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リアクション
8.山葉校長によるキス贈呈
山葉涼司は、ゴール地点に設置された仮設事務所の控室で頭を抱えていた。
■
「どーすんだよ! あの最下位、及び失格者の数!!」
1、2、3、4……計36名なり!
公約とはいえ、36名も「アツイキス」をしてしまったら。
自分は人として、何か大切なものを失ってしまうのではなかろうか?
カーテンを開けて、会場を見た。
「失格者」達は閉会式の会場で、一様に首を垂れて涼司の登場をある意味首を長くして待っている。
可愛い女の子もいれば、むさい野郎もいる。中には人でない者さえ……。
「コタツ、か。
『こたつ』だとか、『甲羅』だとか……どこにキスすんだ?」
口と尻の穴の区別もつかんだろう! とか思う。
「間違って尻の方にキスしちゃったら!
女の子だったら、どうすんだよ!」
こんな時、環菜だったどうしたんだろうな、とか考えてみる。
環菜だったら……
「……環菜か」
スウッと目の色が変わった。
「ふん、俺はまだまだだな」
ドア・ノック。
涼司さん、時間ですよ! と花音の声が聞こえる。
すぐ行く、と答えて、涼司は鏡を背にした。
「この『弱さ』が、俺を駄目にする。
俺はこの『弱さ』を断ち切るために、どこまでもアツイキスをしてやるぜ!」
■
……その頃、会場ではひと悶着が起きていた。
■
「美羽、こっちだ!
一緒に逃げよう!」
沿道で観戦して美羽を応援していたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は、彼女の危機に際して実力行使に出ていた。
つまり、「失格者」席から強引に連れ去ろうとした訳だ。
黒服達がコハクを拘束しようと動く。
そこへ、何と! 蒼空学園の制服にメガネをかけた、生真面目な「山葉校長」が登場した。
(ふっふっふ、誰も気づいてへんでぇ!)
メガネの淵をつまんで、微妙に俯き顔はあまり見られないようにする。
その「爽やか涼司」の正体は、変装した日下部 社だ。
黒服達を下がらせると、自身はコハクに近づき、大丈夫やで、と肩をたたく。
「確かに、俺、山葉涼司は『キス』が商品だ! とは言ったがな。
どこにするとは言っとらんかったで?」
そうして美羽の手の平に軽くキスをする。
赤い 人面甲羅
伊東 武明
九条 イチル
高性能 こたつ
志方 綾乃
紫月 唯斗
四谷 大助
小鳥遊 美羽
椿 椎名
遠野 舞
中原 一徒
七瀬 歩
羽瀬川 まゆり
葉月 ショウ
緋柱 陽子
美鷺 潮
アシュレイ・ビジョルド
グリムゲーテ・ブラックワンス
ザカコ・グーメル
ジークフリート・ベルンハルト
ダリル・ガイザック
トマス・ファーニナル
トライブ・ロックスター
ハーリー・デビットソン
ルカルカ・ルー
ルツ・ヴィオレッタ
レロシャン・カプティアティ
ロイ・グラード
岬 蓮
の29名は、そう言った次第で、全員手の平の軽いキスですんだ。
もちろん拒んだ者は、(相手が偽涼司であったために)無理強いされなかった……のだが。
現場を見て、朝倉千歳は「なななな……」を連発したきりで固まる。
「ヤ、ヤマバ! キスが商品との噂は本当か!
これは判官として、迷惑防止条例違反及び公然猥褻罪でひっ捕らえねばならないな」
それっと、涼司を懲らしめるため、観客席から飛び降りる。
これを機に、涼司をシメたい者達が決起して、会場は大混乱となった。
「皆の衆! 待つのじゃ!
ここはひとつ! 『不真面目な態度最下位、もしくは脱落した者について、キスを巡った野球拳の提案』をしたいのじゃが、どうじゃあ!?
校長殿はすでに素肌に上着で、やる気満々の体であるぞっ!」
禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)は冷静に呼びかけたのだが、混乱の中では無意味だった。
「説得」の行使くらい必要だったようだ。
そこへ、「本物の」涼司がふらりと現れた。
時を置かずして、「偽涼司」は光学迷彩で姿を消し、脱走する。
「山葉だ! 山葉校長がおるぞおおおおおおおおおおおおおっ!」
誰かの声で、一斉に暴徒の群れは涼司に向かって襲い掛かる。
涼司は今一つ状況を把握出来ない、あたりまえだ。
「っと。こいつはいったい、何の騒ぎ……」
首を傾げている間に、学生達に取り囲まれ、逃げ出せなくなってしまった。
もっとも彼の周囲を固めたのは、この期に及んで「公約」を何が何でも実現させようと実力行使に出た者どもだったが。
「そーだよ〜! 山葉校長。
ちゃんと約束は守らなくっちゃ! だよね〜♪」
トップはノア・サフィルス。
もっとも彼女は自分ではなく、シャイな契約者を強引にキスさせたがっていた。
「まったく、こんなことでもしなくちゃ〜!
大好きな涼司お兄ちゃんとキスでも出来ないのかね〜? 加夜は〜」
それ! と、加夜の背を押す。
ふらら〜と、加夜は涼司の足に躓いた拍子に、不可抗力でキスをしてしまった。
「ひょわわわ〜! 涼司くんとキスしてしまったです!
◆▽●×◎□○△〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
そのまま声にならない叫びを上げて脱走。
入れ替わるようにしてやってきたのは、南鮪。
「何言ってんだぜぇ!
俺が1番お前を愛してやってんだからよぉっ!」
「テメーは花音じゃなかったのか!」
「俺は、お前のことも丸ごと含めてだな!
って、前から言ってんだぜぇ! 観念しな!」
ジタバタとあがく涼司に強引に熱いキスを敢行しようとする。
「鮪さん!
涼司さんに何しよーとしてんですかっ! バカっ!」
鮪は花音の鉄拳で星になってしまった。
「私は頭脳プレーと行きましょうかねー♪」
楽しそうに、イジりにやってきたのは藤原優梨子。
「『熱烈なキス』ということは、舌など入るのですか?」
「へ? い、いやぁ、そ、それはさすがに……」
「は? 何ですか?
校長でしょう?
度胸をお出しなさいなっ!!」
がしっ。
涼司を抱きしめる。
深くキスをして吸精幻夜。
そのまま「誘惑」で押し倒して、一気に大人の世界へなだれ込もうとしたところ。
「きゃああああああああああああああっ!
涼司くんに何て事すんですかぁ! いやぁ〜ん!!」
どこから駆けつけてきたのだろう?
涙目の加夜に、ドンケツですっ飛ばされてしまった。
「わっ! 危なかったぜ、すまねえな! 加夜」
「い、いえ、と、とととと友達として当たり前のことですから……」
そのまま真っ赤になって去って行く。
そんな訳で、涼司の「友達じゃなく……」という言葉は宙に浮いてしまった。
入れ替わるようにして、涼司の前に立ちはだかったのは、朔。
「やっと2人きりになれました、山葉校長。
今日があなたの年貢の納め時ですね!」
丁寧な口調とは裏腹に、物騒な物言いだ。
そして、彼女はその台詞が終わらないうちに、涼司目掛けて『しびれ粉』を撒いた。あの、レース序盤でまいた残りの粉だ。
「わ! てめー、朔、何て事を!」
「もはや蒼学生でない私なら、良心の呵責も無いです。
バレンタインでの恨み、覚悟!」
「……て、何すんのさ?」
「決まってる!
私の靴にキスさせて、その恥ずかしい写真をパラミタ中に広めるのだ」 それっ! と朔は指をならす。
スカサハがメモリープロジェクターにて、投影しようと、涼司の体を朔の足に引き摺って行こうとする。
がっ、と止める手。
「ちょっと!
私の学校の校長サマに、何をされるのかしら?」
スカサハの手を止めたのは、リカインだ。アストライトが巨体で涼司とスカサハの間に割って入る。
黒服達もやってくる。多勢に無勢だ。
「はん、覚えてろっ!」
朔達は混乱の中に消えて、逃げ去った。
中継に飛んできた鈴虫 翔子がカメラに収めて、マイク片手に熱弁をふるう。
――おっと! 暴挙を行使しようとした学生達は、去ってゆきました。
ボディガードの方々でしょうか?
山葉校長の取り巻きたる黒服の面々は、また四方へ散らばって行きます。
校長となった山葉涼司にちょっかいを出すことは、どーやら至難の業となってしまったようですね!
あっと、ここでイルマ・レストが、冷静な判断を求めて声を上げてますね。
こんなことでは、蒼学にカレーのレパートリーが増えてしまうのは、時間の問題だとか……は? カレー???
と、とにかく、事態は収束の方向へ向かいつつあるようですね……。
……以上で、『第1回 ヤマハGP〜空京・秋の陣〜』のレポートを終わります。
実況は私、鈴虫 翔子、中継は空京稲荷 狐樹廊でお送り致しました!!
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