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リアクション
「さて、紙ペット達のために一肌脱いでやろう」
ノコギリ、釘、ドライバー、カナヅチ……その他諸々、日曜大工セットの入った大きな鞄を手にする人影。
ジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)が宣言した。
「俺としては、城の形……黒く塗って魔王城として園全体を包みたいところだが……」
短い銀の髪をパサリと手で流して、笑みを浮かべた。
「ふっ、ここで一歩譲るのが魔王の嗜み」
ぽつりと呟いてから、息を大きく吸って声を大きく張り上げる。
「エリザベートや他の者は、どのような色がいいと思うかね? やはり明るい色の方がよいかな?」
折り紙を続けていたエリザベート・ワルプルギスが顔を上げた。
「黒はあんまりよくないですぅ〜」
「私としては、全体をドーム状にしようと考えていたのですが」
ガートルード・ハーレックも口をはさむ。
「ふむふむ、なるほど」
「あ、えっと……やっぱり明るい色の方が……いいんじゃないでしょうかー?」
高峰結和も応える。
「やはりそうか……では、明るい色にしよう」
「ブルドッグ館ももうすぐ仕上がりそうですし、ハーレック興業共々、手を貸しましょう」
ガートルード・ハーレックが進み出る。
「私も手伝います」
「私も……できることは少ないけど、手伝うよ!」
マクフェイル・ネイビー(まくふぇいる・ねいびー)とリーフィア・ミレイン(りーふぃあ・みれいん)も駆け寄ってきた。
「うむ、では協力して作るぞ!」
ジークフリート・ベルンハルトの掛け声で皆が頷く。
マクフェイル・ネイビーは木材を取りに、リーフィア・ミレインは設計の細かい部分をガートルード・ハーレックと共に詰めていく。
「屋根は丸く……お城だから、塔のようなものを作って……」
「防水はきちんとしましょう」
意見を出し合いながら、全体像が出来上がっていく。
魔王城とはかけ離れた、ファンシーな外観が、紙ペット動物園を形作ることとなった。
外観作りの作業が進む中、畳んだダンボールと日曜大工セットを持ったトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)が周囲を見渡す。
種類の増え始めた紙ペット達がその瞳に映る。
「予想通り、かなりの数だ。まだ増えそうだし、早速作業に取り掛かろう」
「休憩場所ね。どんな形がいいかしら」
ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が首を傾げる。と、リーフィア・ミレインが彼女たちに視線を向けた。
「どうしたの?」
「紙ペット達の休憩場所の形は、どんなものがいいのか考えているのよ」
ミカエラ・ウォーレンシュタットの返答に、リーフィア・ミレインが視線を巡らせた。
「そうだね……動物園だと、藁が敷いてあったりするから、そんな感じにするのはどうかな?」
「それは良い考えね。それなら木をカンナで柔らかく削って、寝床にするのもいいかもしれないわ」
ぱちん、と手を叩いて微笑む。
「良い考えを、ありがとう」
「いいえ。じゃあ、私は作業に戻るね」
リーフィア・ミレインは、ちらりと外観作りを続けるマクフェイル・ネイビーに視線を向ける。
木材を切っていた彼が顔を上げ、彼女と視線が勝ちあう。
「!」
リーフィア・ミレインはのぼせあがったかのように顔を真っ赤にして俯き、作業場所へと戻って行った。
温かく見送ったミカエラ・ウォーレンシュタットは、ダンボールを箱型に戻し終えたトマス・ファーニナルに視線を向けた。
「トマス、いい案があるわ」
そう言って語りかけ、先程浮かんだ案が伝わる。
「よし、それでいこう」
「あと、ダンボール箱に木材で重りをつければ、風で飛んだりしないと思うわ」
「わかった」
こくこくと頷いて、意気揚々と休憩場所を作り始めるトマス・ファーニナル。
「まず、これをこうして……」
楽しそうな彼に顔をほころばせつつ、ミカエラ・ウォーレンシュタットはソーイングセットを手に取り、縫物を始めた。
様々な紙ペット動物園の施設が作られていく中、ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)は首を傾げていた。
「くるたん、何を作ろうかー?」
以前、エリザベート・ワルプルギスに作ってもらった茶色のリスに語りかける。
リスはちょこんと座って、あたりをきょろきょうろ見回している。
「うーん、何か言いアイディア、ないかな?」
リスの視線に従うように、ミレイユ・グリシャムも辺りを見る。
「面白い形のがちょこちょこしてるね〜」
ルイーゼ・ホッパー(るいーぜ・ほっぱー)が紙ペット達を見渡す。
「この子たちのために道具を作るんだね〜。手伝うよーう♪」
彼女は楽しげに微笑む。と、ガリガリと木を削る音が二人の耳に届いた。
デューイ・ホプキンス(でゅーい・ほぷきんす)が木の板を削り、何かを作り始めた。
「デューイ、何作ってるの?」
ミレイユ・グリシャムは紙リスと共に首を傾げる。
「……小動物なら回し車がいいかもしれんと思ってな」
そう言って示す設計図には、様々な形の回し車。
スタンダードな丸い物から、四角形、障害物のあるものなど、多種多様な回し車が書かれている。
「お、デューイパパは回し車作るのかぁ。ならあたしはエサ籠をつくってみようかな〜」
ルイーゼ・ホッパーが近くの植物を抜き、器用に編み込み始めた。
「お客さんが紙ペット達に餌をやる時の籠だね。私はじゃあ、デューイの方を手伝うよ」
早速作り上げられた木の回し車に、紙リスのくるたんを乗せた。「回してみて、くるたん」
小さな紙リスが、回し車をくるくるとまわしていく。
「楽しそうだね。くるたんの動きもいいし、大丈夫そうだよ」
「このような形で、次をつくろう」
頷きあう二人の横で、ルイーゼ・ホッパーがてきぱきと籠を器用に作り続けている。
「この感じ、この感じ♪」
楽しげに、手先を動かし続ける。
パラソルの下、頬杖をつきエリザベート・ワルプルギスは進んでいく動物園作りを見つめている。
「順調ですぅ〜」
にんまりと微笑むと、そこにメイド服姿の神代 明日香(かみしろ・あすか)がクッキーを差し出す。
「エリザベートちゃん、大丈夫ですかぁ〜?」
小首を傾げる彼女に、エリザベート・ワルプルギスはぶんぶんと首を横に振った。
「心配ないですぅ。明日香は心配性ですねぇ〜」
ふふん、と笑うエリザベート・ワルプルギスにしかし、むぅ、と首を傾げる神代明日香。
と、そこへ近付く影。
「グラン、私は作業を始めるので、メリュジーヌと一緒に行って来てください」
木材とノコギリを手に、作業を始める沢渡 真言(さわたり・まこと)。
言われるがまま、グラン・グリモア・アンブロジウス(ぐらんぐりもあ・あんぶろじうす)は紙ドラゴンのメリュジーヌと一緒にエリザベートのもとへ。
手には分厚い動物園の本が抱えられている。
「校長……あの、キリンの紙ペットは作れないですか?」
不安げにおずおずと、グラン・グリモア・アンブロジウスが問いかける。本をぎゅっと抱いて、エリザベート・ワルプルギスを見る。
「いいですよぅ〜」
そう言った校長は魔法紙を取り出し、呪文を唱えた。魔法紙はみるみるうちに折られていき、キリンの形となり、色と模様が現れた。
「仕上げですぅ〜」
最後にエリザベート・ワルプルギスが手を振り上げ下ろすと、、キリンの形の紙ペットがてくてくと歩き始めた。
「校長、ありがとうございます……」
ぺこりとメリュジーヌと共に頭を下げて、グラン・グリモア・アンブロジウスがキリンを連れて沢渡真言のもとへ。
沢渡真言は額に滲む汗を拭いつつ、猛獣館の柵を作り続けている。
ノコギリを引き、木材を次々と切り落としていく。
「可愛い紙ペット達のためです。力は惜しみません」
言い聞かせるように言って、ノコギリを動かし続ける。
エリザベート・ワルプルギスのパラソルにまた、近付く者が一人。
「タスマニアオオカミを折るから、紙ペットにしてくれないかな?」
そう言って寄って来たのは、リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)。
「いいですよぅ〜」
「やった。じゃあちょっと、魔法紙と机を借りるよ」
リアトリス・ウィリアムズはそう言ってテーブルの片隅に陣取り、筆記用具やハサミや糊を取り出した。
茶と黒の縞模様に塗り、雌には袋を作って赤ちゃんまで入れ、丁寧に折って仕上げた。
「できたっ!」
「仕上げですぅ」
エリザベート・ワルプルギスが再び腕を上げ下げして魔力を込めると、四頭のタスマニアオオカミが「おぉん」と鳴いた。
そしてリアトリス・ウィリアムズにすり寄る。
「ありがとう。じゃあ僕は、タスマニアオオカ舎を作りに行くよ!」
手を振り、去っていくリアトリス・ウィリアムズ。
「あとは紙で作ろうかな」
パラソルから少し離れた位置で、今度は厚紙とペンを取り出し、作成を始めた。
去っていく彼らを見送りつつ、神代明日香はエリザベート・ワルプルギスに見えないように茶を作っていた。
紙パック入りコーヒーミルクとティセラブレンドティーを組み合わせた鴛鴦茶。
そこに砂糖とエバミルクをたっぷりと加える。
「エリザベートちゃん、無理はしないでくださいですぅ」
「? なんのことですかぁ〜?」
首を傾げるエリザベート・ワルプルギスの額にうっすらと汗がにじんでいるのを、神代明日香は見逃さない。
ハンカチで丁寧に拭いて、作った鴛鴦茶を差し出す。
「これ、飲むですぅ〜」
言われるがまま一口飲んだエリザベート・ワルプルギスの表情緩み……目を瞬かせた。
「明日香、これ……」
「おいしいでしょう〜? おかわりもありますですよぅ〜?」
「……余計な気遣いするなですぅ」
頬を膨らめつつも、もう一口飲むエリザベート・ワルプルギス。神代明日香はにこにことそれを見守る。
「エリザベートちゃん、お願いがあるです!」
ぱたぱたとヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が駆けてくる。
「紙ペットさん、ふやしてくださいです」
ヴァーナー・ヴォネガットの愛らしい笑みに、エリザベートの表情も自然と緩む。
「いいですよぅ〜。何をつくるですかぁ〜?」
「えぇとー、ゾウさん! おおきくてやさしそうですー」
にこにこと提案を始めるヴァーナー・ヴォネガット。
「あと〜、パンダさんと、キリンさん」
「キリンはさっき作ったですぅ」
「そうですか。えぇと、じゃああと……」
小首を傾げ、思い出すように片手で頭をトントン、と叩く。
「ゴリラさんです。やさしいゴリラさんになかよくあるいてほしいです」
「わかったですぅ〜。まとめてつくりますよぅ〜」
魔法でぱぱっと折り上げ、各動物を紙ペット化するエリザベート・ワルプルギス。
「ありがとです!」
お礼にエリザベート・ワルプルギスへ頬にちゅーをすると、手をばいばい、と振って紙ペット達を引き連れていった。
エリザベート・ワルプルギスはつられるように微笑んで、鴛鴦茶を飲んだ。
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