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リアクション
■ はじめてのごしょうたい!(3) ■
「いい感じに混ざってるね」
ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)の囁き声に、
「ですわね。良く良く馴染んで一安心ですわ」
高天原 水穂(たかまがはら・みずほ)も満足と頷いた。
二人は、小さい子と混ざってバーベキュー会場の設営に勤しんでいる樹乃守 桃音(きのもり・ももん)の様子を窓枠に張りついて伺っていたのだ。
いくら招待されたとはいえ、今まで系譜の改装工事や七夕のお泊り会などのイベントを通し親交を深め仲良くしているが為に、ネージュは今回子供達が主催と聞いて心配を覚えていた。少しでもサポートできればと、招待状の時間より早く来たのはその為だった。
「きちんとももちゃんを紹介してなかったことがよかったね」
「ほんと、ねじゅちゃんは心配性なのですわ。
でもそうですわね。私達が直接お手伝いするよりはいいのかもしれません。
ただ、あまりに楽しそうで羨ましいですわ」
施設ぐるみで交流してたので子供達のネージュや水穂の認識は他の契約者達に向けられるそれとは違い、あくまで子供達が主催で主役であるなら自分達が顔を出すのはよくないと判断していた。自分が経営している子供の家『こかげ』なら問題無くも、ここは系譜だし、その代表者は何も手出ししてないというのなら、他の契約者達とはまた違った意味で手伝いに参加しづらかった。
ネージュに誘われ系譜に関わるごと一緒に過ごす時間が増えるにつれて、系譜の子供達もこかげの子たちと同じように思えてきていた水穂はネージュの心配性を大袈裟と言いつつも、自分も心配していたので、桃音の馴染み様に二人して安堵の吐息に胸を撫で下ろしていた。
「ボクみたいな獣人の子たちを手伝ってあげてねって言われたんだけど……」
こっそり混ざるはずがフェオルの第一声に注目を浴びてしまって大歓迎にそのまま巻き込まれる形で桃音は盛り上がりの中心の運ばれた。
「えっと、なにか手伝う? ボクはお料理もとくいなんだよ?」
桃音の問いかけにフェオルがピンと来たらしく、次の行動はとても早かった。
バーベキュー会場は、たくさんの契約者達の手で系譜の建物が改装された時に新しく設置されたバーベキューコンロを中心に食堂のテーブルをいくつかと使える椅子をありったけ運び置いて作っていくというのが当初からの予定であった。
が、系譜最年少な獣人のフェオルは、「この子がお姉ちゃんたちが可愛いを連呼しているフェオルちゃんなんだ」としげしげと眺めていた桃音を含めた数人で徒党を組むと玄関からジェイダス人形(大)と等身大たいむちゃん人形の巨大人形二体を外へと持ちだしていく。事あるごとに着せ替え人形をさせられている二体の事、何をやらされるのかは大体予想がついた。
順調かなといつまでも眺めているわけにもいかないと気持ちの区切りを付けたネージュは、混雑する前にとトイレのメンテナンスを始める為壁から離れた。
どこか不具合がないか一通りトイレの様子を確認したネージュは持ってきた新しい匂い袋と飾り花を元々置いてあるものと交換し、全体を見渡し納得にネージュは頷いた。
「運び出すテーブルはこれで全部かな?」
食堂と学習室からテーブルを何脚か外へと移動させ順よく並べる千返 かつみ(ちがえ・かつみ)の横で、重いものはこれで全部だろうかとエドゥアルト・ヒルデブラント(えどぅあると・ひるでぶらんと)が子供達に問いかけた。
会場完成図なるタイトルが付けられたメモ紙を広げて、あと此処其処にも要ると指さしと共に示されて、エドゥアルトは頷いた。
「そうだね。食べるのとは別にお皿とか飲み物とかの置き場所がいるね」
食堂からそんなに遠くないが屋内と屋外を往復するよりは側にあったほうが良い。
「じゃぁ、あとテーブルは三脚くらいかな。かつみ」
「おー、いーぜー」
あくまでも子供達が主体。自分達は出しゃばらないように子供達が出来ないことを少しだけ手伝う程度。のつもりでいるのだが、テーブルを運んでいる最中ずっと「がんばれー」やら「わーっしょい、わーっしょい」などと応援されるので、かつみもエドゥアルトも苦笑いである。
「先生、どうしたんですか?」
かつみ達が運び並べたテーブルにシェリーに聞いて出してもらった予備のテーブルクロスを敷く千返 ナオ(ちがえ・なお)は、難しい顔(?)で唸るノーン・ノート(のーん・のーと)に気づいた。
「なに、ただテーブルに紙皿や紙コップを並べるだけでは味気ないなと」
「テーブルクロス可愛いじゃないですか」
華やかさが欲しいというノーンに何か考えがあるのかとナオは首を傾げる。
「それはそうなんだが、ふむ。 ……よし、ナオ、シェリーはキッチンだったか」
「どうするんですか?」
「花壇の花を拝借させてもらおう」
なるほどと頷いてナオはノーンを抱きかかえた。
「聞きたいことがあるんだけど」と、エドゥアルトは椅子を運ぶ子供を捕まえる。
「応急処置中の椅子は使わないよね? いくつか借りてもいいかな?」
何に使うのと首を傾げられてエドゥアルトは微笑む。
「せっかくだからね。入り口にお客様をお迎えするウエルカムボードみたいなのを作ろうっと思って」
おもてなしを形にするんだよと優しい声でアイデアを出されて子供の目が輝いた。
入口付近に椅子を並べ食堂に置かれた大量のぬいぐるみを並べ座らせ、クレヨンでカラフルに『WELCOME!』と書かれたスケッチブックを持たせよう。
「えどーあると、じぇいだすとたいむちゃんつかうー?」
盛り上がるエドゥアルト達にさて人形の置き場所をどこにするかと悩めるフェオルの声が届く。
「お花ってこんな感じに飾っても大丈夫ですか?」
「そうであるな。うむ、ナオは中々センスがいい。花を飾り終わったら……そうだな、紙コップに名前を書くか」
「はい!」
ただ並べるだけでは味気ないと繰り返すノーンに、人が入り混じって誰の紙コップかわからなくなりそうですねとナオは同意しペンを道具入れから取り出した。
招待客のリストを貰って一つ一つ記入していくナオは一旦作業の手を止めた。幾度とない場面で素振りの欠片も見せず子供達があまりに自然で疑問を口にする隙も与えてくれず聞けずじまいだったが破名はどうも好んで飲食をしないらしい。今回も準備の様子を見れば多分何も口にしないだろう。
「でも、『参加者』ですし……」と悩むまもなく「シェリーさんのお父さんということで、破名″お父さん″って書いちゃいました」と何故か自分がくすぐったくなって笑うナオに、破名は首を傾げた。
「ナオ?」
破名の神出鬼没は毎度の事で別段驚くことではなかったが、ただタイミングがタイミングで、ナオは意を決した。
「あ……、えぇっと、その、破名さん!」
「どうした?」
「その……シェリーさんの名前をいっぱい呼んであげて下さい。それで、いっぱい頭を撫でてあげて下さい!」
それは、ナオが両親にしてもらいたかった事。
「見守られるとわかるだけでも幸せなんです」と、ナオは伝える。
力説されて目を瞬かせた破名は「キリハと同じことを言う」と零し、ナオの頭を一度撫でて去った。まさか撫でられるとは思わず、冷たい感触が残る自分の頭を触るナオに会場の完成具合が気になり見に来たシェリーは笑った。
「ずるいわ、ナオ。おとうさんのあれ″いい子″ねって褒めたのよ」
「へ?」
「羨ましくて意地悪しそう! なんてね。私自分の仕事に戻るわ。続きお願い!」
「シェリーさん!」
慌てるナオの腕から背中、肩から頭へと移動したノーンは器用に両腕を組んで考えこむ。
「そうかそうか。ナオは頭を撫でてもらうと幸せを感じるのだな?」
「先生?」
「せめて私が頭を撫でてやろう」
瞳だけで頭上を見上げるナオの頭をノーンは気持ちを込めて「幸せになーれ幸せになーれ」と撫でた。
「先生……」
優しい手つきにナオはくすぐったくなってさざめくように笑い声を上げる。
「ふたりとも何やって……」
通りかかるかつみは、じゃれつくふたりが何をやっているのか一目瞭然でわかってしまったがそれでも気にかかり声をかけるも、向けられたノーンの眼差しに「うっ」と思わず声を漏らした。
ノーンが悪乗りしだすと近くにいれば大抵巻き込まれる。振りまかれる火の粉を払うようにパッと退いたかつみにノーンは思わず舌打ちをした。
「……逃げたな。親の心子知らずめ」
「そんな恥ずかしいことさせられるか!」
騒ぐ声に、エドゥアルトはいつもの光景だなと大量のぬいぐるみを抱えたまま微笑んだ。
招待されたのだからお呼ばれされないとじゃない?
主催者が張り切っているから自分達も張り切っているというわけではないが、到着してみれば開始時間より早くに準備に大わらわな系譜の様子にセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)はセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)と顔を見合わせ、仕方ないわねとどちらともなく囁いた。
「じゃぁ、さっそくキッチンに行こうかしら」
「って、待ってセレン」
いつもの様にと言えばいつもの様に、得意分野だしと気合を入れてキッチンに行こうとしたセレンフィリティをセレアナは引き止めた。
「せれん? せれあな? いらっしゃーい」
たいむちゃん人形に着せる服を持ち出すフェオルがそんな二人を発見し駆け寄ってくる。
「ふぇ、フェオル。今キッチンには人がいっぱいいるのかしら?」
セレアナに聞かれフェオルは首を傾げたあと、大きく頷いた。
「いっぱいいるー。ぎゅーぎゅーしているー」
キッチンでは足りず何人かが溢れ食堂で作業している状況にセレアナは内心安堵した。
「セレアナ?」
「ほらセレン。食材の準備は人手が足りているらしいから私達は会場の準備をしましょう」
「そう?」
「そうそう!」
一番小さいフェオルまで駆り出され、まだ半分も終わってない様子だしとセレアナは伴侶の両肩を押してバーベキューコンロのある方角へときょとんとしたままの彼女を進めさせた。
手作りコンロの前で炭を両手に携え会議を開いている子供達に釈然としないまま歩を進めていたセレンフィリティが気づく。
「おー、ちびっこが額つき合わせて何やっているのかな?」
声をかけると、彼らは振り返って「むー」という表情を浮かべた。
「やり方がわからないの? いつもは誰がしてるのかな?」
「マザー!」
「ってことは自分達でやるのは初めてなのね……よし、一緒にやろうか」
火起こしなら大人が必要とセレンフィリティは判断した。仕事を見つけたセレンフィリティにセレアナは自分も別な手伝いをしてくるわねと準備の進行具合を聞きに離れた。
「じゃぁ、火起こしからね」
慣れた手つきで炭を並べるセレンフィリティに火傷等の怪我をしないよう注意するべき点は何かと説明を受けながら子供達は着火式に「わーお」と声を上げた。
燃える炎を前に興奮する子供達をセレンフィリティに任せておけばいいとわかっていてもセレアナは気になってしまう。かつみやエドゥアルトの手で置かれていくテーブルに食べ物や飲み物をこぼして汚さないようにコップに名前の記入を始めたナオの代わりにテーブルクロスを広げ敷きながら、コンロ側で歓声があがる度にセレアナは作業の手を止めた。
わらわらと忙しそうにしている院を眺めコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は両腕を組んだ。
「……どうやら早く着きすぎてしまったようだな」
「ハーティオン、ちゃんと時間確かめたんでしょうねぇ?」
隣りでパートナーのラブ・リトル(らぶ・りとる)がその小さな唇を尖らせる。
「まぁいい。挨拶をせねばな」
「あ! ちょっとぉッ!」
さっさと玄関へ向かうコアにラブは慌ててついていった。
「む、クロフォードか」
「久しいな」
食堂からエースに連れられて出てきた孤児院の代表者にコアはうむと頷き呼び止めた。
「ラブも一緒か」
はろろーんと片手を挙げたラブに破名はコアに視線を戻す。
「遠かっただろ?」
「そんなことはない。それより、本日はお邪魔させていただきに来た。迷惑でなければ宜しく頼む。
……といってもあまり食事を嗜むようには出来ていないのだが……」
「俺は人のことは言えないからそれは気にしなくていい。ただ、楽しんでくれればと思う」
「あー、お肉じゃなーい? バーベキューだからそうなんだけど!」
山盛りに肉が乗った皿が食堂から勝手口、会場がある外へ運びだされていくのを見送るラブ。
「お肉はお肌にいいって言うもんね〜。
たまにはいっぱい食べてもいいでしょ♪」
ラブのサイズ的に見てみれば食せる量など微々たるものと察せられるが、いっぱいたくさん食べたいと宣言されれば、たくさん食べて欲しいと思うものだ。「無理して食べ過ぎないようにな」とラブに投げかけた破名はやることがあるからと移動していく。
「うむ。いい量だ」
お肉はその一皿だけではなく物置き場と化した食堂のテーブルの上にずらりと並べられていた。買い出し組の到着から一段とその量を増やして、いよいよバーベキュー会の開始時間が近づいているのを如実に語っている。
「キリハ」
ゆっくりと何かを確かめるように巡回しているキリハを呼び止める。
「何か手伝う事はあるだろうか」
早く着いてしまったし、せっかくだし何か手伝わせてもらえないかと名乗り出るコアに、キリハは考える素振りを見せる。ゲストの手を煩わせるのはどうかと思う反面、今日は既に散々他の契約者の厚意に甘えているので、厳しくするか緩めにするかで、そしてそれ自体考えるのも今更な事に気づいてキリハは珍しく両肩を竦めた。
キリハは口を開こうとして、閉じた。
「む。子供達よ、危ないから私の体に上ってはいかん」
買い出しが終わり年下組が暇を持て余してコアの巨体に遊び場を見出した様である。
何とか遊び場と化すのは回避したコア。彼が子供が一人では持てない物を2つも3つも抱え物置き用のテーブルへ運ぶ後を紙皿の入った袋を抱えてついてあるくラブは同校のセレンフィリティが火の番をしているバーベキューコンロの周りが賑やかなのに気づいた。
「このラブちゃんがお肉を食べに来てあげたのに、まだ準備できてないのね?」
各種肉の乗った皿を持ってさて何から焼くのかで
「よーし、コゾー共!
……しゃーないから、このあたしが肉配置の指揮をしてあげるわ!
あんた達、テキパキ並べなさいよ♪」
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