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■ はじめてのごしょうたい!(4) ■



 どんな季節でも大荒野の日差しの強さは変わらない。
 人形二体という二大巨塔と色とりどり目にも鮮やかなぬいぐるみ達に歓迎されて、本日孤児院『系譜』のバーベキューに招待されたゲスト達は会場へと集まっていた。
「あちきが登場ですよぅ!」
 招待客を案内する子供達は、人形が作るアーチから入ってきた袋を担いだ大きな″ピヨ″に驚き目を丸くする。
 言わずと知れた着ぐるみのレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)なのだが、荒野の背景に着ぐるみピヨはファンシーで印象深い。
 子供達の息を飲んだ音が聞こえ、
「ピヨだぁーー!!」
歓声が空に響く。
 愛らしい丸みを帯びたフォルムは歩くごとに音を奏で、子供達をこれでもかと誘惑する。我慢できず、荒野の気温に中は蒸し暑くないのかと何人かが疑問に思う中、子供達が本能のままに突進をかました。どんな素材なのか突撃し「ぽよーんっ」と跳ね返されて地面に転がる子供達はきゃっきゃっと楽しそうだ。
「全くぅ、気が早いですねぇ。プレゼントはあとでちゃんと配ってあげますよぅ!」
「プレゼント?」
 ニカと二人ではしゃぐ子供等を落ち着かせているシェリーはレティシアに聞いた。そのちんまりとした手で担ぐ袋の中はレティシアが用意したプレゼントが入っているのだ。
「早いクリスマスってわけじゃないですよぉ? ただ、あちきは可愛いピヨのアピールをですねぇ、しにきたんですぅ!」
 プレゼントと言ったが中身は決まっている。うふふと笑ってレティシアは、今日は招待してくれてありがとですよぅ、とちんまりした着ぐるみの手を振って「がっつり頂かせてもらいますよう」と大きく繰り抜かれた形で顔を出しているので食べることに支障無しとガッツポーズを取った。


 天音の皆でねという一言で全員での「いただきます」で始まったバーベキュー会。
「きーくー、おいしいぃ?」
 一斉に感想を求められて、弁天屋 菊(べんてんや・きく)は手に持っていた箸を置いた。感想は、と聞かれて返答が無いわけではない。無いわけではない――が!
「そのままを答えてくださって構いません」
 渋い顔をしている菊に、アイスボックスを首からさげて子供達にアイスを配っていたキリハは状況を把握する。
「美味しいも、美味しくないも、その感想を言ったのが弁天屋であることが子供達にとって重要なんです。皆弁天屋が作ってくださる料理が大好きで、出席してくださると聞いてそれはそれは喜んでいました。美味しいものを食べて美味しいと言ってもらいたいと盛り上がっていましたが……まぁ、皆初めて作るので仕方がない面があるのは確かです。ですが、
 美味しく無いと言われて悔しくなることはあっても、調理を嫌いになったり、意地悪を言われたと弁天屋を嫌いになったりとかは無いですよ」
「しかしッ!」
 それは傍から見れば子供達を貶すような事にはならないのか? 此処はあくまでも子供達が主役であり、何かの審査会場ではないのだ。
 某料理漫画のように「これをつくったのは誰だ!」はやらないまでも、感想を求められれば答えなければいけないだろう。その時に忌憚無さ過ぎる意見を言って萎縮させないだろうかとか、言葉の選択したり抑えられたりできるだろうかと、自分の料理に妥協しない菊は、だからこそ自信がない。
 気風の良い人物と認識しているキリハは無用な事を言うくらいなら無言を選ぶ菊に、自分が言い過ぎたと気づいた。ついいつもの調子で説明してしまった。
「きーくー」
 と、悩める二人の空気に気づくこと無く、新たに一人子供が加わる。
「魚が上手く焼けないのー。どーすればーいーいー!」
 魚を刺した金串を両手に女の子が走ってきた。
「魚を焼くのかい?」
 菊は朝から来ていたのだが、下拵えから調理に至る全てに口を出してしまうのではないかとか、聞かれた時にアドバイスだけではなく必要以上に手伝ってしまうのではないかと持て余していた。手を貸すことは簡単だが、今回はそれでは駄目だと考えいている分、自分からは調理場に顔を出すこと無く居た。
 しかしながら召集がかかればすぐに駆けつける気持ちではいた為、菊は席を立ち上がる。
「さっきから失敗ばかりするの。どうすれば美味しく焼ける? 私魚食べたい!」
 それを皮切りに「じゃぁ、俺も肉焼きたい! 美味しく肉焼きたい!」等と菊に料理の感想を求めていた子供達が要望とアドバイスを求め始める。
 子供達は結局菊に大いに甘え、ゲストに働かせてどうするんだと破名に注意されると「違うよ。ちゃんと自分達でやってる! 菊は隣りで立っているだけ!」と反論していた。


 バーベキュー会場が賑やかになるにつれて桜花 舞(おうか・まい)の溜息は増えていく。
 気落ちする舞に今回のイベントが少しでも元気づけるきっかけになればと連れてきた赤城 静(あかぎ・しずか)は、追加とばかりに持ってきた料理を乗せた皿をテーブルの上に置く。飲み物は適当に選んでしまったが、いつも好んで口にしているもののはずだからと差し出し、まずは飲むように促した。
 気落ちもするか。今回の招待に参加しようと思ったのは、その人に紹介状が届いて行くと聞いていたからだ。舞も弟や妹が欲しかった事もあり子供達と交流が図れると聞いて楽しみにしていた。まさかその人が土壇場になって行けなくなったなんて、如何な事情があるにせよ、どんなに子供達の手料理をたくさん食べたり一緒に遊んだりできても、落胆は隠せない。
 舞には好きな人がいる。
 その人はとても素敵な人で、素敵な人過ぎて舞は抱くこの恋心が単なる憧れではないかと不安に揺れる。その人の隣に立つことを何度も夢想しては釣り合っているのかどうかと乙女心に何度も溜息を吐いた。
 その人にとって舞はただの部下なのだ。ただでさえその人のパートナーは【金鋭峰の剣】【金鋭峰の理解者】等の異名を持ち最前線で幅広く活躍しているのだ。舞のような大勢いる中の一人でしかない存在はその人の目にどう映っているのだろう。
 いや、
 好かれてはいる。
 その自信はある。
 確信もしている。
 しかし、
 自分は数ある女性の中の一人でしか無い。
 その人は優しい人だから自分に好意を寄せる女性にはデートに誘ったり、アフターフォローに会いに行ったりと何かと細かく接しているらしい。多分、舞も「会いたい」と言えば会いに来てくれるのだろう。でも、舞はそれでは足りないのだ。故に、割り切れず開き直ることも出来ずうじうじと悩んでしまうのだ。
「ねぇ、彼はモテるんだから、積極的に出なさいよ」
 数ある女の一人と埋もれる前に抜きん出ろと言う静に舞は紙コップの淵に唇を付けた。押し付けて中身を飲まないままテーブルの上に戻した。両手で紙コップを包む。
「ありがとう。でも、今の関係が壊れるかもしれないのが怖いのよ」
 舞は絆で結ばれているパートナーに小さく零す。曰く「言わなければ今のまま、頼れる部下として傍に居られる」と。
「でも言わなければ実らないわよ。それに彼は軍務に私情を挟む人じゃないわ」
 静の言うことは最もである。どこに何を心配する必要性があるのか。そもそも告白を躊躇う原因は何かかと問い詰め、冷静な静の声は舞に答えを出すように促している。
 逡巡の沈黙を経て、舞は両手で包む紙コップをゆっくりと握りしめた。
「告白……してみる」
 決断に静は舞の肩を抱き寄せ、抱き竦める。
「頑張れ頑張れ」
 深く抱きしめてから、ぽふぽふと舞の肩を激励に叩いた。
 告白の結果がどうであれ、告白が済めば舞は自分の故郷に旅行に行こうと考えていた。それを静に話、よければ一緒に来ないかと誘えば、静は二つ返事でOKを出した。
 気持ちに整理がつくとお腹が減るもので、舞はジュースを飲むと目の前の冷えかけた料理に手を伸ばす。