蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

【学校紹介】李梅琳式ブートキャンプ

リアクション公開中!

【学校紹介】李梅琳式ブートキャンプ

リアクション

「お、また捕まったな」
 レオンの情けない悲鳴に、ジュウジュウと肉を焼いていたナイトの鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)がゆっくりと腰を上げる。
 真一郎の前で肉をかじっていたナイトの嗣永 桃子(つぐなが・もも)が顔を上げる。
「桃子と同じ目にあった人がいるね……哀れ……」
「いや、あなたが言うか?」
 苦笑した真一郎がレオンのいる落とし穴の前まで歩いてくる。
「よう? 気分はどうだい?」
「最悪だぜ……あんた、在校生か?」
 穴の中から真一郎を恨めしそうな目で見るレオン。
「一応そうだな。だが俺は自己の訓練として自身の防衛、警戒能力の向上を図る為に参加している。腕輪を奪うつもりなんかないさ」
「本当だな? 嘘ついてオレから腕輪を奪うつもりなら、全力で抗うけど……」
「ハナからそのつもりなら、こんなまどろっこしい事はしないさ? どうだ? 肉、食うか?」
 ニヤリと笑う真一郎だが、その魅力的な誘いにレオンは直ぐ様頷いてしまっていた。

 バチバチと、樹の枝が炎の中で燃えている。
 落とし穴から救助されたレオンは、桃子の傍に腰をおろして肉にかじりついている。
「俺は元傭兵だからな。それでこの訓練に呼ばれたんだ、鬼役としてな」
「どおりでこういうのに手馴れているワケだ。だが、何で傭兵に?」
「戦場で傭兵隊に拾われてな、そこの隊長を父として部隊で育てられたんだよ」
「戦争孤児?」
「そうだ。父と仰いだ隊長の戦死をキッカケに隊を離隊、その時の仲間の薦めで教導団へ来たって話さ」
「父親の仇討ちに?」
「どうかな? 確かに父を超えたいって夢は今でもあるんだが……」
 黙ってレオンと真一郎の会話を聞いていた桃子が元気よく手を上げる。
「はいはい! 桃子の夢はパラミタ一の有名人になる! だよ?」
 レオンが桃子をチラリと見る。
「有名人……軍で武功をあげてって事?」
「うーん、方法はあんまり考えていないんだけど」
 桃子の話に苦笑する真一郎が、パキンと樹の枝を折って火の中へくべる。
「兵が英雄になることなんて、ありえないさ……」
「でも、例えば鬼神の如き活躍で、敵を倒して倒して倒しまくったら?」
「本国じゃ英雄だろうな……だが、相手の、敵側から見たら大量殺戮者だ」
 傭兵として生まれ今まで幾多の戦場を駆け巡ってきた真一郎の言葉に、レオンがハッとした顔をする。
「オレは……何でシャンバラに来たんだろう?」
「あー、桃子もそれは考えた事なかったね」
「その悩みは今後も引きずっていけばいい。悩まぬ人間は成長できない、兵もまたしかりだ」
 ふと、真一郎が向けた傭兵らしからぬ優しい顔に、レオンは何も言えなくなり、まるで煮え切らぬ思いのように最後の肉のかけらを口に放り込むのであった。


 夜もふけた頃、訓練本部では李梅琳(り・めいりん)とテクノクラートの夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)が話をしていた。
「と、いうわけで教導団は今年はまだ歓迎会をしてませんし、折角ですから、訓練後に歓迎会を行うというのはどうでしょうか? 新入生や在校生、他校生との交流のキッカケとなれる場を作れればよいと思うんです」
 優しげな顔の彩蓮が梅琳の顔をのぞき込む。
「あなたの提案は非常に魅了的よね……。分かりました、私から三郷キャンパスの方へ話をつけておくわ」
「ありがとうございます! 可能なら、ラピト族の麦を使った料理を作ってみたいと思います」
「ラピト族の……?」
 首を傾げる梅琳に会釈をして、彩蓮が去って行く。
 そこに、彩蓮と入れ違うように、規定数の腕輪を集めた橘とマリーアが入ってくる。
 梅琳の姿を見た橘が小さな声を上げる。
「ん……? ご苦労様でした。どうでしたか? 今年の新入生達は?」
「あ……」
 妙に体を硬直させる橘を、マリーアが肘で小突く。
 それに促されるかのように、橘がふぅと一呼吸置いて、
「この前悪ふざけしすぎてゴメンよ」
「この前……? さて、何かありましたっけ?」
「え? ……覚えてない?」
「別にいいですよ? 私、あなたを信頼してますから」
 マリーアが橘の横で、「やったじゃん」と笑顔を見せる。
「そうだ! では一つ手伝って欲しい事があるのですが?」
「手伝い?」
「ええ、訓練終了後の歓迎会の準備です。前に何かあったとしたら、それでチャラ、でいいかしら?」
 そう微笑んだ梅琳は、橘の肩をポンと叩いて去って行くのであった。