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溜池キャンパスの困った先生達~洞窟探索編~

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溜池キャンパスの困った先生達~洞窟探索編~

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●第一章 洞窟探索開始

 肌を刺すような冷たい風が吹き抜ける。
 その風に顔をしかめ、起木保(きき たもつ)と黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)は並んで歩いていた。
 二人の背後から、起木保の呼び掛けに応えて集まった面々が話をしながら付いてきている。
「……君のパートナー、近所のおばちゃんみたいだな」
 吐き出すようにつぶやかれた言葉に、黒脛巾にゃん丸は無言で頷いた。

 二時間前。
 保健室で協力者を待ちながら、起木保と黒脛巾にゃん丸が茶を啜っていた。と、起木保の目前にスプーンがずいっと突き付けられた。
「あんた、機晶姫使って保健体育の実習する気でしょ!」
「ぶっ!」
 疑いの眼を向けるリリィ・エルモア(りりぃ・えるもあ)の言葉に、男二人は茶を噴き出した。
「ち、違う。僕は純粋に生徒の身を案じて……」
 起木保の瞳に、リリィ・エルモアの持つゼリーのカップが映った。
「また君はなぜ毎度僕の食後の楽しみを奪う!」
「そうやって話を逸らすなんてますます怪しい」
「っ、それは――」
「信じます! 先生を信じますともっ!」
 黒脛巾にゃん丸は起木保の手をしっかりと握った。
「魔物退治、是非協力させてください! だから最初の実習は俺に……」
「にゃん丸!」
「協力ありがとう。そろそろ集合時間だ。行こう」
 二人は、何か言いたげなリリィ・エルモアをそのままに頷いて立ち上がり、保健室を出ようと一歩踏み出した。黒脛巾にゃん丸がリリィ・エルモアを振り返る。
「あたし? 行くわけないでしょ。危ないし疲れるし」
 茶を啜り、当てつけのように彼女はパタパタと手を振った。
「機晶姫連れてきたら教育はあたし達女子がやりますからねっ! あんた達に任せたら何教え込まれるかわかったもんじゃない」
 そんな声を引きずりつつ、二人は保健室を後にしたのだった。

「! ここだ……」
 気付くと、目前に濃灰の洞窟の入り口が口を開けていた。二人が足をとめると、多くの足音が近づいてきて止まった。
「同行してくれる諸君、協力感謝する」
 起木保は深々と頭を下げ、そして黒ぶち眼鏡を光らせた。
「校外学習地を確保するために、力を合わせて魔物を蹴散らそうじゃないか!」
 生徒達のざわめきが、同意の雄叫びに代わる。
 それに紛れて、蚕養 縹(こがい・はなだ)が疑問の声を上げた。
「しっかし、わからねぇ。先生はどうしてこんなことをしなきゃいけないんで?」
 三毛猫耳をぴくりと動かし、蚕養縹が佐々良 縁(ささら・よすが)に問いかけた。見たところ、問題のある人間に思えなかったからだ。
「それはねぇ……あの先生が溜池キャンパスを水没させかけたからだよぉー」
 佐々良縁は答える。口調こそのんびりであるが、その表情はやや厳しい。
「先生が作った雨雲発生装置と水分呼び寄せ装置でー、溜池キャンパスの周りだけ雨が降り続いて、水没しそうになったんだよぉー」
「へぇ、なるほど」
「私達が溜池の反乱を止めて、仲間が装置を破壊してなければ今頃溜池キャンパスはどうなってただろうねぇー……」
「本当に申し訳なかった」
 聞きつけた起木保が深く頭を下げる。
「しかし、僕は決して悪意を持ってそれを行っていたわけではない。それだけは信じてほしい」
「そうなんで?」
「うん。それなのに、この間は疑われちゃったんだよねぇー。犯人は先生の妹だったけど、先生は何も関係なかったらしいよぉー」
「そう……。何もしていないのに、疑われてしまうという状況を打開したい。だから僕はこうして魔物退治に赴いたというわけだ」
「分かる……分かるよセンセ、その気持ち!」
 起木保の白衣の背中をぽんぽん叩き日比谷 皐月(ひびや・さつき)が頷いた。
「オレもロリコンだの何だのと……大変なんだよ……」
「皐月がロリコン? 周知の事実でしょう」
 深いため息をつく日比谷皐月に冷たく言い放つ雨宮 七日(あめみや・なのか)
「だから違うって!」
 反論する日比谷皐月を無視する雨宮七日。
「そ、そろそろ行くか」
 二人の言い合いに気押されつつ、起木保が集まった生徒達を見渡した。全員が頷き、洞窟へと足を進める。

 ばらばらに散らばって洞窟内へ。真っ暗で水が滴る洞窟内を黒脛巾にゃん丸のライトが照らし出す。
 先行する【最終兵器乙女VSグレムリン〜甘い誘惑〜】のメンバーのルカルカ・ルー(るかるか・るー)エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が【光術】で洞窟内を照らしパートナーがそれに続く。
 やや遅れて清泉 北都(いずみ・ほくと)が光精の指輪で照らしながら進んでいく。
 その三つの光が照らす少し奥に、別の光があった。
「? キミ達も修行に来たのですか?」
 ポニーテールを揺らし、首を傾げるウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)。その手に光精の指輪がはまっている。
「いいえ。私達はこの洞窟の魔物を倒しに来ただけです」
 後ろからやってきた朱宮 満夜(あけみや・まよ)が答えた。ちらりと起木保を振り返る。
「恐らく、最奥を目指して進むことになると思いますが」
「……わかりました、私も行きましょう。サポートします」
 そう言ったウィング・ヴォルフリートの周りにはグレムリンの死骸が転がっている。
「それは心強いですね」
 頷いて進む。と、四つの光の先にグレムリンの影が多数浮かび上がった。
「ふむ、この洞窟のグレムリンの弱点は炎ですね……」
「尻尾も弱そうです」
 御凪 真人(みなぎ・まこと)シェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)が【博識】によりグレムリンの弱点を見抜き周囲に告げる。と、近くで流砂が発生。その中心にはアントライオン。
「アントライオンの弱点は、雷か。外殻は固いけど、腹は弱そうだぜ」
 進み出たエース・ラグランツも【博識】を使用。彼らのもたらした情報に頷く面々。

「……それでは、参ります」
 朱宮満夜が手近なグレムリンに向け【火術】を放つ。
 魔法が直撃し、燃えあがって砂の地面に落ちたグレムリンに近付くのはセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)
「えいっ!」
 勢いをつけ攻撃。立ち上がろうとしていたグレムリンが絶命する。
「どんどん行くよ! 私達がしっかりすれば後衛が楽できるんだから!」
「そうですね……っ!」
 頷いた御凪真人が杖を構え【ファイアストーム】をグレムリンの集団へ放つ。
 炎の波が洞窟内を照らして、様々な金属で構成された壁が露わになる。
「これは結構強烈よ〜」
 壁を背に【トラッパー】を使用し、アントライオンがかかるのを待つミレーヌ・ハーバート(みれーぬ・はーばーと)が楽しそうに言った。
「魔物を掃除するんだぞ! ドゥルッフゥー♪」
 そのアントライオンの腹を、ハンドガンを使用し【スプレーショット】で狙うのはアルフレッド・テイラー(あるふれっど・ていらー)だ。
 そんな二人の様子に、アーサー・カーディフ(あーさー・かーでぃふ)が苦笑する。
「あんまりはしゃぎすぎるなよ。油断すると痛い目みるぜ」
「あっ、アル兄、全然効いてない!」
 アントライオンは怯むどころか勢いを増し、流砂へ獲物を引きずり入れようとうごめいている。
「だから言っただろ」
「援護するよっ!」
 近づいてくる声にミレーヌ・ハーバート達が視線を向けると、ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)が詠唱を始めていた。
【サンダーブラスト】により現れたいくつもの雷がアントライオンと周りにいたグレムリンを打つ。
 衝撃にアントライオンがひっくり返った。
「今だよ!」
 叫ぶミレイユ・グリシャムに頷き、アルフレッド・テイラーが【スプレーショット】を、ミレーヌ・ハーバートがエペを使用。
 さらにミレイユ・グリシャムが【サンダーブラスト】を放つ。
 アントライオンの腹を貫き、アントライオンが動かなくなった。
「炎よ!」
 すぐ脇で朱宮満夜が呪文の詠唱を終え、グレムリンに再び【火術】を繰り出そうとした。そこに、人影。
「危ない!」
 叫んだ瞬間、人影が引き戻されて術はグレムリンに直撃した。
「はい。危ないから前に行かないでください」
「あー、ごめん」
 人影……ミレイユ・グリシャムを後ろに下がらせるのはシェイド・クレイン。
「護衛しきれないから急に飛び出すな」
 二人の背後で、デューイ・ホプキンス(でゅーい・ほぷきんす)がつぶやく。【光学迷彩】を使用しているため姿は見えない。
「大丈夫ですか!?」
 朱宮満夜がミレイユ・グリシャム達に近寄る。ミレイユ・グリシャムは頷いた。
「それならよかったです……では次、参ります」
 無事を確認し、朱宮満夜が駈け出して行った。と、新たに詠唱の声。
「癒しの力よ、我が手に集いてこの者を癒したまえ」
 アーサー・カーディフが放った【ヒール】が、軽い火傷を起こしていたミレイユ・グリシャムの腕を癒した。
「さっきの礼だ」
「ありがとう」
 和やかに会話を交わす間にも、魔物は近付いてくる。