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【学校紹介】李梅琳式ブートキャンプ

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【学校紹介】李梅琳式ブートキャンプ

リアクション

 一方、祥子のしびれ粉入りの食料を食べたレオンは、徐々にではあるがまともな動作をできるようになっていた。
 同行者の黒龍と話あった結果、見つかる危険性の高い小型飛空艇での移動をやめ、二人は徒歩でオアシスに辿り着いたのであった。
「水だ、水!! おい、黒龍! 水浴びしようぜ?」
 オアシスを見て、バッと上着を脱ぎだすレオンを一瞥する黒龍。
「私は向こうで一人で水浴びする。おまえもここで一人で水浴びするのがよかろう」
 そう言って黒龍は一人でテクテクと歩いていく。
「ちぇ、相変わらず無愛想なヤツだなぁ、男同士だからいいじゃねぇか。」
 黒龍の態度に首を傾げるレオンであったが、すぐさま何者かが接近してくる足音を聞く。
「またかよっ!?」
 未だに手足の末端にしびれの残る体を強引に動かしたレオンが傍の木陰に身を隠す。
「この足音の数、尋常じゃないぞ!?」
 息をひそめたレオンの前に、後退する新入生達の集団が現れる。
「うわっ……オアシスだ! つうか、逃げ場ないじゃん!」
 一瞬、目の前のオアシスに喜ぶものの、新入生達の顔には笑みはない。
 それもそのはず、ゴウンゴウンッという音と共に、機晶姫の飛行能力で地面から浮き上がり移動するソルジャーの藤 千夏(とう・ちか)を前衛に出して、ソルジャー月島 悠(つきしま・ゆう)と獣人でローグのネル・ライト(ねる・らいと)が彼ら新入生を追い詰めていたのである。
「撃て、撃てェーっ!!」
 ウィザードと思われる生徒達が火術等を一斉砲火するも、千夏の外部は銃眼の部分以外は装甲板で隙間無く覆われているため、ほとんどの攻撃を受け付けない。
 ズズーーンッ! と音を立て地面に着地された千夏の中に入り込み、機関銃を銃座に備えた悠が縦横無尽に弾幕を張る。
「ふん、統率の取れていない兵など、所詮はこんなものか」
 そう言ってトリガーを引く悠の目は、一切の慈悲や迷いのない、まさに軍人の目になっていた。
 千夏のひび割れた装甲板に跳弾する新入生の弾や魔法攻撃をあざ笑うかのように、彼らを悠の機関銃が撃破していく。
 銃弾や魔法が効かぬと悟った新入生達は、ソルジャー等の前衛隊員を前にして、盾で悠の機関銃を防ぎながらジリジリと間を詰めていこうとするが、千夏と悠に気を取られた隙を、背後から隠れ身状態を維持しつつ、長い金髪と大きい胸を揺らすネルが強襲する。
 新入生に近寄ったネルのリターニングダガーが煌く。
「みなさん、隙有りですよ?」
 いきなり背後に現れたネルの攻撃に立て直したばかりの陣形を崩されていく新入生達。
「引けー、引けー!!」
 誰かの声に新入生がオアシスの水際を逃げ始める。
 だが、一部は果敢にも、赤い腕輪を持つネルに攻撃を試みる。
 悠の機関銃が一瞬弾切れを起こした瞬間、新入生達に取り囲まれるネル。
「フンッ」
 周囲を見渡し鼻で笑ったネルの緑の瞳が光る。
「鬼眼だ! 見るな!!」
 木陰に隠れたレオンが思わず叫ぶが、如何せん実戦経験の乏しい新入生達である。ネルと目を合わせた生徒達が一瞬動きを止めてしまう。
 そして鬼眼を回避した生徒がネルの背後で剣を振り上げるも、オアシスの方向から矢のように放たれた氷術がその剣を叩き落す。
「なっ!?」
 思わずオアシスを見た新入生の目には、水着姿で腕を掲げた麻上 翼(まがみ・つばさ)がニコリと笑っている。
 その隙に弾丸のリロードを済ませた悠が、再び千夏の銃座に機関銃を設置する。
 その後、豪雨のように降り注ぐ悠と翼の攻撃でパニック状態に陥った新入生達は、もはや戦意を完全に喪失していた。
 そして、この戦場において誰よりも身軽なネルのヒットアンドアウェイ攻撃に抗える者もおらず、勝負はそれからモノの数分で決した。
「すげぇぜ……なんてチームワークだ」
 新入生達の倒れた傍に、ネルと千夏から出てきた悠と、オアシスから上がってきた翼が集まり談笑している。
「ネル、翼、ご苦労様」
「うーん、もうちょっと骨あるかなって思ったんだけど、今イチよね?」
「ネルくん、さっきピンチになってたじゃない?」
「あれくらい余裕ですわ! それに翼さんの援護が遅かったからですわ!」
 悠が笑いながらネルと翼の肩を叩く。
「マァマァ……さて、これで青い腕輪は3つ揃えたわ。後は水着に着替えてオアシスで遊びましょう?」
 悠がそう言うと、ゆっくり飛行してきた千夏が言う。
「悠殿、我輩の中で着替えればよかろう」
「ええ、千夏もご苦労様、装甲板もだいぶ傷んじゃったわね? すぐ取り替えてあげるわ」
「かたじけない」
 ネルが倒れた新入生達からランダムに青い腕輪を回収していく。
「でも倒した数が多すぎましたわ、悠さん、残りの人達、どうしましょう?」
「放っておいたらそのうち目を覚ますでしょう? 軍人には持って生まれた運も必要ですもの。ね?」
 悠がそう言って、レオンの隠れている木陰をチラリと見て微笑む。
「あなた達、腕輪を集めきったようですね?」
 上空から聞こえた声に悠が顔を上げると、機晶姫でセイバーのエレーネ・クーペリア(えれーね・くーぺりあ)がゆっくりと降下してくる。
「エレーネさん、お疲れ様です」
 エレーネが新入生達の骸の山をチラリと見る。
「随分派手に歓迎してくれたみたいですね」
「ですが、一体李さんは何故このような訓練を? 新入生達と私達じゃ力の差等分かりきっている事じゃないですか?」
「梅琳様のお考えの真意まではわかりません。ただ、シャンバラ教導団には迅速且つ的確に戦闘訓練を積ませる必要がある、そうおっしゃっていました」
 エレーネが冷静に悠の目を見つめる。
「訓練では敵同士となっても、有事の際は仲間となります。戦場では新人もベテランも関係ありませんから」
 その時、悠の目には普段無表情なエレーネの目にほんの少し暖かい光がさした様な気がした。
 オアシスの戦闘の勝者と敗者を、オレンジ色の夕日が等しく包み込み、今日が終わろうとしていた。