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リアクション
「お店を盛り上げるためには、まずお客さんをたくさん集めなくっちゃね」
そこそこ客入りはあるけどまだまだ普通。もっと盛り上げるよっ! と、アスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)は海の家の正面に立った。
「私の歌とダンスと魅力と名声でお客さんを集めてあげる♪」
そうして、マイクを通して可愛らしい声で海水浴客達に挨拶する。
「846プロダクションの新人アイドル、アスカちゃんですっ☆」
浜を歩いていた人々が立ち止まる。
これから始まるのは、渚のライブコンサート。砂浜はアスカちゃんのライブステージっ☆
なんだなんだと野次馬的に集まってきたお客達に、アスカは言う。
「新曲『渚のWitch’s Love』歌いまーす♪」
くるりと一回転して、軽快なダンスと共に歌いだす。
『暑い渚のアバンチュール
乙女の本気 魅せてあげる
大好きな 貴方にだけ
ちょっぴり過激に大胆に
貴方の視線を釘付けよ
よそ見なんて許さない
他の娘に目移りなんかしたら
乙女のお仕置き 下してあげる
真夏の魔女の Witch’s Love
千年の恋の始まりに
熱く熱く 抱きしめて』
途中から客達は歌に合わせてリズムを取ったり声を上げたり、それにつられて通りすがりの他の客も集まってくる。
熱い砂、熱い空気、熱い太陽の下で、海の家は熱く盛り上がる。
「みんなありがとー♪ 海の家には美味しいものたくさんあるよ☆ お好み焼きに焼きそば、カキ氷、そしてたこ焼き! みんな買っていってね!」
「愛と正義と平等の名の下に! 革命的魔法少女レッドスター☆えりりん!」
その後ろでは、海の家では藤林 エリス(ふじばやし・えりす)が華麗な千枚通しさばきを魅せていた。朝のイルミン新制服から真っ赤なビキニ水着とエプロンに着替え、魅惑の海の家店員スタイルに変身している。
鉄板の上で、たこやきがくるくると綺麗にひっくり返った。
『おお〜〜〜〜』
声を上げる海パン男達に、エリスはかつお節踊るほっかほかのたこやきを提供する。
「はいっ、みらくるレシピで作った魔法のたこやき☆ 最高に美味しいわよ♪」
その時。
「うわあーーーーっ! 巨大タコだーーーーーっ!」
ごくごく普通な一般シャンバラ人AやBや海パン男達が海から上がって慌ててこちらへ走ってくる。巨大タコは、男達を追っかけているのかソースの匂いにつられたのかアスカの歌につられたのか仲間がおいしくなってしまったことに怒ったのか、海の家にまっしぐらである。
「巨大生物!?」
エリスは千枚通しを手に店の前に出て、巨大タコと向き合った。8本の足がうねうねばたんばたん、と激しく動いて外に設置していたテーブルが倒れる。
「この海は巨大生物も魔物もOKだけど、お店で暴れるなら入店おことわりよっ!」
そう叫ぶと、巨大タコに対してファイアストームを繰り出した。
ごおぉおぉ!!!
炎の嵐が、巨大タコの周囲を激しく渦巻く。
それが収まった時――
赤紫色と半透明だった巨大タコは、ウェルダンに焼きあがって鮮やかな赤と白に変わった。おいしそうだ。
「たこやきにして食べちゃうんだからねっ!」
しばらく、材料には困りそうになかった。
◇◇◇◇◇◇
「あの海の家……、ただの海の家じゃありませんね……!」
活気のある店先、新人アイドルのライブコンサート。おいしそうになったタコにホレグスリを売る少女。加えて、2軍の愚痴を言うもののいつの間にか空気になった闇口――いや、空気な故に外の客にはいまいち知られていない闇口。
クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は、離れた場所から海の家全体を眺めて言った。そこからは、イルミンスールのヒーローとしてのライバル心が感じられる。
「海の家よりインパクト大なものを作りたいですね。折角海に来たのなら、お茶の間のヒーローとしては皆さんの心と記憶に残ることをやりたいです」
パラミタ内海のヒーローとなり、海の家より目立ちたい、ということらしい。
海の家と(一方的に)対峙したまま、クロセルは考える。
「しかし、浜辺で異様な存在感を漂わせる『海の家』。これを上回るインパクトがなければ、そうそう目立てるものではありません」
「で、どうするのだ?」
イルミンスールの公式水着に浮輪、という格好のマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)が見上げてくる。身長60cmのマナは、もふもふとしていて実に愛らしい。
「そうですね……」
クロセルはうなり、そして言った。
「海の家の三大風物詩といえば、のびたラーメン、まずいカレー、粉っぽい焼きそば」
「あそこのはそうでもないらしいぞ」
「しかし海の家の大半がそうなのです!」
マナの隣に立つシャーミアン・ロウ(しゃーみあん・ろう)のツッコミに、クロセルははっきりと断言する。
海の家に失礼である。しかし多くの同意が得られそうなのも確かである。
「とにかく、この三大風物詩を『浜辺でやること』のテンプレートで乗り越えずして、ヒーローとは言えませんよね」
力強く、ぐぐっと拳を作る。
「つまり……、ここはオーソドックスに砂のお城を作りましょう!」
「……砂のお城? もしかして……」
「砂のお城を作るのかっ?」
なぜその結論に至るのか普通なら首を傾げるところだが、シャーミアンには心当たりがあるようだった。そして――
マナは目を輝かせた。
それからほどなく。
「どうせなら、ギネスに載るぐらい巨大なものを作りたいのだっ!」
パラミタ内海の海岸に、巨大マナ様が現れた。マナがドラゴネットに変身して、一時的に大人に……大人に? ……モフモフした先程の姿のままただ巨大になった。8メートル位だろうか。
「な、なんだっ!?」
海水浴客達が驚……きかけて癒された。
すぐにでも子供達のアイドルになりそうな可愛らしさである。
ちなみに、巨大化時にも巨大マナ様はイルミンスールの公式水着を着ている。パジャマに続き、クロセルはまた破産したのかもしれない。
巨大マナ様の足下では、また夜なべしたのかもしれない水着姿のシャーミアンが黄色い声援を上げていた。
「きゃー、マナさまー、ステキです! かわいさ13倍増しです。体積的には2197倍でお腹いっぱいです!!」
……かなりの体積である。
「マナ様が砂のお城をお作りになられるのでしたら、それをカメラにおさめ、後世に残すのが、それがしの務め!」
シャーミアンは気合い充分にそう言って、巨大マナ様をデジカメで撮りまくった。近付くとちょっと血走った目で見られそうだ。
水着姿に好奇の目を向けてきたりナンパをかますじゃがいも男達もいたが、『マナ様の可愛さをカメラにおさめること』のプライオリティが1番高いシャーミアンは相手にしていなかった。
巨大マナ様がもりもりと盛った砂を、クロセルはドラゴンアーツの力で補強していく。
「巨大生物が作る砂のお城が注目の的にならないはずがありません。さあマナさん、お城を作りましょう!」
だが、自信満々に言った後でクロセルは自分の台詞に自分で首を傾げた。
「……あれ? ということは俺が目立ってるわけではないような?」
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