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四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~

リアクション公開中!

四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~
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リアクション

 
 未だ、大型車両の姿を見ないパラミタ内海。
 格安だった4人乗りワゴンが、車両用入口から広い浜に入ってくる。オープン前に主に資材搬入に使われたルートを通って手ごろな場所に駐車し、中から4人の男女が出てくる。
「夏だ、海だ! すぽぽぽーん☆」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、砂に降り立った途端に元気にそう言った。着ているものに手をかけて――
「まてーっ!」
 すっぽんぽんになるルカルカを想像して、紅白のドラゴンパーカーを着た夏侯 淵(かこう・えん)が大慌てで制止に入る。その彼に、ルカルカは振り返った。
「あ、すぽぽぽんするのはパーカーよ、パーカー」
 あは、と笑う彼女は改めてあんこうの水色パーカーに手をかけた。下が水着なだけにファスナーを閉めているのでぱっと見、裸エプロンならぬ裸パーカーに見えなくもない。
 星型のホルダーをつまんでファスナーを開けつつ、ルカルカはダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の体つきに半ばあきれた視線を向ける。
「ほんと、目に毒な体してるわねえ」
 蒼と黒のボクサータイプ水着の上に、均整の取れた体に機能的な筋肉。女性客達が小声できゃあきゃあ言いながら通り過ぎていくが、ダリル本人は気にも止めていない。
「目の毒と言うなら……ルカこそ」
 ダリルはパーカーを脱ぎ、白いビキニ姿になったルカルカを見て苦笑した。カット部分がシャープで、男ならつい立ち止まってしまいたくなる格好だ。
 そこで、ドラゴニュートのカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が彼女達の元にやってきて親指でワゴンの後方を指し示した。
「後ろにシート繋いだぜ」
「ありがと〜」
 ルカルカが軽くお礼を言う中、淵はカルキノスに目を遣った。
「水着は着ないのだな」
「鱗が鎧みてぇだから服なんて元々着ねぇよ。脱皮モラトリアムってる位だし」
「……そういえば、いつまでも脱皮しないな。最終脱皮は考えとらんのか?」
「ん? ……でかいと街中で不便だぜ」
 カルキノスはきょとんとして、あっさりとそう答える。確かに、ドラゴネットになったら歩道や車道から存分にはみ出そうで、大変だろう……周りが。
 そこで、ルカルカが環菜達に気付いた。
「あ、環菜も来てるみたいよ! 挨拶しよっか!」

 環菜は、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)と共に浜を訪れていた。自然体で歩み寄ってくる環菜に、天斗はすかさず声を掛ける。
「環菜さん! 今日も凛々しくお綺麗だ! 俺が日焼け止めを……」
「陽太に塗ってもらうからいいわ」
 皆まで言う前にばしんと断られた。どこまでも懲りない男、天斗である。
「このエロオヤジ!!!」
 そこで、繰り返しのナンパに、いい加減にしろとアイナが砂を投げつけた。それは見事に目に直撃し、天斗は「おぉおっ!!!」と転げまわる。その彼を、アイナは今度は砂埋めにかかる。第一、片っ端から女性をナンパしているのに自分の水着姿には目を向けない所がなんとなくムカつく。
 しかも、哀れみの視線まで感じるような――
「…………」
 先程まで天斗にツッコミを入れていた隼人が、何か気の毒そうに父を見ている。
「何よ?」
 ついでに、隼人にも目潰しを食らわせた。アイナの水着姿に哀れみの目を向けていたという意味では同罪だ。「……!!!!!」と、続けて転げまわる隼人。その様子に、ルミーナは困ったような笑みを浮かべている。そりゃ困るだろう。
 一方、環菜は彼等を見事に無視し、陽太に持参の日焼け止めを渡していた。
「ということだから、はい、陽太」
「あ! 環菜、これ……」
 もとより陽太は、事前に立てたデートプランに『日焼け止めを塗る』を入れていた。自分もひとつ買って持ってきていたわけで。
「俺が持ってきたのと同じです……!」
 彼が荷物から出した日焼け止めを見て、環菜は目を瞬かせた。
「……偶然ね。じゃあ、あとでお願いね」
「は……はい!」
 トキメキ度上昇の1つであったプランは、どうやら成功しそうだった。
「環菜、ナラカぶりね!」
 そこに、ルカルカがドッサリと花火を抱え、やってきた。

「今日は、何しに来たの?」
 雑談がてら、訊いてみる。
「デートよ。今はちょっと、ルミーナ達を見かけたから一緒にいるだけ」
「デート?」
 ルカルカは即答した環菜と陽太を見やって「そっかー」と言った。2人に笑いかける。まあ、そうだろうな、とは思ったけれど。
「熱い熱い。気温上昇だねっと♪ これ、快気祝いの花火。夏の思い出にど〜ぞ」
「あっ、……ありがとうございます……っ」
 抱えていた線香花火の山を陽太に渡し、ルカルカは改めて、環菜に向き直った。
「……おかえりなさい」
 穏やかに微笑む。そして、花火を落とさないように慌てて纏めている陽太に、またねという意味で手を振った。
 ワゴンまで戻ると、そこでは淵がビーチボールを膨らませていた。
「4人でビーチバレーでもするか」
「んじゃ、あそこのネット使ってやろっか♪」
 広い浜には、いくつかビーチバレー用のネットも設置されていて、そこでルカルカ達は2on2のビーチバレーを始めた。

「ファーシーは西シャンバラの公式水着なんだ。良く似合ってるよー!」
 海の家から数メートル離れた所に建てられた更衣室。そこから出てきたファーシー達に、ルカルカは「やほー」と声を掛けた。ビーチバレーをしていたら、見かけたのだ。
「そう? 公式じゃないの買おうかな、と思ったんだけど……これ、何か可愛いし気に入っちゃったから」
 ファーシーははにかみながらもそう答え、明るい笑顔になって言う。
「ルカルカさんも、白いビキニ似合ってるわ。どこで買ったの?」
「これはねー……」
 ショップの名前を口にしてから、ルカルカはアクアにも注目する。彼女は青いビキニを着ていた。胸に細いリボンのついた、シンプルなデザインだ。下にもスカート等はつけていない。
「アクアもビキニなのね。うん、すごい綺麗だわ。普段から青い服が多いの?」
「そうではありませんが……黒、とかが多いでしょうか。白も着ますが」
「あ! 皆も来てたのね。こんにちは!」
 そこでファーシーが、後から歩いてきたダリル達に挨拶した。ダリルは彼女に、軽く手を上げる程度の返しに留める。それをからかおうと、ルカルカは彼の後ろに回り込んだ。表情から淵が同じ思惑を持っているのに気付き、示し合わせて2人でダリルの後髪を掴んだ。
「もっと愛想良くすればいいのにぃ」
 ぐいっと引っ張ると、ダリルは面白いように後ろにガクッと背を逸らした。
「うお」
「「逃げろ〜」」
 2人は素早く離れ、楽しそうに走って逃げ出した。淵はそのままパーカーを脱ぎ、若草色のパンツ型水着になって海へと入っていく。2人を追いかけることはせず、ダリルは苦笑してファーシーに言った。
「泳いでくる。またな」
「……うん! また」
 海に入り、彼は、岩まで行って黒い小型端末でニュースでも読もうと、と泳ぎだした。たまにはのんびりと時間を過ごすのも悪くない。
 と、思ったのだが――
「泳ぐのか? じゃあ沖まで競争でもするか」
「ルカもルカも! 混ぜて混ぜてーーー!!」
 淵とルカルカがすかさず泳いできた。……さっき髪を引っ張ったことはもう忘れているのかこの2人は。
「遠泳か? 俺もやるぜ! ちょうど沖の方へ行きたいと思ってたんだ」
 カルキノスも便乗してきて、結局、4人で競争することになった。同じ位の身体能力を持っている彼等が全力で泳ぐと、巨大生物顔負けの水しぶきがあがる。他の遊泳客が慌てて移動していく中、初めに岩礁へ着いたのは――
 淵が楽しそうにははは、と笑う。
「僅かな差だったが、俺の勝ちであったな」
「まあまあ楽しかったぜ、さてと……俺は釣りでもするかね」
「くーーーーーっ! くやしい!」
「……まあ、こんなものか」
 以上台詞順。ということで、カルキノスはちゃっかり持ってきていた釣り糸で釣りを、ダリルは端末を弄り始め(水に濡れたせいかちょっと調子が悪いらしい)、ルカルカ達も自由に泳ぎだした。

「仕事で急用って……何があったのかしら」
 携帯に何やらメールがあり、陽太が慌てたように席を外したのは先程のこと。環菜は、彼の去った先を目で追いながら眉をひそめる。
「1時間ほどで戻るって言っていたけれど……、後で確認しなきゃね」
 きちんと確認しておく必要があるだろう。パートナーとしても、鉄道に携わることに決めた自身としても。
「改めて……陽太を受け入れてくれてありがとうございます」
 そこで、陽太の代わりに護衛についていたエリシアが話しかける。実は、陽太の言った『仕事で急用』というのは一時的に離れるための方便に過ぎない。エリシアが『何か理由を付けて、小1時間ほど席を外すよう』とメールで指示をしたのだ。陽太のいないところで、いないからこそ話せることもあるわけで。
 まあ、陽太のことだ。方便とはいえ仕事と言った以上、何処かで仕事をしているだろう。
「陽太のこと、これからもよろしくお願いしますわね」
「……何だか、ご両親にお会いした時に言われそうな台詞ね」
 環菜が若干座りの悪い気持ちになってそう返すと、エリシアは苦笑して「そうかもしれませんわ」と言った。
「わたくしにとって、あの契約相手は出来の悪い弟みたいな感じなのですから」
「……それは、言い得て妙ね」
 でも、外見11歳の少女に弟と言われてしまうのはどうなのだろう。そこがまた何か“らしく”て、少し笑ってしまう。心がちょっと、あたたかくなった。
「おにーちゃんは環菜おねーちゃんと離ればなれになって、すごく辛そうだったから、これからはずっとずっとおにーちゃんと一緒にいてくれたらわたしも嬉しいな!」
 ノーンも続けて、環菜に言う。
「……ええ、そのつもりよ」
「環菜おねーちゃんはおにーちゃんのどんなところが好き?」
「そうね……」
 環菜はその問いに即答せずに黙考する。ノーンもエリシアも、何となく固唾を飲んでしまう。
「強いて挙げるなら、愚直なまでに実直なところかしら」
「……強いて、ですか……」
 その前置きに、エリシアが小さく笑う。環菜は海へ視線を逃がす。彼女なりの褒め言葉なのだが、伝わっただろうか。ノーンは「そっかー……」と分かったのかどうなのか微妙な反応をする。そして、思い出したように聞いてきた。
「あっ、それと、いつから好き?」
 それは、ノーンが前から気になっていたことでもある。
 ――おにーちゃんは、随分昔からみたいだけど。
「いつから……?」
 こちらへの返答は、先程よりも早かった。
「好きになるのに、何時かとか理由とかは必要なの?」
「……つまり……気がついたら、ということですか?」
 一目惚れして、この時! とはっきり言えるパターンもあれば、何とも思っていなかったのにいつの間にか、ということもある。
「そうですか……。これから、何でも相談してくださいね。わたくし達はいつでも、支援の手は惜しみませんわ。……ところで、今後は何をなさっていくつもりですか?」
「今後……、そうね、まずはパラミタ横断鉄道を作ること。それが、今の私の目標よ」
 それから陽太が帰ってくるまで、環菜達はここ最近にあった他愛のない話に花を咲かせた。