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3.味方?

「うぅ、勉強苦手ー。国語とか算数とか、むずかしいんだもん」
 と、ミント・ノアール(みんと・のあーる)が机に突っ伏す。
「苦手は克服すると楽しくなるんですよ」
 そう言って火村加夜(ひむら・かや)はワークブックをめくった。
「問題は『この登場人物が伝えたいことは何ですか?』ですね」
「えー、伝えたいこと? うーん、分かんないよぅ」
 と、ミント。加夜はそんなミントにヒントを与えようと、前のページを見直す。
 ――僕が加夜に伝えたいことなら、お昼はオムライスが食べたい、なんだけどな……。と、ミントが考えていた時だった。
「答えは『何事も楽しむことが大切』」
 ミントははっとして後ろを振り返る。見えたのはユベールの背中だったが、ミントはすぐに顔を前へ向けた。
「それだ! 『何事も楽しむことが大切』だよ!」
 と、加夜からワークブックを取り上げて答えを書き込むミント。
「まあ、よく分かりましたね」
「教えてくれたんだよ、地祇さんが。僕も頑張らなきゃ」
 と、にっこり笑う。
「優しい地祇さんだったんですね。ミントが頑張るって言ってくれて嬉しいですよ」
 にこっとする加夜に元気よく頷く。
「うん!」
「また来てくれたら、お礼に料理でも作りましょうか」
「それなら僕、一緒にオムライス食べたーい! ケチャップで花丸書いてあるのがいいな!」

「まさかマホロバの旗本になってまで、学校の課題に追われる日が続くとは思ってなかったぜ」
 と、愚痴る篠宮悠(しのみや・ゆう)。そんな彼を見張っているのは毛利元就(もうり・もとなり)だった。
「終わるまで怠けないよう、見張っていてやるわよ?」
「いや元就、見張らなくていいから戻ってろよ」
 と、悠が言うと、元就は言った。
「駄目よ、元がぐーたらなんだから。ほら、さっさと宿題終わらせるっ」
 悠は仕方なく問題に目を落とした。数学の三角関数の問題である。
「くそっ、数学とか面倒な……!」
 三角関数なんて何の役に立つんだ、と言いたげな様子で頭をフル回転させる。
「『答えは0.866』」
「『答えは0.866』っと……天の声キター!!」
 素直に答えを書いた悠の背後に、幼女がいた。
「そうそう天の声……って、天の声!?」
 はっとした元就が幼女へ叫ぶ。
「こらそこの地祇ー! 余計な手出しするんじゃないわ!」
 捕まえようと立ち上がった元就を、ユベールはとっさに手にしたハリセンで殴り倒した。
「きゃあ!」
「うわ、元就!?」
 さすがに悠も驚いて席を立つが、ユベールはさっさと逃げ始めている。
「あははははは! すっげー威力!!」
 と、その様子を見ていた勇人が笑い声を上げると、ユーリが彼の頭を叩いた。
「笑い事じゃないでしょう!」
 目を丸くする悠と元就に向かって、頭を下げるユーリ。
「ごめんなさい、笑ってしまって。悪気はないんです、ごめんなさい」
 勇人の頭も無理矢理に下げさせ、もう一度深々と頭を下げた。
「どうやら、地祇の他にも説教すべき相手がいたようね」
 と、起き上がる元就。勇人はびくっとして逃げだそうとするが、ユーリに腕を掴まれて逃げ出せなかった。
「そこに正座なさいっ!」
「そこに正座して下さい!」

 騒ぎを聞きつけて教室を出た梅沢夕陽(うめざわ・ゆうひ)ブリアント・バーク(ぶりあんと・ばーく)は、地祇と正面衝突しそうになった。
「うわっ」
 間一髪避けたが、今の地祇は捕まえなければいけない相手だ。
「ちょっと待って!」
「逃げるな、そこの地祇!」
 慌てて追い始めるが、夕陽が出遅れてしまう。
 どんどんと遠ざかっていくユベールに向けて、ブリアントは叫んだ。
「温かい飲み物が欲しくはないか!?」
 ユベールの足が止まった。ちらりと振り返って、とことこと歩いて戻ってくる。
「ナイス、ブリアント!」
 と、息を切らしながら追いつく夕陽。
 ユベールはブリアントの正面に立つと、彼の手にしたお茶のペットボトルを奪った。
「ありがとう」
「ねぇ、何でこんな事するの?」
 と、尋ねる夕陽だが、ユベールは無視して再び逃走を始めてしまう。
「え!? そんな、ちょっと待ってよぉ!」
「な、まさか持ち逃げとは……っ!」
 ユベールが心を開いてくれたとばかり思った二人は、すぐにまた走り始める。

「宿題を手伝ってくれないか?」
 と、マクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)は言った。
「苦手な科目を残してしまって、困ってるんだ」
「それなら、お手伝いしましょう。断る理由もありませんしね」
 と、微笑む御堂椿(みどう・つばき)
 ノーレ・シュトゥルム(のーれ・しゅとぅるむ)もこくりと頷いた。
「ウェルの……宿題……手伝う。……勉強なら……出来る、から。……計算は……得意……だから」
「ありがとう、二人とも」
 と、安堵したように息を吐くマクスウェル。
「じゃあ、図書室にでも行くか。あそこなら静かに勉強できるだろ」
「それなら、私は宿題の資料探しをしましょうか」
 と、のんびり歩き出す三人。校舎のどこかで生徒が廊下を走る音がする。
「何やら、たくさんの人がばたばたしていますが……」
 と、それに気がつく椿。
「自分たちには関係ないだろ。それよりも宿題を片付けたい」
「……終わらせ、なきゃ……ウェル……怒られる」
「それもそうですね、放っておきましょう」
 しかし、図書室が静かである保証など、今日はどこにもなかった。そうとも知らず、三人は図書室へと向かっていく。

「そういえば……カワユイ地祇が、イタズラをして回っていると聞いたわ」
 急にそんなことを言い出した緋ノ神紅凛(ひのかみ・こうりん)に、姫神天音(ひめかみ・あまね)は首を傾げた。
「それがどうかしましたか?」
「イタズラされた連中が血眼になって探して報復しようとしてる、イタズラは頂けないけどそれの報復も頂けないわね」
 どうやら、慣れない勉強のしすぎで脳がオーバーフローを起こしてしまったらしい。
「故に私はその地祇を捕獲……もとい保護しに行くッ!!」
 と、席を立って教室から出て行く紅凛。
「紅凛さん! ああもう、また余計なことに首を突っ込んでっ!」
 呆れた表情を浮かべながら、天音もすぐに彼女の後を追って廊下へ出た。