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12月の準備をしよう

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 ■ クリスマスのために作るものは ■



 生クリーム、チョコレートクリーム、バタークリーム、アイスクリーム……クリスマスケーキの種類は色々あるけれど、中でもブッシュ・ド・ノエルはクリスマスならではのケーキだ。
 今年はブッシュ・ド・ノエルに挑戦するのだとはりきる結崎 綾耶(ゆうざき・あや)と共に、匿名 某(とくな・なにがし)は学食の厨房に入った。
「せっかくのクリスマスなんですから私も頑張っちゃいます!」
「綾耶、ナイス割烹」
「もう某さんたら……」
 褒められて綾耶は恥ずかしそうに笑った。
 ブッシュ・ド・ノエルを作るのは初めてだけれど、綾耶はレシピを見ながらしっかり作ってゆく。
 手伝おうかと様子を見ていた某も、これなら大丈夫だろうと自分も最近見付けたデザートを試作してみることにした。
 真ん中にカスタードクリームを詰めて丸めた生地を、オーブンで焼き上げる。
 焼き上がったものをよく冷まし、大きめの丸を下に、その上に小さめの丸をクリームでくっつける。
 それにチョコペンで顔を描いたり、クッキーで飾りをつけたりすれば、雪だるま風のお菓子の出来上がり。
 雪だるまの片方にチョコレートで作った長いツインテールをくっつけて、綾耶雪だるま。もう片方は自分に似せて作る。
 隣の綾耶はと見れば、
「あぅ……」
 焼き上がったケーキ生地を巻く途中で固まっていた。
 ブッシュ・ド・ノエルは平らに焼いた生地をくるくると巻いて形作る。うまく巻かないと割れてしまって薪の形にすることが出来なくなってしまう。それが怖くて巻きあぐねているのだ。
「生地もしっとりと焼けているし、思い切って巻いても大丈夫じゃないか? もし失敗しても、何事も練習だからさ」
「そ、そうですね……やってみます!」
 某に励まされ、綾耶は思い切ってくるっと生地を転がした。
「……っ、と……出来ました!」
 いい笑顔を見せると、綾耶は今度は飾り付けに取りかかる。
 チョコレートクリームを塗って、レシピにある通りフォークで模様をつけてみるけれど、どうも薪らしくない。
「もっとしっかり線をつけた方がらしくなるんじゃないかな」
 某のアドバイスを受けて綾耶はまたクリームを平らに直し、線を付け直す。何度かくじけずやっているうちに、ケーキはブッシュ・ド・ノエルらしい形へと仕上がった。
「よくやったな」
 某は綾耶の頭を撫でる。
「あぅ、子供扱いしないでください」
「子供扱い? まさかそんな」
 某は笑って、さっき作っておいた雪だるまをブッシュ・ド・ノエルの上に載せた。
「わぁ、可愛らしくなりましたね!」
「こういうのは何事も遊び心が大切だからな。さぁ、次の料理に取りかかろうか。どこまでも付き合うからさ」
「よぉし、それじゃあどんどん作っちゃいましょう」
 もうすでにクリスマスが来ているのではないかという雰囲気で、2人は料理を作っていくのだった。


 学食の厨房が借りられるということで、みんなでクリスマスに作る料理の練習をしようと、黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)はパートナーたちを連れてやってきた。
 といっても料理を作るメインとなるのはユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)だ。竜斗もある程度料理は出来るが、ユリナほどではない。だから今日は椿 ハルカ(つばき・はるか)と一緒に、ユリナに教えて貰って料理を勉強するつもりだ。
「ねーユリナお姉ちゃん、クリスマスには何をつくるの?」
 リゼルヴィア・アーネスト(りぜるゔぃあ・あーねすと)に聞かれ、ユリナは持参してきた材料を調理台に載せながらと答える。
「クリスマスらしくローストチキン。あとはしめじのトマトパスタと苺のショートケーキにしようと思っています」
「メニューを聞いてるだけでおいしそーだねっ。味見はボクに任せてー! これなら自信あるんだ〜」
 料理は出来ないけど、と言うリゼルヴィアに、
「ルヴィちゃんは味見役の他に、オーブンも見ててもらえます?」
 とユリナは頼む。
「オーブンって、ボクでもわかる?」
「ええ。見方を教えますから大丈夫ですよ」
 それよりも……とユリナはハルカをちらりと見た。
「料理はなかなか教わる時がないのでいい機会ですわね♪ ここで練習して、クリスマスには愛しいあの人に手料理を振る舞いますわ」
 ハルカはうきうきとエプロンを締めている。
 その様子はいかにも家庭的に見えるのに、ハルカは家事が全く出来ない残念なお姉さんだったりする。その不器用さを知っているだけにかなり不安だが、クリスマスにハルカが手料理を食べさせようとしている人の為にも、なんとかまともなものを作れるように教えておかなければならない。
「わたくしのクリスマスの為にもご教授よろしくお願いしますわ! ユリナさん!」
「出来るだけやってみます……。ではまず、材料を揃えるところからですね」
 いきなり料理の腕が上達したりはしないだろうけれど、少しでも美味しいものが作れるようにと、ユリナは丁寧に教えた。
 ユリナが作るのを竜斗が手伝い、ハルカは実戦しながら勉強。リゼルヴィアはオーブンの様子を見ながら、美味しい料理を心待ちに。
 時折ユリナが失敗したりもしたけれど、それでも4人は和気藹々と料理の練習に励むのだった。


 ツリーや星、ベルに靴下、ジンジャーマン。
 関谷 未憂(せきや・みゆう)はクリスマスモチーフの型でクッキー生地を型抜きしてゆく。
「焼き芋の割にゃずいぶんファンシーだと思ったら、クリスマスの菓子か」
 高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)がぼそっと呟くのを聞いて、未憂は笑う。
「焼き芋もちゃんと準備してありますよ。サツマイモとジャガイモ両方。こちらの食堂なら調味料は揃っていますし、バターも抜かりなく」
「芋を焼くのに食堂か。個人的にゃ、外の焚き火でやんのが好きなんだけどねぇ……」
「落ち葉で焼くのとは趣が違いますけど、オーブンでも低温でじっくり焼くと、美味しくなるんですよ」
 風情の点では落ちるけれど、味はきっと美味しいと未憂は請け合った。
「まあ、美味けりゃ問題ねーか」
 学食で落ち葉の焼き芋を求めても仕方がないことだしと、悠司も頷いた。が、芋の甘味を引き出すには低温で時間をかけて焼かなければならない。その間、未憂はクッキーを作っていたが悠司は時間を持て余す。
 さすがに菓子作りは手伝えないし、かといって他にすることもない。
「ちょっと外に出てくる」
「いってらっしゃい。お芋が焼き上がるまでには帰ってきて下さいね」
 学食からふらっと出て行く悠司を見送ると、未憂は焼き上がったクッキーをアイシングで飾り付けていった。
 色とりどりのアイシングで飾られたクッキーは、クリスマス気分を盛り上げてくれそうだ。
 これをあげたらパートナーたちはきっと喜んでくれるだろうし、何より作っている未憂自身も楽しい。
 クリスマスツリーに飾る用にラッピングしたものを、未憂はオタケさんのところに持っていった。
「良ければどうぞ」
「おやまあ、ありがとね。これはまた可愛い飾りだねぇ」
 クリスマスまでの間に誰かのお腹に収まってしまいそうだとオタケさんは笑うと、クッキーのオーナメントを御凪真人の前に出した。
「じゃあこれも、飾りに加えといてくれるかい」
「ああ……はい。ではこちらにいただいておきます」
 倉庫から見付けてきたLED電球を根気よくほぐしていた真人は、クッキーを受け取った。
 未憂は真人がほぐしているぐちゃぐちゃの電球コードに、あらら、と呟く。
「電球、見事に絡んじゃってますね」
「片づけるときにちゃんとしておかなかったんでしょうね。かなり絡んでます」
 微苦笑しながら真人は答えた。
「手伝いましょうか?」
「ああいえ、こういう地道なのは性に合ってるんで。うちのパートナーももうしばらく編み物していそうですし。のんびりほぐしてますよ」
「そうですか。がんばって下さいね」
 未憂は厨房に戻ると、オーブンから焼き芋を取りだした。
 サツマイモもジャガイモもほっくりと焼けている。うん、良い匂いだ。
 と、そこに悠司が戻ってきた。
「タイミング良いですね。ちょうど焼けたところです」
 未憂は焼き上がったばかりのサツマイモとジャガイモにバターをはじめとした調味料を添え、クリスマスモチーフのクッキーと一緒に悠司に勧めた。
「クリスマスか。何つーか、もうそんな時期なんだねぇ」
 街にでも行っていれば、赤と緑の飾り付けや流れてくるクリスマスソングで、クリスマスの到来を知るのだろうけれど、悠司は最近キマクに籠もっていて、そういうものとは無縁でいた。こうしていざ、クリスマスを思わせるものを前にすると、もう今年も終わりに近づいているのだという実感が湧いてくる。
「飲み物は紅茶と緑茶、両方用意してみました」
 未憂が出してくれた芋は甘く焼けていたし、お茶も美味しかった。
 けれど、やはりそれでは何か物足りない気もする。
「焼いてないサツマイモってもう余ってねーか?」
「ありますけど……」
 随分食べるんだと驚く未憂を、そうじゃなくて、と悠司は外に連れて行った。あれ、と悠司が指さしたところには、落ち葉の山がある。
「待ってる間、テキトーに集めたら山になったんだ。せっかくだから落ち葉焚きでの味の違いを比べてみてもいいんじゃね? ま、ちと食い過ぎになっちまうかもしれねーけどさ」
「わぁ、いいですね」
 今年もあとわずか。
 だからこそ、こんな時間を大切にしたい。
 少しくすぶる煙を避けながら、2人は落ち葉の中でほっこりと芋を焼き上げるのだった。