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■第二章 湖畔と荒野、大荒れ模様

 静かだった湖畔に、ざぶんと水音が響く。
 湖畔に生息するチョクシンガニが、住処を荒らされて飛び出したのだ。次々に現れる。
「……魔物、発見です」
 湖畔上空を飛んでいた鷹野栗は静かに笑って、地上に降りて行った。
 突然の魔物の登場に、湖畔がざわめき立つ。
「わっ、何!?」
 宝箱を掘り返したばかりのカレン・クレスティアは、水音の下方へ視線を向けた。
「今がチャンスだ! 行け、紙カメレオン!」
 茂みの影に隠れていた四条輪廻が叫ぶ。草に擬態していたカメレオンは、べろーんと下を伸ばし、宝箱を回収した。
「よくやった! あとは紙ペットを――」
 言いかけたとき、ポケットの中の携帯電話が鳴った。振り返るとアリス・ミゼルがばたばたと手を動かしている。
「っ、仕方ない、逃げ――」
「! それボクの宝箱! 返してよっ!」
 カレン・クレスティアはパイルバンカーを構え、飛びかかった。しかし四条輪廻はそれを避ける。
「はーっはっはっは、案内、ご苦労だったな。この宝は俺が頂いたっ!」
「危ないっ!」
「え……」
 四条輪廻がアリス・ミゼルの声に振り向いたが遅い。
「いっ!」
 紙豹が四条輪廻の眼鏡を奪う。宝箱が地面に落ちた。
「ありがとう紙豹!」
 カレン・クレスティアは宝箱を回収。
「あわわわわ……眼鏡、眼鏡返してください〜〜〜」
 眼鏡を外された四条輪廻がわたわたと動く。
「今更下手に出たって遅いよっ!」
 四条輪廻の胴に、カレン・クレスティアが拳を一発叩きこんだ。
「紙豹、行こう!」
 カレン・クレスティアは身を翻し、去って行った。
「大丈夫ですか?」
 アリス・ミゼルは落ちた眼鏡を、四条輪廻に手渡す。四条輪廻は腹を押さえた。
「うぅ……次こそは……」
 そんな彼らに、足音が近づいた。
「あの、よかったら、俺の紙ペット貸すよ?」
 一部始終を見ていた愛沢ミサが、和原樹達を気にしながら紙ネズミを突き出した。
「……えっと」
「あ、よ、余計なお世話かな……ごめんなさ……」
「じゃあ遠慮なく、もらって行くぜ」
 気を取り直した四条輪廻は、紙ネズミではなく彼女が小脇に抱えていた宝箱を奪い、駆け出した。
「……どうしても奪いたいんだね」
 彼らを見遣り、苦笑する。
「俺はもう、欲しい物は手に入れたから別にいいけどね」
 愛沢ミサは、ポケットの中にしまっておいた楽譜を取り出して微笑んだ。

「はぁー、大変な目にあったよ……」
 ため息をついて、カレン・クレスティアが歩いていると、佐倉留美がその姿を発見した。
「あら、カレンさん。お一人?」
「うん。そうだよ」
「それなら、協力させていただきたいですわ。ラムールさん、いいですわよね?」
「別に構わぬ」
「本当? じゃあよろしく!」
 カレン・クレスティアが紙豹を持ち上げる。ラムール・エリスティアは飛んでいた紙ドラゴンを肩にとまらせた。
 紙豹の前足が、紙ドラゴンの翼に触れると光が溢れ、二匹を包んだ。紙ドラゴンは羽ばたき、一直線に飛んで行く。
「おぉ、早速見つけたようじゃのう」
「追いますわよ!」
「待て留美、あまり前かがみになると見えてしまうではないか〜!」
 騒がしく二人が紙ドラゴンの元へ。
 ラムール・エリスティアが紙ドラゴンが示した場所の土を掘り返すと、二つ目の宝箱が姿を現した。
「ラムールさん、どうぞ」
「うむ。頂こうかのう」
 ラムール・エリスティアが宝箱を開くと、『紙ドラゴンと仲良くなる本』が入っていた。
「こっちも発見っ!」
 紙豹に導かれたカレン・クレスティアも二つ目の宝箱を掘り返す。
 木製の宝箱を開くと、震度計が入っていた。
「さっきのは魔法書で嬉しかったけど……今度はハズレかな」
「カレンさん、行きますわよ!」
 佐倉留美が呼んでいる。彼女は苦笑して宝をしまうと、駆け出した。

 湖の中から、巨大なチョクシンガニが二匹、姿を現した。
 楽しげに宝を探す【湖畔の乙女達】にまっすぐ向かってきて、ハサミを振り上げる。
「気をつけろ!」
 メンバーを守るように立ちはだかったセイ・グランドルが、直進ガニの前へ飛び出した。同時に【ディフェンスシフト】を発動。 
 薙刀を構え、降り下ろされたハサミを受け止める。
「はわわっ、え、えっと……」
 宇佐木みらびは、わたわたと動きつつも持ってきていた箒に乗った。チョクシンガニの頭上へ浮かび上がる。
「宇佐木、ハサミに気をつけろ!」
「はっ、はいぃ!」
 セイ・グランドルの言葉に従い、ふらふらとハサミから離れた。
「みんな、こっちにおいで!」
 ララ・シュピリが紙ペット達を集め、柔らかく包むように抱いた。
「危ないから、ここにいてね」
「ララちゃん、紙ペットは任せましたよ」
 アンナ・アシュボードがもう一体の巨大チョクシンガニに向け、【アシッドミスト】を放った。
 酸の魔法で、固い甲羅がじわじわと溶けていく。
「ごめんなさい、波音ちゃんを傷付けさせるわけにはいかないの……!」
「んっふっふ〜、いっくよ!」
 と、クラーク波音が詠唱を始めた。
「同時に攻撃じゃ」
「わかりましたっ!」
 傍に飛んでやってきたアルカリリィ・クリムゾンスピカに、宇佐木みらびが応じる。
 三人同時に【サンダーブラスト】、【雷術】、【火術】を放ち、巨大直進ガニに差し向ける。
 合わさった雷が高温に達し、炎と相まって電流のごとき炎がチョクシンガニを包み込む。
「退いてくださいですぅ〜」
 神代明日香が【光術】を放ち、チョクシンガニの目をくらませる。
「宝探しの邪魔だよ!」
 カリン・シェフィールドがパラミタ虎を走らせ、酸で弱体化したチョクシンガニに【適者生存】を使用。
 怯むうちに雅刀を抜き、チョクシンガニに飛び掛かる。
「大人しく退くのよ」
 宇都宮祥子は【アルティマ・トゥーレ】を発動。高周波ブレードに冷気を纏わせ攻撃。
 チョクシンガニは相次ぐ攻撃に恐れをなし、後ろ歩きで後退していった。

「んっふっふ〜、魔物もいなくなったし、宝探し再開だねっ!」
「ララちゃん、もう大丈夫よ」
「はーいっ」
 ララ・シュピリが頷いて紙ペット達を解き放つ。
 紙ペット達は一斉に飛び出し、チョクシンガニが飛び出してきた辺りを次々に示した。
「まさかそこに、宝箱があるの……?」
 高周波ブレードをしまい、宇都宮祥子が紙燕を追いかける。
 紙燕はくるくる回って、宝の場所を示した。
「紙兎さん、待ってください!」
 箒から降りてきた宇佐木みらびが、紙兎を慌てて追いかける。
「わわわっ!」
 と、宇佐木みらびが自らの箒に引っ掛かり、バランスを崩した。
「……チッ」
 セイ・グランドルは仕方なく駆けより、彼女が転ぶ寸前で服を引っ張って止める。
「本当にドジだな宇佐木は! 気をつけろよ!」
「は、はいぃ……。ごめんなさい」
 しゅん、と頭を下げる宇佐木みらび。ため息をついてセイ・グランドルは顔を背けた。
「ほら、顔を上げろよ。紙兎が宝を見つけたみたいだぜ?」
「本当ですか!?」
 宇佐木みらびはスコップを持ち出し、セイ・グランドルに突き出した。
「お願いします」
「仕方ねぇ、俺がやってやらあ!」
 セイ・グランドルはスコップを受け取り、土を掘り返す。
「紙ウサギちゃん、そこに宝があるんだねっ! アンナ、ルル、こっちだって」
「んふふ〜、楽しみだよね、おねぇちゃん!」
「そうですね」
 クラーク波音達も紙兎を追い、スコップで掘り返す。
「そこを掘るですぅ〜?」
 紙猫が示す場所を神代明日香も掘る。
「よし、掘れ」
 カリン・シェフィールドは、紙リスが示す位置をパラミタ虎に掘らせる。
「むぅ……水に近いのう……仕方ない」
 空中浮遊をしているアルカリリィ・クリムゾンスピカは、顔をしかめつつも浮かんだままスコップを構えた。
 紙蝙蝠が示す位置にスコップを突き立てる。
 メンバーはそれぞれ、木製の宝箱を二つずつ掘り当てた。
「やったっ!」
「よかったですね、波音ちゃん」
「はい、二人とも、開けていいよ。いつもお世話になってるからね」
 喜ぶパートナー達に、クラーク波音が宝箱を差し出した。
「ありがとっ!」
「ふふっ、ありがとうございます波音ちゃん」
 宝箱が開かれる。ララ・シュピリの宝箱にはマイクが、アンナ・アシュボードの宝箱には白いエプロンが入っていた。
「……これは運がいいのかしら?」
 宇都宮祥子は首を傾げる。宝箱の中には兵隊のおもちゃと、兵帽が入っていた。
「開けてみましょう」
「おう」
 宇佐木みらびとセイ・グランドルも、宝箱を開ける。
「わ、すごいです!」
「……悪くねぇな」
 それぞれ、魔法書と盾が入っていた。
「あらあら、素敵ですねぇ〜」
「ふぅん、いいじゃん……わりと」
「意味深じゃのう……」
 神代明日香はメイド服と双眼鏡、カリン・シェフィールドは虎のぬいぐるみと動物図鑑を。
 アルカリリィ・クリムゾンスピカは赤い蝙蝠のピンバッジと小さな浮き輪を手に入れた。
「あともう一個ずつだねっ!」
 クラーク波音の声に頷き、一同は宝の捜索を再開させた。