会話の切れ目、白雪にエル・ウィンドが語りかけた。白雪は目を瞬かせるだけだ。
「映画でもいいけど、どうだ?」
しつこいほど繰り返される質問に、白雪は首を傾げる。
「拙者はナーシュ・フォレスターでござる! 本物の忍者を目指しているでござるよ!」
すごい勢いでナーシュ・フォレスターも自己紹介を始めた。
「ふぅー、疲れたねぇ」
「結局、トラブルを未然に防げませんでした……」
「仕方ありませんよ」
佐々良縁、風森巽、九条風天が各々思ったことを呟いた。
「虹石、大量じゃ!」
「探検、楽しかったわセツヤ」
「いい金属が採集できたよ」
探検を行っていたセシリア・ファフレータ、ベルセリア・シェローティア、獲狩狐月が満足げに言った。
「任務完了ですね」
「たくさん魔物を倒しましたね」
「これで校外学習地が確保できるね!」
ウィング・ヴォルフリート、ミレイユ・グリシャム、ミレーヌ・ハーバートが洞窟を見渡して微笑んだ。
「おやつ、オイラにもくれよー」
「全部使ったぜ?」
「えー!?」
さりげなく言ったエース・ラグランツの言葉に、クマラ カールッティケーヤが不満の声を上げる。
楽しそうにルカルカ・ルーが笑った。
「何はともあれ、先生が無事でよかった」
輝かな洞窟内を見まわしながら、日比谷皐月が息をついた。
「皐月はボロボロでしたけどね」
ふ、と笑って雨宮七日は洞窟内の見学を始めた。日比谷皐月も続く。
「バイト代は出るか? ゴーレムの欠片も欲しいところだぜ」
ロア・ワイルドマンは起木保に問いかける。
「う……まあ、少しなら渡せるはずだ」
起木保はもごもごと答えた。その視線の端に、ガートルード・ハーレックとネヴィル・ブレイロックの睨みが映った。
「いつの間にか連れて来られて、引きつけ役をやって、ゴーレムや機晶姫に会って……忙しい一日だったなぁ……」
深くため息をつく八神誠一に、箱が一つ手渡された。
「一件落着したことだし、これでも食べるのだよ」
にっこりと笑ったオフィーリア・ペトレイアスが箱の蓋を開けた。
「……あのー、リア? これは一体……?」
「俺様特製オムライスなのだよ。味わって食べるのだよ」
その返答に八神誠一は弁当箱の中身を見つめる。どう見てもオムライスには見えない、黒と茶色の塊。
「今回は自信作なのだよ」
そう言って期待の視線を向けられては断れない。八神誠一はスプーンを手にして息を飲み、意を決して茶と黒の何かを口に運ぶ。
八神誠一は、スプーンを口に運んだ姿勢のまま、倒れた。
「せ〜ちゃん? ……ち、ちょっと起きるのだよ!」
慌てたオフィーリア・ペトレイアスの声が、洞窟にこだました。
一同が話をしながら帰路を歩き続けると、洞窟の入口から手を振る影が見えてきた。
「起木先生ー!」
溜池キャンパスの国語教師、緒喫円だ。起木保は黙って親指を立てた。
「上手くいったようでなにより。これで心おきなく魔物研究ができるなぁ!」
一人で盛り上がる緒喫円を背に、起木保は頭を下げた。
「皆、協力感謝する。ありがとう。これならきっと、汚名返上できたと思う」
深々と一礼し、使い古した雷発生装置を見つめる起木保。
「魔物研究、ですか?」
本郷翔が怪訝な顔をする。起木保はしっかりと頷いた。緒喫円が口を開く。
「俺の趣味は魔物の研究をすることでなぁ。この洞窟にいる魔物を調べるために校外学習地に指定したってわけだ」
「そんな理由、ですか。金属は関係ないのですね」
「そう。でもなぁ、最近魔物が増えたと聞いて、俺は困ったわけだ」
緒喫円はポリポリと頭を掻いた。起木保は得意げに胸を張る。
「そこで僕がここを汚名返上の舞台に指定した。僕のためにもなり、緒喫先生のためにもなる、一石二鳥だからな」
「……理由は、それだけですか?」
朱宮満夜が、首を傾げる。
「いや、出来れば……機晶姫を手に入れられればと……一石二鳥以上を狙っていたんだ。それがうまい具合に実現した。君達には感謝してもしきれないな」
足を止め、ぽかんとするメンバー。感謝されているとはいえ、複雑な心境……。朱宮満夜だけは苦笑する。
「人のためと言いながら、自分の利益を一番に考えているとは……まったく、溜池キャンパスにいるのは、困った先生達ばかりですね……」
その呟きは洞窟内に響き、大きくなった。
後日、ヴァーナー・ヴォネガットが極上の笑顔で言った「みんなのために魔物退治をがんばってました。イイ先生です!」という証言もあり、起木保は信用を取り戻し、汚名返上は成功したのだった。
溜池キャンパスと起木保に、平穏な日常が一旦戻ってきた。
終
このシナリオに御参加いただき、ありがとうございました!
今回の洞窟探索編は余計な小細工をせず、シンプルな答えにさせていただきました。
また、キャラクターの出番をあちこち配置する形をとっているので、探してみてください。
ともあれ『溜池キャンパスの困った先生達』のシリーズはこの話で終わりです。いかがでしたでしょうか。
お楽しみ頂けたなら幸いです。
機晶姫を狙っていた方々、申し訳ありません……。
機晶姫の白雪は、今後の起木保のシナリオにいかすため、より危機を呼び込むために出したものです。
今後にご期待いただければ幸いです。
それと、アクション投稿の際、使用武器名やスキル、言わせたいセリフをご記入いただきありがとうございました!
リアクションを執筆する上で、大変助かりました。
起木保のシナリオは、数か月間を開けてから、書かせていただきます。
ではでは、本当に御参加ありがとうございました!!