校長室
12月の準備をしよう
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■ やり残してることはありませんか? ■ お菓子の匂い、編み物等に取り組む生徒たちの話す声。 様々なものに満ちた学食で、高柳 陣(たかやなぎ・じん)はコーヒーを飲みつつパートナーたちを待っていた。 何の用かは知らないけれど、ティエン・シア(てぃえん・しあ)と木曽 義仲(きそ・よしなか)に学食で待っているようにと言われたのだ。 「あ、お兄ちゃんお待たせ」 約束の時間から少し遅れてやってきたティエンは、陣のいる席にくるなり、大切そうに持ってきた紙袋の中身を見せた。 「なんだこれ……クリスマスカードと年賀状?」 「そうだよ。あのね、1年間お世話になった人たちにご挨拶したいね、でも遠いところばかりだから行けないね、って義仲くんと話してて、クリスマスカードと年賀状を送ることにしたの。これならご挨拶できるでしょう?」 「まぁいいんじゃねぇの。俺も連名にしといてくれ」 陣がそう言うと、ティエンはダメだよと年賀状を押しつけてきた。 「だってお兄ちゃん、日本の家族に全然連絡してないよね。だから強制的! ね」 「俺も書くのかよ」 文句をいいながらも、陣はそういえばと考える。 確かに、日本の両親や祖父にも、アメリカの祖父母にもろくに連絡していない。 こんな機会に挨拶してみるのも悪くないかも知れない。 「新年の挨拶に年賀状とは良い風習ではないか」 義仲は持参してきた墨と硯、筆をテーブルに並べると、黒々と摺った墨で新年の挨拶をしたためる。 「……どうも落ち着かぬなぁ」 何枚か書いた後、テーブルの高さがしっくりこないと、義仲は床に大きな紙を敷き、そこで書き出した。 書くのは筆文字ばかりだが、気まぐれに干支の絵なぞもさらりと描いてみる。 そうして義仲が書き終わった年賀状を、ティエンは陣に渡した。 「はいお兄ちゃん、あとはよろしくね」 「しょうがない、書くか。これは……うさぎ?」 年賀状の隅に描かれた動物の絵に呟くと、義仲が眉を寄せて抗議してくる。 「違うぞ、これはどうみても雄々しき虎ではないか」 「これが虎?」 陣は年賀状をぐるっと回して眺めてみたが、どこからどう見ても虎には見えない。 「もしかして、義仲くん……絵心ゼロ?」 ティエンの呟きに、だな、と陣は同意するとその年賀状を前にペンを手に取った。 何を書こうか。 年賀状の体裁は義仲が書いてくれた挨拶で保てるだろう。 だから陣はその余白に一言だけ書き加える。 『 元気でやってる 』 「それだけ?」 ティエンに聞かれ、それ以上はいらねぇよ、と陣は席を立つ。 「お茶煎れてやるから、後はティエンと義仲で書けよな。オタケさんに頼んで、なんか食いもんも作ってもらうからよ」 「あ、お兄ちゃん……行っちゃった」 けれど一言であってもそれで伝わるものがあるなら良いかと、ティエンは陣の背中を見送り、クリスマスカード作成に戻った。 買い集めてきた色々なタイプのクリスマスカードを広げ、カラフルなペンでメッセージを書いてゆく。 渡す人の顔を思い浮かべて書いていると、心も浮き立つ。 「そうだ。オタケさんにも送っていいか聞いてみようっと」 住所は学食になるのか、それとも自宅にした方がいいのか、と考えかけてふと思いつく。 「あ。クリスマスカードなら、ここに渡しにきちゃおっと」 届くのも良いけれど手渡しも良いからと、ティエンはころころしたサンタクロースが描かれたクリスマスカードに大きな文字でメッセージを書いた。 『 いつもおいしいご飯をありがとう! 』 12月はすぐそこに。 今年も残すところあとわずか。 自分のために、そして誰かのために、やり残したことがないように残りの日数を大切にしていきたい。 ありがとう。お疲れさま。これからもよろしく。 伝えなければいけない言葉をきちんと今年のうちに伝えるためにも――。
▼担当マスター
桜月うさぎ
▼マスターコメント
ご参加ありがとうございました。遅くなってしまってすみません。 気忙しい12月。特にクリスマスからお正月にかけては、もう過ぎちゃったのっ? とびっくりするような早さです。 毎年、かなりやり残したことだらけになってしまうのですが、暖かい場所でこんな風に準備できたらいいなぁ、なんて思いつつ執筆致しました。 もうすぐ今年も終わり。 この場を借りて……メリークリスマス&よいお年を♪